雨音で目が覚める。
身支度をして出掛けるってぇと、ひどく乱暴な降りが容赦なく叩きつけてくる。
外は軽い地獄に。
もう既に骨だけになってしまい、傘としての機能を1ミリも果たしていない物体を手から離さない女子、
ずいぶん前に傘で風雨を避けるという行為を諦め、ただただ前に進むのが精一杯という老婆、
母親が手を離した隙に真横に飛ぶ児童、
というニュース映像には事欠かない様子。
午前中激しい雨を落とした空は、夕刻にもなると降らせたことすら忘れているといった感。
横殴りの強い風雨はさぞ花弁を散らしているだろうかとも思うたが、杞憂に終わる。
目黒川沿いを歩く。
ライトアップ照明が心許無ぇ
意外と桜色
またも徒歩で帰路に着く。
歩くこと自体に罪も咎も無いが、あまり健康的ではない理由かもしれないし、夜桜という目的を失った時、それは恒常的に果たされるかどうか、今後の動向を窺いたい。(←他人事)
(了)
決して花見日和というわけではないが、もうこの日逃したら他ないやろ、という選択肢の無さばっかりが象徴的な共産圏の恋みたいな? そんな逃げ場の無さだけは負けへんでーぐらいのこの日。
って、言うてることさっぱり分かりませんが。
自宅を出て、最寄りの公園へ。
松濤鍋島公園
枝が高くて接写ができぬ
山手線に乗って、高田馬場へ。
乗り換えて、東西線で下落合まで。
神田川
歩く。
落合中央公園
そろそろ翳ってきたな
曇天はやがて雨天に変わり、花見客に早目の撤収を促している様子。
もう一軒別の花見に呼ばれてるのだが、降雨が故に室内で宴は続いているという。
西武新宿線で新宿まで出て、都営新宿線で移動します。
(了)
当日、目黒川での夜桜花見の予定が時間が遅くなりそうという理由で反故になり、赤坂見附にいる別の知人と合流したものの、曖昧な約束をしていたまた別の知人から連絡があり、赤坂見附を中座しつつ渋谷で合流しようと銀座線に乗ると、目黒川での夜桜やっぱり行きませんかという展開を見せるが、もはや行けるはずもなく、こういう案件は分散して頂きたいと手前勝手な了見を持ちつつも、最終的に行き着いたのは、渋谷、22時。
熱燗三合ばかりと、季節の野菜をやっつけて帰路に着く。
ソファーでまどろんでいると、何かが燻されている様な刺激臭が鼻をつく。
目も痛いぞ。
自室での喫煙習慣が無い為、別の部屋での出来事と確信。
扉を少し開き、廊下を見ると、白煙が立ち込めている様子。
えー? 眠いのにー。
緊迫感が微塵もない音で火災報知器が鳴る。
消防車のサイレンが聞こえる。
表が騒がしくなり、消防車を誘導する人影が見える。
「二階! 二階!」と聴こえる。
えー? うちの階?
消防士が八人くらい階段を駆け上がってくる。
しかも隣の隣の部屋?
「もう火は消えましたから」と聴こえる。
警察官も三人くらい来る。
でも、眠いから寝る。
リアルに出火しても、自分は助からんなと思う。
(了)
ガム工場勤務の父がいるという女子、仕事帰りの父親に向かって、
「お父さん、ガム臭いー」と邪険にしていたという。
いやいやいや、ねえさん、そもそもガム臭って何でしょうか。
「ガムといえば、小さい頃かなり不思議でしたよ」
あー、そうね、噛んでもなくならないしねぇ。
「それがなくなるんですよ」
飲み込んだとかじゃなくて?
「違いますよ、別のお菓子と一緒に喰うんです」
喰うって言うな。ていうか、ガム噛みながら何を食べるのさ。どんだけの食い意地だ。
「チョコレートとかを食べてる友達から、ひとくちちょうだい的にもらうんです」
えー? ガムが口ん中入っているのにチョコ喰うですか。
「そしたら、なくなるんです、チョコと一緒に」
いや、やったことないし。
「試してみてください。あと、オー・ザックでもいけます」
銘柄指定か。
ふつうのポテトチップスではNGという。
真実か否かほんの数百円で確認できることではあるが、三十路もとうに過ぎた大人のやることでもないので、未だ確認できず。
(了)
今月に入ってから徒歩で帰宅している日が多いことに気付く。
日を追う毎に花が開き始めるを眺めるのが楽しいのか、ある種の現実逃避なのかは不明だが、度を越した回数であることは否めない。
川沿いに浮かれ気分で吊り下げられる赤い提灯が掲げられる頃、人の往来も増え始め、さっきまでおされを売りにしていたはずのカフェや雑貨店ですら、店頭で缶ビールを法外な価格で売り、アウトドア用のBBQコンロに火を入れて、出来合いの焼き鳥の串を煙に巻かれながらくるくると回している様子。
踊らされんな、特にガイジン。
元来車道であるから、当然ブルーシートをどうにかするスペースも無く、三畳一間以下の隙間に男女六人ぐらいが、何でここにいるんだろうって顔をしながら酒盛りしている様子。
無理すんな、特に女子。
散り急ぐ花好みとしては、歩き酒は自粛して、桜吹雪を待とうじゃぁねぇか。
(了)
20080325 宵
坂の途中、「水餃子」と大書きした看板を見つける。
それが店名かと思うくらいのアピール具合で店名すら失念。
腰の曲がった老女が水の入ったグラスを、ほぼ前傾姿勢で運んでくる。
その斜めっぷりに大変はらはらさせられ、新しいアトラクションかとも思う。
瓶ビールと、もちろん看板通りの水餃子を注文。
■水餃子(七個入り)
スープ自体に味は無く、餡には生姜と豚肉。
満州仕込みの水餃子という。
■セロリと海老の炒め物
画像で見ると、油が光っててどうにもあれだな。
豚肉も入っている様子。
■台湾焼そば
何が台湾なのか不明なまま、機械的に完食。
坂を下り、やさぐれ気分で歩いて帰ります。
(了)
家庭用でよく見られる、カーペット用の掃除器具があるのは、周知の通りだろう。
俗称「コロコロ」ともいうが、姿形はどうか想像力を働かせて頂きたく。
職場にて、粘着力はとうに失せたころころ部分のスペアを探している。
「何探してんの?」
いや、あの、床とかカーペットとかをころころするやつをひとつばかり。
「あ、あれねぇ、うちの管理じゃないんだ」
だって、これ柄に『運用部』って、うちの部署名入ってますよ。
「柄はうちのだけど、ころころする部分のスペアは『設備管理部』のなんだ」
・・・それって意味あるんですか?
