17時を過ぎても、外はまだ明るい様子。
何か「和」な夕餉でも頂こうと、神田神保町へと向かう。
古書店街を徘徊し、本郷通りを超え、目指すは神田司町。
数軒手前から賑々しいざわめきが聞こえてくる。
一間の引き戸を開けると、木造の店内は百を超える酔客で埋まっている様子。
とりあえず、と国籍が異なる従業員に生ビールを頼む。
■どぜう丸煮
四寸程度の泥鰌らが丸ごと煮込まれ、牛蒡のささがけ、山椒と共に頂く。
骨を砕きながらの咀嚼、これは罪だ。
■甘海老の造り
甘海老の概念を覆す巨大なサイズ。
山葵醤油で身を喰らい、頭を引き千切ってみそを吸う、これも罪だ。
続けて頼んだ玉露割り、意外と濃ゆかったか、酩酊気分に。
半蔵門線、井の頭線で帰ります。
(了)
雨だ。
止まないし、って変換しようとしたら「山名医師」って出た。
四字熟語みたいに切れ間なく。
誰?
こういう日でもなければ、たぶん一生観ないだろうと、韓国産怪獣映画を観る。
※内容についてがっつり述べています。
ざっくり解説すると、「はずみでできた娘」がいる、河原で売店業を営む男、漢江(ハンガン)から現れたグエムルにひとり娘を目の前で飲み込まれ、合同葬儀にて父、妹、弟と嘆き悲しむが、娘から携帯電話に着信、「下水溝にいるみたい、助けてパパ!」と告げられ、グエムルと接触したという理由で隔離されていた施設を抜け出し、一家で娘奪還に向かうも、雨の中、グエムルと対峙し、うっかり手渡したライフルの弾数を間違えたばかりに父を失い、男は隔離病棟へ収容、妹と弟は独自に姪を奪還しようと潜伏、一方娘は捕獲された人々の衣類を繋ぎ合わせてロープを作り、やはり捕らえられたストリートチルドレンの兄を失った少年と共に脱出を試みるが、グエムルに発見されてしまい、呑み込まれたまま移動すると、病棟を脱出した男、携帯電話の発信源を突き止めた弟、アーチェリーの名手である妹らの練習無し一発本番の連携プレイによってグエムルは仕留められるが、体内から引きずり出した娘は既に生き絶えていた。
季節は巡り冬になる。
売店兼住居としてのコンテナから雪が降る川面を眺め、不穏な動きを察してか手元にあるライフルに手を伸ばす男、やがて何かを思い出し、傍らで寝入る少年の為に夕飯を用意し、飯を碗によそい、「テレビつまんない」という少年の言葉にリモコンを探すが見つからず、足でテレビの電源を切ってエンドクレジット。
何もかもが中途半端なテイストで、それでいて愉しませてくれるのは、その半端さが居心地良いと感じるからだろうか。
<あのテイクをもう一度>
ライフルの残弾を間違えた、と指を折ってみて初めて気付く男と、
「もういいよ、お前、行けって、いいから早く行けって」
なんて言わんとしてるかのように手の甲をひらひらと上下させる父親。
(この後すぐに尻尾でつかまれ、コンクリートに叩きつけられる)
男、父、弟、妹が無言でしかも同時にインスタントのカップ麺に手を出し、奪われたはずの娘が食卓下から現れ、食器を持たない娘に食べさせたりして、無言のまま食事を摂り続ける。
(実は睡眠障害の男の見る夢の産物)
終始無表情な妹、全編通して赤ジャージ姿で、髪を振り乱しながら炎のアーチェリーを放ち、グエムルを火祭りにした瞬間、背を向けて立ち去ってゆく。
DVD、買おうかしら。
(了)
目を覚ますってぇと、何の用事も所用も無いってんで、渋谷と新宿三丁目が直で繋がったばかりの副都心線なんてぇのに乗っかりましてねぇ、新宿三丁目にある定席に向かいますな。
木戸銭払おうとするんですがねぇ、従業員の方が席数の確認をしてる様子でして、下手打ちゃ立ち見かと萎えそうになりますってぇと、「あと八席」なんてぇかなりの滑り込みなんですな。
新宿 末廣亭 六月下席 夜の部で御座います。
さらくち ■ 林家 はな平 「味噌豆」
人目をはばかってはばかりん中で煮豆を喰ってたら、番頭が帰ってくるってぇと小僧を呼び出し、入れ替わりに同じ考えの番頭が入って煮豆を喰い、再びはばかりに戻った小僧が番頭と鉢合わせするってぇと慌てて答えるんですな。
「お替り持って参りました」
二ツ目 ■ 柳家 ろべえ 「初天神」
師匠は柳家 喜多八ってぇいいましてねぇ、本日のトリを務める小三治師匠の弟子なんですな。
二ツ目に上がった際に貰った「ろべえ」、実は『東海道中膝栗毛』に登場するふたり、弥次喜多からの命名ってぇいいますな。
師匠が喜多八ってんで、相方の「弥次郎兵衛(やじろべえ)」の名を貰うってぇ大変有難ぇはなしだったんですがねぇ、
「お前にはまだ早ぇから、半分しかやらねぇ」
てんで、「やじろべえ」を半分ぶった斬って、「ろべえ」なんですな。
噺家が高座に上がってるってぇのに、右側桟敷に座る中年男性と従業員が揉めている様子でしてねぇ、客もろべえ兄さんの噺よりもそっちばっかりに気を取られ、気もそぞろってなもんです。
で、従業員の方は何とか中年男性を外へ連れ出すんですがねぇ、泥酔されてるのか大声で騒いでるのが寄席まで聴こえてくるんですな。
目の前を女子従業員が泣きながら、「もうやだ」なんてぇ駆け抜けてゆきましてねぇ、興行物の苦労をかいま見たってぇ感じなんですな。
其の所為かどうか分かりゃしませんが、ろべえ兄さん、父親が息子から凧を買わせられる前の団子屋台で蜜を舐め切った団子を蜜壺に突っ込むシーンで高座を降りてしめぇましたな。
漫才 ■ 笑組 (えぐみ)
立ち位置左側の方、大変恰幅の良い体型なさっておりまして、劇団ひまわり所属の元子役なんてぇいいましてねぇ、さぞかし限定された役ばっかりだったろうなんて感じなんですな。
後で小袁治師匠からプロ野球好きってんで、「読売キ○ガイ」なんてぇ、呼ばれておりましたな。
右側の方はすっかり禿げちらかしているってぇのに、「前髪切り過ぎちゃった」って仰ってましてねぇ、途中早口過ぎて何を喋ってるのか分からないのが面白いことになってましたな。
トークはってぇと、元子役に絡めてテレビドラマのストーリーに及びましてねぇ、
「皆さんはROOKIESよりも小三治師匠なんですよね」
なんてぇ、会場からは拍手が起こるってなもんです。
落語 ■ 柳家 はん治 「鯛」
はん治師匠は二度目なんですがねぇ、前回も桂 三枝原作の噺を高座に掛けてらっしゃいましたな。
上方の噺家と何らかの親交があるんでしょうかねぇ。
噺はってぇと、料亭の生け簀に入れられた新入りの鯛、一週間も泳いでいられないはずなんですがねぇ、創業時から二十年もいるってぇ生け簀の主からまた海に戻れる諦めるなと諭されるんですな。
「ボーイズ・ビー・アンビシャス。少年よ、大志を抱け」
落語 ■ 古今亭 志ん橋 「二人癖」
「つまらねぇ」、「酒が飲める」なんてぇのが口癖のふたり、口癖を言った者が負けなんてぇ賭けをしようってぇ運びとなりましてねぇ、互いにそれぞれのNGワードを言わせようってんで、戦略を練りますな。
0-1のリードでうっかり「つまらねぇ」なんてぇ漏らした男から五十銭を受け取った男、油断から「酒が飲める」なんてぇ言っちまいやしてねぇ、「差っ引きだ!」とまた取られちまうんですな。
紙切り ■ 林家 正楽
番組表を見るってぇと、津軽三味線奏者、太田家 元九郎師匠と入替みたいですな。
いつもの衣装とは違って正楽師匠、濃い青の和装でしたな。
