いわゆるリクルートスーツな女子ふたり、黒髪ながら化粧は濃ゆい。
「あー、デート服、超ねぇー」
「あたしも買わなきゃー」
「もー、超貧乏でさー」
「あたしも金ないー」
「彼氏がー、タメでさー」
「タメはダメねー、金なくてぇ」
「最近飲みに行ってないねー」
「ないねー」
自分が面接官だったら、こんなのは間違いなく雇わない。
(了)
親子連れ、窓際を占領して天そばをすする。
「あー、ひこーきー」
「そうね、飛行機ねー」
「あなかなー、じゃるかなー」
「どっちかなー?」
「おかあさん、ばかー? ANAってかいてあるじゃん」
厭なガキだ。
(了)
突風と雷雨という日本ではないような天候の中、かつての千代田城、大手門が見えるホテルの大広間、お別れ会と銘打った会場に赴く。
全く日常ではない光景、ドーム型天井にクリスタル製シャンデリアが下がる。
おびただしい数の参加者と、ホテル従業員が入り乱れるが、混乱もなく会は粛々と始められる。
200人という主催者側の予想を大きく超え、おそらく1000人近い人数が集まったのではと思われた。
生前の彼の遺影が献花台前に。
花を手向けた後、献花という行為そのものが初めてであることに気付く。
喪服姿の元妻による挨拶と献杯に始まる。
最近夢によく彼が出てくるんですよ、という彼女、既に涙ぐんでいる様子。
すぐ壊れるという意味で、「彼を中国製と呼んでいた」と笑い、
かつてインドでヘロイン中毒になって帰ってきたという経歴を持つ彼だったが、亡くなる直前の入院中には、「モルヒネっていいぜぇ」と嬉しそうに言われたという。
ほんとにいい男でした、という彼女の言葉で会は終了。
外に出ると、雨は止んでいる。
午後に急変した天候は、彼の愛した東南アジア的だったと語る出演者の言葉を思い出す。
配布されたリーフレットを眺めていると、彼が上京後初めてバイトしていたという新宿三丁目の焼き鳥屋には去年偶然行ったことがあったと今更ながらに知り、思わず目頭が熱くなる。
(了)
格子戸を~潜り抜け~って誰の唄だったっけ、という発言が聴こえ、思わず突っ込みそうになった自分を諌めて沈黙すること数分、隣席の女子と呼ぶには既に微妙な妙齢の女子は、先の疑問は何処吹く風として既に話題は別件に。
意中の男について日々悶々としているという女子と、その旨聴いて何か奮起している女子。
「じゃあさ、今から電話するからね」
「いや、いいって、もうやめてよー」
「あ、・・・もしもしー、あのマエザワの友達でイイノっていうですけどぉー、彼女酔っ払っちゃって動けないみたいなんですよー。なのでー、もしできたらあれなんですけどぉー」
「やめてー」
ていうか、それ来ないだろ。
どういう助け船だ。
(了)
【登場人物紹介】
二郎:たぶん主人公。職業不明。すぐ悩む。
一郎:教師。賢過ぎて周囲から孤立。漱石自身とも言われている。
直(なお):一郎の妻。二郎の兄嫁。わりと適当。
母:あまり登場しない。
重(しげ):一郎・二郎の妹。一郎を偏愛し義姉を憎む。
扱いが難しい兄一郎から「直を試してくれ」と頼まれる弟二郎。
「兄さん、それじゃブラックメールじゃないすか! ほら、ロンブーが出てるあれ、彼氏が彼女を試したりするやつ、子どもに見せたくない高ランキングの」
持ち前のキャラで適当にかわしてはみるものの、
「兄の俺が弟であるお前を信じているのは大前提だから、直の本心が知りたい」
と取り付く島もない様子。
台風直撃の和歌の浦は回線が断線し、電話が不通になる。
母、一郎不在のまま、止む無く現地で一泊することになる、兄嫁である直と義弟の二郎。
お約束通りに停電となり、直の暗闇でドッキリ生着替えを経て、中学生の如く悶々とする二郎。
