健康診断結果表を受け取る。
・・・。
再検査こそ免れたものの、一歩手前の評価が幾つか。
結果は以下の通り。
※BE=異常がありますので、食事療法が必要です。
■脂質・・・BE、中性脂肪が厭な数値に。
■肝機能・・・BE、γ-GTP数値が基準値の2倍に。
■注意事項・・・「GPT、γ-GTP、中性脂肪上昇あり。お酒、食事に注意して下さい」
うるせぇッてんだ、こん畜生!とばかりにその場で破りすてるのは、大人としてどうかと思うので慎むことにして、いっそ再検査になって適切な処置を受けたいとさえ願うのだった。
(了)
たびたびありがとう、ありがとうございます。
なんどももうしあげますが、みなさまのやさしさだけで、
そのやさしさおんりーでかろうじていきながらえておるしだいでございます。
くちはばったいかぎりではございますが、こんごのてんかいとしましては、
やはり「じょしりょく」をあげてゆきたいとねがっておるしだいでございます。
ねまわし、かけひき、すたんどぷれい、あるとあらゆるそでのしたもじさず、
こずるく、こすっからく、ひととひととすきまをおよぐような、ぬってゆくような、
それでいてついでにいきているようなきもちでまいります。
みたびのいおねがいではございますが、みなさま、
こんごともごひいきにと、ただただへいしんていとうでございます。
(おわり)
突然の雷雨の響きで目を覚ます。
って、寝るの早過ぎ。
うっかりとソファーで気絶していたらしく、飲み掛けだったグラスの中の氷は既に溶けている。
時折宵闇が白く光るのが目に新しく、稲妻を見ながら再び酒を口にする。
肴は雨音と稲光で。
(了)
数ヶ月振りにですよ、部屋の模様替えなんてしてみました。
もうね、こんな季節ですから、埃と汗にまみれて、家具とがらくたの区別なんてつかなくらいの散らかしっぷりで、何だか色んな事がジャッジできなくなっちゃいますよね、疲れちゃって朦朧としてて。
自宅の機器構成がPC2台に対してディスプレイ1台ですから、貧乏臭い話ですが、ディスプレイ切替器が何処かにあったはずだと家捜しするんですがね、見つからないんですよ、これが。
本来の目的を完全に見失ったまま疲労困憊の体でもうモチベーションなんてゼロですよ。
終いには酒なんて飲み出したりなんかして、逃避行動も甚だしいんですね。
無骨な色のPCラックとキャスター付きの椅子を排除しまして、PC回りを暫定的に床置きしてみたところ、どうにも使い勝手は悪いんですよ、やっぱりディスプレイ1台っきりですから。
挙句、自宅の照明がアジアン家具なんで、必要以下の暗さで、室内での行動はアウトドア用のヘッドライトに頼らざるを得ないんですね。
絵的には完全に「泥」なんですよね。
自分んちなのに後ろめたーい気分で室内を徘徊してますよ。
広い部屋に引っ越したいと痛感した瞬間ですね。
あ、来月は部屋の更新かも。
それでは秋も近付く頃、広尾の高層マンションでお会い致しましょう。
(了)
前日、うっかり日付を間違えましてねぇ、さん喬師匠を拝聴できまして、期せずして「さん喬・喬太郎親子会」ってなもんですな。
『第七回 特撰落語会』
前座■柳家 小んぶ 「道觀」
「七重八重 花は咲けども山吹の 実の一つだに無きぞ悲しき」
真打■柳家 喬太郎 「へっつい幽霊」
「圓朝祭だぁ、知ったこっちゃねぇやい! 新作やらせろってんだ! ってわたし何怒ってんでしょうね」
中入
膝替り■柳亭 左龍 「片棒」
「先日バンクーバーに行ったんですよ、紙切りの師匠とうちの師匠と。まあ、楽しい旅でしたよ。・・・嘘です、終始いらいらいらいらしたんですけどね。で、ドライブしたらですね、ホテルで車上荒らしに会いましてねぇ、ガラスなんて割られたんですけどね、いいホテルだったんですぐに修理してくれました。ただいいホテル過ぎたんですよね、その差額ギャラで欲しいってんですよ」