定番、ご挨拶代わりの「相合い傘」を切り抜きますってぇと、客からの注文で「金色夜叉、貫一お宮」、夏らしく「螢狩り」なんてぇお題が出来上がりますな。
落語 ■ 柳家 小袁治 「(演目不明)」
寄席文字ってのが御座いましてねぇ、験を担ぐってんで、「隙間を詰める」、「右肩上がり」を条件に書かれますってぇと、「小」なんてぇ隙間だらけですからねぇ、「山」みてぇな仕上がりになるんですな。
師匠の五代目小さん、「山さん」なんてぇ、醤油醸造業者みてぇな名前で呼ばれたり、九代目正蔵の前名、「こぶ平」なんてぇ、「てぶ平」に見えちまうんですな。
「だから、『袁』の字が『哀れ』とか『衰える』に見えても気にしないでください」
磯六てぇ名の商家の若旦那、剣術稽古で鍛えに鍛え、居合いの技を披露しようってんで、町で会った男の持つ愛玩用の南京鼠を「やーっ!」なんてぇ掛け声と共に力が入り過ぎるってぇと、うっかり圧殺させちまいましてねぇ、鼠の目ン玉が飛び出してるのを見て、「春になれば新芽が出る」なんてぇ言い捨てるんですな。
ひでぇ噺があったもんで。
落語 ■ 五街道 雲助 「強情灸」
雲助師匠、胴間声ってんですか、声はよぉく通るんですがねねぇ、江戸弁過ぎて分からねぇ箇所もあるんですな。
灸の我慢を自慢する男、馬糞みてぇな百草(もぐさ)の塊を腕に乗っけるてぇと、我慢に我慢を重ねた挙句、「冷てぇ!」なんて叩き落とし、何処までも強情なんですな。
「五衛門はさぞかし熱かったろうなぁ」
奇術 ■ 花島 世津子
背の高い年齢不詳な方でしてねぇ、何故か小三治門下なんですな。
客席に向かって新聞紙を見せ、引き裂き始めるってぇと、。
「一枚が二枚、二枚が三枚、三枚が四枚、四枚が五、ご、ごま、硬い、かたい、あ、日経だ」
なんてぇくすぐりもはさみつつ、引き裂かれた筈の新聞紙が元通りに戻るんですがねぇ、これが『東スポ』なんですな。
代演 ■ 桃月庵 白酒 (とうげつあん・はくしゅ) 「米揚げ笊」
柳家 〆治師匠の代演でしてねぇ、
「今朝、〆治師匠から『声が出ない』なんて電話がありまして、代演の白酒です。しろざけ、パイチュウではありません」
縁者のマクラが面白いってぇと、根多の記憶が薄くなりますな。
落語 ■ 柳家 さん喬 「千両蜜柑」
さん喬師匠、当日十四時からの吉祥寺にある前進座劇場にて一番弟子の喬太郎との親子会を終えて駆け付けたんですな。
満席の寄席を評しましてねぇ、
「いっぱいのお運び有難う御座います。二階席が船みたいですね。・・・三年前でしたかねぇ床が抜けたこともあるんですよ」
なんて物騒なことを言い放つんですな。
で、吉祥寺での一席と同じ演目でしたな。
お仲入りで御座います。
くいつき ■ 柳亭 燕路 「もぐら泥」
燕路師匠、泥棒噺が似合いますな。
本人は喜ぶかどうか分かりゃしませんがねぇ。
太神楽 ■ 柳貴家小雪
毎度素晴らしい芸を見るばっかりでおりますと、太神楽の失敗ってぇ想像できませんな。
一瞬で空気を変えてしまうってぇのは、さぞかし恐しいでしょうな。
自分との闘いなんでしょうな。
落語 ■ 入船亭 扇橋 「鶴」
扇橋師匠、また同じ演目です。
八五郎がめそめそっと泣くくだりは相変わらず愛らしいんですな。
代演 ■ 桂 籐兵衛 「饅頭怖い」
春風亭 一朝師匠の代演ですな。
淡々とまとめられた感がありましたな。
津軽三味線 ■ 太田家 元九郎 「津軽ハイヤ節」「十三砂山」「津軽じょんがら節」
熊本の民謡が津軽に渡るってぇ流れもあるんですな。
謡が北前船に乗って渡って来るってぇのは、なかなか風情がありますな。
「わだす、こう見えても竜飛崎(たっぴざき)の生まれなんよ」
あはははは。
「いや、あははじゃねぇって」
夜主任 ■ 柳家 小三治 「千早振る」
何が凄いって、扇橋ねぇ、あれだけ何を言ってるか分からなくて受け入れられてるのが凄いですねぇ、あの人、歳喰ってから訳分かんなくなった人じゃないんですよ、前座見習いの頃から既にああでしたから、昨日NHK観てたんですけどねぇ、伊達公子十一年振りに復活したんですねぇ、今やってますでしょ、イギリスの、ねぇ、ほら、あのー、プノンペン? いやプノンペンじゃねぇな、えーと、ウィンブルドン! そうそうウィンブルドン、で、旦那がF1レーサーなんですよ、ガイジンですよ、その旦那実は伊達公子が世界的プレイヤーだったってことを知らなかったらしいんですね、旦那に励まされて一度引退したテニスやることになったんですな、わたし三週間くらいアメリカに行ってた頃があるんですよ、死ぬまでに字幕無しで英語の映画を観たいなと思って、いつの日か不意にわたしが引退したら、アメリカに行ってると思ってください。
師匠が渡米してしまうってぇと、師匠の高座が観らんなくなってしまうのは大変残念でげすなぁ、なんてぇしみじみ思うので御座います。
寄席を追い出されるってぇと、般若湯なんてぇ求めて都営新宿線に乗っかりますな。
(了)
ありがとう、ありがとうございます。
みなさまのやさしさだけで、かろうじていきながらえております。
こんごのてんかいとしましては、
「じょしりょく」をあげてゆきたいとねがっております。
ねまわしもかけひきもすたんどぷれいもそこそこに、
こずるくもこすっからく、ひととひととすきまをおよぐようなきもちでまいります。
みなさま、こんごともごひいきにとねがっておくのでございます。
(おわり)
午後から内科の診察を受けるという同僚、腹部を手で押さえながら、倒れるように前のめりで歩いてゆく。
が、社食にて彼のトレイに乗せられていたのは、盛りに盛られたセイロン風ドライカレー。
脂汗が出るほど胃が痛いって言ってたじゃん。
「だって、何か食べとかないと」
だからって、そんな刺激物。
「いくら無神経な僕でも全部は食べられませんよ」
そりゃそうだ。って自分で言うな。
「やっぱもったいないなあ。完食しないで夕方までもつかなあ」
もっとやわいのにすればいいものを、うどんとか。
「そうなんですけどね、カレーって食欲なくても食べられるじゃないですか、好きなんですよね」
分かったから、食べたら病院に行きなよ。
で、前述の内科へと向かう同僚。
彼を見送る、別部署の男。
「どうしたの、彼」
何か、胃が痛いらしいですよ。
「ヘリコバスターだ」
何ですと?
「いわゆるひとつのピロリ菌」
・・・ここの職場は胃腸が痛いって言うとすぐその名で呼ばれますね。
「僕のは本物だって。十二指腸、あれ? 二十四指腸?」
いやいやいや、増えてますよ。最初のでいいです。
「その何だ、十二指腸潰瘍になってさ、三万円払ってヘリコバスター・ピロリを駆除した」
へぇーそうなんですか大変でしたねー、なんて返して後でネットで検索したら、正確にはバスターではなく「ヘリコバクター・ピロリ」で、治療費も三万円は払い過ぎと判明。
何か伝えようとしているのは分かるのだが、結果として何ひとつ伝わってないこともあるのだ。
(了)
前日の痛飲が祟り、睡魔と倦怠感だけを原動力としてのろのろーのろのろーと職場へ向かう。
駅前商店街に入り、人の流れに逆らう方向を目指す。
コンビニが放つ過剰な蛍光灯力が憎い。
憎い憎いと思いつつも、自動ドアの前に立つ。
店内をうろうろーうろうろーとし、ショーケースの前に立ち、アリ○ミンVを手に取る、レジに向かう、品を置く。
「612円です」
え? 高くない? 小麦とか上がってるから? 原油高? バター不足?