直は直で二郎に、
「今から海に行って飛び込むもOK」的な発言をし、
「危険なことが好き」→「夫の弟を誘っちゃお」と二郎に妄想を抱かせるには十分な振る舞いで、危うく手を出しかける一面も。
夜行で東京に帰った一郎、直、母、二郎。
二郎は、兄に旅館でのエピソードを話すタイミングが掴めないまま、日々は無為に過ぎてゆく。
兄との確執に耐えかねた(と思い込んでいる)二郎は家を出、下宿住まいになった折、兄に奇行が見られ始め、周囲は狼狽し始める。
奇行①
講義中、矛盾点を生徒に質問されるが、同様の内容を繰り返し、挙句ぼんやりとしてしまう。
奇行②
妹重にテレパシーを試し、効かないと知るや「鈍感だな、御前は」と吐き棄てる。
お約束通り、直は二郎の下宿へ訪れ、一瞬微妙な雰囲気になるものの、特に何もなく、もやもやした二郎を置き去りにし、車夫を呼んでさっさと帰る。
明治を代表する文豪の描く、月刊マガジン連載作品みたいな展開が素敵。
(了)
まるでビジネスマン向けムックの如き質実剛健なタイトル。
【質実剛健】 飾りけがなく真面目で、逞しく、しっかりしているさま
宇川直宏を迎えての対談なのだが、中原は宇川とインタビュアーに対して遠慮が無い真柄なのだろうが、全くやる気が見られないばかりか、
「興味ねえよ、そんなもん」、
「知らないよ、そんなの」と斬り捨て、
「じゃあ中原君はどうなの?」と振られても、
「うーん」、「どうなんだろうね」と生温くも曖昧な返事。
そんな中原の反抗期的態度を受けても、平然と別の話題を振る寛大な宇川とインタビュアー。
人の優しさだけで生きてるなあ。
(了)
元山岳部という男、着慣れないタキシードの蝶ネクタイをむしるように剥ぎ取って床に叩きつけ、祝いのシャンパンボトルをつかみ、喉を鳴らしながら飲んで一息つく。
「え? 山登りですか?」
うん、いつの間にかそういう話になってね。
「5月って言ってましたね」
そう、連休中に。
「どこでしたっけ?」
静岡と山梨が領地争いしてるところ。
「あー、やばいっすねー」
なになに、何で?
「雪山登山フル装備で登らないと死にますよ」
・・・中止になってよかったと胸を撫で下ろす。
(了)
※一部設定を変更してお送りしております。
週末にあの子を助手席に乗せた、と打ち明ける三十路を幾つか越えた静岡県民、もやもやした気持ちを周囲にぶつける。
「あの子」が誰かも説明がないまま、話は続く。
「あー、もう!」
どうしたんですか、何やらかしました?
「違うよ。もうさー、忘れちゃってるわけよ」
何を?
「あれだよ、あれ。ちゅーのやり方だよ」
ちゅう? あんたいくつになったんだ。
「そういうのはいいんだってば。忘れたから思い出したいんだよ」
例のあの子にそう言えばいいじゃないですか。
「ばっ、だっ、だからさー、その前に思い出したいわけよ。じゃあ今から動画撮るからさ、君ら目の前でやってみてよー。ほらー、早く早く」
パワハラの上にセクハラ。
(了)
他県の宿泊施設を利用する。
出入り口には、よくある注意書きが貼り出されている。
豊かな自然に囲まれた当施設では、常時駆除を実施しております。
しかし、窓や扉の開閉時により、外部から侵入する場合がございます。
種類によっては、注意が必要となりますので、お気をつけ下さい。
主語が、主語が曖昧で怖いよ!
もっと具体的に言ってくれ!
(了)
2年ほど前の話だが、職場の先輩に不思議な問題を提示されたことがある。
「実は職場での君の立場は、法的に問題が有る。○か×か?」
えー? ・・・○? (半笑いで)
「正解!」
うそーん!?
先輩、その理由を聴かされないまま、2年も経過してしまいました。
今では法的オッケーと理解してもいいすかね?
