January 30, 2011

『山城守の縁の地』 (第参回・最終回)

寝覚めの悪い夢に魘(うな)され汗だくで目覚める、午前五時
窓より外を眺めると、横殴りの猛吹雪である。
乗って来た筈の車輌は雪に埋もれ、最早車種の判別すら付かない。

体調は幾らか恢復の兆しを見せ始め、せめて源泉掛け流しと謳う湯に浸かりたいとまで思うに至り、朝風呂を当座の目標と定め、最終日にして漸(ようや)く湯治らしい旅が始まる。

夜半に開放される大浴場よりは幾分か手狭な朝仕様の温泉施設のみ利用の時間帯ではあったが、それでも吹雪の下の露天の湯船を満喫し、湯上りに少し横になると即座に昏倒
何処が恢復なのかと周囲から訝(いぶか)しげられながらも、朝餉の膳が整うまでは昏睡を止めないのだ。

やがて朝餉の会場へと連行され着座し本能的に「和」な食材だけを選び抜いて順々に摂取してゆく。
食後の茶を啜るや否や部屋へと舞い戻り再び蒲団の海へとダイヴしチェックアウトまで昏々と深く深く眠るのである。

時間である。
宿の女中と下男らに別れを告げ、一寸先も雪景色というホワイトアウト化した外界を窓の外に眺めながらも、瞼を閉じれば直ぐに睡魔は迎えに来るのである。

気が付けば渋谷区の路上である。
送迎を成し遂げた車輌は既に目の前より姿を消している。
自宅を目指す疲弊し切ったこの身に舞い落ちてきたのは、都内に降る微塵な粉雪だった。

(了)

投稿者 yoshimori : January 30, 2011 11:59 PM
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