痛飲後に電車を利用している。
ひどく眠い。
立ってられないほどの睡魔が襲う。
頼むからこの割引券やるから座らせてくれと目の前に座るi-Podユーザー(♀)に魂と魂で懇願するも波長が合わなかったらしく、あっさりスルー。
知らないよー吊り革からうっかり両手が離れたら、制御不能の両膝が君の大事なi-Podを無価値なものにするよーと心にもないキャラ設定には載ってない思念が支配し始める。
あっ
予想通り手は離れ、沈み込む膝を立て直す為に向かいにある窓に両手を付く。
ばん
大きく見開かれた彼女の両目は恐怖で凍り付き、突然の事態に対処しきれない様子。
とりあえずの謝意は伝え、最寄駅で逃げるように下車。
もう! だから言ったじゃんか!(逆ギレ)
(了)
ピーター・バラカンとピーター・フランクルの区別も付かないこの日、
ぢゃあピーターの本名って何よとしばし考える。
・・・。
しんのすけ?
・・・。
池畑 慎之介!
調べてみると、実は彼の父親は地唄舞の家元で人間国宝という。
お蔭様で今日も安眠できます。
(了)
滞在日数が3日間という帰省の最終日、東京へ戻ろうと空港へと向かう。
「帰り」の搭乗券として受け取ったのは、2次元バーコードが印字されたぺらっぺらな感熱紙。
「行き」とは異なり、この手のチケットは厚手の紙でないと何処か頼りなさげ。
しかも、
「本書は航空券ではありません」
って大いに不安。
そのくせ、
「航空券ご利用案内書」
と銘打ってあって、そりゃあ問い合わせも殺到するわな。
システムを簡潔にしたつもりが、より煩雑になっている。
羽田行きの航空機に搭乗。
常々思うのだが、いわゆるファーストクラスの方々って優先されて先に登場なのだが、出入り口に近いばっかりにエコノミーの下々から好奇な視線で見下ろされてる為か、全員が一様に不機嫌に見える。
動物園内入口付近の檻にいる獣が徐々にストレスを抱えてゆくのに似ている。
座席31Eに座ろうとすると、既に隣席31Dに座る女子の腿が31Eに進出している様子。
31Cにはその女子の友人が座っていて彼女は知り合いだから触れ合ってても別にいいかもしらんが、他人である自分はどうしたらよいものかとしばし立ち尽くす。
身体的特徴をあげつらうつもりは毛頭無いのだが、お前それふたり分だろチケット2枚だろと沸き上がる正論すらも抑え、ほどよく温められたシートに身体をねじ込んでシートベルトを着用。
人肌がこんなにも鬱陶しいと思う瞬間もなかなか無い。
隣席よりスナック菓子の袋を勢いよく開ける音が響き、咀嚼音と共に製菓工場見学みたいな解説が始まる。
音だけならまだしも、その放つ匂いで気が狂いそうになる。
次から次へと食品説明会の如く開封されては空になってゆく。
女子、フライト1時間の中で喋りながら食べ続け、旅客機から降りるまでまるで何かの義務を果たしてるような顔をして手と口を止めなかった。
搭乗前と搭乗後で確実に2キロは増えているはずだ。
ウガンダ美人は搭乗手続き時に入場制限して頂きたい。
(了)
従姉妹の結婚式に呼ばれ、地元にいる。
前日までの雨は既に上がったようで、いわゆる晴天に恵まれた様子。
4つ年下の従姉妹に会うべく、式場を目指す。
ホテルの名である"CANAL"とは「運河」の意味なのだが付近には川すらない
怖れていた親類縁者からの「お前はいつなんだ。早く両親に孫を見せてやれ」的な突っ込みは特に入らず、定刻通りに式は始まる。
画像では分かりづらいが、父親譲りで長身の新婦は新郎よりも幾らか背が高い
いちばんの泣きどころ、「両親への手紙」朗読により両家両親すすり泣き
祝儀分の酒を飲み干したところで、迎えの車を待つ。
Hiromi Go "Christmas Dinner Show 2007" 46,000yen也
しかも再来月はこの従姉妹の妹も挙式やりやがるの。
寿貧乏は続く。
(了)
ひさびさびさに美容室へと足を運ぶ。
事前に予約しようとしたら、「直接お出で下さい」と一蹴され、混んでたらどうしてくれんのともやもやしながら向かうと、4人掛けソファーに4人座っている様子。
だから言ったじゃん。
とりあえず、小動物みたいな従業員に待ち時間を尋ねる。
「30分くらいですかね」との回答。
あら、予約しててもそんなもんじゃないかと納得。
しかし如何せん、座る場所が無い。
荷物を預け、同じビルにある喫茶店で30分過ごす間に、手持ち現金が全く無いことに気付き、件の美容室に電話し、カードが使えるか訊いてみる。
「現金のみのお取扱です」
そうですか。
エスカレータのベルト部を丹念に拭く老婆にATMの場所を尋ね、階下へと向かう。
キャッシュディスペンサーの前には同じ動作を繰り返し、
「暗証番号を入力してください」と機械から何度も突っ込みを受けている中年女性が。
「ごめねー」と謝ってるんだか何だか分からない発言を受けたまま、待たざるを得ない。
ようやく現金を手にし、待ち時間も過ぎたので美容室へ向かう。
「本日担当させて頂きます、タケダです。・・・宜しくお願いしまーす」
ああ、どうも。
「今日はどういった感じに?」
イメージ的にはこんな感じで。
「・・・あー、はい。分かりましたー。宜しくお願いしまーす」
しまーす。
この美容師、感じはとてもよいのだが、会話の最中に何か考えてる様な間があって、聴いてるのか聞いてないのか分からない瞬間がある。
手持ち無沙汰なので文庫本を読んでいる。
「本はよく読まれるんですかー?」
そうね、何もしてない時に活字がないとつらいね。
「あたしもー、最近読み始めたんですけどー、なかなか読み終わらなくてー」
どういう内容?
