内神田、歳の数だけドンペリを入れる、8時37分。
路上にエクステが落ちている。
事件? とも思うが、朝帰り娘の髪をエクステごと引きずり回す、現役土建屋であるいかつい父親を想像する。
オールの果てに既にアイシャドウは溶け始め、黒い涙を流しながら泣き叫ぶ娘は、
「ふざけんなよー、 離せよー、痛えよー、殺すぞー!」と反省の色無し。
そんな妄想とは裏腹に、駅から職場への距離を呪うかの如く、一歩ごとに呪詛の言葉を吐き出しながらアスファルトを踏みしめてゆく。
またエクステだ。
道に迷わないようにと落とした目印だろうか。
ちるちるみちる? へんでるとぐれーてる?
イビサ、楽園のようで実は生き地獄、12時06分。
たまには庶民の食事でも試してみようかと店内へ足を踏み入れるが、
「十五人前いいっすか?」と店員に尋ねている先客の土方な兄ィと姐ェ。
店員のリアクションも待たずに、
「とんかつ弁当ふたつとー、しょうが焼弁当みっつ、あ、よっつとー、メンチカツ&焼肉弁当を、んー5個かな」
呪文のように右端からメニューを唱えているのを背にして即退店。
何て間の悪い。
讃岐、とても気遣ってるとは言い難い、13時56分。
四人掛けの席に向かい合って座る妙齢の女二名。
奥に座る女が質問に答えてる様子。
「最近どうなの?」
「何が?」
「名古屋の彼」
「あー、彼ね。今の彼女と別れたら付き合ってくれるって」
「ていうか嫁でしょ」
「そうね、そうとも言うかもね」
「離婚ってこと?」
「うーん、何とも言えない」
「何それ、大丈夫?」
「でも、結婚してくれるって言ったよ」
「うーん」
「あー、あたし名古屋に行きたーい」
「まだ早いでしょ」
「はやく追い出しちゃえばいいのにね」
「でも、いいの? そんなんで」
「いいもん。今すぐにでも乗り込めるし」
「それは止めといたほうがいいんじゃない?」
「そうかなあ」
前掛けを着けた店員がトレイを運んでくる。
「お待たせ致しましたー、豚カレーうどんのお客様ー」
これが日中にカレーうどん専門店で交わされる会話だろうか。
奥州、泣き所を突かれて逆ギレで掴みかかる、12時58分。
さむっ、ていうか氷? これ氷?
部屋白い、部屋が白いよ。
ここ病院? えっと、事故? 被害者? 加害者?
何か何か書いてある、かーわーさーき、「川崎丸」って、ぼくの名前?
いやー、もうね、全然無理。
まあ、でもこんなもんか。
父さん、母さん、妹、玉里小学校のみんな、江刺市のみんな、ありがとう、そしてさようなら。
川崎丸は旅に出ます。
長い長い旅です。
いつか大きくなって帰ってきます。
真横に立て掛けてある看板には、「マグロ解体ショー 本日13時より」と大書きされている。
残念、川崎丸。
喜界島、綿埃に醤油をかけるしかない、11時02分。
あまり寝てないらしく、「俺の超絶テクで」と連呼し続け、既に何を言っているのか分からないバイトくん、午前中から絶好調の様子。
しかも、本日は早番なのですぐにでも帰って遊びに行きたいらしくそわそわしている。
楽しそうだな。
「だって、これ凄いっすよ、このPCに入ってるYahoo!の検索履歴」
ひとの履歴を見るな。
「だって勝手に開くじゃないすかー」
そうね。
「いえいえ、それよりも『かわいい下着』ですよ!?」
え? そのPCの元ユーザーはもうここにはいないけど、30越えた山のような男だったよ。
「しかもしかも、その前の履歴が『墓』、『墓参り』、『お盆』と来て『かわいい下着』ですよ!」
墓前で勝負下着ってことかな?
