薄幸と小さな幸せの区別もなさげな熟年夫婦が経営しているクリーニング店。
「スーツ上下ですね。お急ぎですか?」
えーと、急ぐと何曜日に仕上がります?
「そうですねー、今日が土曜だからー、えー、火曜日になりますね」
じゃあそれで。
「はい、ありがとうございまーす。1500円になりますねー」
はいはい。じゃあお願いします。
帰宅後、受け取ったレシート兼預かり票を眺めてみる。
仕上日 4月7日土曜日 18:00
パパのうそつき! 火曜って言ったじゃん!
(了)
午前中の土砂降りが白昼夢に思えるほど、午後からは雲ひとつなく晴れ渡るも、夕暮れには風強く微妙な天候。
17時、目黒川沿いには既に赤い顔をしたハイパーな大人で溢れている。
開始時刻など問い質したくもないが、日中に相違ない。
場所柄か、異国の方々が多勢の様子。
日本人はレジャーシートを広げて車座になっているが、欧米系の人々は頑なに身を寄せ合う立ち飲みスタイルを崩さない。
床に座る文化の有無が花見の場で分かる。
ビジネスとはいえ、家庭用ホットプレートや釣り用クーラーボックスで簡易飲食店に成りきる販売業の店舗の商魂に怯えながら、ほとんどが無許可営業かと思うと、おされタウン中目黒も地方の商店街となんら変わりはないと知る。
散る花びらは週末まで続くだろうか。
(了)
ハスキーな声で「ご注文を繰り返し」てくれる女子従業員、同行の男の心を刺激した様子で、
注文時には「ハスキーで」と指名する。
居酒屋なのに。
「僕、こう見えて崖から落ちたことあるんですよ」
えー? タミフルですか?
「いや、薬じゃなくて酒で」
外で飲んでたんですね。
「そう、みんなでバーベキューしてて、僕は全く覚えてないんだけど、自らダイヴしたみたいですよ」
よく無事でしたねー。
「いや、重傷でした。頭、割れました」
だんだん、聞くのがつらくなってきたところですよ。
「まあまあ、聞いてくださいよ。で、救急車呼んだわけですよ」
あー、楽しかったバーベキューが・・・。
「一転して惨劇に。もうね、みんなドン引きなんですよ。人が頭割ってんのにさ」
いやいや、割ってるからだろ!
「ええまあ、あの時はみんなに悪いことをしました」
まあ無事でよかったですよ。記憶とか大丈夫なんですか?
「うん、あんまり。救急車の枕が硬くてね、『これ換えてくれませんか!』って救急隊員に詰め寄ったらしいんだけど、あんまり覚えてないんだよね」
それだけかい。
(了)
週末は近所の小学生とキャッチボールをするという地域社会に溶け込んだつもりがいつかは幼児なんとかみたいな罪で逮捕されかねない男、社食にて豆腐と油揚げの味噌汁に胡椒と七味を親の仇かの様にふりかける。
「ここの味噌汁、不味くない?」
いや、普通だと思いますけど。だからコショーとかかけるんですか。
「まず味がしないよ。だから味を足すの」
味変わります?
「いや、やっぱり不味い」
それはもう諦めてくださいよ。ご実家の味噌汁の味しか受け付けないとか?
