どちらかと云うと室生犀星先生寄りに生きていると(勝手に)信じている。
(先生の金沢時代における境遇とは似ても似つかぬ、隣県の親不孝な放蕩者でしかないのだが)
「ふるさとは遠きにありて思ふ」だけに特化してみたというひねた望郷念である。
ついぞ想う所も無きにしも在らずなのだが、不意に期せずして地元に店舗展開している、主に麺類を扱う店で一杯と云わずとも愚図愚図と酒が飲みたくなった。
其処では年がら年中、煮込み田樂、所謂おでんを扱っている。
「赤割」という焼酎を赫ィ葡萄酒で割った物騒な飲料と共に、「串」と呼ばれる煮込んだ豚ばら肉に味噌を擦(なす)り付けて食すのだ。
(俗に云う関東炊きとは様式は異なるのだが、此処での趣旨ではないので詳細は割愛)
まァ以上の経緯は軽く黙殺願って、新宿区にある地階の店を目指す。
まずは一献と無銘の地酒から始めよう。
◇(無銘)(秋田)
◇豊盃(青森・弘前)
◇陸奥八仙(青森・八戸)
◇鶴齢(新潟・魚沼)
鍋を浚(さら)う心積もりで指差し注文を續けようか。
◆大根
◆豆腐
◆つみれ
◆牛たん
◆プチトマト
◆じゃが芋
◆牡蠣
◆竹輪麩
◆生麩
◆湯葉
・・・む、酔ったな。
此処暫く訪れなかった身体の変調である。
睡魔こそ襲って来ないが、弛緩状態が慢性的に續く。
全てが所在無く手持ち無沙汰な氣がし始め、自前の掌で自前の顔に触れずには居られない。
それでも、つまらねぇ顔が揃った店で赫ィ葡萄酒なる物を戴き、縋る手を振り解いで店を後にする。
気が付けば宙空の月を眺めながら車道を歩いている。
此りゃァ愈愈穏やかじゃないと家路を急ぐ。
変事の際の今際(いまわ)の際(きわ)の一言が「上弦って上の方が暗いんだっけか」じゃァ地元に残した両親も到底遣り切れないのだ。
(了)
<覚ヱ書キ>
◇郷乃誉 山桜桃<ゆすら>(茨城県・友部町)
投稿者 yoshimori : March 9, 2011 11:59 PM