「『“It”と呼ばれた子』っていうんですけどー、虐待系なんですよねー」
虐待って幼児虐待?
「そうなんですよ、あ、あとですね、『囚われの少女ジェーン』ってのは読みました」
それも虐待っぽいね。
「あ、ほんとだー。別に虐待好きじゃないですよー」
そりゃそうだ。
全てを終え、帰りしな一冊の本を渡してくれるタケダ。
「思い出したんですけどー、これも読み掛けでしたー」
へえ。
見ると、
『誰でもできるけれど、ごくわずかな人しか実行していない成功の法則』
とのタイトル。
自己啓発系と虐待系の共通項は何だろうと考える。
世の中、自分の思い通りにはゆかないから何とかしなくちゃってことかしら。
(了)
昼時、職場の誰が何処に住んでるという話題になる。
部長代理とここ最近毎朝一緒になるので、同じ沿線なのかと同僚に尋ねてみる。
「朝何時くらい?」
8時前くらいですかね。
「んー? 確かに同じ沿線だけど、中目黒に居ない時は大手町に行ってるはずだから、渋谷経由はありえない」
人違いですかね? いや、彼、かなり背が高いじゃないですか、間違えないですよ。
「とするとかなり怪しいな。何処かに寄り道してるんだ、女だ」
えー? 女ー? 彼は結婚されてるんですよね?
「そう、しかも新婚。我々よりも年下の嫁がいる」
えー? 歳離れ過ぎじゃないすか。
「たぶん十以上。しかも嫁は実際よりも若く見える」
絵的に十どころじゃないですね。
よく考えたら、退社後に違う路線を使うのは充分怪しいが、
出勤時に別の線に乗ってたとしても別にどうでもいいのではと気付いた。
(了)
昼の献立表を眺めた瞬間から丼物と心は決まっている。
食堂へ向かうと、いつになく混雑している様子。
丼物コーナーに並ぼうとすると、いつもの窓口ではないという。
ていうか、何だこの長蛇の列。
君らはあれか、カツ丼難民か。
そんなにもそんなにしてまでカツ丼が喰いたいのか。
親の遺言か。前世の因縁か。
どうしても食べたい理由を述べさせたところで、まともな答えなぞありはしないはずだ。
なあそうだろ、そこのメガネ。
どうせ尋ねたところで、「いや、昨日はそばだったし」ぐらいの曖昧な返事しか用意してないのだ。
愚かなやつらだ。
並ばされる不条理と、他の品を選ぶ屈辱感を秤にかけた結果、難民の列に加わる。
通常なら食を終えてる時間になってようやく丼を入手。
特に急ぐ理由すらないのに、凄い勢いで完食。
既にひと仕事を終えた気分になり、このまま帰ろうかなとも思いながら爪楊枝入れから爪楊枝を取り出し、くわえながら席を立つのだった。
(了)
恵比寿にいる。
微妙に肌寒い中、ひとを待つ。
地下5階・地上40階・高さ167mビル
あの屋根が落下すると下に群がるつがいどもは・・・(やさぐれ)
ビアステーション、この時節に外でビールは難しい
ライトアップ三越
無事に合流し、階下の板前ごはんの店へ。
何だこの空間は
玉砂利が敷き詰められた中庭ライクな空間
ウミユリみたいなのが生えてる
我々も含め、後続の客らの反応は一様にして、
「何これ! すごーい!」なのだが、2秒で話題にものぼらなくなる。
人は忘却する生き物だ。
忘れついでに土鍋炊きたてごはんをオーダー。
土鍋は伊賀産ということで、以下の注釈が付く。
「陶土は非常に耐火度が高く、その天然素材(木節粘土)は、中に炭化した植物を多く含んでいる為、多孔性の素地となります」
あー? 何だってぇ?