「そうね、母親の味が忘れられないのかもね」
何が違うんですかね。
「ラー油が入ってる」
何処の国の人なんだ。
(了)
百貨店の屋上、家族連れと孤独な大人の集う場所。
ドリンクの自販機前に立つと、パネル上部に、
「おしゃべり動物ステーション」
と読める。
本来ならポップな字体あるはずが、何故か極太明朝体。
別にそういうの求めてないから、ふつうに飲み物をくれ。
どれにしようかと悩んでいると、小学生が横から割って入り、小動物のようなすばしこさで炭酸らしき飲料を購入。
メェ~~
「なんかきこえた!」
小学生、疑問を持ったわりには音源も追求せず、缶を手にして走り去る。
よく眺めると、各自販機にウグイス、象、馬のいびつなイラストがあり、名刺大ほどの説明書きには、
「自販機で商品を購入すると、いろんな動物が必要以上に鳴く」
とある。
「必要以上に」って誰の基準だろうか。
買わなくても鳴くようだが、どれを押してもめーとしか聞こえない。
山羊だけが、惜しげもなく鳴き声を披露。
「めーめー言ってんじゃねえ!」と自販機を蹴る猛者の登場を待つ。
(了)
職場が神保町にあるという女、見たこともない銘柄の煙草に火を点ける。
「駅にいつも見るドレッドさんがいるんですよ」
あ、知ってる。先週、改札の付近で見た。
「えー? 知ってます? 彼凄いですよね」
うん、一見お洒落なんだけど、近くにいるとひとり異臭騒ぎっていうか何ていうか。
「そう! ドレッドさん、背高いし若いし、着てる服がラスタっぽくて、しかも似合ってるから一瞬分かんないの」
でも、目つき普通じゃないし、いつも同じ場所にいる。
「いますよね。で、彼をコンビニで見かけたんですよ」
うおう、店たいへん。
「彼が出てった後、従業員総出でファブリーズでした」
それは解決になってない。
(了)
「んーとねー、俺この子にする」
えー? 先輩、山田好きっすねー。この間といっしょじゃないすかー。
「このヘルメットのラインがたまらん」
メットフェチっすかー。さっすが、元現場主任。
「おいおい、元副主任、君も分かりやすい趣味じゃないか」
メガネっ子の何がいけないんですかっ!?
そういう趣旨じゃありません。
(了)
土曜日の昼さがり、予告もなくインターフォンが鳴るので、受話器を取ってみる。
はいはい。
「お休み中のところ、失礼します。NHKの集金の件でお伺いしました」
あっ、えー、っと、ここ、事務所なんでー、テレビ置いてないんですよー。
「あ、そうでしたか。大変失礼しました」と去ってゆく足音が遠ざかる。
・・・何だろう、この押し寄せる罪悪感は。
(了)
この間実家に帰ったんだけどさ、と黒髪の女は、後輩らしき女に話し始める。
「今年のなまはげ係がね」
ちょっと待ってください、先輩、秋田でしたっけ?
「そうよ、男鹿市」
はあ。で、係って何ですか。
「毎年担当が違うから、事前に準備が必要なわけ」
衣装とかですか。
「それもそうなんだけどさ、それだけじゃなくてー、実地調査が大事なの」
ルートとかですか?
「うん、村を回って子どもの数を調べておかないとさ、ルート作りもできないじゃない」
子どものいない家に行ってもしょうがないですもんね。
「『泣ぐ子はいねがーっ!』って空振りは恥ずかしいよね」
先輩! 今、なまはげでしたよ!
「あら、失礼しちゃうわー」
あんた、声が大きいんだよ。
(了)
「あ、またあの人だ」
またって?
「ティッシュ配りのティッシュを箱ごと持ってっちゃうんだ」
あ、あれがそうかな。
「わかんないけど、大きさがそれっぽい」
横に武富士とか書いてあれば分かるんだけどな。
ていうか、ティッシュ配りにとっては神みたいな存在じゃんか。
(了)
「ナカムラんちさー、玄関やばくねえ?」
言いたいことは分かるが、ナカムラっちがかわいそうだな。
「そうは言うけど、ああ見えてあのドア、引き戸だぜ」
え? あれ、横に引くの? それ、ドアって言わないな。
「ナカムラはドアって言い張ってるけど」
まずいな、それ。かわいそうだから話合わせてあげなよ。
「真実はどこにあるんだ!」
そんな怒鳴らなくてもいいじゃんか。
「ドアっぽい引き戸に意味なんかねえ!」
分かったから。開けるとき、ガチャとか言ってみれば?
