本日付けで職場を去るという男、同僚・上役が集められ最後の挨拶となる。
「えー、わたくし、昭和50年に生まれ・・・」
長い長い、手短に。
「足掛け3年、この業務に関わって参りましたが、引継ぎということで教育係としてまだまだ教えてないことがいろいろあるのだけが気掛かりです。訴えられないセクハラのやり方や・・・」
小ネタはいいから、挨拶を。
「えーと、まあいろいろ御座いましたが、本日付けで最後となりました、有難う御座いました。まあこれからもいろいろとお世話になると思いますので、老婆心ながらご忠告致します」
老婆心の遣い方、間違ってるから。
「えー、えー、ほんと花束とか要らないから。そういうの困るんで」
誰も花なんて用意してないから。
(了)
初めて入る麺専門店、店主と常連らしき職業不明な男が客の来店そっちのけで話し込んでいる様子。
「立ち退き迫られている話ってどうなったの?」
それがさー、大家ってば話になんなくて法に訴えることにしたよ。
「訴訟するんだ」
うん、今日ね、弁護士にFAXした。
「金掛かるなー」
だからさ、最悪の事態考えて次のテナント探してる。
「やっぱり中目?」
いや、渋谷のWINSあるでしょ、警察署近くの。あの辺で。
「渋谷ー? 家賃どうなのー」
25万だって。
「お、意外と」
安いでしょ。でもねえ、WINSから若干離れてる。しかも平日は人が歩いてない。
「微妙~」
でしょー。
ていうか、お前、立ち退く前にまず注文取りに来い。
(了)
年齢よりも5歳は上に見られるという男、オレンジジュースの紙パックを搾るように飲む。
折り畳まれた紙パックはアーティスティックですらある。
「ごちそうさまでした」
めちゃめちゃ丁寧に飲み切りますね。
「この飲み方が全部飲み干せるからね」
素晴らしい。
「でもこの間は、『マヨネーズ飲んでるみたい』って言われたけど」
あー、ねえ。
確かに絵的にはそう見えるが、マヨネーズを直接口を付けて搾るように飲まない畑の住人でいたい。
(了)
昼に穴子丼を食す。
丼から大きくはみ出た穴子先生に何かしらの感情を抱き、特に美味ではなかったのだが完食するに至る。
穴子先生は鰻先生に似ている。
違いは鱗の有無。
穴子先生には無いという。
土佐郷土料理店にて「のれそれ」を頼む。
マアナゴの稚魚を生きたまま酢と共に躍り食いする郷土料理。
透明感のあるゼラチン質の稚魚は独特の触感を提供するが、
「こ、これはっ」というグルメなリアクションはない。
同品、淡路島では「洟垂れ(はなたれ)」と呼ばれているというが、何かぐっと食欲が減退するネーミング。
気持ちは分からんでもないが、コドモじゃないんだからストレートにものを言うなといさめたい。
(了)
[Sri Lanka Festival 2007]
先週のジャマイカに続き、今週は「光輝く島」ことセイロンはスリランカ民主社会主義共和国祭り。
ステージからは何故か御囃子が聴こえ、来場者は戸惑いを隠せない様子。
かつてこの地で青年期を過ごしたという知人(日本国籍)は、島から北西の対岸インド南西部ゴアでのトランス祭りに参加しようとモーターボートでの密航を画策したが、当時国内では政府vs反政府組織の内戦真っ只中だった為にやむなく諦めたという。
(2002年、停戦合意)
セイロンとゴアの位置関係に全く自信がなかったので、今更ながらに地図で確認すると、明らかにモーターボートで向かう距離ではないことが判明。
思えば彼は、発想が大陸的というか、距離感を含め標準的な日本人ではなかったと思う。
「いちばん近いATMまで列車で2時間」と話していたことを思い出す。
(了)
本年度初、牛丼専門店に入る。
カウンターだけの店内には、数人のひとり客。
示し合わせたかのように、丼の傍らに佇むはビール瓶と瓶ビール。
予定調和で運営された国の和を乱す行為、それはアルコールを頼まないこと。
並、卵だけのオーダーでは済まされない緊張感。
厨房から徐々に近付きつつある店員。
個人の主張が通らない体制を根底から覆すべく、ひとりの女子が入店。
カウンターに伏せて寝ていた男は不意に目を覚ます。
女子は従業員の持つ水すら待たずに告げる。
「えー、並とビール。あ、あとおしんこ、って目の前にあるじゃん」
王国の崩壊である。
(了)
椅子に座ったまま何処かを見ているようで何も見ていない男、ゆっくりと前のめりになり遂にはデスクに伏せる。
「あー」
眠そうですね。
「そう、昨日さー、酒飲んで帰って、寝ようとしたんだけどさー」
またゲームしちゃいました?