「意味あるも何も、組織っちゅうのはそういうもんや!」
そんな怒鳴らんでも。キャラ変わってるし。
「設備管理部の女子を落とせば自動的に手に入るぞ。あ、部長でもいい」
そんな歪んだときメモは嫌だ。
(了)
解脱っていうんですかね、あれ気持ちいいですかね、ぽーんと抜けてみたいもんですな。
ここにいながらそこにいるってだいぶとんじゃってますが、脱皮とはずいぶん違いますからねぇ。
脱皮といえば、蛇だったり蝉だったりしますが、あれらは絵的に受け付けられないこともしばしばで、そういう物理的な現象よりもねぇ、もっとこうスピリチュアルな感じの方向でねぇ。
遠くにゆきたい感がありますな、つかみどころもなく夢で飛んでるみたいな、初めての感覚ってぇのがありますねぇ。
いつだったかさっぱり忘れてることでも、何事にも初めてってぇのがありますな。
初めてのお使い、初めての先物買い、初めての反省会、何にでも始めては付き物ってぇことですな。
初めてってのはたいがい失敗しますな、初めからとんとん拍子になるってぇと、挫折をしらない打たれ弱ぁいのが出来上がるってぇ算段でねぇ。
弱く育ったってぇのはまず役に立ちませんな、ぐだぐだするばっかりでもう見ちゃいられません。
まあ、そんなんでもどうにかなったりもしますな、そんなねぇ、世の中悪いことばっかりじゃあござんせんよ。
楽するのも楽じゃねぇって話ですかねぇ。
(終)
"RICOH OPENING SERIES JAPAN 2008"
阪神タイガース vs ボストン・レッドソックス
姿は見えねど、始球式では田淵 幸一が投げる
阪神タイガースな人々とボストン・レッドソックスな人々
松坂 大輔も岡島 秀樹も出ずじまい
ヒーローインタビューは、既にユニフォームを脱いでいるドルー
阪神、残念ながら一点差で惜敗。
レッドソックスが攻撃側に回った瞬間、ドームは静寂に包まれる。
本場ベースボールゲームでは鳴り物も応援歌も無いから、この雰囲気かなりのメジャーリーグ感。
真夏のデイゲーム、木造ベンチに座り、すぐ汗に変わるビールを飲りながら、フィールドに漂う陽炎を追うくらいが、自分の中にあるベースボール観戦の在り方かも分からん。
(了)
痛飲で迎える朝、小腹がすいたというか時刻的にはふつうに朝食なのだが、胃腸だけが酒の勢いで無駄に体育会系。
夜明けの牛丼なんてぇ、さっぱり色っぽくないねぇ。
あ、もう、並だけにしときなよって、止しなって、余計なの付けるのは。
店員笑ってるよ、何がおかしいんだ、この野郎、前掛けずれてんぞ!
お待たせ致しましたーって、おめぇ全然言えてねぇじゃねぇか、おあたしぇひたしやしたーにしか聞こえねぇぞ。
狭いカウンターに並んだねぇ、丼、小鉢、碗、もひとつ碗、あと何これ、茶? ほんとに茶か、これ、うっすい色だな、おい。
おぉぉぉぃ、紅生姜入れ過ぎだって、ほら空になっちゃったじゃんか。
だから、七味掛け過ぎだってば、おぉぃ、隣の席から七味取るなよ、ひとが手伸ばして触れ合ってときめいてもな、酔っ払いの親父しかいねぇぞ。
あぁ、もう喰えねぇな、おぅ、兄ちゃん、勘定だ、勘定。
幾らだ、兄ちゃんよ、これで足りんのか、小銭は要るのか?
