前日の夜半、耐え難きを耐え忍び難きを忍んだ結果として救急車を呼ぶ。
朦朧とする意識の中、赤灯くるくるだけにしてサイレンは勘弁願いたいと告げるも、
「一応決まりなんで鳴らして走りますが、近くまで来たら止めますね」
との親切なんだか何なんだかな回答。
駆け付けた隊員3名の手により微妙な色合いのストレッチャーに乗せられ、ドイツ製の車輌に収容される。
車内は消毒液やビニールにも似た新車臭で満たされている様子。
畳と女房と救急車は嘘でも新しい方が良いのだ。
救急隊員と救急外来の電話でのやり取りが長く感ぜられる。
前年に入院と再入院した履歴のある最寄りの大学病院へ搬送されると分かり、安堵と不安に包まれまくる。
目当ての病院に到着し、薄目で搬送口をちら見すると「ER」という頼もしくも恐ろしげな二文字。
隣席ていうか隣のベッドでは呼吸困難の老人が絶叫しているというERらしさ全開である。
早速点滴針が腕に繋がれるも、何故か「すいませんごめんなさいもうしわけございません」と左腕側に居る看護士らしき女子が誰かに対して謝罪を繰り返している。
後で気付いたのだが、点滴針の挿入に何度か失敗していたらしく、自分の左腕は青痣と血痕まみれとなっていた。
車椅子に乗せられたまま幾つかの検査を終え、ERドクターに呼ばれる。
診断名は「ウイルス性気管支肺炎」。
咽頭痛、頭痛、悪寒、高熱、腹痛は全て善からぬ菌の所為であるという。
「入院してもいいけど、自宅との違いは点滴ぐらいだよ」
と諭され、その不自由度から即日帰宅を選択。
高額医療費を現金にて窓口に叩き付け、何も解決していない身体に鞭打って黒塗りハイヤーを呼び付けて帰るのだ。
(了)
投稿者 yoshimori : September 3, 2011 11:59 PM