かつて十年住まった豊島区に来ている。
当時団体で利用した履歴の残る目指した店が満席にて門前払いされてしまい、致し方なく近隣を徘徊。
地階にある店の空席を確保し、着座してみれば先客は数える程度しか居ない。
件の店の賑わいを奇跡と思うか企業努力と思うかは、現在では不案内な土地故に個人の判断に委ねるしかないのだ。
まずはと河豚鰭酒をいただく。
鰭の沈んだ燗酒を運ぶ男性従業員の手付きが危なっかしい、どころか陶器の杯と蓋と受け皿がかちゃかちゃかちゃかちゃか音を立てる程の揺れである。
挙句、止せばいいのに酒気飛ばしに燐寸(マッチ)を擦るのである。
実際には飛ばなかったが、擦った燐寸の燃えた頭の行方が気になってしまい、一挙手一投足に目が離せない。
離せないが故に会話も途切れがちである。
ひと通りの所作を終えた震える従業員はよれよれと立ち上がり、盆に下げるべく器類を載せ、やがて去ってゆくのだが、意地悪くもその背中に品名を投げ掛け、注文票を書かせるのも忘れない。
魚(うお)きぶんで焼き、揚げ、生まの順で頼む。
◇鱸かま焼き
◇鰰(はたはた)唐揚げ
◇鰺なめろう
昨日に引き続いて牛筋煮込みを頼んでみる。
今日も今日とて綺麗に裏切られ、大衆居酒屋的な茶系のそれではなく、されおつ割烹系の透明色である。
そういう時流なのだろうかと取り残された自己と世間との間柄を訝(いぶか)しみ、でろでろ煮込まれ系に出会える日を渇望して止まないのである。
(了)
投稿者 yoshimori : January 6, 2011 11:59 PM