「うん、2時間くらいやって、やっべーもうすぐ明るくなるって電気消して布団に入ったらさ、暗闇で物音がするわけ」
蛾とか?
「それがかなりの大きさのが壁とか天井にぶつかってる感じなの」
小動物?
「最初、鳩かと思った」
いやいやいや、それはない。窓は?
「開けてない。で、あれだったら怖いから、布団かぶって寝ようとしたんだけどさ」
あれ? あー、タイプGですか、家庭用の。
「そう、Gだったら最悪でしょ。眠れるわけがない。で、毛布かぶってたら脅えてたら暑くなってきてエアコンつけてみたわけ」
ほう。
「何か分からない物音よりも、エアコンの方がうるさくて、眠れねえって思いながら寝たよ。
たぶんあれは霊だったんだ」
タイプGからの逃避として心霊現象と結論付ける32歳。
日本は今日も平和です。
(了)
常々思うのだが、人名に由来する病名もしくは天災のネーミングに疑問を抱いている。
想像してみよう、発見者でもないのに自分の名が付いた恥ずかしい病や、
原因とは遠く離れているにも関わらず自分の名前で呼称されてひとつの島を沈めてしまう大型ハリケーン。
日頃からしっかりしているのに、ファミリーネームがパーキンソンだったり、
脳がスポンジ状じゃないのに、クロイツフェルトだったり、あとヤコブ。
実例を挙げれば、枚挙に暇が無い。
同様の理由で地名に由来する病名も存在したりする。
特定の地域の表記は避けるが、出身地を打ち明ける過程で、
「ああ、あの公害の」と言われてしまうのは否めない。
ネーミングの破壊力は識字率が高いほど多岐に渡ると危惧している。
如いては被差別者が生まれる原因ともなる。
これから新しい病気を発見する方は、同姓を名乗る親族の心情も考慮し、自己顕示欲を優先することなく、意味すら無意味な名前を与えて頂きたい。
意味不明であればあるほど、ひとは傷付かないはずだから。
(了)
直立不動が3秒と保てない男、会議室然としたデスクに両手を付いてはうな垂れている。
「はー(ため息)」
何ですか、これ見よがしに。
「ため息が止まらない」
なるほど。
「冷たいなー」
面倒なひとだな。何ですか。
「いろいろあるんだよ」
話す気ゼロじゃないですか。
「だって、なかなか言えないこともあるじゃん」
どうして欲しいんですか。聴いて欲しいなら話すしかありませんよ。
「きーびーしーいーいー」
もういいですよ、今月はため息強化月間ってことで処理しますから。
「はー(ため息)、はー(ため息)、はー(ため息)」
カウントを稼いでも問題は解決されない。
(了)
年齢のよく分からない4人、伏目がちに各々の立ち位置を守る。
「はい、みなさんこんばんはー、東京スーサイズです!
ヴォーカルのリストカット伊藤です!
まずはメンバー紹介から、
ギター、サンミュージック佐藤!
ベース、ハルシオン内藤!
ドラム、芥川斎藤!
今日は最後まで聴いてってください!
次があるか分かりませんからっ!」
紅白への出場は望めない。
(了)
カナダからの帰り、税関で土産のヌードトランプを没収されたという男、過ぎたことを今更ながらに訴える。
「誰のせいで捕まったと思ってんの?」
え? 俺のせい?