古書店街、下卑た笑いを噛殺す、8時17分。
写真はイメージです(無断借用)
クランク気味に立ち喰う人々をかき分けて厨房前にたどり着く。
ごぼう天そばを頼むと、何やらねじれた玉葱が見える物体が目の前に。
件の女性従業員は、常連の弁当屋店員と「たらこ弁当」という単語ひとつだけでどうかと思うくらい盛り上がっている。
水を差すようで悪いが、どう贔屓目に見ても玉葱はゴボウに変化しなさそうなのでその旨告げる。
若干パニクり気味な動きを見せつつ、無言で汁に浸り切ったかき揚げ天をサルベージし、新たにごぼう天が投入される。
一連の動作を悪びれもせずにこなし、再び「たらこ弁当」に立ち返る。
朝からまったく清々しいですな。
内モンゴル自治区、夫の実家に里帰り、20時06分。
渋谷区内にある中華料理店を検索していたらヒットしたサイトに、「池袋は東京の中国東北部なのか」というコラム内に「延吉」なる地名が見える。
延吉(エンキツ)は、中国語でイエンチー(Yanji)、朝鮮語でヨンギル(Yeongil)と呼ばれる中国東北地方吉林省延辺朝鮮族自治州の県級市で、自治州政府所在地として、総面積1350平方キロの土地に、約40万人(朝鮮族六割、漢民族四割)が生活している。
中国語で長白山とも呼ばれる白頭山(ペクトウサン)は、北麓の山間盆地に位置し、南北東は山に囲まれ、西に開けている。
ということで延吉料理なるジャンルも確立されており、同地方の出身者が池袋辺りで出店しているという。
中国東北部における朝鮮ルーツの冷麺あたりが定番といったところらしいが、大陸の末端でありながら半島ナイズされた気になるメニューも幾つか並ぶ。
羊の串焼き
粉皮(フェンピー)
豚背骨の醤油煮
豆苗炒め
ロバ肉
カイコの串焼き
いや、カイコは・・・。
渡良瀬川、思い出だけで生きている、15時42分。
拝啓
ゼンダ先生には、生前随分とお世話になりました。
先達て、ゼンダ先生の面影を確かめようと卒業アルバムを開いたところ、「ゼンダ」という名前は見当たらず、「ゼンタ」という名の用務員と、「センダ」という事務員の名があるだけでした。
きっとゼンダ先生は、お二方の集合体なのでしょう。
敬具
白河、歪んだアルミを見つめながら、15時32分。
「で、いま何処にいんの?」
「分っかんないっすよ」
「地図持ってんだろ」
「地図だと思ったら、CanCamでした」
「何?」
「朱美の買ってる雑誌ですよ」
「何で朱美の雑誌をお前が持ってるわけ?」
「いや、あの、借りたんすよ」
「トラック野郎のお前が女雑誌を借りるのか?」
「エ、エビちゃんが好きなんすよ」
「はあ? いいから事務所に戻って来い! 2秒でな!」
ガチャン
「分っかんないっすよ・・・」
神南、オリーブオイルを頭から浴びる、13時45分。
「うっわー、真っ赤だよ」
「また見てるし」
「西沢は興味無い?」
「いや、そういうのはちょっと」
「すっげー」
「そんなに?」
「いいからそっから見てみって」
「う、うん」
乃木坂、台湾人と間違えられる、20時57分。
サンボマスター似のボイラー技師(右)、サンボマスター似の大手居酒屋チェーン店アルバイト(中)、サンボマスター似の自称家庭教師(左)。
↓
撮影から2年9ヶ月後の店内。
↓
あっ、サンボマスター似の人たちがいない!