要は、ふっくらつやつやのごはんが炊き上がるという。
なるほど。
飯を喰い尽したところで、山手線と井の頭線で帰ります。
(了)
銀座、三越前。
8年も前から知っているのに、会うのが本日で通算4回目という、
どんだけ不精なんだっていうくらいの関係性の希薄さ。
とはいえ、互いの記憶の糸で待ち合わせは辛くも完遂。
そして、銀座合流にも関わらず、土地に疎いという理由でタクシーで移動。
もちろん、話題は2年に一度という七夕よりも儚い頻度について。
「最後に会ったのはいつだっけ?」
さあ。さっぱり記憶に無い。
「東京?」
たぶん。
「東京のどの辺?」
んー、それは難しい。
曖昧ながらに時は流れて、あえなく解散。
次回は2009年かもしれないという消極的な発言で曖昧な再会を誓うのだった。
(了)
数日前から酷い肩凝りに悩まされている。
物理的に首が回らない。
すがりたい気持ちでバンテ○ンを使用。
あまり期待していなかったが、少し改善の様子。
このまま事態が悪化すると動けなくなるかもというネガティヴな思考が襲う。
思えば、去年の今時分、体調不良にて休業を余儀なくされていたことを思い出す。
ここはひとつ、バンテ○ンと信じて塗布していたのが、
実はム○だったぐらいのオチが欲しいところだ。
(了)
あ、おはようございます。
今回は前回と違って徹夜明けじゃないですよ。
今日は何でしたっけ。
金沢? 石川の? じゃなくて?
あー、あの、横浜の。
八景? 八景じゃなくて?
あー、文庫のほう。
そういえば昔、金沢文子って女優がいましてね。
知らない?
・・・そうね、別に知らなくても生きていけるしね。
あ、電車来ましたよ、乗りましょう!
東急東横線で横浜まで。
京浜急行で金沢文庫まで。
京急バスで目的地へ。
悲しいかな、インドゾウのヨーコは体調不良という
アメリカ区、ベアードバクは表におらず、厩舎に引っ込んでいるという。
なるほど、檻を覗けばぐったりとしている様子。
園内にはドウブツらの「いい顔」写真が展示されているのだが、バクに限って合成かと見紛うほどの仕上がり。
↓
この笑顔、悪い夢のようだ
次へ。
ほのぼの広場で草食系とふれあうコドモたち。
「お前らの言うふれあいってあれか? 枝で小突くことか?」
この園、草食系限定らしく、何処か地味な印象は拭えない。
特に肉食系なワイルドさは求めてはいないが。
次へ。
ここはどこだ?
あっ、先生!
先生、「一日20時間は寝てる」って豪語してましたけど
めっさ動いてはるやないですか
先生の意外な一面を見た気になる。
次へ。
ヨーコ、体調不良ながらも客前で存在をアピール
「ヨーコ!」と呼ぶと来るかというとそうでもない
歩き回り過ぎ、既に足は限界に。
出口を目指すも、広すぎる園内は高低差が激しい。
先が見えない
道なき道をゆく。
のぼれないし、もうだめかもしれない
一度園外を出つつも、無人ゲートから再入場を果たし、無事に出口へとたどり着く。
京急バス、京浜急行、東急東横線で帰ります。
(了)
不意に思い立ち、半蔵門線に乗る。
神保町、18時38分。
カレー専門店を目指す。
目の前を歩くは、カレー含有率80パーセント超えの男、向かう先の店が同じの様子。
が、看板は既に外に無く、店内の照明も弱々しい。
一週間にカレーを18食はいってそうな男、扉を開いた瞬間に店主から、
「すいません、申し訳ない、もう終わりです、申し訳ない」
と謝られ、「うひゅるあっ」などと聴いたこともない悲鳴をあげている。
よほどにショックだったようで、男、しばらく動けない様子。
事情はよく分かったので、店と男をスルーし、別の食を求めさまよって、その辺で済ませる。
・・・。
うっかり食が過ぎたらしく、乗り物に乗りたくないという理由で歩き始める。
木造でよく燃えそうな喫茶店(この店には行ってない)
竹橋、夜の平川門
この辺はジョガーがやたらいて、足音もなく横を走り抜けてゆく。
ハアハアってそんな至近距離で、ハアハアって、あなた。
遠慮して頂きたいものだ。
ていうか彼ら、物凄くジョガースタイルなんだけど、何処に着替えがあって、そして何処で着替えているのだろうか。
まさかあんな格好で電車には乗るまい。
住まいが近所なのだろうか。
皇居ジョガー専用のクラブ的な建物でもあるのだろうか。
一番町、夜のイギリス大使館
暗なる前に帰らなあかんなと歩き、気付けば麹町。