なるほどねぇー、と分かった気になりつつも何だか理不尽なのでレシートを確かめる。
アリ○ミンV&V 50ML ¥612
はあ、V&Vですか。
Vはひとつでいいんだ、ひとつで。
(了)
絵的にはさっぱり健康そうに見えない上にどうかと思うくらい甘味好きな男、健康診断の結果は常にオールAと豪語する。
「健診の結果は?」
まだ。来月かな。
「どう?」
どうって、何が。
「からだは?」
悪くないよ。
「毎日酒飲んでるくせに」
まあそうだけどさ、健康だから飲めるんじゃん。
「(デスク向こうを指差して)彼なんて酒飲まないんだけど、間違いなく食べ過ぎだね」
そうね、初めてここに来た時よりも確実に太ってるかも。
「らーめん食べたら、汁まで全部飲んじゃうし」
社食のなんてさ、特に凄い素材を使ってるわけでもないのに。
「そばつゆとかも全部飲み干すんだよ、蕎麦湯も無いのに」
それは止めたがいい。
(了)
おはようございます。
みちゆくひとたちにあいさつをします。
おはようございます。
でんせんにとまっているすずめさんにもあいさつをします。
おはようございます。
ろじうらにいるねこちゃんにもあいさつをします。
お。
きみらにはあいさつをしないよ。
みちいっぱいにひろがるせんもんがっこうせいのながれにさからい、えきにむかいます。
どこからわいてでるんだろう、ってくらいのせんもんがっこうせいがおおきなにもつをかたからさげてあるいています。
こいつらじぶんらのめんせきがひろいにもかかわらず、よけるってたんごをしりません。
かえるにしてやろうか。
そんなやさぐれたきもちでむかえたげつようびです。
きょうはしょじじょうにより、かえるまほうはつかえませんでした。
(おわり)
えー、怪談噺『眞景 累ヶ淵』、愈々最終回で御座います。
「浄善ヶ淵 “お久殺し”」
「土手の甚蔵」
「お累の婚礼」
実は上記三話分は所持してなくて、未だ拝聴せずってなもんでしてねぇ、まあ演目名通りの因縁めいた展開とご理解頂ければ幸いで御座います。
ざっくりと流れを追いますってぇと、新吉は久を鎌で殺害し、甚蔵と兄弟の杯を交わし、三蔵の姪、累(るい)と悪縁ながら所帯を持ちますな。
「勘蔵の最期」
新吉、羽生村に暮らす三蔵の姪、累(るい)と所帯を持ちましてねぇ、病に臥せる叔父の勘蔵を訪ねるってぇと、江戸へ向かいますな。
死に際の勘蔵より『小石川小日向服部坂 深見新左衛門次男 新吉』なんてぇ記された真鍮の迷子札を受け取りましてねぇ、実は武家の出自であること、十離れた兄がいるなんてぇ告げられますな。
「迷いの駕籠」
勘蔵の死を看取り羽生村へと戻る道中、駕籠を拾うんですがねぇ、この駕籠舁きがぼんくら過ぎて、さっぱり目的地に向かわないんですな。
因縁は巡ってくるってなもんで、宿を目指して千住へ向かう途中、小塚原(こづかっぱら)にて牢破りたての兄、新五郎と出会うんですな。
新吉の身上を聴いた新五郎、累の叔父の三蔵が自分の仇だと知るってぇと、そこは因果、新吉に義父三蔵を殺せなんてぇ命令するんですな。
続きはってぇと、ファイルが破損しやがってましてねぇ、十数年振りに再会したはずの兄弟同士があわや殺し合いに発展するかってぇ場面にて、
「おのれぇぇぇぇっっっ!」
なんてぇ極悪な調子で叫んでる途中でブツッて切れてしまいますな。
実は後で知ったんですがねぇ、新五郎、とっくに処刑されていて、新吉は幽霊と取っ組み合いしてたんですな。
しかも、新吉の素行の悪さに辟易した累は、久を殺害した鎌で自害して果ててるってぇ、もう昼ドラみてぇな不幸の連鎖が続くんですな。
「惣右衛門殺し」
「湯灌場」
くらいまっくす直前ですがねぇ、やはり持ってねぇてんで、ざっくりと流れを。
名主の惣右衛門宅に出入りするうちに、深い仲となった妾の賎(しづ)より惣右衛門殺しを持ち掛けられる新吉、誘いに乗って惣右衛門を絞殺するんですな。
「聖天山」
惣右衛門を絞め殺すってぇと、湯灌場で惣右衛門の遺骸を見た甚蔵に首を絞めた痕を看破されますな。
口止め料として聖天山に埋めた二百両を渡すってんで、甚蔵をおびき出すってぇと、崖から突き落とすんですがねぇ、なかなか死ねねぇってんで這い上がってきた甚蔵、新吉と掴み合いになるってぇと、種子島の短筒を構えた賎に胸を撃ち抜かれて甚蔵は絶命しますな。
実は賎、新吉の父新左衛門が妾である熊の娘、新吉とは異母兄妹と知り、畜生道に堕ちたかと賎を鎌で斬り棄て、自害する新吉。
親の因果が子に報い、長い長い怪談噺、『眞景 累ヶ淵 (しんけい・かさねがふち)』の一席で御座いました。
(了)
えー、数日間の無沙汰を致しまして御座います。
閑話休題なんてぇ、寄り道が過ぎますってぇと、本題すら何だかどうでもよくなってくるってなもんですな。
無理ぐりに着地点を探すってぇ作業自体、強迫観念に近いってぇはなしですかねぇ。
で、誰も読んでないってぇのは承知の上で、件の累ヶ淵で御座います。
「豐志賀の死」
別名、『⑤豐志賀の最后』なんてぇ云いますな。
園の死より十七年の後、姉の志賀はってぇいいますと、根津は七軒町で豐志賀なんてぇ名で富本の師匠になってますな。
「富本」ってぇいいますと、江戸浄瑠璃三流のひとつとして数えられ、他に常磐津、清元が知られておりましてねぇ、稽古を付けられ艶っぽい唄を歌い上げるってぇと、常磐津なら「文字」、清元は「延」、富本なら「豐」なんてぇ冠を付けられ、師匠と呼ばれますな。
豐志賀は男嫌いってぇことで通っていたんですがねぇ、女中が病に臥せるってぇと、人手が足りなくなったんてんで、新吉を雇いますってぇと、男嫌いなはずの豊志賀、新吉と深あい仲になるんですな。
で、根津は惣門前、小間物商羽生屋から通ってくる娘、久(ひさ)と新吉の仲にじぇらしぃなんて致しますってぇと、悋気が過ぎて久に辛あく当たりましてねぇ、そうこうするうちに豐志賀の右眼ン下に厭あな腫れ物ができますってぇと、てめぇの醜い姿に新吉の心が離れはしないかと不安になり、
「あたしが死ねば、お前さん、お久と一緒になれていいだろうねぇ」
なんて、もう嫉妬の権化となりましてねぇ、新吉がもう嫌だってんで叔父の勘蔵に相談しようと外出するってぇと、道中で久に偶然会いましてねぇ、久が云うには、下総にいる質屋業の叔父、三蔵の元へゆくってぇはなしなんですな。
新吉、豐志賀を捨てて一緒に行こうなんてぇ久に告げますってぇと、久の顔が豐志賀となり、胸倉を掴まんばかりに詰め寄られるんですな。
で、逃げるように勘蔵の元へゆくってぇと、豐志賀がいるってぇ云われ、パニクる新吉、もう何が何だかってんで豐志賀の宅へ向かうってぇと、剃刀を持った手で自らの喉を掻っ切った豊志賀の遺骸と対面するってぇ運びなんですな。
新吉が恐る恐る蒲団を捲るってぇと、
「新吉が持つ娘七人までを憑り殺す」
なんてぇ物騒な書き置きがそこに。
何だか肌が粟立って参りましたってぇところで、続きはまた明晩。
(續ク)
平日だというのに新宿区内をうろうろーうろうろーと数軒分飲んだくれてしまい、一睡もしないままに朝方帰宅すると、七時半を少し回っている様子。
あかん、出勤する時間やないかい。
前日の(ていうても、寝てないから長い一日の中途でしかないが)汚れを洗い流して、きかえると、時刻は既に八時。
外に出ると、太陽が黄色く見える。
どろどろした目で旧山手通りを走るタクシーを拾い、山手通りから中目黒を目指し、何とか始業に間に合うも、
「おはようございまーす」なんてろくに云えてない上に、何処か虚ろに響く。
爽やかって単語すら小憎い。
蛍光灯も黄色く見える。
今日はまっすぐ帰って気絶しよう。
えー、怪談噺は、また、明晩。
(續ク)
タイトルにある怪談噺が頓挫してるのはこの際無視して、前日分の続報と訂正事項をひとつ。
今朝方の伝言板、新たな展開を見せている様子。
「みちるさん
また明日ね
おやすみ
これきよ」
「みつるさん」ではなく、「みちるさん」だったようだ。
しかも、伝言板に「おやすみ」て。
しかも、またしても出会えてないふたり、ていうか何かがおかしい。
伝言板の主は確信犯的にせせら笑ってんのと違うか。
えー、怪談噺はまた明晩。
(續ク)
えーと、タイトルも変わってないのに、口調だけが戻ってたいへん違和感があるのだが、今朝、中目黒駅の伝言板にあった文言を、記憶の限り転写しておきたい。
「みつるさんへ
8:30まで待ってました
また今度ね
これきよ」
これきよ、て。
高橋?