「ナカムラは既に実行してるよ」
重症です。
(了)
朝、冷凍讃岐うどん。
鉄鍋をカセットコンロに載せてぐつぐつと。
昆布だしで煮た饂飩を柚子胡椒で頂く。
昼、鍋焼きうどん。
社食のくせに注文後に煮立たせている様子。
時間を要するので必然的に列ができる。
炊込み御飯が付いて、炭水化物with炭水化物。
夜、うどんすき。
割下の甘さにやられる。
生卵は黄身だけ使おうと、白身をこっそりと棄ててたら多方面から咎められる。
今日一日、饂飩しか食べてないことに深夜になって気付く。
うどん認知症。
(了)
ぼくのおとうさん
ぼくのおとうさんは みんなのいのちをまもる だいじなおしごとをしています
あめのひも かぜのひも いつもおそとでがんばっています
かおはすこしがいじんみたいでこわいけど ぼくはそんなおとうさんがだいすきです
(おわり)
以前、衣類を数点購入したことがあると記憶している川沿いの店舗。
「OPEN」と札は下がっているのに、外から南京錠が掛けられている様子。
軟禁? 人呼ぶ?
桜並木道沿いには、フライング気味な中年男性らが神輿収納スペースに鉄板を設置し、ソーセージを焼いている様子。
開ききっていない花弁を熱心に撮影する、どこかヒステリックな家族連れ。
まだ早いってば。
デジカメごと川に落下しかねない勢いで欄干に乗り出している。
桜が人を狂わせる、花見マジック。
(了)
学級崩壊ってこれがきっかけなんだと納得するほどの奇声を発する男、突然振り返って訥々と語り出す。
「学生の時、カードを使わず『遊☆戯☆王』やってたんですよ」
それは面白いのか。
「意外と盛り上がるんですけど、そもそもカード自体が無いから無秩序極まりないわけですよ」
先攻超有利じゃん。しかもやりたい放題だし。
「まあそうですね。ところで、ネロとパトラッシュの背後の絵画何でしたっけ?」
パトラッシュー! (泣)
「いや、そういうののは要求してませんよ」
たぶん、ルーベンス。
「へえー、ルーベンスかー。『みんな、オラに元気を分けてくれ!』」
ってなぜ元気玉?
「何となく。あ、そうだ、マグマン将軍って知ってます? ゴレンジャーハリケーンで出てきた桃を『喰ってやる!』と口に入れて爆死するんですよ。あははー」
分裂してるなー。
(了)
対人地雷の目的は行軍を遅延させることだ、と主張してやまない男、室内で曇る眼鏡を神経質そうに取り外す。
「僕の祖父は、満州で機関銃部隊に所属してたんですよ」
話が唐突過ぎてあれだけど、まあ興味あるよ、それ。
「エリートだったわけですよ」
ほー、機銃使いは精鋭か。
「ええ、でも母方の祖父は内地勤務で、出征直前に終戦を迎えたみたいです」
行かなかった人だね。池波正太郎と同じだ。
「そうですね。軍人は誰が良いですか?」
えー、そんなん即答できないって。んー、乃木っちとか好きだけど。
「乃木希典は、日露戦争ですよ」
それくらい知ってるってば。
「乃木は軍人としては無能ですね」
でも、明治天皇から超愛されてたじゃん。
「そうですね。後も追ったし」
しかも夫婦で。そういや、旅順攻略で乃木の無為無策ばかりが取り上げられるのは、司馬遼太郎の小説が影響してるんじゃないかと思うんだけど。
「確かに乃木ばっかり責めるのは酷ですよね。要因として火力の欠如、大本営の指導不足が決定的ですよ」
いつだって現場は叩かれるんだよ。
「旅順攻略の功労者は、兒玉源太郎ですね」
でも、兒玉が指揮権を掌握した頃には、ロシア軍は疲れ切ってたらしいから、必ずしもそうとも言い切れないな。
・・・客先の社食で話す内容ではないな。
(了)
さほど知らない街ををほっつき歩く。
何分咲きだろうか、気の早い人々は花見準備に追われている。
以下は、その所感。
■「xxxxカナモノ」という名の建物内を埋めるのは九割方生花。
■ヘッドフォンをしながら運転する車とすれ違う。
■レーシングカーの如くスポンサーのステッカーを貼りまくった車、慣れていないのかなかなか車道に出られない様子。
分不相応な人々が暮らす街でした。
(了)
男、エスプレッソをダブルで頼めばよかったとため息をつく。
「えっ? SegafredoってSEGAじゃないの?」
違うみたいですよ。
「知らなかった」
しかもスイス法人みたいですね。
「海外投資家グループのにおいがする」
ですね。
「バンダイナムコとイタリアントマトの関係と同じかと信じて疑わなかったのに」
えっ? イタトマってナムコなんですか?
