<罪無キ花泥棒>
素材を収集して特殊技能を駆使した結果、凡そ小銭とは呼べない金銭を手にしていた。
ざっくりと収集とは云ったものの、其れは野に咲く花を愛でる序でに摘む行為に非ず、明らかに人んちの畑より勝手に伐採採取した作物を、自前の乳鉢と乳棒で擂り潰し、更に高度な技術で精製して使用に堪え得る形状に仕立て上げ、町の小売店に叩き売っては粗利を得るという元手ゼロの経済活動を星の数程繰り返した果ての背徳行為に過ぎない。
若干の後ろめたさも無い事も無いのだが、此の業界に於いては自宅以外の屋内でうっかりスプーン一本を手に取るだけで窃盗犯として牢獄にぶち込まれるも、屋外での拾得物横領は(一部例外を除いて)断罪されないのが唯一の心の拠り所となっている。
という特殊性を踏まえ、不動産物件の購入である。
百数十日も此の地に滞在しているというのに、睡眠時間が僅か十一時間という驚異的な不眠症(病ではない)の中、地道に不動産投機を重ね、持ち家は既に六軒を数える。
今回の物件は首都より南下した湿地帯が拡がる地方都市の中心部にあるという。
業者からは「前の住人が家具を全部持ってっちゃったから近所で買ってね」と云われ、室内を見回すと、成る程蛻(もぬけ)の空である。
登記を済ませ、家具搬入と内装業者を同時に発注すると、気付けば一文無しになっていた。
・・・初心に戻ってまた作荒しから始めねばなるまい。
(續く)
投稿者 yoshimori : April 20, 2011 11:59 PM