April 26, 2011

『終ノ棲家』 (第拾捌回)

<業ノ骸ト號外壱枚>
通りの名は失念したが、河川沿いの主幹道路北上していると一点透視法的彼方の路上に大きく黒い物体が見える。
空は飽くまでも青く、小鳥の囀りさえ冴え渡る白昼の出来事である。
歩く速度も緩めずに近寄ると、飛散した血痕も夥しい黒毛の馬であった。
哀れ也や、黒馬は既に息絶えている様子。
其の背にはが乗せられており、明らかに乗馬用である。
此の業界では「黒毛は速い」とされており、すれ違い様での騎乗の人との会話が不可能なのが定説となっている。
騎乗と云えば、此の馬の所有者は誰だったろうかと黒馬の周辺を散策すると、程無くして少し離れた路肩に横たわる女を発見した。
残念ながら彼女も馬同様に事切れている。
何処かで見た顔だと記憶を辿ると、街と街とを高速で移動する新聞配達員の一人と気付いた。
兎角物騒な時世、郊外への配達も命懸けである。
見た所、衣類金品は奪われていない様子で、馬の出血も含めて死因は不明である。
所持品を検めると、彼女が勤務する新聞社が発行する新聞の創刊号から今日までの分を見つけた。
そうそう、此の号は貰い損ねたんだよなー、と馬と女の死体が横たわる地べたに座り込み、日が暮れる迄記事を読み漁るのだった。

(續く)

投稿者 yoshimori : April 26, 2011 11:59 PM
コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?