もうどうせここまで歩いたんだからと既に飲む気になっている。
このまま新宿通りを直進して、酒精に溺れることにします。
(了)
26時を少し過ぎている、空も白々としているだろうという時間。
疑問に思ったことがすぐに言葉になるという油断。
「メガネかけてる男女って、いつメガネはずすんですかね?」
いつって、邪魔になった時しかないやろ。
「ちゅーする時に当たるじゃないですか」
そん時にはずしゃええやないか。かちゃかちゃかちゃかちゃ当たって鬱陶しそうだからな。
「なるほど。でもはずしたらはずしたで見えないじゃないですか」
君はあれか、明るいところじゃないとあかんのか。
「そういうわけじゃないですけど、見えたほうがいいじゃないですか」
メガネかけたことないから、メガネ側の気持ちにはなれんな。
「ってそれ、度入ってないんですか?」
入ってないよ。
「じゃあそれをいつはずすかって話にもなりますよ」
そんなん言えるかい。
「ずるいっすねー。しかし、みんなどうしてるんですかね?」
知らんがな。メガネ男女に訊くしかないな。
店内を見渡すもメガネ男女は不在で、話はここまで。
タクシーで帰ります。
(了)
特に韓国料理店と銘打つ店でもないのだが、もつ鍋という表記に惹かれて入ると、見慣れない韓国焼酎を取り扱っている様子。
世界的シェアを誇る眞露(JINRO)へ果敢にも挑んだ焼酎メーカー斗山がリリースしたのは、
「처음처럼(チョウムチョロム)」。
意味的には「初めてのように」。
表記には
「天然ミネラルアルカリ水80パーセント使用、アラニンとアススパラキンを添加し、二日酔いを減らしました」
とある。
二日酔いが大前提というのも空恐ろしい限りだが、このメーカーが他商品として販売している焼酎の名が、「山(サン)」。
かつて新大久保にて、ゲームメーカーに勤めるという韓国人らと件の焼酎を飲み交わし続け、気付いたら路上の植え込みで寝てたという苦い記憶を思い出す。
冬だったら死んでる。
初めてのように飲み干し、東横線と井の頭線で帰ります。
(了)
新宿区内にある、繁華街と呼ぶにはやや遠慮したい飲食店通りを歩きながら、リリー・フランキー先生の描くところのくちびる厚めキャラを思い出している。
おでんが食べたい。
何処を探しても店名の記載が一切認められないのは歌舞伎町界隈ではよくあること
(ここは歌舞伎町ではありませんが)
「50円より」とはいえ、50円相当の品は存在しない
路上にてげっ歯類を散歩中のげっ歯類使いの方と遭遇。
襟巻き状に首に巻かれているのが兄、
ショルダーバッグにまるごと収められているのは脱走癖のある弟との説明。
彼らの本日の獲物は、呼び込みにいさんの右手人差し指という。
そうかー、君らの口回りが赤いのはにいさんのあれかー。
おでん熱がクライマックスである旨を伝え、げっ歯類兄弟を同行可能かどうかの判断を仰ぐ為、まず階下へと降り店主に見せてみる。
これ同伴で入れますかね?
無言で首を横に振る大将。
そらそやな。
あっさりと諦め、げっ歯類兄弟、げっ歯類使いと涙の解散。
とはいえ、背に腹は代えられず、自らの欲望を満たすべく単身で再び地下へと下るのだった。
(了)
社食で素早く昼を済まし、一秒でも多く眠ろうとソファーに座る。
隣席に座る女子ふたり(推定30歳前後)、
後輩らしき片割れは向いに座る先輩に対して、
どれだけガチャ○ンが凄い奴であるかを延々と語る。
「だって宇宙ですよ、宇宙」
あー、そうね。ところで赤い方は何もしないの?
「ムッ○? ムッ○に何ができるだろうか・・・」
・・・。
「・・・何かできますかね?」
・・・。
いや、そこで黙らんでも。
そんな大した話してないし。
(了)
遠方からかつての後輩が出張で上京しているというので、幾人か集まる。
新宿、19時48分。
気が付けば既に23時過ぎ。
後輩は品川に帰ると山手線に乗り、我々は河岸を替え、飲み続けることに。
「この間さ」
何の話の続きですか?
「彼女の話」
あー、犯罪的に歳の離れたあの。
「そうなんだけど、その離れてる分ね、子供っつーか無邪気っつーか」
否定しないすね。
「聴いてよ」
あ、はい。
「ゲーセンに行ったわけ」
似合わないっすね。
「知ってるよ。あれ、ほら、あれ、何つーの、UFOキャッチャー?」
ありますね。
「その景品でこう動物の顔が付いたぬいぐるみっつーか、腹話術的なやつがあって」
パペットマペットですか?