疑問符が動機でネット検索。
本人かどうかはあれだけど、同名の透明水彩絵の具イラストレーターがいるようだ。
みつるさんが携帯を持ってないのか、これきよが持たないのかは不明だが、これが駅の伝言板の正しい使用法と知る。
怪談噺はまた明日。
(續ク)
怪談ってぇいいますと、夏に聴くのが相場と決まっておりましてねぇ、亡くなってもう二十六年も経つってぇ、八代目 林家 正蔵師匠口演、『眞景 累ヶ淵』なんてぇ演目が初のCD化するってんで、云われてみるってぇと、一度もたりとも通しで拝聴してないってぇ事に気付くんですな。
で、手持ちの音源を整理するってぇと、下記の如くで御座います。
・・・まあ手前勝手な備忘録でしかないんで、読み飛ばすのも結構なんですな。
「発端(下)」
いきなり(下)ってぇのもだいぶ頼りなさげなんですがねぇ、無理ぐりに通しの話数を付けるってぇと、『②総門の長屋』に該当するんですな。
おそらく、(上)にて深見 新左衛門に斬殺された鍼師で高利貸しの皆川 宗悦の遺骸が遺棄され発見されるくだりなんですがねぇ、長屋の住人がぐだぐだと話してるだけなんで、記憶に御座んせん。
「宗悦の亡霊」
奇跡的に連続しているってぇこれは演目通りに、『③宗悦の亡霊』。
新左衛門ったらねぇ、止しゃいいのにまた鍼師を自宅に呼ぶってぇと、施術中に良心の葛藤か宗悦を殺害した負い目からか、宗悦の亡霊を見たような心持ちで錯乱し、鍼師と何故か妻をもやはり斬殺して、自らは切腹、深見家改易ってぇことに相成りますな。
話は少し戻りましてねぇ、改易前に出奔していた深見家嫡男、新五郎が小石川に帰るってぇと、家が無いんですな。
其の経緯を知った新五郎、深見家墓前であわや切腹をってぇ現場を下総屋惣兵衛に制止され、そのまま質屋奉公に相成りますな。
下総屋で奉公する女中、園に思いを寄せる新五郎なんですがねぇ、ここは因縁噺だってんで、実は園は宗悦の次女、つまり、新五郎の父、新左衛門は親殺しの仇なんですな。
知ってか知らずか、園は病に臥せった自分を献身的に看病してくれるはずの新五郎を遠ざけるばかりってんで、新五郎はやきもきやきもきした挙句、蔵の塗り替えの日に積まれた藁に押し倒すんですがねぇ、運悪く藁の下に押し切りなんてぇ、藁を切る為の刃物が上向きで置いてあるってんで、園は絶命しちまうんですな。
新五郎、好いた女をうっかり殺しちゃってどうしようってんで、店の金を懐に入れるってぇと仙台へと逐電するんですな。
「松倉町の捕り物」
六代目 三遊亭 圓生師匠口演になるってぇと、発端をカヴァーしつつ新五郎メインエピソードだけをフューチャーした「深見新五郎」なんてぇ演目もあるんですがねぇ、ここは八代目正蔵師匠だけの音源を追いますってぇと、、『③宗悦の亡霊』の続きになりますな。
園故殺から一年が経つってぇと、ほとぼりが冷めたってんで江戸へと戻る新五郎、かつて深見家に乳母奉公していたってぇりえのいる本所の松倉町へ向かうんですがねぇ、りえは既に亡くなってるんですな。
りえの娘と名乗る女、実は同心、金太郎の女房ってんで、鰻を取ると偽り腰の大小を隠すってぇと、金太郎を呼びに走るんですな。
鰻屋に扮した金太郎、新五郎を捕縛しようと向かう松倉町。
追い詰められた新五郎、屋根伝いに逃げ回るってぇと、藁束に飛び降りるんですがねぇ、そこは因果、置いてある押し切りで手負いとなり、しかも園の命日其の日に捕り押さえられるんですな。
これから新五郎が弟新吉、宗悦が娘で園の姉豐志賀が登場します、今宵はここまで、続きはまた明晩。
追記:
しかし、正蔵師匠の老人特有ビブラートヴォイスを聴き続けているってぇと、真似したいってぇ気持ちが分かりますな。
「坊や、何でにんじん食べないの?」
「人参に~栄養なんてぇ、あるんですかねぇ」
(續ク)
ひとり暮らし歴が長いってのに、未だ購入すべき食材の量が分からない。
結果、同一のメニューを連日作り続け、食べ続けるという無限ループに陥りがち。
挙句、分不相応にも好んで高額な調味料を使いたがる為、コストパフォーマンス無視の高エンゲル係数となる。
※すさんだ気持ちで調理しているので、当然画像はございません。
<食材>
■焼きそば生麺 (産地不明) ・・・ 2玉
■豚肉細切れ (熊本産)・・・ 100グラム
■キャベツ (産地不明) ・・・ 4分の1玉
■もやし (南魚沼産)・・・ 2分の1袋
■鶏卵 (茨城産) ・・・ 1個
<調味料>
■チャムギルム=胡麻油 (韓国産) ・・・ 適量
■にんにくオイル (長野産) ・・・ 適量
★日本酒 (広島産) ・・・ 適量
★オイスターソース (香港産) ・・・ 適量
★醤油 (富山産) ・・・ 適量
■岩塩 (オーストラリア産) ・・・ 適量
■ホワイトペッパー (産地不明) ・・・ 適量
■赤唐辛子の小口切り (産地不明) ・・・ 少々
■紅生姜 (小田原産) ・・・ 少々
<レシピ>
①油断するとあっさり錆びる、手の掛かる子どもみたいな、結婚式の引き出物の中華鍋に適量のチャムギルム、にんにくオイルを加えて強火で熱し、物騒な香りが出始めたら、天草ポークなんて銘柄の豚肉細切れを色が変わるまで炒める。
②それっぽく炒まったら、★日本酒、オイスターソース、醤油を加え、まごまごとビニールを破って焼きそばも投入し、親の仇のようにほぐし、親の仇の如く混ぜ、親の仇そのものを染み込ませる。
もちろん、そばの味見なんてしない。
③いい感じでしっとりしてきたら、キャベツ、もやしを投入し、出てきた水も利用して炒め煮る。
岩塩、ホワイトペッパーで味を調えてみたり。
仕上げに赤唐辛子を気分次第で瓶ごと。
④紅生姜を添えて、無理ぐりに横手風にしようと、別でこさえた目玉焼きを乗せるってぇと完成。
・・・ちょいと、お前さん、ひとりで2玉は喰い過ぎだよぅ。
(量)
Jock Sturges.by Jock Sturges. (1996/2000) ISBN 3908247357
Scalo, Gottingen, Germany.
HC. 29.5x27.5cm. 208p.
