食が細いというのは、食に対する慾が希薄である上に胃の許容量が通常より幾分か少ない事に起因する。
故に手軽且つ流動食よりもましな固形物然としているという判断の下に、麺類を手繰り続けるしかないのだ。
立ち喰いとはいえ、足繁く通えば馴染みである。
我が儘のひとつふたつは通るものだ。
蕎麦屋の大将に云い付け、茹で上がった蕎麦の上に生玉子を割り入れてもらい、其の上からつゆを注がせる。
さすれば加熱により白身がゆらゆらと白濁し、黄色い月の回りに薄雲が棚引く体となる。
此れを月見とはよく云ったもので、店側にとっては七面倒な事この上なかろうが、当手順を要求して止まない。
しかも三食を通じてだ。
丼(どん)の内、朝に月見て昼に月見る。
せめて夜ぐらいは空に月見ようと、そっと箸を盆に置くのも人情である。
(了)
投稿者 yoshimori : December 27, 2010 11:59 PM