(了)
うっかり文庫本を忘れた為に、普段は手にも取らない新聞紙をめくっていると、「オロチ」なる物騒な字面が紙面に幾つか見える。
何処の「族」が摘発されたのかと思いきや、「才口千尋」という裁判官の名だった。
(了)
背脂が浮かぶ麺類をすすり込んだ昼過ぎ、とても美しいとは言えない鳩のいる公園へ足を運ぶ。
火が点かないというそもそもの存在意義を失ったライターしか持たないので、期せずして煙を吐き出している間、チェーンスモークし続けることに。
鳩のいない側のベンチに座る、韓国人らしきリーマンのゆっくりとした喋りが騒然と響く。
口調はスローモーなのに騒々しいという理解しがたい状況はさて置いて、彼らの周囲には鳩はいない。
鳩のくせして本能的に身の危険でも感じているのかしら。
(了)
何となく蕎麦屋で天ざるでも喰おうと近所の店舗へ向かうが、営業時間を過ぎているらしく灯りは消えている。
何か煮え切らないどころか、初志貫徹の意も含めて諸方を巡り、再び住い近辺へと戻る。
どうしても和食が食べたかったらしく、小料理店の暖簾をくぐる。
とりあえず麦酒の洗礼も受けずに、賀茂鶴を頼む。
五臓六腑系への浸透も甚だしく、ぐらぐらしたりしなかったり。
春野菜の天ぷら、ふきのとうだけ同定可能であるというのが口惜しい。
店の大将と話す。
谷中の生姜を、「茎」のみ食べて帰った人がいたという。
聴けば生姜自体、関西圏ではあまり食さないということなので、茎のみイーターは関西人だろうかという曖昧な結論に終着。
天ざるの「天」だけを果たし、今宵はここまでと席を立つ。
「ざる」は次回へ持ち越し。
(了)
近々、彼氏の実家に「ご挨拶」に行くという女、どうしたものかと赤ワインを飲み干す。
「彼のお母さんとはね、彼の実家で靴持って忍び足してるときにお会いしたことがあるんだ」
まったく泥棒猫ですな。
「そうは言われなかったけど、状況的にはそれに近いね」
問題は父親だね。
「そう、靴持って忍び足してるときに会ったのがお父さんだったら、わりと厳しい気がする」
まあ、その場で正座かな。
「それはそれで分かり合えるかも」
分かり合えるのか!
「その場の勢いで宜しくお願いしますと」
どの面下げてだ。
「あー、緊張するなー」
まあでも、いい話ですよ。
「そうね、ありがとう。でもね、彼氏長男なのにうちに婿養子なの」
この泥棒猫がっ!
(了)
さっぱり勉強してないIT系資格試験を池袋にある某キャンパスで受験したという男、「ダメだー」と叫んでは次の試験の教本を放り出す。
「奇跡は起きないねえ」
そりゃそうですよ、前日飲みに行ってんだから。
「だって」
あんたいくつだ。もう過ぎたことは忘れて次に行きましょう。
「うーん、やる気出ないねえ。試験場でも出会いなんて無いしね」
むさい男ばっかりなのは初めから分かってるから。
「それでさ、だいぶ諦めてふらふらしてたらさ、昼休みとか体育館でチアリーディングやってるの」
応援されなかったですか。
「されるわけないじゃん。そんな近くで見てたら連れてかれるよ。だから横からこっそりと」
試験場でチアリーダーを覗き見してる奴もいねえけどな。
(了)
何故今年に集中するかと今更ながらに思うが、数えてみると年内に知人の結婚式が6組がある。
全ての式に呼ばれているわけではないが、少なくともいずれかの披露宴・二次会には参加しているだろうか。
既に2件を済ませ、福沢諭吉先生は羽根が生えたかの如く手元から次々と出奔してゆく。
諭吉先生待ってぇとの叫びも虚しく、手は空を掴むばかりだ。
内2件は年末に控えた従姉妹、姉と妹がひと月違いで嫁ぎ、或いは婿を取るようだ。
同じ日にしてくれとの訴えも虚しく、三十路を越えた放蕩息子は人として扱われない。
まあとにかくあれだ、みんなおめでとうおめでとう、しあわせになってください。
たいしたことはできませんが、にやにやすることにします。
※写真は初日三次会のディスコ(クラブではない)。
(了)
カンボジアで教鞭を取っていたという女、アンコールワット付近での暮らしを悲しげに語る。
「観光地だからね、現地の人で日本語話せると給料がいいの」
英語で教えるの?
「うーん、現地語と英語交じりで。英語は話せる人はたくさんいるから需要は間に合ってるみたい」
へー、コミュニケーションたいへんそう。
「人はいいんだけど、それよりも住んでるところがひどくて」
世界遺産が近いじゃない。 きれいなイメージだけど。
「まあ遺跡辺りはいいんだけど、やっぱり熱帯だから雨が少し降っただけで虫が大量発生」
虫!