サイン入 パンフレット付
表紙である全裸女子のポートレートはポートレートでしかないのだが、初版の現物は現在六万三千円の値が付くという。
あの時、カリフォルニアのビーチでジョックにサインをねだっておけばよかったのかと、後悔もひとしお。(妄想)
(了)
井の頭線に乗って明大前で京王線に乗り換えましてねぇ、一駅揺られますってぇと、上北沢なんてぇローカルな駅に着きますな。
北口を出てすぐにある小ホールを訪ねますってぇと、内履きなんて渡されましてねぇ、木戸銭を渡し、僅か四十席しかない客席の中頃に座りまして、三味線弾き語りの一席で御座います。
『小菊を小(ちょっと)きく会』
十六時を少し回りますってぇと、三味線の調律音が聞え、小菊ねえさんが登場しますがねぇ、
「お客様が少し遅れてるそうなんで、もう少々お待ち下さーい」なんてぇ、演者自らが開演の遅延を報せてくれますな。
まだ表は明るいってぇのに、和装の三味線弾きが目の前にいるってぇのは、不思議な心持ちでしてねぇ、大きなホールとは異なる音の響きが心地好いですな。
<金原亭 世之介 (きんげんてい・よのすけ)師匠と『惚れて通ふ』>
『惚れて通ふ』ってぇ端唄が御座いましてねぇ、これが『桜見よとて』なんてぇ曲に似るってぇ云いますな。
芸術祭に出演するという、世之介師匠に鳴り物を依頼されたってぇ小菊ねえさん、『惚れて通ふ』と『桜見よとて』が似てるから間違えたらいけないねぇ、なんて気を付けてたらしいんですがねぇ、あっさり本番で弾き違えますってぇと、そのまま引き続けたらよかったんでしょうが、途中で止めてしまいましてねぇ、世之介師匠が高座でひっくり返ってしまうのを見て、師匠ごめんなさーいと反省はしましたがねぇ、世之介師匠、落選ってぇ運びとなるんですな。
<古今亭 圓菊 (ここんてい・えんぎく)師匠と東京拘置所>
小菅にある東京拘置所へ慰問に伺った時で御座います。
昼夜二部構成でして、ひとり二席受け持つってぇ依頼でしたな。
小菊ねえさんは音曲、圓菊師匠は噺家として呼ばれてましてな、拘置所側から厳しく言い渡されたってぇ事項が御座いまして、
「昼夜で衣装も演目も進行も構成もくすぐり(アドリブ的な小咄)も必ず同じにしてください」ってぇ内容でしてねぇ、これ少しでも変えてしまいますってぇと、服役囚同士で「あれ良かったねぇ」「あれって?」「あれだよ、あれ」「俺知らねぇ、見てねぇ、聞いてねぇ」なんてぇ揉めるからだそうですな。
面倒臭ぇはなしですな。
<ポール・マッカートニーとウクライナの石油王>
小菊ねえさんの知人が京都におりまして、芸妓をなさってるそうですな。
石油業で財を成したってぇウクライナの富豪がおりましてねぇ、欧州の何処かに日本庭園を造り、日本建築なんてぇ建てまして、芸妓を招くってんですな。
で、ゲストがポール・マッカートニーてんで、ウクライナ側から、
「マッカートニー氏作曲であるビートルズの曲を三味線で弾いて頂きたい」
なんてぇの要求されましてねぇ、芸妓のねえさんは小菊ねえさんに相談しますってぇと、年齢的にビートルズ世代の小菊ねえさんは、芸妓のねえさんがこの縁でポールの二号さんにでもなれば、彼と接点が出来るってんで、小躍りしながら三味線でのビートルズ曲を幾つか完成させるんですがねぇ、石油王の気まぐれでやっぱり日本人要らないってぇ運びとなりまして、本来なら本日渡航予定だったんですがねぇ、三味線ビートルズは国内を出ることもなく、それじゃあ悔しいってんで、「今ここで演らせてもらいます」ってぇ云いますと、見たこともない指運びで『オブラディ・オブラダ』なんてぇ弾いてらっしゃいましたな。
丁度時間となりまして、小菊ねえさんに別れを告げるってぇと、次の会へと移動しますな。
上北沢より京王線に乗りまして、桜上水で急行に乗り換えますってぇと、森下まで行きましてねぇ、大江戸線から一駅、清澄白河まで参ります。
深川江戸資料館小劇場での高座で御座います。
【特撰落語会 第6回 さん喬・市馬・菊之丞 ~夏噺・歌噺~】
前座 ■ 柳家 小ぞう 「金明竹」
寄席の一席目を「開口一番」なんてぇ云いますな。
小ぞう、さん喬師匠の弟子にて1979年生まれってぇはなしですな。
憎いですな。
二ツ目 ■ 柳家 喬の字 「短命」
この喬の字、知人によく似てましてねぇ、顔の造りが似てるってぇと、もう本人が演ってるじゃないかと、頑張ってんなーこんな大勢の前でよく喋ってんなーってぇ関係の無いところで感心したりましますな。
真打 ■ 柳家 さん喬 「心眼」
さん喬師匠、夏季に作中雪が降るってぇ噺、『鰍沢』を高座にかけるってぇ時に衣装も冬仕様にしますってぇと、暑くて敵わないってんで、当日コンビニで求めた氷を背中に入れましてねぇ、下手するってぇと凍傷になりかねないカラダの張り方をしますな。
浅草馬道に暮らす、盲人梅喜(ばいき)、血を分けた兄弟から「ど盲」なんてぇ邪険にされ、せめて片目が開けばと茅場町にある薬師に三七、二十一日間信心するってぇと、満願の日に両目が開きましてねぇ、実は梅喜、女が放っとかない男っ振りってぇことに気付き、長年連れ添った女房お竹が醜女と知りますってぇと、芸者小春に口説かれて夫婦になるなんて約しましてねぇ、事情を知ったお竹に詰め寄られるってぇと、首を絞められ苦しい苦しいなんてぇ叫びながら目を覚まし、全ては夢、身を捧げ尽くしてくれるお竹を棄てて、自分の器量だけしか見ない小春に走るってぇのは己の慢心と悟りますな。
「盲ってぇのは妙なもんだな、寝ている内はよぅーく見えらぁ」
ここで中入りで御座います。
真打 ■ 柳亭 市馬 「駱駝(らくだ)」
中入り明けを「くいつき」、トリ前を「膝替り」なんてぇ申しますな。
市馬師匠、くいつき膝替りで御座います。
これまで拝聴させて頂きましたってぇ、どの『駱駝』よりも素晴らしいですな。
性質の悪い博徒である駱駝の兄貴分が見せる恫喝、「優しく云ってる内に行って来いよ」と共に変化する形相ったら、デフォルト笑い顔の温厚な市馬師匠が演るとインパクトがありますな。
脅されるままに使い走らされる屑屋が不浄払いに酒を勧められるってぇと、これまでの関係性が酒の力で逆転し、泥酔した屑屋に対して駱駝の兄貴分が怯え、「兄ぃ」なんて呼び始めるくだりなんてぇ、もう一度見てぇってんで巻き戻してぇ気持ちでいっぱいだったんで御座いますな。
主任 ■ 古今亭 菊之丞 「唐茄子屋政談」
菊之丞師匠、絵的に噺家っぽくない風貌されてる所為か、この手の人情噺よりも、女子衆が登場する廓噺、艶笑噺が似合いますな。
「とうなすぅー、唐茄子」ってぇ売り声の発声が心地好いですな。
深川には馴染みが無いってんで、遅い夕餉をなんてぇ赤坂へ移動しますな。
(了)
辛い系でも喰らおうと、新大久保へ。
山手線からホームに降り立っただけで、何かしらの料理の放つ匂いが分かる約束の地。
通い慣れた「改装の為、三ヶ月休業」という韓国料理店、未だ改装中らしく扉は開かれているが、営業中ではない様子。
二月からずっと改装中のまま、もう六月だってば。
別の店へ移動。
とりあえず生、とメニューを指差しながらセンマイ刺しを頼む。
若い従業員、「お待たせ致しましたー」とセンマイ刺しを置きながら、
「これ、日本語で何と言いますか?」なんて質問している。
これ? これは、センマイ。
「センマイ?」
韓国語で何だっけ、チョニョプ?
「천엽」
そうそう、チョニョプ。
「韓国ではそんなのあまり食べません。生はあまり食べません」
生、食べないの? じゃあユッケは?
「牛の、えー、肉食べますけど、えーと、中身あまり食べません」
えー? レバ刺しぐらいは食べるでしょうよ。
「レバ?」
えーと、カン。
「간ですか。カンもあまり食べません」
君が内臓好きじゃないんじゃん?
「そんなことないです」
酒飲まないと、こういうのは食べないだろうからねぇ。君は幾つなの?
「いくつ? 歳ですか、22歳です、韓国だと24」
若っ。日本に来てどれぐらい?
「三ヶ月です」
えー? 向こうで日本語習ってた?