あれっ、戻ってきた?
(了)
学生に毛が生えたような男女、巨大なオニオンリングを前にしてテンションも上がる。
「今度の旅行先決まったよ」
どこ?
「マリ」
まり? どこのスナックよ。
「マリはねー、アフリカ。西の内陸」
・・・。
国土の北側3分の1はサハラ砂漠の一部という。
「マリ」とは、現地バンバラ語で「カバ」という意味らしい。
女、カバしかいない砂漠に向かうという男に何を言っていいのか分からない様子。
事情はよく知らんが、とりあえず「行かないで!」ととりすがって泣いてみようか。
(了)
新人女子を教育している店長格の従業員。
賄い飯を与えようとしているのか、食べ物の好き嫌いを聴いている様子。
「ニナモリさんさー、辛いのは平気?」
「何ですか?」
「辛いのとか、熱いの駄目だっけ?」
「辛い? 辛いのは全然駄目ですね。熱いのは人として無理です」
「あ、そうだっけ。好き嫌いは激しいほう?」
「かなり激しいです。まず、ナマモノが一切駄目です」
残念ですが、ここは回転寿司です。
ていうか何で君はここにいるのかな。
(了)
「シュールストレミング、一時販売見合わせ」という記事を読む。
スウェーデンが誇る鰊の発酵製品ことシュールストレミングが、ヨーロッパ主要航空会社から空輸禁止の措置をとられたという。
靴爆弾や火器と同等の扱いの理由は、飛行中の気圧低下により内圧の高い缶が破裂するおそれがあるから。
「モリデ アケテクダサーイ」
えー? 銛で? 余計にあぶなくない?
「モリデ アケナイト タイヘンナコトニ ナリマース」
いやいや、あんな尖がったので開けなくても缶切りでいいじゃん。
「トガタ? ワカリマセーン」
缶切りだってば。
「オウ カンキーリ。ソレヲツカッテ モリデ アケテクダサーイ」
銛はいいんだってば。
「アー ドウドウメグリトハ コノコトデース」
森で開けましょう。
(了)
夜の蝶と呼ぶには歳を重ねすぎたかもしれないが、と前置きされる。
「妹が人からよく車をもらうんですよ」
またゴージャスな話ですね。
「ベンツとBMW、あとアウディが家にあるんですよ」
ドイツ車ユーザーだ。貢がれ上手ですね。
「そうそう貢がれ上手。で、今度ジャガーをもらうって言ってました」
また高級車ですね。
「ええ、兄はマーチに乗ってるというのに」
マーチいいじゃないすか。でも、自宅のガレージがいっぱいになっちゃいますね。
「そう、だから今度妹からもらうんですよ」
どのドイツ車ですか?
「いや、レパード」
日産?
外車は手放さないかー。
(了)
職場に慣れるというのは重要なことだが、フランクも度が過ぎると、日本家屋にうっかり土足で踏み込むアメリカーナとも思われかねない。
「いやー、さぞかしひどい恋愛をしてきたんでしょうね」
(いきなり?) ええ、まあ、大概ひどいですけどね。
「やっぱり二股、三股は初級レベルと考えてもいいんですか?」
(そんな面倒くさいのしたこともないけど) ああ、序の口ですよ、そんなの。
「さっすっが。中級になるとヴァイオレンスな展開ですかね」
(ドメスティック?) まあ、そうですね。言うこと聞かない女はグーで殴ってますよ、ははは。
「おー」
一同、回答に満足の様子。
で、私の人格は?
(了)
電車、特にラッシュアワー時には人と人の密接距離は、限り無くゼロに等しい。
不可抗力としての密接を利用して各々の欲求を満たす輩もいるだろうが、彼らの存在と状況はさて置いて、対人距離が通常で半径数センチ以内という距離間の甚だ壊れた人種がいる。
人類学者エドワード・T.ホールが提唱する「プロクセミックス(近接学)」なる理論があり、
密接距離(45センチ以内)、
個人距離(45~120センチ)、
社会距離(120~360センチ)、
公共距離(360センチ以上)
と分類されるという。
うわ、おっさん、近過ぎ。
密接どころか接着に近い。
しかも何だ、このひとり異臭騒ぎは。
家族はどういう気持ちでこのおっさんを毎朝送り出しているんだ。
誰か、剥離剤を!