「そうだよ、君が買ってきてって言ったんじゃんか」
覚えてないなー。
「超てきとうだよ」
いや、でもさ、俺が税関職員だったら、君、間違いなく止めるね。
普段から挙動不審だし。
しかも荷物全開けの後、意味も無く全裸にして、その場で「跳んでみろ」って言うよ。
跳んで何か出てきたら厭だな。
(了)
睡眠時間が圧倒的に足りないまま、老体に鞭打つ如き全身運動を経て、日も高いうちから痛飲。
挙句、日中の気候のみを信じてTシャツのままぼんやりしていると、日陰で鳥肌を立てる結果に。
One Love Jamaica Festival
(手前は知らないひと)
ジャマイカと日本、今年で国交樹立43周年という、節目何だか何なんだかよく分からない微妙な数字を掲げたイベントに参加。
ジャマイカン料理を出す屋台前で焼かれているジャークチキンが放つおびただしい白煙や、目が据わったラスタな兄貴が放つ何だかイリーガルそうな香りから逃れるように人波を押し分け、観光客が棄てるゴミの為に永遠に世界遺産と認定されない地域の住民の気持ちが痛いほど理解できる散らかしっぷりに辟易しながら、園内の芝生に陣取るほんもののボブの隣で酒盛りしていると、フェスタの趣旨にもある平和や環境を半ば強制的に考えざるを得ない。
レゲエが流れる会場にて、マリ共和国帰りという女子が持つ現職マリ大統領の顔がプリントされたトートバッグを眺めながら、キリンビールを飲んでいると、日本人であることを実感する。
昼寝の後、寒さに勝てず撤収。
ほんものボブが着るジャージが格好よくて、何処で売っているのか気になったが、間違いなく彼の趣味ではない上に、訊いたところで望んだ回答があるとは思えないので諦める。
One Love!
(了)
「これ、押したことある」
えー?
「小さい頃、地元で」
何が気に入らないのさ。
「ていうか、指一本で電車止めるの流行らなかった?」
厭な遊びだな。
「他に娯楽ないからね」
それは言い過ぎ。
(了)
通常、給湯室と呼んでいるが、ドアのプレートには湯沸室とある。
蛇口をひねって手を洗う。
マイ○ット
しかしこのネーミングって、ガイジンが聴いたらどう思うんだろう。
ん?
・・・えーと、どちらかというとオフラインだと思う。
(了)
お好み焼き店とは思えない入り口、店内に足を踏み入れると革靴が半分ぐらい埋没するほどの白砂。
BGMは初めから終わりまで、波の音。
最初は珍しがってきゃあきゃあ騒ぐけど、2秒で飽きます。
(了)
『同日同刻―太平洋戦争の開戦の一日と終戦の十五日』 山田 風太郎
広島と長崎に原爆が投下された昭和20年8月、広島逓信病院に「府中方面からの快報」が届く。
実は同型の特殊爆弾を日本は既に完成させていたが、あまりにも非人道的だという理由から使用を控えていたとのこと。
此度、米軍が使用したことにより、サンフランシスコ、サンチャゴ、ロサンジェルス、カリフォルニアを目標として、米国西海岸へ向けて6機の帝国海軍爆撃機が出撃したと聴き、病室内がにわかに活気付き、ある者は凱歌あげた。
同日、長崎にも同様の流言が流れたという。
浦上第一病院では、新型爆弾投下により沖縄、アッツ島、キスカ島、サイパン島を奪還し、ニューヨーク、ワシントンにも投下されたことになっている。
追い詰められた人間が身勝手に思い描く夢、ひとはそれを狂気と呼ぶ。
(了)
通勤中は眼鏡をかけているのに、仕事中は何故か裸眼という同僚、暗い表情のまま小声で語り始める。
「今日、横浜スタジアムに行くんですよ」
巨人戦だ。誰と?
「僕、地元が川崎なんで、もちろんベイスターズ側に座りたいんですけど、いっしょに行く上司が大阪出身で巨人ファンという方で・・・」
当然、大人気なく巨人側に座るんだろうね。
「おそらく」
接待だー。チケットはあるのかしら。
「それが首位争いだから席は無いかもしれませんよって言ってんのに、当日でいいじゃんって
全然聴く耳持たないんですよ」
上司と立ち見は厳しいねえ。あ、天気予報、雨かもだって。
「まじすか(ため息)」
ていうか、今降ってもらった方が行かなくて済むかもね。でも夕方開始か、時間あるな。
「確かに。このまま行って途中で降り出したら、もう地獄絵図ですよ」
挙句、帰りは中華街つき合わされるよ。
「ええ、どう転んでも厭な酒になりますね」
ネガティブ過ぎるよう(泣)。
(了)
地鶏炭火串の店と銘打つ、元大手居酒屋チェーン店跡地に立つ店舗。
店頭の黒板には本日のおすすめと並んで、本日のスタッフとある、
まみこ
まなみ
リッチ
ルース
ハリー
名前からは想像もつかなかったが、どう見ても男性従業員は全て中東系。
やはり、モハメドとかアブドゥルだったりすると客足に影響するのかしら。
(了)
段ボールが無造作に積まれている室内にいる。
宅配業者の営業所らしき事務所で電話番をしているという設定。
少し離れたデスクに同僚らしき男がいる。
電話が鳴る。
受話器の向こうの女、名乗りもせずに話し出す。