「いいえ、日本に来てからです」
何だ、この流暢さは。
普通に会話が成立してるし。
しかし、よう喋るな。
物怖じしなさはさることながら、自分が好まない品を客にすら提示する図々しさが語学の必須条件と改めて知る。
(了)
最近では13時前に社食に行っても、食べたい(ていうか比較的食べてもいいかな的な)献立が既に食い尽くされており、まるで残っていない。
で、麺類ばかり選んでいる。
週に五回の内訳が、
うどん、そば、うば、うそん、そどん、
もう後半なんて何を食べているのか分からない。
挙句、自宅では、カッペリーニ、フェデリーニ、スパゲティーニ等を繰り返し、パスタの直径で名称が変わるだけのデュラム小麦のセモリナばかり茹で上げている。
麺類の利点は、①完食までが早い、②食欲がさほどなくてもどうにかいける、③安い、ぐらいしか思い付かないが、暑くなると自動的に手は伸びる。
当ビル、クールビズ適用の為に、28度を維持しているという。
ていうか、六月だってのに、外気より高い設定にする必要なんて何処にあるのかと。
いやーな汗を流しながら、今日もまた麺を手繰るのだった。
(了)
紫陽花の季節ですな。
セイヨウアジサイ
実はこの今が旬ってぇ季節花、青酸配糖体なんてぇ聴いたこともない要素を含みますってぇはなしなんですがねぇ、牛、山羊、人が不用意に摂食するってぇと中毒を起こすんですな。
症状がこれまたひでぇことになってましてねぇ、過呼吸、興奮、ふらつき歩行、痙攣、麻痺、挙句の果てに死んじまうってぇ、物騒な劇薬みてぇなんですな。
父と待ち合わせてるってんで、宇田川町に向かいますな。
黙ってても焼酎が出てきましてねぇ、ひとり手酌で飲ってるってぇと、遅れて来た父と酌み交わしますな。
■白イカと鯒(コチ)の造り
父は「メゴチ(女鯒)」か「マゴチ(真鯒)」かと店主に尋ねておりましてねぇ、結果、大きい方の鯒、「マゴチ」でしたな。
実はこの種、雄性先熟なんてぇ性転換を行うってんで、体長四十センチを超えるマゴチ全てはメスってぇはなしですな。
で、青い花の危険性を父には話さず、黙々と箸運びを見守りますってぇと、大根、紫蘇なんてぇのは稀に持ってかれるんですがねぇ、当然飾りでしかないアジサイなんてぇのには手を付けるはずもないんですな。
他に頼んだ品は以下の通りで。
■京都油揚げ焼き
■博多辛子明太子
■穴子焼き
命の遣り取りなんてぇ緊張感から解放されるってぇと、別件で六本木へと向かいますな。
(了)
渋谷より半蔵門線に乗って、神保町で降りる。
文具店にて、硬筆、小筆、筆風サインペンを購入。
祝儀不祝儀も慶弔の予定もないのに、筆記用として持ち歩く。
この街を離れようと明治大学前の坂を上がり、御茶ノ水駅へと向かう。
歩道を歩いていると、半分ほどに減った爽健美茶を頭部に乗せながら満面の笑みで向かってくる中年会社員とすれ違う。
大学生らしい女子から、「キモーイ」なんて指差されている様子。
彼なりの健康法なのか、同僚と交わした罰ゲームなのか判断に苦しむが、何かに疲れているのかと思うと、兎角此の世は世知辛ぇなんて、その刹那、手にしたクリスタルガイザーを頭に乗せるか否か迷うのだった。
(了)
ドリンクのオーダーと飲み干すペースがちぐはぐな為、手ぶら手持ち無沙汰でぼんやりとするしかない以外に時間の過ごし方が分からない男、とりあえずの現状を話してみる。
「結婚はしたいんですよ」
じゃ、すりゃいいじゃん。
「でも違うんですよ」
それは、今の彼女とはしたくないってこと?
「そうなんですよ」
じゃ、別れちゃえば。
「そうもいかないんですよ」
結婚したいって相手を探しなよ。
「それがそうもいかないんですよ」
どうしたいのかなー?
「おめぇに言われたくねぇよ」
あ、なんだ、後輩のくせに。俺より歳上だけどさ。
「いや、自分でもよく分かりません」
じゃあさ、もうずるずるしなよ、ずるずる。
「それがそうもいかないんですよ」
ループしてるぞ。
「あー、もう! おっせぇんだよ、ビール!」
いっきに飲み干すからだ。
「それがそうもいかないんですよ」
いや、もう、いいや、君さ、会話にならんよ。
「何とかしてください(泣)」
って、泣かいでもええやないか。
終電降り過ごして、プチ旅行にならんように、はよ帰りんさい。
(了)
渋谷より山手線に乗って新宿三丁目まで来ましてねぇ、とんとんとんとんと階段を上がるってぇと、ひとひとひとの行列と幟が幾本か見えますな。
新宿末廣亭、六月上席夜の部特別番組、
『五代目柳家小さん七回忌追善興行 小さんまつり一門勢揃い』で御座います。
入場に時間を要したってんで、柳亭 小燕枝師匠と柳家 さん福師匠の口上を聴き損ねましてねぇ、既に演目が始まっている上に立ち見ってぇ有り様ですな。
落語 ■ 柳家 さん福 「浮世床」
越前朝倉家家臣、真柄十郎左衛門の刀が五尺三寸なんてぇ台詞が出てくる、知らない噺でしたな。
落語 ■ 柳家 さん枝 「手紙無筆」
「無筆」ってぇと、読み書きできないってぇことってんで、落語にはよくある、無知無教養な男が知ったかぶりの話にいちいち得心もし感心もするってぇ運びでねぇ、最後まで内容が見えないもやもやいっぱいですな。
落語 ■ 柳亭 市馬 「芋俵 (芋泥)」
市馬師匠、ネタかぶりじゃあ御座んせんか。
山形にある高校に呼ばれて高座に上がったってぇマクラ、「校長の名が高橋与太郎だったんですな」ってぇのもおんなじじゃ御座んせんか。
他の噺が聴きたかったですな。
太神楽 ■ 柳貴家 小雪 (やなぎや・こゆき)
小雪ねえさん、太神楽曲芸ってぇカテゴリーん中じゃあ、きれいめでらっしゃるんでしょうな。
この方、水戸大神楽の宗家の出自てんで、実父である十八世家元、柳貴家 正楽に師事して八歳で初舞台ってぇプロフィールなんですな。
年齢は公表してませんがねぇ、「昭和59年:初舞台」が八歳なんてぇと、あたしのふたっつしたじゃあ御座んせんか。
何故か、柳家小三治一門に数えられますな。
落語 ■ 柳亭 小燕枝 「権助提灯」
マクラ、悋気小咄。
悋気(嫉妬)の果てに女房の浮気が心配ってんで、出掛けたと見せかけるってぇと、即座に自宅に引き返し、間男を探しますがねぇ、見つからないってんで窓から外を眺めるってぇと、全速力で走り去る男を見付け、憤激した男は冷蔵庫を窓から放り投げ、走り去る男を圧死させてるってぇと、自らも命を絶ちますがねぇ、あの世にて尋問が始まりますな。
「どうして死んだのだ」
「それがですね、ジョギングしてたら空から冷蔵庫が降ってきたんですよ」
「お前は?」
「ジョギングしてる無実の男を冷蔵庫で殺してしまい、お詫びのしようも無いので自ら命を絶ちました」
「で、お前は?」
「いや、あれなんですよ、冷蔵庫の中に入ってたら、外に投げられちゃって大変でした」
落語 ■ 柳家 小袁治 「長短」
マクラ、五代目小さんのおかみさんエピソード。
先代小さんは自宅に剣道道場を所有しておりますってぇと、弟子にも稽古を付けていたってぇはなしですな。
夏の暑い盛りに道場で涼んでいるおかみさんが大の字になって寝転んでいるところへ通り掛かった小袁治師匠に対し、おかみさんがなんとなしに放ったひとことがってぇと、
「何も履いてないの」
赤羽に掛かり付けの医師がいるってぇおかみさん、贔屓の先生にタニマチが如くいろいろな贈り物をしていたそうですな。
ある日、胃痛を相談したおかみさん、主治医より「検便を」と言われ、自宅にてそんなに要らないだろうってぇ量が入る容器に目いっぱい詰めるってぇと、「これ先生んとこに持ってって」って食事中に預かった小袁治師匠、化粧箱にそっと入れ、包装紙で丁寧に包むってぇと、赤羽へ。