何だこれ? あ、クーポン券? タダで喰わしてくれんのか? 卵? 何の卵だ、にわとり? ていうか、にわとり以外ありえねぇだろ、真に受けんなって。
卵だけかよ、しみったれた話だな、年間で丼喰わせろってんだ。
おぅ、兄ちゃん、冷てぇ水くれ、おぅよ、水よ水。
ぬっるい水だな、これ、水道から出してんだろ、兄ちゃん。
あぁ、じゃ帰るから、ごっそさーん、ばーんて自動ドア、自動じゃねぇーっ!
なに笑ってんだ、店員、おめぇ、あるがとうございましたーって何だよ、ありがとうだろ、しかもヤカンに言ってんじゃねぇか、視線の先がよ、ヤカンなんだよ、親父の頭じゃねぇんだ!
何でこんなとこで工事やってんだ、暇なやつらだな、本職は何だ! 植木屋か! どうせろくな仕事じゃねぇんだ。
あ、朝日痛ぇ、溶ける溶ける溶ける。
泥酔って少しラブリー。
(了)
雨の上野広小路。
前日ていうか、ついさっきまで飲んでいた為に待ち合わせの時間にがっつり遅れ、とりあえず昼でもと鰻を喰わせてもらう。
鰻重
今まさに鰻屋で鰻店員の前で鰻を召しているというのに、交わされる会話は、
「何処其処の何ていう名の店の鰻は、ここの鰻より百倍も千倍も美味しい」
という身の危険すら感じる内容。
もうやめてぇ、と店を出る。
本鈴じゃあなくて鈴本
「えー、お足元の悪い中、いっぱいのお運びありがとうございます」
という決まり文句が大仰ではないくらいに客入りが激しく、立ち見もいたりする様子。
昼の部
前座 ■ 柳家 緑君(ろっくん)
いつも座布団を裏返しているだけの前座くん。
師匠は、三遊亭 花緑(かろく)という。
もちろん、番組表に名前は無い。
落語 ■ 古今亭 志ん八 「牛ほめ」
与太郎、叔父の普請を褒める様父から指南を受ける。
普請の後は牛を褒めろという。
「天角地眼一黒鹿頭耳小歯違(角は天に向き、眼は地を見据え、色は真っ黒、頭は鹿の如き段々で、耳は小さく、歯は乱杭である)」と言えたまではよかったが、うっかり叔父の娘に対しての評価となるという結果に。
太神楽曲芸 ■ 翁家 勝丸
座したままでの曲芸、しくじりさえも笑いに換わる。
落語 ■ 隅田川 馬石 「垂乳根」
言葉が丁寧過ぎる娘、輿入れの翌日、亭主に朝餉をと、御御御付けの具としての葱を「白根草」を購入するところまで。
落語 ■ 三遊亭 歌武蔵
「『うたむさし』と読みます。『かぶぞう』ではありません。何をどう読んだか分かりませんが、『きゃばくら』って読んだ人もいましたが」
元力士だけに、角界に関する話題から始まる。
かつての同期生である貴闘力との一番、白星取った決まり手は「肩透かし」という。
演目が無いのは、延々とワイドショー的な話しかしないから。
高座から空席を扇子で示し、「ここふたつ空いてますよ」と案内する噺家を初めて見る。
漫才 ■ 大空 遊平・かほり
客席がやたら暑い為、外へ出ていて見ていない。
落語 ■ 柳家 さん生
「大人は小料理屋で酒を飲んで欲しい」と、居酒屋チェーン店の名を連ねて、
「あんなのは未成年が行くところです」という。
女将は五十手前の未亡人という設定ができており、嵐の夜にはそんな女将を狙った男たちがL字型カウンターへずらりと並ぶのだ。
落語 ■ 林家 しん平
金髪だ。
現代劇よりも時代劇という論調だったが、話が進むにつれ、勧善懲悪でありながら不条理な展開にぼやき、合間に剣戟と決め台詞が幾つか入る。
民謡漫談 ■ 柳月 三郎
津軽三味線を教わりに青森を訪れた際、師匠の言ってる指導がさっぱり分からないという。
ラストの曲は相撲甚句にもある、鶴が亀に求婚する内容。
落語 ■ 柳家 三三(さんざ) 「長屋の花見」
よったりとした歩き方で高座に上がる三三(さんざ)、
「街で見かけたら『ミミ』って呼んでください」という。
知ってないと、普通に読めないからねぇ。
仲入り
漫才 ■ ホームラン
やはり客席がやたら暑い為、やはり外へ出ていて見ていない。
落語 ■ 柳家 はん治 「背なで老いてる唐獅子牡丹」
シマを荒らされた年老いた任侠の親分、仁義に欠けるじゃあねぇか、と殴り込みの要員を捜そうと、組の若いのを呼ぼうとするが、既に六十を超えているという。
流れ弾の銀二を訪ねるも、老人ホームに収容されている上に認知症で使い物になりそうにない。
「おぅ、銀二よ、襲撃の準備は抜かりねぇだろうな」
「あたぼうよ、ちゃんと外出許可証もらってきたぜぇ」
落語 ■ 橘家 文左衛門 「道潅」
太田道潅が歌道に入るきっかけとなった、娘から雨具を借りようとして知的に断られたエピソードを聞きかじった男、雨の日に同様のことをしようとするが、その日訪れた客は提灯を求めている。
「あんたは歌道に暗いねぇ」
「角が暗いから提灯借りに来たんじゃあねぇか」
奇術 ■ 伊藤 夢葉
牛追いの革鞭を持ち出すのだが、奇術に用いるわけでもなく、凄い音だけさせてとっととしまい込む。
「私の趣味でした」
って、えー?