航空会社へ送る荷物の集荷を依頼されるが、時刻は既に19時を回っており、回収は難しい旨を伝えるも、依頼主の女は今すぐ返事を貰いたいという。
確認の上、返電すると告げるも、女、自分の携帯電話の番号を教えたくないらしく、渋っている様子。
そういうのどうでもいいからとりあえずこの電話を切らせてくれと、ここまで出そうになるが、止めておく。
受話器の口を押さえ、同僚に声をかける。
不慣れな仕事内容の為、例の女宛に集荷に向かわせる手配の仕方を訊くが、さっぱり要領を得ない。
女が集荷して欲しいという荷は、「お好み焼き」。
しかも食用ではないという。
気が付けば、時刻は朝5時。
集荷はもう間に合わないと諦めている。
(了)
例によって銀座線外苑前駅で下車。
人の流れについてゆく。
阪神タイガース vs ヤクルトスワローズ
スタンドは移動にストレスを感じるほどの混みっぷり。
ジャンクな何かを食べたり、アルコール的な何かを飲んだり。
代走のはずの赤松が牽制球でアウトになったりと、親心子知らず的な展開に杞憂しつつも、久保田の投球で無事終了。
ヒーローインタビューは、てっきり4回表センター線タイムリーヒット、その後盗塁、7回裏ショートライナーファインプレーの鳥谷と思いきや、狩野。
2回表レフト線タイムリー二塁打での先制点を買われたか、ベテランよりも若手にマイクを向けたかったか。
明日も宜しくお願い致します。
(了)
「あ、もしもしー、あたしあたし、元気ー?
え? 元気じゃないー?
ふーん、ていうか今渋谷なんだけどー、そうそう、駅ん中。
何かさー、疲れちゃってさー、もう動けないって感じー。
今日は何してんのー? えー? 箱根ー? 箱根にいんのー?
まじでー? 何で箱根ー? ロマンスカー? はあ? 意味分かんないしー。
んー、まあいいやー、あたしも箱根行くー。
ていうか、箱根って何県?」
お前は家に帰れ。
(了)
次なる会社の面接を明日に控えた男、役員との会食で放った失言について語る。
「やっぱさー、酒が入るとよくないことばかり起きるね」
逆に楽でいいじゃないすか。
「僕の場合さ、しゃべり過ぎちゃうんだ」
まあ失礼のない程度に。
「そうは言ってもねえ、こればっかりは」
何か暴言吐きました?
「えーと、よく『お住いはどちらですか?』って訊くじゃない」
ええ、話題に乏しい合コンみたいですけど。
「ばっ、だっ、だから、50過ぎのおっさんと話すことなんて初めっから無いよ!」
まあまあ。で、住んでる場所を訊いてどうしたんすか。
「酒入ってるからさ、『お住いはあるんですか?』って言い回しになって、『当たり前だろッ!』って真顔で突っ込まれた」
惜しい。
(了)
IT系資格試験を控えて勉強中という男、新品同様の教本をめくっては閉じめくっては閉じ。
「模試って模擬試験の略?」
そうでしょ。
「あー、今苦いこと思い出した」
何すか。
「うちの近所に茂木って美容院があってさ」
いや、待ってください。モギってどういじっても床屋の名前でしょ。
「そうそう、床屋床屋」
微妙な嘘はやめてください。
「いや、それがさ、20年くらい通ってんだけど」
ずっと? 色気づいた歳もあったでしょうに。
「まあいいから。うちの兄貴も昔から通ってて、行くたびによく兄貴のこと訊かれるわけ」
それが苦いんすか?
「いやいや、兄貴は当時大工やってて、『お兄さん大工だっけ?』って毎回訊かれるの、10年間ずっと。しかも、兄貴は何年も前に大工なんて、ケンカして辞めてんのに。でも説明が面倒だから、『ええ、大工ですよー』って嘘ついてる」
まあ、今更話してもしょうがないすね。
「『今では偉くなったでしょう』って訊くから、最近では夢壊さないように『棟梁になる寸前です』って言ってる。ああ、心が痛い」
・・・コドモがサンタを信じてる話じゃないんだから。
(了)
半袖では肌寒いというのに、自宅で転がる格好のまま銀座線に乗り、外苑前駅で下車。
球場へ向かう途中、路上で販売しているビールの入ったケースに浮かぶ氷にさぶいぼを立たされつつ、足早にチケット売り場へ。
横浜ベイスターズ vs ヤクルトスワローズ
残り3回ということで、スリーイニングチケットを購入。
三塁側外野自由席へ。
売り子のおねいちゃんを待っていたのだが、座ったまま客と話し込んでいるらしく、
立ち上がる気配も見せないまま、不本意ながら付近を徘徊する若造からビールを買う。
8回表、ピッチャーであるはずのホセロがホームラン。
レフトスタンドへと飛ぶ打球を追って、思わず立ち上がる。
投手のうっかり本塁打は思いのほか盛り上がる。
(結果、横浜は負けましたが)
(了)
空港でよく金正男に間違われて税関審査が面倒という男、研究対象であるガラパゴスでの現状を訥々と語る。
「最近のエルニーニョがねえ、海水の温度を変えたわけですよ」
なるほど。
「で、ウミイグアナが主食にしてた海藻が減ったからねえ、食べ物求めて陸に上がったわけ」
ウミイグアナが陸に?
