本日ァ有楽町での落語会でござんす。
今年の三月まで二ツ目でした一之輔あにさんが「師匠」と呼ばれる為の披露目ですな。
『春風亭一之輔 真打昇進披露興行 六月特別公演(第一夜 有楽町)』
@有楽町一丁目・よみうりホール
客席の着座を待たないまま、前座の一席より幕開きです。
春風亭朝呂久◆間抜け泥
「趣味はダイエット、特技はリバウンドです」
サゲ:
「いけねぇ、下駄ァ忘れてきた」
柳家三三◆垂乳根
「鈴本(演芸場)に出ておりまして、六時に出番がありました」
「あすこはお客様も藝人も出入口が同じでして」
「こちらに向かおうと、建物を出た辺りでですね、年配の女性に話し掛けられまして」
「『あのー、いつも楽しく拝見してます。・・・菊之丞さんですよね?』」
「・・・あの方に似てるとは思わないんですが」
「あたしゃァ市川の塩浜にも住んでませんし」 ※古今亭菊之丞は市川塩浜在住
「・・・団地内じゃ変わり者で通ってるみたいですね」
「いえ違います、三三と申しますって伝えましたら、曖昧な笑みを浮かべてましたね」
「そんなですから、モギリの新しく入った子からも『チケットを』なんて云われる始末です」
「ここに着いた時にもやはり入口で『チケットを』と、またか、と」
「そんな艱難辛苦を乗り越えて、今ここに上がっております」
立川談春◆黄金の大黒(きんのだいこく)
談春師匠、ゆらゆらとした歩みで高座を下りた三三師匠の動きに対して一言述べます。
「あいつは普通に歩けないんですかね?」
その言を受けた三三師匠、手足をまっつぐに伸ばした体勢で袖から一瞬姿を見せますと、踵を返して引っ込みます。
「あんなことする子じゃなかったのに・・・」
本編:
「絽の綿入れでしたらうちにありますよ」 ※絽(ろ):もじり織りによる透き模様にて夏仕様
春風亭一朝◆芝居の喧嘩
「うちの師匠、(五代目)柳朝と(三遊亭)圓歌師匠は落語界きっての嘘吐きの双璧でございます」
「嘘吐き沼ってのがありまして、ここに落ちると嘘吐きは沈むってんですね」
「で、うちの師匠が沼に放り込まれましたが、何故か浮いてくるんですよ」
「おかしいなって、沼に入って調べてみますと」
「圓歌師匠が水中でうちの師匠を肩車してるんですよ」
「あたしのカミさんの父親が(五代目)片岡市蔵でして」
「当時カミさんが身重で、あたしがカミさんの荷物を持ってたんですね」
「そうしましたら、前から市蔵さんが歩いて来まして、あたしらの姿を見付けると烈火の如く怒り出すんですよ」
「『亭主に荷物持たすとは何事だッ!』」
「いえ、でも、おなかにこどもが」
「『そんなもん関係ないッ! 娘に荷物を持たせなさい!』」
「まァまァお義父さん、と取り成して何とかなったんですが」
「市蔵さん、手に鍋を持ってまして。お義父さんはどちらへ、と尋ねますと」
「『いやァ女房に豆腐買って来てって頼まれちゃって』」
「説得力がまるでありませんでしたね」
「ご縁がありまして、歌舞伎座で笛を吹かせていただいてまして」
「十年くらいやらせていただきましたかね」
「亡くなりました(六代目中村)歌右衛門さん、素晴らしかったですね」
「長い台詞になりますとプロンプター、いわゆる黒子さんから小声で教えてもらうんです」
「『何が何して』『何が何して』『何とやら』『何とやら』」
「で、晩年になりますと歌右衛門さん、耳が遠くなりまして黒子の声が届かないんですよ」
「『何が何して』『・・・え?』って云っちゃったりしまして」
「無線を用意しましてね、こう腰に受信機を付けてイヤホンは着物やかつらを通して耳に付けちゃえば、お客様からは見えないんです」
「これで公演を続けておりまして、国立演芸場での舞台でしたかね」
「所轄を巡回しているパトカーが隼町に停車したらしいんですね」
「警察無線ですよ、これが歌右衛門さんの無線で拾っちゃったみたいで、『了解、了解~』と舞台でやっちゃったんですって」
「・・・いや、これ、ほんとの話なんですよ」
お仲入りで御座ィます。
三三・談春・一之輔・一朝・市馬◆口上
三三:
「若手研精会という二ツ目勉強会がございまして」
「あたしが二ツ目の頃、一之輔くんは前座でしたかね」
「チラシに誤植がありまして、曜日が間違ってたんですね」
「当時前座の一之輔くんに落語の前に訂正してねってお願いしたんですよ」
「まァそれで、一席演る前に『何月何日は何曜日の間違いですから、皆様お間違えのない様に願います』って三回ぐらい繰り返したんですね」
「で、その後に『これで間違えて来る奴は馬鹿だ』って云いました、彼は」
「次に上がった兄弟子の柳朝さんは、もう平蜘蛛の如き姿勢で何度も謝ってました」
「それを袖で見ていた一之輔くんは笑ってましたね」
談春:
「適度にヤマっ気のある一之輔くんを末永くお願い致します」
市馬:
「まァ歌はともかくとして、一本締めの音頭は春さんに譲ります」 ※市馬は談春を「春さん」と呼ぶ
柳亭市馬◆山号寺号
「幇間(たいこもち)の世界では、悠玄亭玉介師匠に(桜川)善平師匠、玉介師匠は九十歳近くまで現役でした」
「玉介師匠は幇間協会の会長だったんですが、会長職を次に譲ったんですね」
「譲った相手が七十八歳という、まァこれまた、ねぇ」
サゲ:
「一目散随徳寺」
「嗚呼、南無三仕損じ」
市馬師匠、サゲまで演り終えますてぇと、おもむろに立ち上がりますて足袋を脱ぎ、前座さんに手渡します。
(あたしには立ちながら計八つの鞐(こはぜ)を外してゆくなんてぇ藝当は到底できやしません)
「お囃子えりちゃん」と下座さんに声を掛けましての『深川』踊りで御座ィます。
春風亭一之輔◆青菜
開口早々、会場の形状を「便座」と評しました。
何という若手真打でしょうか、先々が愉しみで仕方がありません。
「見ましたか、(AKB48)総選挙」
「わたしは見ました」
「まァ日本は平和ですね」
「ああいうのをゴールデンで生中継ですよ」
「もう天皇陛下あたりが『やめろ』とか云わないと駄目なんじゃないですかね」
「夢に出てきましたよ、総選挙が」
「あのオウムの方が逮捕されましたね」
「で、夢の中でごっちゃになってるんですよ」
「『第五位! デンッ 菊地直子!』 えっ!?」
「・・・まァそんな感じですよ」
本編:
植木屋の女房は「田鼈(たがめ)」に似ているという。
たがめを説明する際に両腕で表現する、めだかさえも一突きで殺す爪の動きがじわじわと効いてきます。
お時間となりましてお開きで御座ィます。
ここから東京駅へと向かいまして、八重洲口を目指しまさァね。
繁華な商店街には提燈がぶら下がっておりまして、町内会の皆さんと思しき方々が法被姿で神輿を囲んで飲んだくれておりますのを横切って、炭火焼きの店でペイイチと暖簾をくぐるんですがねぇ、それはまた別の噺で御座ィます。
(了)
<覚ヱ書キ>
つけもの◇とらじきむち
あかみ◇はらみ、なかおちかるび
ほるもん◇てっちゃん、こぷちゃん、ぎゅうしん、たんさき、みの