落語 ■ 柳亭 燕路(えんじ) 「火焔太鼓」
特に何か書くことも無いけど、きっちり演っておりましたな。
昼の部、追い出し
雨の中、湯島方面へ足を運ぶ。
湯島天満宮
梅花で高名な神社だが、降雨の為か散っている様子。
本郷まで歩き、丸の内線、銀座線、井の頭線で帰ります。
(了)
額に赤い鉢巻をしているのかと思ったら、休憩時間にうつ伏せで寝ていた為に跡になっていると聞いて、高校生かと突っ込んだらやたらにやにやし始める男、エレベータの中で靴紐を結ぼうとして、不意にしゃがみ込む。
「で、何を唄ってくれるんですか?」
ていうか、何の話をしているんだ、君は。相変わらず唐突だな。
「今度カラオケに行きませんかって話ですよ」
・・・その発言の方が先だろう。思考が前後してるな。
「僕はHip-Hopですよ」
訊いてないってば。
「演歌とかですか?」
そりゃ知らんわけでもないけど、最初にそれを言われると腹立だしいな。
「え? まさか軍歌ですか!?」
・・・君は俺をどういうキャラに仕立て上げたいんだ。
「だって、テレビ見ないって言ってたじゃないですか。だから、いまどきの唄とかアニソンですら厳しいのかなと思って」
言えない、三味線弾き語りや相撲甚句のCDを家で聴いてるなんて!
(了)
宇田川町にある小料理店の暖簾をくぐり、白魚の造り、〆鯖で、賀茂鶴を熱燗四合ほど頂く。
記憶が怪しくて甚だ恐縮だが、
「京の茶漬、高松のあつかん」
という言葉があるという。
京の茶漬けは全国区に知られたエピソードだが、高松では客が腰を上げようとすると、
「まあよろしいがな、あつかんで」
と言われ、熱燗を出してくれるのかと思い再び腰を下ろすが、何も出てこない。
「あつかんで」とは、「扱わんで」=「もてなさない」との意を含むという。
標準語にすると、
「まあまだいいじゃありませんか、これ以上お構いもしませんが」
と、何だか無限ループに陥ってる気もしないでもない。
とかく挨拶なんてぇのは、実がねぇ言葉遊びだねぇ。
(了)
野に生えている草木の名を特定することを「同定」という。
響き的には何だか微妙だが、爺趣味が高じてくると、いずれその辺に生えてる雑草の種名すら言い当ててしまうに違いない。
最寄り駅の付近に白い花があり、とても強い香気を放っている様子。
名を知ろうと、実物を見ていない知人に尋ねてみる。
ほら、あれ、膝ぐらいの高さの植え込みっぽい感じで、花が白くて、良い香りで、最近咲いてるやつ。
「クチナシ?」
ほんとに?
正解は、沈丁花(じんちょうげ)
同定の道は遠くて長い。
(了)
たまにゃ鮨でも喰いてぇな、と朝餉から生魚on酢飯。
烏賊、海老、穴子、帆立、はまち、中とろ、〆鯖、いくら、玉子、鉄火巻
暗あい部屋で麦焼酎を緑茶で割ったのを飲りながら、マフィアの手下がボスの命令で人を殺して金を奪うという内容のゲームを悪態つきつきしていると、ずんずん心が荒んでゆくのは火を見るよりも明らかだ。
そろそろ昼餉にしようか。
烏賊、甘海老、柚子振り穴子、帆立、ずわい蟹、はまち、本数の子、中とろ、いくら、生雲丹、切り玉子
また鮨かい。
あ、朝のよりも美味しいわい。
再び暗い部屋で焼酎緑茶割りを空けながら、盗んだ車で人を轢いたり、手に入れたスナイパーライフルであえて頭部を狙って首を吹き飛ばしたりしてると、ますます心が荒れてゆく。
小腹が空いたな、と夕餉はデリバリーピザに決定。
「はい、お電話ありがとうございます。オーダー担当の桜井と申します」
あ、オーダーお願いします。
「はい、承ります」
えっと、シーフードミックスのMをベルサイユ生地で、トッピングにアンチョビを。あと、パクチキコンボひとつ。以上で」
オーダーを伝え、ピザスタッフが「ご注文」を繰り返している間、プレイ中の物騒なゲームの指示をプレイヤーに与える。
あ、そいつは先に殺しといて。そんでぇ殺したら、車奪ってプチプチ轢いちゃって。あ、その銃取れ、銃。そうそう、はい、殺っちゃって。はい皆殺し~。
って自分、受話器の通話口押さえてないし。
電話向こうで、誰がピザを届けにゆくか揉めていて欲しい。
(了)
『朝日名人会 第77回 (於・有楽町朝日ホール)』
完売やて
三遊亭 歌ぶと(かぶと) ■ 道具屋
番組表に名前が載らないのは、前座だから。
羽織も着てないのは、前座だから。
元力士噺家、三遊亭 歌武蔵(うたむさし)の弟子という。
古今亭 錦之輔 ■ 釣りの酒
五月 真打昇進・古今亭 今輔(いますけ)襲名
五代目の曾孫弟子が六代目を襲名という。
釣り好きの先生に魚と魚釣りの話をし、いい気にさせて酒を飲ましてもらおうと画策する男。
