January 20, 2011

『寒月の鰹節』

『贋作吾輩は猫である』を読んでいる。

当作品は夏目漱石門下であった内田百閒が師をリスペクトしての続編でありながら、堂堂と偽物(ぎぶつ)であると謳っている。
本典に登場する猫の飼い主である「苦沙弥先生」が漱石自身がであるのと同様に、偽典における「五沙弥入道」は矢張り百閒自身と考えるのが自然だろう。

命名の由来としては、「九(苦)」よりも「四(死)」少ない「五」という洒落か。
確かに漱石よりも百閒は遥かに長生きはしたが、当贋作の執筆は無論漱石の死後だったろう。
まァ題名もあれだし、存命中とは考え難いわけだ。(調べる気もなし)

作中、大酒喰らいである五沙弥の食卓には「あて」として様々な品が並ぶ。
未だ半分も読んでいないが、幾つか列記しておく。
「括弧内」が原文からの引用部である。

◇「チーズの海苔巻き」を「醤油」に付ける

まァ此れは宅飲みでのちょいとひと工夫であろう。
麦酒好きの五沙弥にはらしい品である。

◇「葛を入れ生姜を溶かした掻き玉」

掻き玉汁とは、水で溶いた葛粉を汁に入れ、煮立った処へ溶き玉子を流し込みながら掻き雑ぜた吸物
此れは酒前食として五沙弥が来客に宛がった品である。
酒を呑む前に吸物を飲むのだ。

◇「防風の根の油痛め」
物騒な字面の品である。
何故か「炒め」表記ではないのが無意味に暴力的と云えよう。
其の正体は「刺身のつまにつける濱防風」であるという。
ハマボウフウの根とは牛蒡にも似た形状で、作中で食した客が云うには「三つ葉」に似た味という。

◇「麦の沢山混じった御飯」に「鍋に残った汁」を掛け、「煮干し五六匹」を散らし、更に「かますの頭の干物」を載せた品

「残り汁」は「鷄(とり)」「酒」の風味がするという。
酷ぇの喰ってやがると思いきや、此れは自らを「吾輩」と称するアビことアビシニヤに與(あた)える猫飯(ねこまんま)だった。

文庫本をはたと閉じ、何か和的な物を求めて、新宿区内にある地階の店へ。
奇跡的に今宵も空いていると見せ掛け、実は予約席二名席二組分を含めてのひとり着座でぎっちぎちの満席だった。
まずは一献と、大将の選んだ「千代の光(新潟)」を冷やで。

◇葛豆腐

大将の手造りである。
滷汁(にがり)を使わずに葛粉と豆乳で拵えるという。
添えられた花鰹、本山葵と共に醤油を掛けまわしていただく。

続けて「八仙(青森)」を。
ほろ酔い加減で河岸を変え、酔いが首より上に巡るまで、どうにもつまらない顔を眺めながら飲んだくれるしかないのだ。

(了)

投稿者 yoshimori : January 20, 2011 11:59 PM
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