February 25, 2011

『離れ伍長』

と会う。
待ち合わせは徳島出身の大将小出刃を振るう小料理店である。
十八時半過ぎに到着し暖簾を掻き分けるも、其処に父の姿はない。
めづらしく自分が待つ立場と相成る。
まずは冷酒で一献。

◇春鹿(奈良・福智院町)

酒飲みは箸を割らないという。
爪楊枝一本だけを頼りに、ちまちまと抓んでは飲んだくれ続けるのだ。
傍から眺めれば絵的にはどうにも締まらないのだが、満腹感を得ない為の「あて」への接し方とも云えよう。
待つ間に突き出しである味噌胡瓜の味噌も胡瓜も消失している。
手持ち無沙汰も甚だしいので致し方無く一合、もう一合と杯を重ねる。
やがて現れる父と合流し、後は流れの間に間に。

◆赤海鞘の塩辛 ・・・ 爪楊枝ユース
◆雑魚おろし ・・・ 此処で初めて箸を割る
◆関鰺 ・・・ 九州産
◆馬刀貝バター焼き ・・・ ショウケヱスで筒状の貝殻から出たり入ったりしていた奴の姿がオヲダアと同時に見えなくなる

どういう流れか、地元にある神社の「御神体」の話に辿り着く。
十年に一度表に出されるという其れは彼(か)の地に六十年以上暮らす父親でさえ、氏神氏子の間柄でありながら見た記憶が無いという。
私自身は拝殿の内装すら覚えていないが、父が云うには「平家物語~壇ノ浦の戦い」、「爆弾三勇士」等の絵画が飾られ、拝殿奥にある木枠の隙間には年代物の古文書が収納されていたと聞く。
当古文書は相当に時代が付いていたらしく、煤払いの折に町内の神社委員の方がうっかり手に取った刹那紙片が粒子状に砕けて散ったという。
・・・何か取り返しの付かない行為が素人の手によって十年に一度繰り広げられている様な気がしないでもないが、郷土史としても興味深いのは確かである。

そして、当の「御神体」は拝殿裏にある本殿に安置されているという。
父の話し振りを聞いていると、聖林(ハリウッド)的冒険譚における、主人公ではない知識不足の考古学者が功を焦る余りにうかうかと神具に手を出してしまい、眩い光に包まれて視力を奪われたり突然全身が燃え上がったり雷鳴と共に稲妻に打たれてみたり巨石が転がって来る中を全力疾走で逃げたりする様な展開を仄かに憂いている雰囲気がしないでもないのだ。(嘘)

(了)

投稿者 yoshimori : February 25, 2011 11:59 PM
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