「鱚(キス)なんてやったりしますか」
「やだなあ、そんな。まあ、時々は」
「ほう、鱚をやりますか。いつやりますか」
「いつだなんて、普通は夜でしょう?」
「誰とおやりになりますか」
「え? そ、そりゃあ、もちろん家内とですよ」
「ほう、奥さんと。どこでおやりになりますか」
「奥の四畳間」
「へえー、珍しいところですなあ。餌はどうしてますか」
「先だってはネッカチーフで釣りました」
「変わった餌ですなあ。鯵(アジ)はどうですか」
「あじ? 味ですか? この前は餃子の味がしましたな」
「難しいこと言いますね。では、今度一緒にやりませんか」
「えー!? そ、それはそれで興味ありますけど」
何だその手付きは。
柳家 三三(さんざ) ■ 五目講釈
2007年度文化庁芸術祭 大衆芸能部門 新人賞受賞
生薬屋(きぐすりや)とは、調合した漢方薬を売る店という。
生薬屋の若旦那、趣味が高じて講釈師になりたいと講談を披露するが、種々の演目がダイジェスト版にミクスチャーされ、どうにもならない。
「生薬屋の若旦那? だから講釈も調合されてるのか」
柳家 権太楼 ■ 子別れ(上・中)
「下」は次回口演という。
権太楼師匠は、きったないこども演技が素晴らしい。
仲入り
柳家 小さん ■ 長屋の花見
私事で恐縮だが、人間国宝だった先代小さんですらさほど好みではない。
当代小さん、高尾に住むという。
えーと、素人が噺家の間についてあれこれ言うのはあれのなのだが、当代小さんの演者として間がどうにも受け入れられず、時節柄旬なはずの演目を楽しめない。
残念だー。残念だ、当代。
桂 歌丸 ■ 藁人形
「いちどでいいからみてみたい にょうぼがへそくりかくすとこ、歌丸です」
と演ってくれるわけもなく、ただ淡々と噺は進む。
南千住、三十両を騙し取られた西念、糠屋の娘を藁人形を用いて呪うが、五寸釘を打たずに鍋に油を満たしてぐらぐらと煮ている。
何故と尋ねる甥に対して答える西念。
「糠屋の娘に釘は効かん」
有楽町マリオン11階より下界を見下ろす
新橋まで歩いて飲んだくれます。
(了)
ウァレンティヌスさんのきねんびからひとつきがたちました。
ローマこうていからのはくがいのもとにじゅんきょうした、しきょうさまをたたえるひからいっかげつごになります。
ひとつきまえ、しきょうさまのことをかけらもしらない、まちをうろうろするつがいどもは、
みにくいかえるにかえられてしまい、ちょこれーとにおしつぶされちゃいました。
でも、やくそくだからもとにもどしてあげます。
けろけろけろたーん
・・・。
ごめんね、つがいども、つぶれたからだをもとにもどすまほうはしらないや。
もっとべんきょうしなくちゃとおもいました。
(おわり)
ふらりと立ち寄った蕎麦屋で蕎麦味噌をあてに熱燗を飲ってるてぇと、不意に引き戸ががらりと開かれて、片手で暖簾を分けながら顔だけ出す男、「大将、七人だけどいいかい」なんてぇ断りを入れてるようだが、店側の返答も待たないまま、歳の頃なら四十前後の男たちが都合七人入ってぇ来て、四人掛の卓をふたっつに分けて座り、めいめいに酒や蕎麦を頼んでいる。
これが意外と騒々しく、気にならないと言えば嘘になる。
とはいえ、蕎麦切り、蟹味噌豆腐、古漬けをやっつけて、〆の蕎麦に掛かろうかとしている為、まだ店を出るわけにもいかない。
ものの半刻もすると、水を打ったような静けさが店を包み、何が起こったのか分からないまま、七人の内のひとりが外へ出てゆく。
見ると、店内に残る七人の中のひとりの男が、眠っているのかあれなのか不安になるくらい、微動だにせず椅子に座っている。
「岡村さん、岡村さん、帰るよ。ねえ、岡村さん、岡村さん、帰りますよって。ほら、内田君がホテルに部屋取りましたから。岡村さん、岡村さんってば、起きてくださいよ。お店にもあれですから、岡村さん。ホテル、ホテル行きましょうよ、ねえ、岡村さん。はい立って、はい立って、立ってくださいよ、岡村さーん」
駄目だこりゃ、と四人掛かりで「せーの」と岡村さんを持ち上げ、店外に連れ出そうとしている。
岡村さん、さすがに目が覚めたらしく、寝起き&泥酔の言えてなさで、
「あひゃのかびゃん」
と自らの鞄を探している様子。
「内田君がホテルで待ってますから」
と、連れは鞄も内田君と共にあると説明している。
しかし、ここが新宿二丁目だけに、もろもろの発言にどきどきしますな。
(了)
芸能人の誰かに似ているってよく言われるんですよ、というわりには誰似なのか訊いてもさっぱり要領の得ない男、どちらかというと高山動物に似ている気がする。
「あっ」
どうした?