「ちなみにイナゴなんだけど」
でも、そんな日はもちろん窓なんて開けないでしょ。
「それが、通気性をよくする為にドアの下に隙間があってね、そこからガンガン入ってくる」
うっわー。
「だから、朝起きてからの日課は竹のホウキでイナゴを外に追い出すこと」
ごめんねごめんねっていいながら叩いては掃き掃いては叩くという。
ごめんなさいごめんなさい、私には無理です。
(了)
さっぱり勉強してないIT系資格試験を前日に控え、「奇跡を起こす」と息巻いてみるも、既に同じ試験の申し込みを次月に入れているという弱気っぷりをほのめかす男、駅構内にてばったり遭遇する。
「何か急いでるみたいだけど、待ち合わせ?」
いえ、スーツをクリーニングに出してて、七時半までに取りに行かなきゃですよ。
「たいへんだねえ。僕もクリーニング店にはよくお世話になってますよ」
そりゃあそうでしょう、毎日スーツ着てんだから。
「スーツよりも、ふとんとかね」
え? 布団も出すんですか。持ち込みたいへん。
「いやあの、引越しのタイミングで出すの。新聞もそう、契約の特典で洗剤とか野球のチケットとかもらっちゃう」
・・・。
「もうね、ありもしない嘘住所なんか書いてさ、ふとん出してそのまま取りに行かないの。彼らには申し訳ないけどね、処分するのもいろいろあれだからさ。
新聞もさ、集金に来たら自分なんてとっくに引っ越してていなくて、次の住人ともめるの。
もうドロンですよ、ふふふ」
わっるいおっさんやな。
(了)
喉が痛いというのに、麺類麺類と選んでいたら、うっかり「ピリ辛つけめん」をセレクト。
もう器は戻せないと知り、やむなくテーブルへと向かう。
前を行くは、既に昼食を終え、業務に戻ろうとしている、妙齢の女子4名。
3人がかりでひとりの女子を取り囲んでいる様子。
「ちょっとぉ、イワシタジュンコ、お茶まだ残ってるよー」
「あ、ほんとだ」
「何やってんの、イワシタジュンコぉ」
「ごめんごめん。あれっ、チドリさんは?」
「チドリさんなんてもうとっくに行ったよ、イワシタジュンコー」
フルネームでダメ出しされるというのは、何にも代え難いつらさがあるとしみじみ思う。
(了)
カレーうどん専門店、インド系女性従業員を新しく雇った様子。
カレー=インドというたいへん分かりやすい構図だが、その実うどんであることを忘れてはならない。
「オサキニシツレイシマス」と、早番らしい彼女は業後の挨拶を済ませて店から出てゆく。
流暢ではあるが、やや片言寄りな言葉を聴いて、「お疲れさん」と声をかける、若造従業員と店長格の中年男性。
「左は不浄の手らしいね。あの子、イスラム教だっけ?」
「あれっ? どっちでしたっけ? インド系ですよね」
「インド人でイスラム教じゃないの?」
「じゃあ、豚カレーなんてまかないダメですね。あと、左利きの店長なんて軽蔑されてますね、きっと」
あの子、何でここにいるんだろう。
(了)
京王井の頭線、神泉駅のホームからは渋谷から向かってくる電車が通る踏切が見える。
日中の人通りはさほどないが、それでも電車は頻繁に通過するから、遮断機の警報が鳴っているにもかかわらず、ダッシュする老若男女は後を絶たない。
遮断機が下がり始めた折、ジャージ姿でサンダル履きの少年が走っている。
携帯電話を落としたらしく、慌てて拾い、その場で稼動確認している様子。
いやいや、きみきみ、もう遮断機降りてるから。
挙句、バッテリーが何処かに飛んだらしく、探し始める。
嗚呼、何してるのさ。
君がどうにかなったら誰に知らせればいいの?
その携帯が生きてたら最後の通信に折り返せばいいの?
そして何て伝えればいいの?
そう遠くない距離で電車からの警笛が響く。
発見したバッテリーを元に戻そうとして、裏カバーが無いことに気付く。
線路上にはいつくばる勢いで更に探している様子。
えー? 終了ー?