「あー、まあそんな感じ。それを取ってってせがまれまして」
彼氏っぽいじゃないですか。
「そうね。でさー、幾ら使ったと思う?」
いやー、それを訊くってのは相当でしょ。
「相当だよ! 会社行く前に家で詰めた麦茶を毎日持ち歩いているというのに」
・・・何かつらくなってきました。
「しかも、あれさ、手を入れるところくたっとしてるじゃん、くたっとさ。こう頭があって、カラダに手を入れるタイプの」
分かりますよ。超取りづらそう。
「超取りづれえよ! でも頑張ったんだよ!」
あー、いいはなしだなー。
「つーか聴けよ! 俺はあのガラクタに6千円も突っ込んだんだよ!」
あー、はいはい、みんな見てるから、ここは抑えてくださーい。
「4千円あたりから、彼女泣き出してさ」
えー? 泣くかー?
「最終的にゲットしたからよかったけど」
それにしても、それにしてもですよ。
「でもね、この写真見てよ。めっちゃいい顔で写ってるでしょ、ほら嬉しそうーに」
って結局そういうはなしか。
でもあんたのその顔は、彼女自慢方向ではなくて、孫の写真を見せる好々爺でしかない。
(了)
井の頭線、駅のホームに降り立つと、目の前には美術展の告知が。
埼玉県立近代美術館では見逃したが、横須賀美術館で10月6日から開催しているという。
11月11日までというから、うっかりしていると終わっている可能性もあるな、と既に行けない為の言い訳を用意している。
この時、何か思い出そうとして思い出せないもやもや感に襲われるも抗う術もなく一日を過ごす。
もやもや感が消えないまま帰宅後、水木しげる先生の本を読んでいる。
京極夏彦先生のデビュー作と同タイトルの妖怪がコドモをさらう
鬼太郎を齧る姑獲鳥(うぶめ)
あ、これか!
姑獲鳥らしき何かと澁澤龍彦先生
似てるとかそういう話ではなく、モチーフが同一と言ってもよいのだろう。
もやもやの原因が妖怪と知って妙に納得。
(了)
悠久とも思える気の遠くなる時の流れを経て、生涯3着目になるスーツを購入しようと百貨店へと足を運ぶ。
井の頭通り沿いの老舗百貨店4階。
花粉症なのか風邪のなのか判断に苦しむ売り子に至近距離で接客され、黒を選択。
裾直しは2時間で仕上がるというので、それまで珈琲でも飲もうと神南辺りへ向かう。
誰かいませんかー
4人掛けテーブル席にひとりで座った瞬間、店員と客が続々と入ってくる
『故郷忘じがたく候』司馬遼太郎を読み終えたあたりで2時間が経過。
花粉症と信じたいアパレルにいさんからスーツを受け取り、一時帰宅。
会ったこともないベルギー人が高円寺在住1周年記念ということで呼ばれる。
駅前にてベルギー人と合流。
あまり知られていないが、高円寺には「高円寺」という名の寺がある
通りがかりの老婆に「こっちから中に入れるよ」と案内される
ベルギー人宅で酒盛りしていると、日本人が現れ、これからスタジオで皿を回すという。
先に行ってるから後から来てというので、後発として向かうと、キャバクラと同じビルだったらしく、呼び込みにいさんからは「いらっしゃいませー」との挨拶。
怖ろしく急な階段を登る。
ライヴハウス出演予定者だろうか、ジャンルがさっぱり不明だ
皿回し機
アメリカ人とベルギー人
皿回し職人、皿回し中
ベランダには何故かウェイトトレーニング機器が散乱しており、12キロもあるダンベルを酔いに任せてアップダウンしていたら、既に24時を回っている様子。
東南アジアの裏路地のようだ
明日は筋肉痛だと憂いながら、総武線と山手線で帰ります。
(了)
20時を少し回っている。
たどり着いた先は、蔦の絡まる煉瓦造りの外装。
「ボナセーラ!」と迎えてくれ、やたらと横に長い椅子に案内される。
バーカウンター前の為、団体客へ運ばれるおびただしい数の酒を眺め続けることに。
「お飲み物は如何致しましょう?」
えーと、これを。
「マアジ・モデッロ・デッレ・ヴェネツェ・ブランですね」
それで。