秋葉原、善人だけが住む街、19時47分。
うーん、こんなに食べられないよ。
もったいないなあ、このごちそう。
デジカメがあったらなあ、記念に撮っとくのになあ、欲しいなあ。
寸評:イタリアだったら2秒で持ってかれてますね。
アマリロ、夢にまで見た定食屋、15時24分。
「あ、ドライバー落としちゃった」
「あぶねー、あはははは」
「あ、主任、主任」
「何だ」
「沢田が落ちました」
「えー、まじでー?」
「あっぶねー、あはははは」
上熊谷、中吊り広告が秩父セメント、12時14分。
「あれ? ひとつなくねえ?」
「まじで? それ、やばくねえ?」
「っかしーな、ここにあったんだけどな」
「こっちにもねえなあ」
「んー、ま、いいか。あ、主任、オッケーです」
「(小声で)いいのかよ!」
「たぶん」
「たぶんて」
「もういいよ、あいつのことは」
「誰?」
モザンビーク、恐怖新聞配達員、8時24分。
飲食店の掲げる赤い看板が視界に入る。
「支那」とあるので字面から中華料理なのだろうと気にも留めなかったが、実は当て字と気付くまで数秒を要した。
引き返して激写。
しかし、今見ると全然面白くないな。
駿府、全身タイツで全体朝礼、12時57分。
外人が着る和服という違和感よりも、深夜の理科準備室で会いたくない連中だ。
結論:平日の昼、西友前で通行人から好奇な視線を受けながら写真を撮ってる場合じゃない。
乗鞍岳、雪溶け後続々と発見されるxxx(自粛)に春を感じる、20時15分。
急ぎ気味に飛び乗った東西線には、一足先に退勤した職場同僚がシートに座っている。
「お疲れ、お疲れ」と、隣に着席。
「えーと、お忙しいところあれなんですが、ドラマの撮影が入ってしまいました」
本業はそっちだもんね。
「ええ」
また殺される役?
「死にませんよ! ・・・たぶん」
なんて題名?
「『けものみち』ですよ」
町田康?
「それは既に映画化されてて、タイトルも違いますね」
『けものがれ、俺らの猿と』か。
「知ってんじゃないすか」
ん? 誰でしたっけ?
「松本清張ですよ」
へえー。誰が出てるの?
「さあ・・・」
何の役で出るの?
「聴いてませんね」
やる気あるの?
「ありますよ!」
ロケ地は?
「いや、知りません」
どうすんの、奥多摩あたりのリアル獣道だったら。
「覚悟します」
蛇とか喰わされるよ。
「いいですよ。ってどんなドラマですか」
馬鹿よ馬鹿、役者馬鹿。
「ありがとうございます」
そう言えば、松本清張って竹中直人が物真似してなかった?
「え? まじすか。知りませんけど。いや、知ってるかも。絵ヅラが浮かんできた」
でしょ? あ、でも、遠藤周作だったっけかな。
「そんな地味な物真似に需要があるとは思えませんが」
地味だからいいんじゃんか。
東西線は大手町に停車する。
「じゃあ自分、マネージャーを待たせてるんで、ここで失礼します」
はい、お疲れー。
何だ、さっきまで鼻から讃岐うどんを喰う話をしてた男が。
・・・格好いいじゃないか。
エディンバラ、抑留された高速艇、8時03分。
江戸っ子的に「は行」発音が難しいとされているのは周知の事実だが、表記の上でも困難とはヅラもずれる勢いの発見だった。
しかも、ポップの半分がそばつゆに浸したかの如く、紙の浸透圧によって変色しているのも気になる。
生ビールをイメージしているようにも見える気持ちはよく分かるが飛躍し過ぎだ。
右に記された「シジキの煮」の具は、油揚、コンニャク、?(読めない)、ゴボウ、しめじの五点。
難読だった三行目は、「紙」にしか見えない。
実は、とカミングアウトするが、薬味エンゲル係数が半端じゃない。
卓上七味使用時の手首上下運動時間が、およそ一般的ではないと信じている。
安に辛いもの好きというのではなく、辛さを感じる味覚が欠落しているだけかもしれない。