はらはらと見守っていたら、その格好のまま道路上へ脱出。
直後、電車は吉祥寺方面へ走り去ってゆく。
しかも、これ急行じゃんか。
世の中の優先順位が分からなくなる。
(了)
近所に民家にしか見えない喫茶店がある。
「珈琲120円」という表記から、やる気のかけらも感じられないのだが、近所の有閑な奥様方のサロンと化しているかと思えば罪も無い。
ただひとつ許せないのは、営業中であることを示すバナーの存在。
日中限定で表に出ているのだが、冬の微妙な夕暮れ時に前を通りかかると、叫び声のひとつもあげたくなる。
先日はうっかりしまい忘れたか、ひっそりと闇夜に潜む彼を見た。
一日の終わりがこれかとも思う。
(了)
微妙な空と鉄骨が醸し出す、天然色なのにモノトーンという構図。
雨が降りそうな気配と相まって、カラスらがぎゃーとか啼いていればなお良し。
退廃と言われようが、病んでいると言い捨てられようが構いはしないのさー♪
(了)
ペンギンのいる居酒屋にいる。
ショーウィンドウの向こうにやつらがいるだけで、特筆すべき点は何も無い。
問題はあれが「生簀の魚」と同義か否か。
「板さん、美味しいとこ頼むよ」という発言が許されるかどうかが試される。
賤しくも鳥類であるからには、それなりにあれなのかもと期待する。
という内容を同行する知人に伝えると、全力で阻止してやる信じられないと言う。
君らみたいな人間が鯨を市場から消し去ったんだと返すも、ことごとくスルー。
悪者は私だけですか。
飼いたい? へー。
で、調べてみるとワシントン条約に引っかからない限り、キリンですらあれこれできるようだ。
ペンギンは以下の通り。
フンボルトペンギン=商業取引全面禁止
ケープペンギン=輸出国の許可無く商業取引禁止
他の種類=特に規制無し
クールミントガムで知られるアデリーペンギンあたりを狙いたい。
(了)
■内戦により村人の半数が犠牲になった村に、【世界ウルルン滞在記】出演者として赴いている。
■歓迎ムードはゼロに等しく、銃を持った少年兵の視線が怖い。
■しかも、日本企業が政府軍側に武器輸出という黒い疑惑が連日連夜報道されていて、村にいるだけで危険を感じている。
こんな環境で涙のハグなんてできるかっ!
(了)
14時を過ぎた頃から咳とくしゃみが止まらなくなる。
涙目に目薬、喉の痛みにのど飴、洟とティッシュの山。
花粉症だろうか。
同情を寄せる同僚から薬をもらう。
これ、風邪薬だけど。
そうね、風邪かもしらんからね。
服用。
ついでに痛飲。
深夜に帰宅後、劇的な寒気に襲われる。
風邪の初期症状であることに気付く。
「ただの花粉症ですからっ!」と豪語していた己を恥じる。
(了)
東急東横線、「元町・中華街」行き急行車内。
正面横並びの座席にはハードカバーを読む背の高い中年男性、車内で化粧を直す年齢が不明な女と、乗客がちらほら。
びえっくし
男、何を思ったか、自前の本でくしゃみをカバーすればいいものを、首を90度右に向けて隣席の女に豪快な吐息とその他もろもろを放つ。
「何であたしなのっ!?」
絶妙な返しに笑いを噛み殺し切れない。
(了)
普段は鳴らない自宅電話、留守電メッセージが入っている様子。
再生してみる。
ピー
ヨウケンノ1 25ニチ ゴゼン9ジ 38プンデス ロクオンジカン 20ビョウデス
「すいません、今日、ふれあい教室に行く予定だったんですけど、天気が悪いので欠席します。
ヨコヤマです。よろしくお願いします」
ピー
ごめん、ヨコヤマさん、誰にも伝えられなかったよ。
(了)
内幸町にあるリストランテ、頼んだ品がなかなか出て来ないと炭酸入りの水を飲み干しながら顔をしかめる男、何かを思い出したかのように口を開く。
「この間、食器洗浄機、ていうか食器洗浄乾燥機を買ったんですよ」
洗って、なおかつ乾かせるんですね。
「ええ、かなり大きいですけど眺めてると楽しいんですよ」
中が見えるんですか?
「見えますね。使った食器が元の色に戻ってゆくんですよ」
えーと、それは楽しいですか。
「楽しいですよ!」
そんな、満面の笑みで。
「洗う行為そのものが楽しくて、毎日頑張って食器を汚してますねー」
男、ひとり暮らしという。
新しいフェチだろうか。
(了)