June 29, 2011

『偽善と呼ばれる為に求められる二十九の条件』(第46回)

<砂中ノ金>
満を持して湖底に没した指輪を拾いにゆこうと思い立つ。
当物品は何某が落としたという代物ではないので、必然的に拾得者の所有となる。
問題となるのは、取得までの手段が偏執的に難易度が高いというただ一点にある。
この指輪、出現時は不安定な状態で斜面のある浅瀬に沈んでおり、いかなる天候にも左右されずに固定されているという。
がしかし、たった一瞬でもその設置されているエリアに近付いてしまうと、指輪は何かから逃げるかの如く定位置より深く暗い湖底に向けて転がり出すのである。
薬指の径程しかない極小の輪っかを、岩石だらけの広大な水底で捜し当てるという、何に対する罰ゲームかと。
先人の知恵に頼るのを容赦願いたいのだが、先ずは仕入れた情報により湖面へ向けての飛び込み位置を決定。
指輪は接近と同時に転がり出す為、迅速且つ正確な行動が要求される。
目標との予想ランデヴーポイントは、十六方位で云うと南南西の方角である。
最短距離としての直線を自らの定めた動線と見立てて走り出し、そしてダイヴ
湖底に到着後程なくして進行方向の右側、つまり西の方角より硝子製の瓶らしき落下音が聞こえた。
湖底に対して水平に泳ぐ目の前を瓶詰めのエールへ向けて横切ってゆく。
先人から授かった情報によると、この転がるエール酒は動くランドマークである、こいつは幸先が好い。
そして、その先をループ状の陰影が物凄い勢いで転がってゆくのが見えた。
僅かな凹凸で跳ねたりもしているのが、心憎い演出でもある。
湖底を凝視しながらなるだけ方向を変えずに、時にはうかうかと岩肌の丸い模様を撫でたりしながらも、ようやっと指輪を発見。
・・・そんな思いまでして手に入れるべき物なのかと問われれば、首を捻らざるを得ない一品ではあるのだが、それもまた王道から外れて道なき道をゆく人生設計の一環と割り切ってそっと左手の薬指をその輪に通してみたりもするのだ。

(續く)

投稿者 yoshimori : June 29, 2011 11:59 PM
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