紙の入った惣菜なんざ喰いませんや。
ガマッシャーン共和国、臙脂色の礼服、10時15分。
『東京大学物語』、『まじかる☆タルるートくん』で知られる江川達也の作品の中に『BE FREE !』なる、乱暴にカテゴライズするといわゆる「学園モノ」がある。
壱河市立明北高等学校に勤務する冴えない数学教師、笹錦洸(ささにしきあきら)は、笑いとも伏線ともつかない設定によって、「三十年後、文部大臣になる男」と毎週括られ、遂に最終回にはxxxx(自粛)になる。
本作品に登場する、エロ担当女子高校生の名が、伊福部昭子。
言わずもがなの作曲家からのネーミングなのだが、当の本人は昨夜、都内病院にて多臓器不全の為、惜しまれつつ91歳で亡くなったという。
合掌。
「あたし、おとこおもいだから」と、笹錦と無人島の滝壷で絡む伊福部昭子の姿を思い出す。
うろ覚えだが。
永田町、エンブレムは「通天閣」、20時56分。
半蔵門線車両内優先席に座る、演劇人のような腹式呼吸で、よく通る声を荒げている男。
「政治家が金貰ってんだろ、なあ。税金が高過ぎるんだよ、なあ」
最後の「なあ」が連れに話し掛ける時に同意を求めてるのかと思ったが、男の周囲には誰もおらず、彼自身は車両にいる全ての乗客に向かって話している、或いは誰にも伝えていない様子。
「2000万持ってんだったら、ひとりあたま三千円ってとこだろ、なあ。それでいいじゃないかよ!」
男の脳内電卓でどういう計算が展開されているのかは分からないが、「自分の手にできない金額」を「自分が持てる金額」に換算しているのだろうか。
家路を急ぐ人々はその男の存在よりも、現在着席しているシートを維持することに専念している。
誰ひとりとして過剰な反応せず、緩やかな黙殺が続く。
「どうせJRAから金貰ってんだろ、なあ。マスコミも調べろっていうんだ、なあ。政治の裏側! 警察の裏側! JRAの裏側!」
端的にいうと、男は「馬」で負けた憤りを半蔵門線ユーザーにぶつけているのだろう。まだまだ続く。
「芸能界の裏側! 今更西遊記だあ? 昔は良かったよなあ。鶴田浩二! 勝新太郎! 今じゃ何でもキムタクだ!」
んー、いくらテレビを観ない自分でも、鶴田と勝新は西方浄土を旅しないと思うし、『ハウルの動く城』と慎吾ママの区別ぐらいはつく。
「どうせ政治家が金貰ってんだろ、なあ。だいたい税金が高過ぎるんだよ、なあ」
あ、一巡したみたい。
ただ残念なことに、比較的乗車率の少なかった車両だったが、渋谷に向かうに連れ増え始め、男の発言が徐々に粛清されていった。
降車の際に男の容貌を一瞥したが、場外馬券売り場でまるくなってる、こじんまりとしたおっさんでしかなかった。
首が色褪せたブルゾンにめり込んでいて、かわいい。
あれっ、「かわいい」の使用法間違ってない?
五の橋、絶滅収容所、8時15分。
江東区民は傘を持たない。
霧雨が最も体表を濡らすのは、登山家を問わず周知の事実だが、ここ江東区では無効化されているようだ。
駅前公園が全面改装されている中、仮設歩道にひしめき合う通勤・通学途中の江東区民は、九割方傘を持たず、持っている区民は手にしていながら開きもしない。
公園内という立地条件は、風に煽られた枝からの雫の落下を前提としているのに誰ひとりとして傘を開かない。
朝、教室に入るとひとりだけ机の向きが違うという、メンタルに優しくない仕打ちを受けたような錯覚に陥る。
歩道を逃げもせずに闊歩する鳩すらも笑っている気がする。
くるっくー。
非区民の知らない特殊な条例でもあるのだろうか。
孤独とは集団の中で重く圧しかかる。
教えて! 江東区民!
神楽坂、犬のいる猫屋敷、23時23分。
旅客機が離陸する映像が流れている。
ジョディ・フォスターの新作観ました?