「かしこまりました。マアジ・モデッロ・デッレ・ヴェネツェ・ブラン、ペルファボーレ!」
はい、ぺるふぁぼーれ。
ペルファボーレペルファボーレと叫ぶ従業員、ラストオーダーを告げにやってくる。
「お食事のご注文が最後と相成りましたが、何か御座いますか?」
いえ、ございません。
実はこの店でチヂミと腸詰を食べたことを伝えると同時に、山手線で帰ります。
(了)
※一部表現にやや誇張がありますが、大体こんな感じで宜しくお願い致します。
駅前の人通りを泳ぐように掻き分けて、目的地へと急ぐ。
煉瓦造りの外観、旧式のレジスター、籐の椅子すら懐かしい。
■煙腸
いわゆる腸詰。
香菜(シャンツァイ)、白髪葱と頂く。
■蜆
蜆をにんにくで炒めた一品。
他の台湾料理店で蜆を探すと、大概は溜まり醤油漬けばかりで、その温度差に驚く。
■米粉
焼きの方。
やや薄味系にて、酢を足すのも一興。
少人数だとこれで満足
無口で無愛想な従業員が書き込んだ品名
名は失念したが、酒度50超えの中国酒を頼み、店員から「ダイジョブ? 50ドダヨ?」と念を押される。
やかましいわ酒持ってこんかーいと円卓をひっくり返すわけでもなく、竹の香り漂う激薬を飲み干して、徒歩で帰ります。
(了)
やっぱ鍋の季節じゃんという言い訳だけを用意して、近所の店へ。
まず白菜と水菜を選び、後は店内を順路通りめぐり、惰性のまま幾つかをカゴに放り込む。
■白菜・・・1/4カット
■水菜・・・1把
■カナダ産豚バラ切り落とし・・・200グラム
■マギーブイヨン・・・1瓶
■鷹の爪・・・1袋
■無調整豆乳・・・2リットル
帰宅。
レッツ、クッキ~ング、どんどんどんどん、どんと。(ため息)
鉄鍋を豆乳で満たし、弱火で湯葉とか掬ってる間に他の食材がどうでもよくなってくる。
ここは初志貫徹と、部位別に切り刻んだ菜をにえにえと煮る。
豆乳が無調整なばかりに湯葉だらけに
ひとりだからすぐに満たされて飽きる
そりゃ鍋だからね、失敗も少ないし旨いさ。
無駄に酒も進むしな。
今後数日間は、ただ食材を始末する為だけに生まれてきた、鍋を喰い続けるマシーンと化すのだ。
(了)
かつての花街、並み居る物騒な店を潜り抜けてそれっぽい通りへ。
次は現地集合ねなんて言われたら、絶対に真っ直ぐ来れない自信はある。
路地が無数に枝分かれしていて、現在位置が分からない。
既に何軒かやっつけてきているのも手伝い、要介護未遂のまま、ひとの後ろを歩く。
バーらしいバナー
思わず手を合わせてみる
扉を開けると漂う香の向こうに鎮座するは、BUTSU-DAN。
出迎えてくれる従業員は、作務衣姿で文字通りに坊主頭。
手渡されたメニューの行間に浮かぶは、不動明王。
何処を切ってもブッディズム。
ボトルが陳列する棚には雑多な酒に混ざり、中国産の驚異的なリカーが並ぶ。
何を飲んだらいいもんかと、目を泳がせて見る。
「イグアナ酒とかありますけど」
まるごと? そんな大きいボトルあるのか。
「いや、正確にはキノボリトカゲですが」
イグアナちゃうやん。
「2匹入ってますよ」
あ、ほんとだ。『雌雄を漬け込んでいます』って。
「ほんとにオスメスですかね」
いや、あんたが言うな。客に爬虫類めっさ詳しいのがおったら大変やね。『オスとオスしかおらんがな! これどないなっとんねん!』って。
「すんませーん、二丁目に卸すのが混ざってましたー」
二丁目かー。これは?
「あ、それメスメスでしたー」
ってずるいなー。
金針菜(百合科カンゾウの一種で花の蕾を干した食材)を漬け込んだ焼酎でぐだぐだになってきた頃、作務衣の男が紙切れを目の前に示す。
「すんません、映画の撮影入っちゃったんで、このへんでよろしいでしょうか」
撮影? これから?
「ええ、うちの店長が主演するんですよ」
へえー、あのセガール似の。
「セガールに似てますかね? 何かホームレスにインタビューとかするらしいですよ」
ドキュメンタリー?
