January 07, 2011

『台屋の星鰈』

神田川沿いの街に来ている。

寒風吹き荒ぶ表を短くない間徘徊するには、幾つかの装備品と超然とした行動力が要る。
上記のどれも持ち合わせていないとすれば、それは愚かな行為である。
そして、愚行を惜しまないどころか愛して止まないのも人間なのだ。

彷徨の果てに辿り着いたのは、一軒の割烹の店
馴染みまでとは云わないが、何度か訪れている。
一階は厨房と一直線のカウンタアのみで、会場には左に二卓、右に一卓あるだけの細長い造りである。
今回は初めて階上へと上げられる。
隣席と右奥の席では怒号に近い盛り上がりを見せており、若造の座る右卓で食器が割れる音が響くと、左卓では初老の男が激しく転ぶというカオスの連鎖状態である。

見ればかつて小学生だった筈の大将の息子が堂堂の体格を持って働いている。
しかし、物腰や面構えは中学生のそれである。

中坊に冷酒と日替わりの四品を頼む。
内訳は造り、焼き物、旬の菜、煮込みである。

カオスは絶頂期に達し、初老の団体が去った後で無機物以外の何かが階段から転げ落ちる震動が反響して、連れが落ちた(であろう)にも関わらずに若造集団に混ざり込み談笑して階下に下りる気配を見せないリーダー格の初老は、若造を向こうに昔話を話し始めたりもして、時流に乗り遅れた気がして何となく居た堪れない自卓ではどういうエネルギヰが加わってそうなったか不明な壁に穿った穴を眺めながら故事来歴を妄想するという不健全な酒宴となり、それでも誰の身にも等しく夜は更けてゆくのだ。

(了)

投稿者 yoshimori : January 7, 2011 11:59 PM
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