「うん、そしたらリクイグアナの主食のサボテンとかを食いだした」
ウミイグアナ対リクイグアナ、南海の大決戦。
「ところが、もちろん争いは絶えなかっただろうけど、ウミイグアナとリクイグアナがあれして雑種が生まれてるわけですよ」
ウミリクイグアナ、ていうか水陸両用。
「それどころか、指が発達した種も出てきて、木にも登れるみたい」
たくましすぎる適応能力。
習うより慣れろってことですか。
(了)
スロット行くのもうやめたって言ったじゃん、と彼氏らしき男に詰め寄る女が手にしている競馬新聞、逆さに読んでも日本経済は教えてくれない。
「はい、ちゅーもーく。第49回~、ロシアーンたこ焼きー。はいどんどんどん、どんと(ため息)」
厭な回数だな。しかも後半明らかにやる気ないし。
「さあー行くよー、まず電気消してねー。あー、そこで携帯いじらないでー、光入るからー」
あ、もー、何で消すのさ。
「だって、見えたらつまんないじゃん」
生地の中まで見えないだろ。
「ばかっ、そんな包み込めるほど少量かってんだ!」
ロシアンていうか、闇鍋に近い。
(了)
NHKを観ている。
『疾走ロボットカー ~アメリカの未来戦略』
荒涼とした砂漠を走る無人の装甲車、カメラより送信される映像を確認しながら、オペレーターは遠隔操作で障害物撤去等の作業を行っている。
大人のロボットコンテストは、軍事利用に直結する。
カーネギーメロン大学に所属する若い日本人エンジニアの喋り(日本語)には、知性のカケラも感じられないのだが、実は件の装甲車に搭載されているレーザー振動防止装置システムのソフトウェア開発者。
彼の渡米は武器輸出規制に何らかのかたちで抵触するのでは、と疑念を抱く。
(了)
「実は今まで黙ってけど、父さんな、木こりじゃないんだ」
えー? 今まで山で木を伐採してたのは何だったのさ。
「ポーズだよ、ポーズ」
だ、誰に?
「母さんの実家にだよ」
あの辺の山が母さんの実家の土地だったってこと?
「なかなか察しがいいな」
いやそれよりもさ、本業は何だって言うのさ。
「まあ強いて言えば、デイトレーダーかな」
母の実家に黙って売却した土地で損失補填する父親。
これからの面倒事を思うと、夜も眠れません。
※実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
(了)
家庭的過ぎてひとんちみたいな内装の韓国料理店にいる。
何を食べたかは失念。
入店した時点では、いきなりラストオーダーだったが、しばらく後で入ってきた親子連れは凄い勢いで肉を頼んでいる。
他人に厳しく身内に優しいのね。
騒ぎ過ぎたお子が座布団で豪快に滑り大転倒。
店内が一瞬静まり返るような鈍い音が聞こえた。
やさしさがときにはひとをきずつけるのさー♪
(了)
こんなところに薬局がと思える場所で、処方された薬を受け取ろうと閉店間際に滑り込む。
白衣をまとう目尻が吊り上った女、処方箋を受け取り何やら不審げな表情。
通常、処方箋の期限は4日間なのだが、黄金週間をはさむということで延長してあったのを不審に思ったらしい薬剤師は、しかるべきところに電話で問い合わせている。
しかも若干キレぎみに。
「こんなのはじめてですよ、見たこともありませんよ、2週間もあるなんて!
え? いいんですか! いいんですね!
知りませんよ、私は言いましたからね! はい、はい。お疲れ様でしたッ!」
ガチャンッ
医師の親切心が薬剤師の心を狭くする。
(了)