「たぶん」
曖昧だなー。
体よく追い出され、これからどうしようと同行者に尋ねると、既に決まっているとのこと。
ひとの足元だけを見て付いてゆくと、件のセガールが飲んでらっしゃった。
終電を逃したようなので、タクシーを拾って帰ります。
(了)
※記憶が曖昧なので若干の喰い違いがあるやも知れませんが、ご了承ください。
あいにくの雨の中、同行者から参加中止を告げられつつも、ひとり代々木公園へと向かう。
曇天とはいえ、降雨なき今が好機と手にしていたはずの傘を森へと投げ棄てる。
自由だ、大人って素晴らしい。(実際には棄ててません)
がらんとしているのは、フェア終了30分前だから。
とりあえず札幌味噌系の麺を探す。
自ら究極と言うか、そうか
究極の画像はかなり悲壮感漂う写りだったので割愛させて頂く。
偶然同席した日本人夫婦は、何故か隣に座るロシア女から、自分のおばあちゃんがどれだけ具合悪くてどれだけたいへんかを延々と聴かされている。
新手のたかりなのかもしれないと見ない振りをする。
間もなく17時、終了の時刻。
8000円のタラバガニを8分の1で買い取り、土産とするべく移動。
購入したタラバガニを携え、競技場経由で公園を離れる
代々木にある個人宅へ向かう途中、スタンドバイミーごっこで危うく小田急の星になりかける
実はヤドカリの仲間であるタラバガニ先生、ふつうのカニより脚が2本少なく見える
素晴らしい手刀で一刀両断
マヨネーズなんていう色気付いた喰い方も込みで美味しく頂きました。
山手線と井の頭線で帰ります。
(了)
ドイツ帰りという知人に呼ばれ、密輸したミュンヒナー・ヴァイスヴルスト(たぶん)をこれまた密輸のドイツワインで頂く。
ムスリム文化研究の為にシリアに留学していたという女子、実家からの引越しを熱望するという。
「このままだと親が子離れしないんですよ」
それで子から去るわけやね。
「ええ、白神の件がきっかけでしたね」
何すか、白神て。弘前の世界遺産?
「ああ、ごめんなさい。初対面なんで一から話しますけど、実は先月の記録的豪雨で白神山地の中州に取り残されたんですよ」
ええー!?
「家族が警察に連絡して、県警のヘリで救助されました」
えー!? 登山クライマックスじゃん。
「まあそうですね。同僚と一緒だったから、白神行ってるのは会社の人も知ってて、もちろん我々は当日出勤してないから緊急会議みたいなことになってましたね」
えー? それは社として何ができるか、みたいな。遺族への対応とかそういう。
「たぶん。あと、発見時に県警から母に電話が入って、『身元確認お願いします』とかそういう言い方してたらしくて、家族には無言の帰宅だと思われてたみたいです」
ええー? おかあさん倒れちゃう。
「記者会見も開きました。わたしは出てないですけど、リーダーが」
フラッシュたかれながら報道陣に囲まれるのか。
「そんな派手でもないですけどね。で、県警の人から『不本意だろうけど、ここはひとつ遭難ってことにして、形だけでも謝罪しといた方がいいよ。ここで会見やっとかないと東京まで追っかけてくるよ』って言われ、とりあえず型通りの台詞を仕込まれるみたいですね」
ていうか遭難だってば。
「あ、そうでした。遭難の第一報があった時、リーダーの実家にまで報道陣が詰めかけてたみたいですよ」
情報早いなー。ていうか県警がリークしてるのか。
「まあ全員無事でよかったですよ。ニュースに名前出ましたけど」
カッコ付きで歳も出るよね。
「(29)って。で、それで、県警に救助されたじゃないですか。礼状を書いたんですよ」
ご迷惑をお掛け致しました、世界遺産を大切に。
「そう、大切に。そしたら地元新聞社から取材依頼があって、全文掲載ですよ。もちろんフルネームで」
何処までさらしもんにしてくれるのかと。
「ほんとですよ。やっぱ地方は事件とかあんまりなくて暇みたいですね」
なるほど。
「で、引越しを決意しました」
ん? タイミングとしては最悪じゃないのか。
(了)
※本人からは第三者への伝達に関して了承を得ておりますが、
「話す」と「書く」は大違いなので先に「ごめんね」と言っておきます。
えーと、一睡もしてません。
あれ? 今日は何の日でしたっけ。
横浜? それは神奈川県ですか。
ラフレシア? 人食い植物でしたっけ。
ああ、動物園! 毎年何人か犠牲者が出る系の。
出ない? 出ないか・・・・。
いや別に残念そうにはしてないですよ。
ええ、まあ個人的にはあれですけど。
あ、電車来ましたよ、さあ行きましょう!
未知の駅で下車(寝てないテンションで「霧ヶ峰~」と連呼し嫌がられる)
青い空すら憎い
いざ入園
すぐ本物に会えるというのに寝てないテンションでとりあえず押さえとく
は、花子!
