◇女である。
◇これまで幾つかの組織に所属し、あらゆる対抗勢力を壊滅させてきたが、いよいよ最終局面を迎える。
◇内戦への参加である。
◇すべての事象の発端であり、国内統一に向けて今動き出す・・・はずなのだが、世界を統べる覇者が戦争介入という戦況を大いに揺るがす状況にもかかわらず、現場を仕切る上官からはどうにも一兵卒扱いなのである。
◇「敵は城壁の傍まで来ているぞ! 何をしている、急げ!」
◇はいはい分かりましたよ、と敵襲に応戦すべく城門より町へ下ってみると、市内は紅蓮の炎に包まれており、衛兵らは殺気立っている様子。
◇空を見上げると、投石器より放たれる火炎を纏った岩石が高速にて唸りを上げて飛来し、周囲の木造家屋を容赦なく破壊してゆく。
◇城壁の外では丁度突撃命令が下り、雄叫びながら兵士らは剣や鎚を振り翳している。
◇「ひひーん」
◇・・・愛馬を外に置き去りにしていたと今気付いた。
◇馬宿に駆け付けると、馬は果敢にも敵兵と交戦中である。
◇繰り出す技は「棹立ちから自重を乗せた両前脚振り下ろし」、これだけである。
◇この馬は意外と丈夫なので、その場を馬の持ち場と定め、自分は自分の任務をこなす。
◇「バリケードを守れ」
◇無理です、突破されました。
◇「跳ね橋を守れ」
◇駄目です、敵兵に橋を下ろされました。
◇・・・自分には細かい作業は向いていないと判断し、この瞬間から殺戮マシーンと化す。
◇敵方の突撃兵を殲滅させ、攻防戦は終了。
◇馬は無事であった、何よりである。
◇この地の首長より激励と感謝の演説があり、戦勝が宣言された。
◇防衛は果たされたのである。
◇戦場に戻って現場検分を試みると、敗残兵や敵兵の死骸はおろか投石器さえ撤去された後である。
◇しかし、市内の至る所で炎上している。
◇屋内に避難しているのだろうか、市民の姿さえも見当たらない。
◇それぞれの自宅を訪ねても扉は施錠されており、立ち入って確認するのもあれなので、中さえ窺わずじまいである。
◇物理的に破損している家屋の家主は市内を徘徊している姿を見付けたが、あの混乱の中で他の皆は無事だろうか。
◇数日後、配達人の手によって一通の手紙が届く。
◇書面には当局が相続税の一割を引いた額を貴殿に譲渡する云々と書かれており、市民のひとりから遺産を受け取った。
◇遺言の主は、この地方で幾つか農場を経営する農場主である。
◇彼との関わりを思い起こすと、・・・畑から盗んだジャガイモを売りつけたり、野生動物の囮になってもらったりと、美しい思い出がひとつもない。
◇・・・すまん、農場主、君の農園は有効に使わせてもらうよ。
◇あ、あと嫁も娘も家も引き取るから、安心して眠っていいいよー。
(續く)
◇◇◇◇
(改題) 『小夜啼鳥の左眼』 #021-025
(改題) 『流刑地より乗馬で3.5ハロン』 #013-020
(改題) 『1000万本の召喚の杖』 #012
(改題) 『黒馬新聞 北方版』 #007-011
(改題) 『月長石ト鍛造ト言霊ノ國』 #005-006
(改題) 『竜殺シ氷地獄』 #001-004