「先生、おかみさんから預かってきました」
「あ、そう、悪いねー、いつもいつも。ありがとうね、おかみさんによろしく言っといて」
あれ以来、赤羽には降りたことがないってぇ小袁治師匠でしたな。
落語 ■ 入船亭 扇橋 「鶴」
扇橋師匠、素で首がゆらゆらゆらゆらと揺れてますな。
隠居役で揺れてるってぇのは素晴らしい役作りなんですがねぇ、八五郎も揺れるってぇと何だか分かりゃしません。
八五郎が泣く仕草が愛らしいですな。
落語 ■ 柳家 さん八 「替り目」
さん八師匠、夜に犬歯が抜けたってぇんで、とりあえずと食卓に置いてその日はそのまま寝てしまい、翌朝目覚めるってぇと、置いた犬歯が無いってんで探すんですがねぇ、見つからないまま朝餉の時間になりまして、箸を取ろうとすると、箸置きとして第二の人生を歩み始めた犬歯を見付けますな。
お楽しみ ■ 柳家 権太楼・さん喬
権太楼師匠、リクエストにて「奴さん」を踊り、さん喬師匠が拍子木を打ちます。
替わってさん喬師匠、手拭いを姉さん被りするってぇと、「なすかぼ」なんてぇ踊りを踊りますな。
粋でげす。
落語 ■ 柳家 小三治 「小言念仏」
むにゃむにゃとしか聞こえない読経の途中、家人への細けぇ小言が入り、這ってきた孫をあやし、表を売り歩く「泥鰌屋!」と大声で呼び止めるってぇと泥鰌を買い、鍋で煮殺すまでを指導。
扇子を木魚に見立てるってぇと叩き続け、オフビートな時間は過ぎてゆくってぇ運びですな。
ここで、お仲入りで御座います。
対談「二人で言いたい放題」 ■ 柳家 小三治・入船亭 扇橋
扇橋師匠、小三治師匠の並ぶ左右には先代小さんの遺影。
扇橋師匠の先代小さんエピソード。
「師匠は地震が大嫌いでしたね。私が庭で洗濯物を干してる時に地震があって、二階にいる師匠から『オイッ、危ねぇから二階に上がって来いッ』ってのを覚えてますね」
「それだけ?」
「うん」
「他には?」
「別に」
「別にって・・・」
扇橋師匠、自由にも程があるってぇくらいに先代小さんからずんずん話が離れてゆきましてねぇ、「従兄弟が会場に来ている」、「うちの地元にはこんな大きいカエルが」と脱線も甚だしく、おかみさんから教わった曲を唄うってぇと、「それは富山に行った時に地元の人に教わったんだ」と小三治師匠から叱責され、対談ってぇいいますか、扇橋師匠のオフビートな語りに会場は固唾を呑んで見守りましたな。
先代小さんを評して「いい意味で放し飼いでした」という小三治師匠、〆のひとことはってぇと、
「こんな扇橋ですが、皆様どうか宜しくお願いします」
落語 ■ 柳家 小さん (六代目) 「幇間腹」
当代小さんについては特に申し上げることが御座んせん。
幇間(たいこもち)の一八が若旦那の素人鍼に刺され、腹の皮が破れるってぇ、それだけの噺ですな。
奇術 ■ アサダ 二世
漫才、あした ひろし・順子の代演ってぇことですな。
「こう見えても、一門なんですよー」なんてぇどうにも頼りないんですな。
主任 ■ 柳家 花緑 「笠碁」
碁仇のふたりが「待った」「待った無し」ってんで喧嘩別れするんですがねぇ、どうにもふたりだけの碁が忘れられるわけもなく、雨の日に被り笠で出掛けるってぇと、互いに顔を見て口論になりかけるんですがねぇ。「ヘボかどうか、一番どうだ!」ってんで、やはり「碁」で仲直りするんですな。
花緑師匠、何がどうとかってぇわけでもないんですがねぇ、安定感のある振れ幅の少ない高座をこなすんですな。
師匠のべったべたな人情噺なんてぇのも聴きたいもんですな。
追い出しが鳴るってぇと外へ出され、入場前に予約した最寄のタイ料理店を目指して移動しますかねぇ。
(了)
自宅にてBBQを開催する毎にアイテムが増えてゆく。
今回はガスバーナーと炭用トング。
このバーナー、爆発物そのものを手持ちするというひどく物騒な便利器具だが、団扇要らずに相違ない。
当然、筋肉痛になる要素は皆無。
これまで、炭をどうにかする為のトングの代用品として使用していた菜箸が炭を挟む度に燃えて焦げて短くなってしまうのを危惧していたのだから、ステンレス製の使い勝手の良さったらない。
集合時間に来ないにんげんを放置して、焼き方に焼き場を託して焼かす。
まずは牛でもと、手に取った牛肉パックを見ると、「カレー用」とある。
これ煮込み用じゃん。
がしかし、いざ焼いてみると、どんな焼肉用カルビ、ロースよりも食感がよく、塩胡椒だけでもいけると気付く。
気が付けば、「カレー焼いて、カレー」と既に肉とも呼んでいない。
帆立、アスパラガスをバターでどうにかして、エリンギ、ピーマンを鉄板でやっつけ、子持ししゃもを網焼き、焼きそばで〆て終了。
◆◆◆
えーと、深夜にじんましんを発症。
そりゃね、病み上がりに十時間くらい飲んでたら出るもんも出るわいな。
(了)
今週火曜から続いて止まない、じんましんがようやく快方に向かい始めたと素人判断により、わずか三日間の休肝をあっさりと中止して恵比寿へ。
一軒目、日本料理と銘打つ店。
L字型カウンターとテーブル席が幾つか、二階には座敷がある様子。
とりあえず生と告げると、問答無用で大ジョッキ。
お通しが三品並ぶ。
■めじまぐろの造り ・・・ 本鮪の子という。ホンマグロに比べて脂が乗らない。
■じゃが芋と蛸の煮 ・・・ これに甘味が付くと、「いもたこなんきん」。
■(失念) ・・・ 逆さに振っても出やしない。
置いてある銘柄を尋ねると、賀茂泉、一ノ蔵のみの扱いという。
じゃ、それ全部持ってきて。
■生しらす ・・・ しらすにいさんらとよく目が合う。生姜醤油で頂く。
■海老のしんじょ揚げ ・・・ 揚げ立て海老すり身に添えられる獅子唐。小皿に乗った塩で頂く。
二軒目、焼き鳥メインの居酒屋。
一階も地階も満席のようで、若い女子ふたりが並んでいる様子。
当店、午前八時から開店という、そして、閉店は午前五時。
とりあえず生と告げると、ここでもやはり大ジョッキ。
■煮込みどうふ ・・・ これを食べに来たはずが満腹の為に完食できず。
■菜の花にしん ・・・ 同上の理由で箸も付けず。
三軒目、店名がさっぱり分からないバー。
L字カウンター、和装の女と、関西弁の男が並んで飲んでいる。
関係性は不明だが、男は出張で東京に来ているという。
店主に「何か知らないシングルモルトを」と要求すると、何だか分からないボトルを見せられる。
裏側ラベルに手書きにて、
アードベッグ 65%
ラフロイグ 35%
カリラ 5%
とある。
合計100%超えてるのは、この際目を瞑ろう。
次に頼んだシングルモルトの銘柄を失念。
店主に「何これ?」と尋ねるも、「何やろうなあ」との返答。
適当さ加減も含め、関西弁が伝染ってやがる。
じんましんも再発していないので、四軒目と移動します。
(了)
昨日に引き続いての通院。
朝から蕁麻疹(じんましん)。
咳してもひとり、みたいな負の自由律。
治療の為の通院のはずが徒に症状を増やしている状態ってのは、無人島でコンビニ経営するよりも非建設的で、何処にも向かわない路線を敷設しているにも等しい。
何が原因で素面でありながら酩酊状態なったか調べてみる。
処方された薬の副作用は以下の通り。
<タリオン>
眠気 ・・・ それは仕方が無い。
口渇 ・・・ 渇けば水飲むし。
嘔気 ・・・ 心持ち、気持ち悪い。
嘔吐 ・・・ リアルにリバースは無い。
胃痛 ・・・ 痛いことは無い。
下痢 ・・・ 酒飲みは始終壊れてますから。
胃部不快感 ・・・ 「もたれ」を指すならそうかも。
倦怠感 ・・・ だるいし、まっつぐ歩けない。