花子がもう一頭
ダブル花子
フンボルト一頭85万円
時価総額235万円
じゃれあってるように見えた川獺、一方が若干ぐったりしている
「ママー、かあうそがかあいそう」
一連の動作を延々と繰り返す為、VTRを見せられてる気分に
「パパー、あれおすしやさんにあるー?」
コドモの履く音の出る靴みたいな鳴き声の藪犬 (Bush Dog)
園内一のVIP待遇のオカピ先生、わがままいっぱいに育っている為サービス精神に欠ける
「オカピの部屋だけ凄いね」
一頭しかいないのにかなり広い。床にはウッドチップが敷き詰められてるし、空調と照明が豪華。
「みんな狭い檻ばっかりでわりと暗いのにね」
他の動物が不憫でならない。
「いつか暴動が起きるね」
巻き込まれたくないなー。武闘派エリアには近付かないようにしないと。
「もう終わりにしよう」「ひどいわ、こんなところで!」
相鉄バス、JR横浜線、東急東横線、京王井の頭線に乗って帰ります。
(了)
2名ばかりの知人が今月誕生日を迎えるというので何かくれてやろうと、街を歩く。
折りよくクライミングを始めたばかりの2名に渡す品は定まり、駅前にある大型量販店に赴く。
店内を徘徊する、ややゴスメイクな目元が気になる店員を捕まえる。
「いらっしゃいませー」
あのー、クライミングのDVDって置いてますか?
「は? くらやみ?」
いや暗闇じゃなくて、えーと、クライミングってこう壁とか登ったり、崖とかにこうねぶらさがったり。
「えーと、もう一度タイトル仰って頂けますか」
いや、タイトルは分からないんだけど、ジャンルで言うとスポーツとか趣味になるのかな。
「棚に無ければありません」
あ、そうすか。そりゃどうも。
何だ、この疎外感は。
圧倒的な無力感に襲われつつ、次を回る。
結局、登山用品専門店で日本語字幕の無い、スペインロケのハードコアなDVDを手に入れる。
ほんとは入門編みてえなぬるいのを求めていたんだけどな、あのゴス女が探してくれねえからよ。
(了)
諸事情により布専門店にいる。
毎年この時期になると、その手の専門店はにわかにオレンジと黒で彩られ始める。
オレンジはかぼちゃ、黒はその衣装だ。
右側の男、明らかに間違えたアイテム揃い
最近のマネキンはアニメ顔、ていうか目が大きい
やはり時代のニーズがそうさせるのだろうか。
「極度に細分化、特化された趣味の世界は性的倒錯に過ぎない。フェティシズムは文明が生み出したゴミだ」
いや、そんな文化論は要らない。
「お前ら全員ゴミくずだ!」
こ、声が大きいから。
「あ、メイド」
どれ?
メイドっていうかゴスロリ
「何か怖い」
怖いね、中途半端で。
(了)
本日で同じ食材で同じ品を食べ続けて3日目になる。
そろそろ飽いたと本日を以って最終日とする。
マヨネーズはここで事切れる
<3日分計6枚の食材>
■キャベツ・・・1玉
■豚肉バラ・・・200グラム
■生卵・・・3個
■長葱・・・1本
■鰹節・・・6袋
■揚玉・・・60グラム
■紅生姜・・・80グラム
食後に弛緩していると、外からカーテン越しに赤い回転灯が明滅する気配。
自宅前に停車するのは緊急車両。
救急のはずがゆったりと談笑しながらくつろぐ車内の隊員たち
急ぐ理由も命救う動機も無いアンビュランスを何と呼ぶのだろうかと、禅問答にも似た問いに答えは無いまま、無音で去り行く車両を見送るのだった。
(了)
「3番線、元町・中華街行き、急行列車の到着です。危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください」
色合いがレゴの人みたいだ。
レールに乗せてる足が職人ぽい。
2秒後には大変なことになりますが。
(了)
「異論もあるだろうが、とりあえず頼まれてはくれないかな」
嫌です。
「とりあえずだからさ」
嫌です。
「どうしてもかね」
どうしてもです。
「うーん、如何ともしがたいな。理由を聴かせてくれないか」
嫌です。
「理由も言えないのかね」
言えません。
「何故だね」
嫌だからです。
「これでは堂々めぐりじゃないか。じゃあこうしよう、これは命令だ、やりたまえ」
命令とあれば仕方ありません、やりましょう。ただし、遺恨は残りますよ。それでもいいですか?
「む、遺恨か」
ええ、遺恨は残ります。私が嫌だと主張したのに聴き入れられなかったわけですから。
「むう、そう言われると頼みづらいな」
それではやめましょう。その方が明日からも遺恨なく仕事ができます。
「では誰がこの仕事を引き受けるんだね。君以外に誰もいないのだよ」
ご自分でおやりになればいいんです。
「わたしがかね」
ええ、部長ご自身が。
「わたしにできるだろうか」
部長の仕事はあれですか、自分にできない仕事を部下に押し付けることですか?
「違う」
では可能なはずですが。
「分かった、わたしがやろう」
よかった。じゃあ私はこれで。
「ああ、ご苦労さん」
翌日、部長は痛ましい姿で総務の女の子に発見される。
あの時、引き受けるべきだったのだろうかと今でも後悔している。
(了)