(了)
深夜、個人タクシーを狙って拾う。
「はい、どちらー?」
渋谷区の神泉町まで。
「はいー、どうやって行きましょうかね?」
お任せますよー(道順言うの面倒だからな)。
「えーと、ごめんなさい。実は防衛庁の前で無線待とうと思ったんで」
んー?
「あ、今は防衛省でしたっけ? いつもは庁舎、いや省舎っていうんですかね、その前で連絡を待つんですよ」
はあ。
「横須賀に防衛省の寮っていうんですかね、ありましてね、遠距離稼げるんですよ」
うん。
「近い人だとがっかりしちゃいますよね、中野とか」
ふーん。
「で、どちらでしたっけ?」
彼は「降りろ」と言ってるのかしら。
降りませんけどねー。
(了)
NHKを観ている。
「晴天の今日、東京大学本郷キャンパスにて消防訓練が行われました」
映像には安田講堂が映し出されている。
「参加した学生らは安田講堂に向けて放水をしたり」
などとニュースキャスターが読み上げた内容に、
「機動隊じゃなくて?」
と数秒間思考停止した。
油断してると、過去のニュース映像が入り込んでくるぞ。
(了)
送別会が連続している。
送られる側と送る側の水面下での微妙なせめぎ合い。
励ましとも捨て台詞ともつかない投げられる言葉の数々。
お疲れ、有難う、また何処かで、発せられては消えてゆく行き場の無い言霊。
春はお別れの季節です、とは高井麻巳子の旦那の代弁者たちのコメントに相違ないが、数日間を振り返ってみると、怒涛の勢いで知人の去りゆく後ろ姿が残像として残っていることに気付く。
みんな旅立って行くんです、とは林家こぶ平(現・正蔵)似の作詞家の言だと信じて疑わない輩がいるばかりか、誰にでも何かしら特別な事情があるのだろうと邪推する。
もうすぐ桜の季節です。
(了)
創業大正13年という老舗の天麩羅屋。
ネタは以下の通り。
海老、白身魚、蓮根、ピーマン、舞茸、活穴子、小海老の掻揚げ。
それにしても、昼間から赤い顔をして座敷に転がっている隣席の若造リーマンどもは何だろう。
時折、「会社戻りたくねー」などと叫んでは、げはげは笑っている。
男女比4対2という、どうにもならなさもさることながら、そんな赤ら顔で社に戻れるわけもなく時間だけが過ぎてゆく。
お前らー、はーたーらーけー。
(了)
業後、職場付近を散策してみる。
実は彼の地、馬に縁の深い土地であるという。
馬頭観音はその名に「馬」は冠せられるものの、本来は無関係なのだが。
その佇まいから、賽銭を投げ入れ、うっかり柏手を打ってしまう。
小学生の頃、先生を「おかあさん」と呼んでしまったときぐらいの気恥ずかしさを思い出す。
(逆でも可)
(了)
風が強く吹き付けるこの日、初めての職場に赴く。
本日付けで配属になりました。
至らない点も多々ありますが、ご指導のほど宜しくお願い致します。
ざわ・・・ざわ・・・
そんな福本伸行的な迎えられ方なんてされるはずもなく、拍手で迎えられる朝礼。
休憩時間に新しく同僚となった初対面の方々から質問を受ける。
「噂で聴いたんですけど」
何ですか?
「渋谷在住なんですって?」
ええ、まあ、分不相応に住んでます。
「いやいや、家賃とか高いでしょう?」
あー、そうですね、かなり家計を圧迫してます。
「ほー、でも通勤が楽でいいですね」
それは間違いないです。
「で、アフロの人が来るって聴いてたんですけど、ずいぶん違う感じですね」
え?
「渋谷からアフロな人が来るって話だったんで、我々も相当な緊張感があったんですけど、ほっとしましたよ。ある意味残念ですけどね」
・・・。
噂のひとり歩きっぷりがひどい(実話)。
(了)