<碧肌ノ業>
内陸にある地方都市を初訪問する。
此れ迄は諸事情にて立ち寄る事すら避けていたのだが、今回は条件が揃った為に堂堂と乗り込んでみる。
何故に街に近付くのを回避していたか。
実は此の地に住まう不動産物件の世話役は、役所と街を繋ぐ高架の石橋から崖下に落下する癖がある為、迂闊に彼に接近してしまうと事故死する可能性があり、物件購入を目指す者としては彼の生命を大事にしたかったのである。
・・・が、直ぐに出会える筈の世話役の姿が見えない。
彼の姿を探して街を彷徨い歩く事数時間、似た人の後ろ姿を見付けては駆け寄りつつ追い抜いて振り返り別人と知っては溜息を吐く。
何これ、恋? (違うと思う)
漸く見付けたのは、正に事故の現場となる高架橋の上だった。
幸いにも橋の上に両の足で立つ彼、未だ生きている。
無事に不動産購入の手続きを済ませ、使用人も雇って地上三階地下二階の豪邸へと転居する準備は整った。
・・・もう此れで世話役に用は無い。
雲ひとつ無い空は何処までも青く、風にざわめく枝葉さえも爽やかである。
橋から眺める景色は一枚の絵の如き彩りで眼を愉しませてくれる。
・・・そうだ、彼を永遠にしてやろう。(にやり)
橋に手摺りは無く、一歩でも踏み出せば、兎角世知辛い浮世と離別可能である。
商談を終えて一度彼とは別れたものの、振り返って追い抜き、擦れ違い様故意に肩をぶつけると、当方の面積が狭い所為か文字通り肩透かしとなってしまい、彼の進路を妨げられない。
・・・何度か試しているうちに自分自身が落下。
超痛ぇ。
即死こそ免れたが、世話してくれた人に仇しちゃァいけないと思った。(当たり前だ)
(續く)
投稿者 yoshimori : June 23, 2011 11:59 PM