「いや。あれだろ、飛行機内が舞台の」
そう、子どもがいなくなるんですよ。
「たぶん最後でがっかりすると思うから観ないね」
がっかりするのは分かってるんですが、いい意味で裏切られたいですよ。
「がっかりするよー」
がっかりしてもいいんだってば。
続いて映像は、フランス・トゥールーズでの超大型ジェット機A380の初飛行を伝えている。
トゥールーズに本社を置くエアバス社が、フランス、ドイツ、スペインにある工場をフル稼動させて設計・製造した、航空史最大規模の旅客機である。
画面では、新機体を様々な角度で映し出している。
「絶対落ちるよ、こんなの」
受注に生産が追いつかないから工期は短いって普通に言ってますね。
「エアバスって結構落ちてるんだよね」
ああ、何年か前に名古屋で落ちてましたね。
「落下時には失神してるから痛くないんだろうな」
止めましょう、そんな湿っぽい話は。
華やかな報道とは裏腹に疑問符いっぱいのナレーションが逐一辛辣で、
初飛行時のパイロットが拍手に包まれながらタラップを降りるのを指し、「まるで宇宙飛行士気取りです」とか、
最大級の旅客機を揶揄するかのように、「機体を大きくすることよりもまずは軽量化です」とコンセプトを全否定。
既に137機の受注があると公式に発表されたが、納期を半年後に延ばしたりして投資家から不評を買い、利益を出すにはあと96機不足してるという。
就航は今年からと謳ってますが、それ以前にビジネスとして成り立ってませんがな。
レバノン、デンマーク大使館前でxxxx(政治的配慮により自粛)、23時58分。
ピザまん、ください。
「ピザまん、できてません」
チーズまんは?
「チーズまん、できてません」
何ができてるの?
「何もできてません」
何? お前、名前何だ! レシート見てやるからな!
「何」って・・・何て読むのこれ? 「か」? もういいよ!
イルクーツク、激務に追われ人として大事なものを失う、22時58分。
隣席の男女、男に敬語で話す女の声が職場同僚に似ていたが、一瞥するも別人。
「カラオケ行こうよ」
「嫌です」
「一時間だけでいいからさ」
「今日は行きませんよ」
男、無言になり、微妙な空気が流れ出す。
男が次に口を開いたときには、何故か「昔付き合っていた女がいかにいい女だったか」エピソードを語り出している。
しかも、男自身がよその女とどうにかなったことを当時の彼女に逐一報告していたと自慢げに話すという始末。
「俺、隠さないもん」
どういう戦略ですか。
東久留米、チャイナドレスのスリットが腋まであるタクシー運転手、10時15分。
職場で無数に張り巡らされている内一本のパイプが、突如、小動物が駆け抜けたかのように大きく揺れる。
派遣されて五日目のバイトくんは、「イタチですかねえ」とやたらクール。
毎日何処で昼を食べてるの?
「すき家です」
え? 五日間連続で?
「うちの近所、すき家が無いんですよ」
それで物珍しいと。
「そうなんですよ。うお、チーズ載ってるよ、すっげー、まじで? これ葱まみれじゃんって、うっはうはで食べてますね」
安いなー。
青い鳥は実は近くにいました、みたいな。
いや、遠いのか。
半蔵門、接写は苦手で御座る、8時06分。
何の因果か、立喰そばを手繰る為に通勤路線である半蔵門線を途中下車している。
正確にいうと、一度乗り換える駅をスルーして下車し、そばを手繰ってから、また乗り換えるべき駅まで引き返して、職場へ向かっている。
他の立喰では代替が効かないのだ。
最近では「何か中毒性のあるイリーガルな物質でも混入しているのでは」と疑い始めている。
兎も角、半蔵門線沿線である当駅ですれ違った男子小学生二人組。
黒いランドセルもやや年季が入り、ふてぶてしい面構えの三年生といったところか。
軽やかな足取りでリズムを刻みながら、同じフレーズを連呼していることに気付く。
「正解はCMの後で、正解はCMの後で、正解はCMの後で、正解はCMの後で正解はCMの後で、正解はCMの後で、正解はCMの後で、正、解はCMの後で正解はCMの後で正解はCMの後で正解はCMの後でせせせ正解はCMの後で正解はCMの後」
怖いから止めて!
クイズですか、先生、黒革背負った先生。
連れの男子が答えに窮しているから急かしてるのだろうか。
「正解はCMの後で、正解はCMの後で、正解はCMの後で」
お前もかい!
連呼するという手段が目的とすりかわり、演説者の快楽にも似たある種の昂揚は、肉親から殴打されるまで叫び続け、小学生特有の言語感覚をともなったサンプリングマシーンと化している。
日本の明日を憂う。