「何か小さいのを落としました」
抽象的だなー。世の中に小さいのはたくさんあるぞ。
「いや、何かこう、ぐるぐる曲がってて金属っていうかメタルっていうか」
ごめん、全然分からない。ネジ?
「いや、そういうのじゃないんですけど」
ていうか、何で革靴脱いでる? しかも何ですり足?
「足先の感触で小さいのを見つけるんですよ」
何か、野生児って感じ。
(了)
今更ながら、『タイガー&ドラゴン』を観ている。
当作品、最近まで内容を知らず、クレイジーケンバンドが唄うイメージだけで、横浜か横須賀あたりの不良どもが『池袋ウェストゲートパーク』的にクドカン脚本で暴れたりほろりとさせられたりするものと思い込んでいた。
が、内容は大きく異なり、元極道の噺家と元噺家の自称デザイナーが右往左往することになっている様子。
各エピソードに登場する落語の演目を追おうと、オフィシャルサイトを眺めていると、主人公ふたりの画像が一枚たりとも掲載が無いことに気付く。
テレビを観ない生活が何年も続いている為、さっぱり事情が飲み込めず、番組終了からニ年半の間に長瀬と岡田が何をやらかしたんだと邪推するも、ジャニーズだからかと一応の結論を得る。
事務所側の肖像権管理がシビア過ぎるらしく、キャスト一覧ですら人間ですらないイラスト掲載になっており、何だか不自然な構成になっているのは否めない。
まだ半分も観てないのだが、全編に漂う現実感の無さは、それが落語の世界だからなのか、連ドラを観ている自分に違和感を覚えているのか、結論は見出せないまま、時にはほろりとさせられたいと願うのだった。
(了)
20080309 日中
東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ
「天神様」として知られる菅原兄さんが詠んだとされる梅の歌。
死後、怨霊として確固たるポジションを不動とした兄さんが京を追われて大宰府に左遷される直前の作という。
同じ春の花として咲く桜には死のイメージが付きまとうが、梅にはそれがない。
桜が大樹であるに比較すると、小粒感が否めないのが梅の印象だろうか。
於・有栖川宮記念公園
実はこの梅、バラ科サクラ属という。
「同じ穴の狢(むじな)」という間違った表現で茶でも濁すか。
(了)
自宅から出る時間が集合時間という言い訳のしようもない極限状態の中、日比谷線に乗って広尾へ。
広尾的外観
客、スタッフが店頭で見守る中、気合の入った土下座を済ませ、カタチだけの謝罪で茶を濁し、席に着く。
アボカドバーガー・ジュニア(110グラム)、生ビールをオーダー。
時折窓の外を通る車両を眺めていると、物騒な外車しか走っていない様子。
この圧倒的セレブな異国感は港区特有であると断定し、思考を停止する。
AVOCADO BURGER Jr. (110g)
肝心のアボカドが被写体になっとらんな
ちらり
ホワイトバンズのさくさく感、パテの肉じゅうしいさは素晴らしいが、ソルティーさが足りない気がする。
卓上にはフレンチフライ用のマスタード、ケチャップ、ブラックペッパーしか置いていない。
塩じゃあ、塩持ってこんかい! とは至らず、トッピングにチーズをはさめば良かったのではとの結論に達する。
次回の来店も考慮しつつ、日比谷線、東横線で帰ります。
(了)
始発なんぞとうに過ぎ去った時刻だというのに、未だ歌舞伎町にいる。
朝日が眩し過ぎるのか血中のあれの濃度があれなのか、緩慢な足取りで駅まで歩く。
連れとはとっくに解散している様子。
「何処か遠くへ行きたい」
いやいやいや、兄さん、朝ですから、家に帰りましょうよ、ホームのベンチより電車のシートよりも家の布団がいいじゃあありませんか、ほらほら電車来ましたよ、座れますよ、座りますよ、当然寝ますよ。
「東武動物公園~東武動物公園~、お出口は左側になります」
おのれ迷うたか、って迷うてるのは自分やないかい、何で渋谷から半蔵門線に乗り換えてるのさ、ああ、思い出した、神保町で立ち食いそばを手繰ってから帰るつもりだったんだ、と都内ではない土地のホームに降り立ち、今来たルートを引き返すべく、階段を下るのだった。
(了)
着ているコートを脱ぐのも忘れ、何か物騒な名の飲み物を注文している様子。
「あー、もう悔しい!」
珍しいやさぐれ方してますね。あー、そんな駄目な酒をそんな飲み方しちゃって、まー。
「これ、これ見てよ、これ」
何ですか、メールですか、うわ、短っ。『あわてないで、あわてないで』って急いじゃったんですねえ。
「急いじゃったんだよ、悔しいなー」
何なんですか、この一休禅師は?
「あんなとんちはげといっしょにすんな! この人は俺が最近好きになった年上の女性なんだよ!」
あんた、結婚してはるやないですか。
「そんなもん関係無い!」
まあ、関係は無いですけど。
「ああ、悔しい、悔しいなー。ほんっと悔しい」
化けて出そうな勢いの悔しがり方に怯え、先に帰ります。
(了)
泰平の眠りをさます上喜撰 たつた四杯で夜も眠れず
「上喜撰って何?」
あ、それ? 宇治茶、宇治茶。
「何で2回言うのよ」
うじちゃっていきなり言うたらびっくりするだろ! これはな気遣いだ、きーづーかーいー!
