June 09, 2012

『小夜啼鳥の左眼』 (第21回)

◇女である。

◇盗賊稼業もすっかり板についてきた。
◇とはいえ、間違っても「義賊」とは到底呼べない、ちんけな盗っ人(バイト)である。
◇しかも「こそ泥」程度の仕事ばかりの為、不法侵入さえ咎められなければ、官憲に追われての派手な立ち回りすらないのだ。
◇そして、いや、だからか、未だぺーぺーのままである。
◇と嘆いていたら、大きなヤマが立つ。
◇内容。
◇「山賊に盗まれた銀の金型を取り戻す」
◇えー? これいつもと同じじゃーん。
◇ていうか「銀の金型」って表記上、やや抵抗があるな。

◇我が泥棒組合の拠点は南東の果てにある。
◇本件の依頼者は西の果てで支援を待つという。
◇なるほど、この一件を足懸かりに西へ勢力を伸ばすというわけですね。
◇「そうだ、事業拡大の一手になるから行って来い」と上司から背中を押され、出立。

◇西の果てにて依頼者と会う。
◇先祖代々銀細工師の家系である彼は、大事な品を取り戻したいと力説する。
◇山賊が根城にしている「松村」という集落へ向かえという。
◇「松村」へ。
◇村っつーか、木造の一軒家があるのみ。
◇こんにちはーと入ってみると、調理場で鍋を振るう男がひとり居るだけ。
◇あの、金型の件で伺ったんですけど。
◇「俺は見ての通りのしがない木こりさ、銀の金型なんて知らないね」
◇銀なんて云ってないんですけど。
◇「いや、あの、だってほら、銀とかあれするんだろ? あいつ」
◇まァ落ち着いてください、これは山吹色のお菓子です。
◇「ああ、そうかい、じゃァありがたくいただいとくよ。ところで俺は急に用事を思い出してこれから出掛けるところだが、壁のスイッチには触っちゃいけないぜ(にやり)」
◇何がにやりだと思いながら、スイッチを押すと戸棚がスライドして下り坂が奥深そうな洞窟が顔を出す。
◇岩肌も冷やかなその出入口には、数本のワインボトルが小粋なバスケットに入れられて置かれている。
◇後で分かった事だが、室内に無造作に置かれた手紙に目を通した結果、それはボスから木こり(自称)宛のボーナス支給代わりの品だった。
◇あらやだこのひと、ゲイ?
◇まァボスが野郎とは限らないので、とりあえずワインを跨いで奥へゆこうと第一歩を踏み出すのだが、足に当たり勢いよくボトルは坂を転がってゆく。
◇これは本筋とは何の関係もないのだが、物理エンジンの素晴らしさを伝える為の演出と心得ておく。

◇策敵と適切な処理を幾度か繰り返し、ボスへとたどり着く。
◇・・・ガチムチなおっさんでした。
◇容赦なく叩っ斬って金型を回収。
◇元来た道をたどり、隠し扉から一軒家へと戻ると、木こりは扉の前でぼんやりしていた。
◇「おう、何か用か」
◇いや、もう帰るからそこをどいてくれませんか。
◇「おう」
◇また何かタカられるかとも思ったが、難なく通してもらう。
◇銀細工師にも感謝され、泥棒組合の西支部の復興を約束してくれた。
◇よーし、あしたからもはりきってぬすむぞう!(皿とかな)

(續く)


"Von der Nachtigall und der Blindschleiche"

◇◇◇◇
(改題) 『流刑地より乗馬で3.5ハロン』 #013-020
(改題) 『1000万本の召喚の杖』 #012
(改題) 『黒馬新聞 北方版』 #007-011
(改題) 『月長石ト鍛造ト言霊ノ國』 #005-006
(改題) 『竜殺シ氷地獄』 #001-004

投稿者 yoshimori : June 9, 2012 11:59 PM
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