<アレロック>
眠気 ・・・ これは諦めるて。
口渇 ・・・ 何度も言わすな。
倦怠感 ・・・ タリオンよりも強いと説明を受けてたんで当然だるい。
発疹 ・・・ もうね、じんましんと発疹の区別が付かんよ。
浮腫 ・・・ ふくらはぎがむくみちゃん。
掻痒 ・・・ かゆみ止めを飲んでて「かゆい」って何でしょうか。
呼吸困難 ・・・ 階段上っての息切れは含みますかね。
で、本日処方された、上記ふたつよりも弱めなくすりがこれ。
<アレグラ>
頭痛 ・・・ だいじょうぶ。
眠気 ・・・ 仕方ないってば。
嘔気 ・・・ 食欲はある。
発疹 ・・・ 言われてみれば、じんましんとは違う小さな発疹が認められるな。
浮腫 ・・・ やはり、ふくらはぎがむくみちゃん。
「前のよりはまし」って消極的な理由で投薬を続けてよいものだろうか。
帰りに立ち寄った、実相山 正覚寺
そして、病院帰りに寺に寄るってのも如何なものだろうか。
(了)
目を覚ますと、まだ五時って、全然眠れてねぇじゃん不眠じゃん不足じゃん、ただ横になってただけじゃないのさ、昨日に引き続き、足の甲から上に向かうと額までみっしりとかゆいわけで、塗布する痒み止めも無ければ、全てを忘れる錠剤すらも手元に無いってんで、とりあえず皮膚科に電話しようと、八時二十六分に呼び出し音を鳴らすと、何だか要領を得ない感でいっぱいの若造が出て、「あー、えー、と、八時半からなんで、八時半に」って切りやがんのこれが、急患だったらどうするのかね、え、きみね、取り返しつかねぇ事態になったらさ、良心の呵責に耐え切れまいよってんだ、まあそれで、改めて問い合わせると、「初診は午前中のみの受付」なんて言うから、中抜けしちゃって、向かうわけですよ、皮膚科にね、そしたら、女医、しかも大学生みたいな、わっかりやすく突き放したものの言い方と、必ずタメ口で、目も合わさないし、触診らしき診察も皆無ってもんですよ、医道ってぇのは人道じゃないんですかね、西川先生、あ、でも、唯一の触診は右腕に×ってペンでなぞられたくらいかね、バツって書いた後、「あー、じんましんね」って見りゃわかんだよ、先生よー、まあいいけど、処方箋を受け取り、近隣の薬局へ向かい、マイルドな痒み止め、ハードな痒み止め、クリーミィな痒み止めを受け取り、遅い朝餉を頂くってぇと、頓服いたしますな、ソフトな方面の薬を飲むんですよ、水で、一時間くらい経つと、ぼんやりと、うすぼんやりとしちゃって、まっつぐ歩けないんですよこれが、ふらっふらで、もしかしたら薬が強いのかもなんてふらつき症状を件の病院に訴えたら、四人くらいたらい回された挙句、結論が「ひふ科の先生はぁ、いまいないんでぇ、明日来てくださぁい」なんてもう週刊誌沙汰か刃傷沙汰に発展しかねない発言をしやがるわけですよ、まあ戦う気力も無いし、例のクスリにやられちゃってるんで、駅のホームから転落しないように気を付けながら帰るしかないんですな。
※画像と本文が無関係とは言い切れません。
(了)
健康診断ということで、中目黒より日比谷線に乗り、霞ヶ関から千代田線に乗り換えて大手町へ。
・・・。
どんだけ歩かすんだってくらい歩く。
何だこれ、JR東京駅の方が近いじゃんか。
人から聴いただけの乗換案内を鵜呑みにしてはいけない。
去年もここだったと、自動ドアを抜けて受付を済ますと、有無も言わさず肌着姿にされる。
■採尿 ・・・ 「25ミリリットル、お願いします」って言われても。
■採血 ・・・ 注射を持つのは雑な看護士で、巻いたバンドを外す時に使用済みの注射針が派手に転がる。
■聴覚検査 ・・・ 「高音域が聴こえづらいみたいですね」って、お前、ここ雑音だらけじゃんか、待合室にあるテレビの音がだだ漏れだ!
■視力検査 ・・・ 右0.5、左0.4という。たぶん間違ってる。
■身体測定 ・・・ 数値を聞き忘れる。
■胸部撮影 ・・・ え? 撮った? ってくらい早い。
■診察 ・・・ 去年と同じ女医(推定68歳)。
「何やってる会社?」
派遣業です。
「ふーん、派遣先では正社員にしてもらえないの?」
大企業なんで、たぶん無理です。
「駄目? あ、そう。ところで、何か気になるところある?」
汗が止まりません。
「ふーん、更年期障害でもないのにね。はい、おしまい」
って終わりかよ!
十五分に満たない時間で終了。
岐路に着く。
帰宅後、何故か全身にじんましんが現れる。
痒い。
気が狂いそうだ。
病院帰りに具合が悪くなるなんて、何だこれ。
(了)
世間には、クールビズなんてぇ取組がありますな。
あたしが通ってるところでも採用ってんで、強制的に上着とネクタイを剥ぎ取られましてねぇ、何だか心許無いってぇ言いますか、手持ち無沙汰ってぇ、頼り無い感じなんですな。
挙句ですねぇ、室温が常時二十八度に設定されてまして、外よりも暑いって何処がエコなんだってぇ、本末転倒みてぇなはなしになってますな。
そうなるってぇと、『北風と太陽』ってぇ童話を思い出しちまいましてねぇ、脱がせる為にあっためるなんてぇ何でぇこいつら馬鹿か、なんてぇ不快な心気持ちで御座んす。
ってぇことで、本日の高座は神田小川町で御座います。
『アンダーグラウンド・ブック・カフェ
~地下室の落語会パート2~
「鯉昇、“本の街に”リターンズ!」』
<二ツ目> 瀧川 鯉太 ■ 寄合酒
かなり緊張されていたようでしてねぇ、声も若干震えておりましたな。
「数の子」ってぇ単語がなかなか出てこなくて、
「あれだ、あれ、あれどうした、あれ」なんてぇ繰り返し少し不安になりましたな。
<真打> 瀧川 鯉昇 ■ 竃(へっつい)幽霊
鯉昇師匠、お会いしとう御座いましたな。
手をクロスしたまま現れる幽霊は恨み系だから気を付けろなんてぇいいますな。
それ以外は大丈夫ってぇ無責任なはなしで。
仲入りで御座います。
<画像無し>
<二ツ目 > 三遊亭 遊喜 ■ 長短
三遊亭 小遊三師匠の六番弟子といいますな。
ある日、小遊三師匠より「明日から新しい弟子が来るから」ってんで、
「弟弟子ができる!」なんてぇ喜んだもんですがねぇ、
実は、柳家一門から移籍した兄弟子ってぇ、
後輩の新入社員かと思いきや引き抜きの部長クラスが来たってぇみたいなはなしでしたな。
<真打> 瀧川 鯉昇 ■ 佃祭
三枚目のCDをリリースしたなんてぇ言いますな。
初版が何枚か存じ上げませんがねぇ、わずか十枚しか持参してないと仰ってましてねぇ、
「その半分でいいから買ってって頂けたらと思います、持って帰るのは重くて嫌ですから。
CDですからね、こうやって吊るしとくと、カラス避けにもなりますし」
なんて、だいぶ自虐的なんですな。
般若湯なんてぇ目指し、総武線に乗って移動しますな。
(了)
良く晴れているって理由で日中から外へ出て、世田谷近辺を徘徊。
日暮れの時刻、下高井戸にいる。
メール着信。
『暇だったら今日ご飯しよ、急ですが』
誰?
メアドは登録されてない様子。
自分の知っている誰かが、メールアドレス変更後に通知してないことを失念していて、当然のように無記名で送信してくるのなら、黙殺するのもあれだし、誰かのアドレスと間違えているのなら、今日の飯の話だし注意を促すのも人の道かと思い、やんわりと返信してみる。
5分後に着信。
『みえです』
知らん。
たぶん間違いではないだろうかという旨返信する。
15分後に着信。
『すみません。失礼しました。もしかして五月にも間違えてメールしましたか?』
それは無いな。少なくともその時は間違えてなかったのだな。
っていうのが縁で今の妻と一緒になりました。(嘘)
(了)