「・・・そんな大きな声出さないでよ。まあいいけど、宇治茶を四杯も飲むから眠れなくなるってことね」
茶にはあれが入ってるからさ。何だっけか、えーと。フェミニン?
「言ってて恥ずかしくないの?」
全然。
「それで?」
提督が蒸気船四隻で来航したってことさ。
「あー、それ知ってる。えーと、元寇!」
いや、モンゴル人は出てこないから。
「遣唐使!」
だいぶ離れたな。
「遣隋使!」
だから近くないって。
「ヒントは?」
黒いのがどーんと。
「黒岩先生?」
誰?
「ほら、横山やすし、やっさんの」
いや、分からないな。少し世代に差があるみたい。
「佐賀?」
えーと、年齢差があるみたいって。
「失礼ね! 用事思い出したから帰る!」
タッタ四杯デ夜モ眠レズ。
(了)
電話向こうの男の声に聞き覚えがないので、異動でもあったのかしら、とそれとなく訊ねてみる。
「実はあったんですよ」
何か含みのある回答ですな。
「前にいた人がですね、わりとリーダー的ポジションだったんですけど、どうにも評判が悪くてですね」
統率者が評判が悪いって致命的ですな。
「それが仕事自体には問題が無いんですが、いろいろ余計なんですよね」
セクハラ系ですかな。
「いや、見た目と振る舞いは好青年なんですけど、元アンバサ○ーホテルのスタッフだったらしくて、接客の基本は笑顔と信じ込んでるんですよ」
あー、鬱陶しい人ですな。
「そう、鬱陶しいんですよ。自分のデスクに鏡を置いてて、常に笑顔チェックするんですよ。しかも、部下にそれを強要するんですね」
むしろパワハラですな。
「そう、それでその人は契約更新を打ち切られたわけです。・・・何故かディズ○ー系と縁があるんですね、うちの事務所は」
前回の元ミッ○ーに続く、オリエンタルランドくずれ達、結果的に去ってゆくのは、夢と魔法から覚め切れないからだろうか。
(了)
20080302 宵
上野から歌舞伎町へ。
男だけで歩いていると、当然の様に「乳」だの「あれ」だのと勧誘される物騒な通りから路地へ入ると、赤い階段が見える。
木製の階段を上がり、扉を開くと、内装入りましたというケミカルなスメルの中、店主と女将が電卓を叩きつつ紫煙をくゆらせている様子。
灰皿は吸殻で満ち満ちている。
いつ来ても手厚い歓迎だなと思う。
やがて静かに流れ始めるテレサ・テン。
今日は日本語版。
とりあえず、と生ビール。
続いて紹興酒。
■腸詰
■黒酢入り酢豚
■細切り干し豆腐とセロリの和え物
■咸魚鶏炒飯(塩鮭と鶏肉の炒飯)
■剥き海老と玉子炒め
■浅利の炒め
■水餃子
■五目麺
この店でこれだけ多くの品数を頼んだのは初めてだ。
酩酊気分で山手線に乗って帰ります。
(了)
坂道を転がるように、爺趣味に傾倒してゆくのを止められない。
そのうちに講談、講釈あたりにも手が出そうだ。
前回の寄席は新宿だったが、今回は上野へ。
『ひなまつり寄席』と銘打った夜の部の途中より入場。
落語 ■ 柳家 喬之進 「仏馬」
檀家からの布施を集め終わり、寺へ帰る途中の弁長と西念。
生臭極まりない弁長は道々酒を喰らい続け、やがて動けなくなると、川沿いに繋がれた馬に荷を載せ替えて、西念に寺へ連れて行かせる。
残された弁長は、馬を繋いでいた手綱と木に結び付けて寝てしまう。
やがて馬主が戻り、窮地に陥る弁長、
「かつて弁長という出家僧でしたが、身上悪くお釈迦様の罰を被り、馬になっておりましたがこの度、お釈迦様のお怒りが解け、元の体に戻れました」
と無理繰りな申し開き。
うやむやのうちに馬主に信じ込ませ、祝いの酒さえ振舞われ、寺へと帰る弁長、住職より預かってきた馬を売れと言い渡され、売りに行く道中酒を喰らいながら、馬にさえ飲ませ、売り飛ばして寺へと戻る。
馬主は見覚えのある馬を見つけるが、かつての馬は弁長だったと信じている為、また仏罰で馬の姿にされたと思い込む。
「そうか、すまねえ、弁長さん。わしが祝いの酒を無理に飲ませたから、またお釈迦様に馬にされちまったんだな」
首を振る馬。
「嘘ついたって分かるさ。お前さんの息、酒臭いもの」
太神楽曲芸 ■ 鏡味 仙三郎社中
鞠、鉄輪、枡が傘の上で転がされ、茶碗、板が撥の上で均衡を保ち、複数の笠でジャグリング。
演者の気持ちになってしまい、ひとつでも落としたら師匠に叱られる、と手に汗握る。
落語 ■ 柳家 喬之助 「寄合酒」
各々が酒の肴を持ち寄って飲もう、と長屋の連中は一度出て行き帰ってくる。
干し鱈、数の子、味噌を一日のうちに奪われた、災難続きの乾物屋。
本来は、食材奪取の後に調理失敗し、「ん廻し」に続くというが、前半のみ。
「ん廻し」って何でしょ。
落語 ■ 柳家 喬の字 「出来心」
「小きち改め、喬の字となりました。3月いっぴより二ツ目昇進でございます」
はいおめでとう、はいはいおめでとう。
「師匠のさん喬に『喬の字をください』って言ったんですけど、『小きちでいいじゃねえか』、『喬の字をください』、『小きちでいいじゃねえか』、『喬の字をください』、『小きちでいいじゃねえか』、『喬の字をください』、『じゃあ別の考えとくよ』って言われ、次の日にも『喬の字をください』、『小きちでいいじゃねえか』、『喬の字をください』、『小きちでいいじゃねえか』、『喬の字をください』、『じゃあ別の考えとくよ』ってそんなんで、『喬の字をください』、『小きちでいいじゃねえか』、『喬の字をください』、『じゃあ喬の字でいいじゃねえか』って喬の字になりました」
へー。
「嘘なんですけどね」
って嘘かよ。
泥棒稼業に芽が出ない半人前の男、親方より空巣狙いを勧められる。
アタリを付ける為に、家々を回って「ごめんください」と留守を確認するも、空巣が実行されてしまうと噺が成立しないので、家人とのやり取りに集結する。
漫才 ■ 大瀬 ゆめじ・うたじ
後で聴いたのだが、「高級ステーキハウスで家族4人がハンバーグを頼む」というネタを毎回繰り返しているという。
悪い夢のようだ。
落語 ■ 古今亭 菊之丞 「町内の若い衆」
新宿二丁目にいそうな風貌の菊之丞、師匠は圓菊という。
「町内の若い衆が寄って集って拵えた様なもんよ」
完全に下方面のサゲが素晴らしい。
落語 ■ 林家 正蔵 「蜆売り」
人情噺。
褒めてやるぞ、正蔵。
粋曲 ■ 柳家 小菊
通夜っぽい、いやいや変換がおかしい、艶っぽい喋りを交えての三味線語り。
ネタの七割は下方面ですが。
落語 ■ 柳家 喬太郎 「夫婦に乾杯」
「三浦和義、捕まりましたねえ。それにしても、時津風部屋ですよ。『前・時津風親方、本名、山本 順一容疑者』って、これ『親方』って要りませんよね。『前・時津風、本名、山本 順一容疑者』でいいじゃあありませんか。仮にですよ、仮にうちの一門で例えば喬の字がリンチか何かでね、こう『この野郎ッ! 喬の字! てめぇ、この野郎ッ、もうちょっとなあ、頑張れよ、この野郎ッ!』ってぐったりしちゃったりなんかしたら、うちの師匠さん喬が主犯格ですよ。だからって、『前・柳家さん喬師匠、本名、稲葉 稔容疑者』とはならないでしょ、『師匠』なんてぇ付けないはずですよ」
新製品ネーミングの企画会議の最中に同僚や上司より、「結婚して三年にもなるのに夫婦仲が良いのはおかしい、日本の夫婦じゃない」と全否定される男、確かにおかしいかもしれないと自宅に戻って妻へ難癖つけてみると、あっさりと夫婦喧嘩に発展。
「斎藤さんは、奥さんのこと何て呼んでるんですか?」
「グァ」
「奥さんの方は?」
「グァ」
結婚15年目にもなると、夫婦間の会話は既に日本語ですらない。
紙切り ■ 林家 正楽
当然予想していただろう、「雛祭」のリクエスト。
演者と客とのコミュニケーション不足で、3枚もの雛祭を切る結果に。
切る毎にディテールが細かくなる為か、3枚目の紙切り中はほぼ無口で、一枚目から比べると遥かに細かい切り口に。
夜の部主任 ■ 柳家 さん喬 「鼠穴」
夢オチ系人情噺。
師匠、今日もまた何人泣かせるんですかい。
ハネ太鼓(追い出し)
山手線、総武線と乗り継いで新宿へと移動します。
(了)
新潟県南魚沼郡湯沢町三俣、二居田代高原を内包する雪山へと向かう。
実に3年振りとなるスノウボオド。
加齢の上に日頃の運動不足がどんな災いを招くかも分からないまま、現地へと連行される。
27:56
田代ステーションに到着
寝袋に包まり、仮眠する。
足なんぞ伸ばせるはずもなく、窮屈な姿勢で朝を迎える。
8:32
前世でどんな悪さしとったんぢゃ、と村の長老に怒られるくらいの悪天候
コースを逸れ、木々の間を滑り抜けるという、一歩間違えば大怪我を免れない愚行を重ね、誰もいないゲレンデにシュプールを描く。
横殴りの吹雪でリフトは何処で覚えたか分からないグラインドをしながら我々を揺らす
鉄塔好きには堪らないはずの送電線もはらはらするくらいにしなっている
不意に停止するリフトの揺れに込み上げる熱いものが
あの、あの大きな小屋へ逃げよう
もう充分に戦った我々は立派だったと言い聞かせ、暖かい室内に腰を据え、止みそうにも無い猛吹雪を眺めながら帰り支度を始めるのだった。
(了)