トリ■柳家 喬太郎 「牡丹灯籠」
喬太郎師匠、女中の「米(よね)」と武家の娘「露(つゆ)」を云い間違え、そのダメージを笑いに昇華してましたな。
読経の場面では「清澄白河打ち上げ場所が少ない」と盛り込んでおりましたな。
新三郎が露に連れて逝かれた後のエピソード、伴蔵に妾がいると覚った峰、伴蔵に殺害されるまでをシリアスに演じてましてねぇ、伴蔵の逆ギレ演技は白眉でしたな。
清澄白河、師匠の仰る通り打ち上げ場所が皆無に等しいってんで、別の地へと移動しますな。
(了)
前日の痛飲を無理ぐり早起きに変換するってぇと、足取りも不確かなまま銀座線に乗っかりまして、目指すは上野広小路。
上野鈴本演芸場、昼の部で御座います。
時間前にたどり着いてるってぇのに既に満席に近く、何とか壁際の席を確保しましてねぇ、周りを見回すってぇと、あたし以外の客のほとんどが弁当使ってるんですな。
さらくち■柳亭 市朗 「芋俵」
前座の仕事は高座に上がってる間に人を着席させることなんでしょうな。
落語■柳家さん弥 「熊の皮」
「熊の皮って何でできてるんですか?」
「何って・・・。これ以上は説明のしようがないな」
ギター漫談■ぺぺ桜井
『禁じられた遊び』を爪弾きながらの『浪花節だよ人生は』
「飲めと言われて~素直に飲んだ~♪」
果ては、ハーモニカ吹きながら唄うんですな。
落語■柳亭左龍 「お菊の皿」
「お菊煎餅なんて十枚入りって表記があるのに、実際には九枚入り」
落語■柳家はん治 「ぼやき酒屋」
「昔はいい歌がたくさんありました。最近は、何ですか、ポーニョポニョポニョって」
居酒屋の大将にぼやく客、「実は俺も居酒屋なんだ」とサゲますな。
漫才■あした ひろし・順子
「今年でこの人も後期高齢者になりましたー」
ひろし師匠の「渡る雁がね~♪」なんてぇ唄いに感じた客席からの「上手いっ」との掛け声に「ひぇぇぇぇ」と二メートルも退く師匠、素なのか仕込みなのか順子師匠の後ろに隠れますな。
「この人、気が小さいんですよー」
落語■三遊亭 金馬 「(演目不明)」
熊川なる老人と寅山なる老人における身体悪い自慢なんですな。
最終的にはどちらも死んだことにして、「うちは一周忌だとそう言え」とサゲますな。
落語■柳家 小袁治 「金明竹~山形弁」
「上野界隈を歩いてると、談志兄さんとよく会うんですよ。待ち伏せてじゃないのかってくらい。『お、俺な、六時半まで空いてる』って聴いてないのに飲みに連れてかれて。こっちが気を遣って『兄さん、今日はご馳走させてください』っていうと、普通は『いいよいいよ、俺が払うよ』って言うんですけどね、談志兄さん、当然みたいな顔して『あ、そう、悪いねー』って」
小袁治師匠のおかみさんが山形出身ってぇ云いますな。
及位(のぞき)なんてぇ、珍なる名の地域の方らしく、かつて修学旅行で日比谷公園まで訪れた時の園内アナウンスが、
「及位(のぞき)中の皆さん、及位中の皆さん」
なんてぇ呼び出しで大変恥ずかしかったってぇはなしでしたな。
「それで、品は買ったのかい?」
「けろーけろーって云ってましたからねぇ、蛙(かわず=買わず)」
太神楽■翁家 和楽
和楽師匠には大変申し訳無いんですがねぇ、ここで中座しまして次は仲入り前で御座います。
落語■柳家 権太楼 「子褒め」
ゴルフを共通の趣味とする夫婦、妻がパー5のホールでグリーンに2オンってんで、人生初のイーグルを前にして「これ入ったら死んでもいい」との発言に、旦那がうっかり「OK」なんてぇ返したばっかりに、それ以来夫婦は口を利かなくなったってぇマクラでしたな。
「初七日かい?」
「お七夜ってんだよ!」
ここでお仲入りで御座います。
漫才■昭和のいる・こいる
岡 晴夫の歌なんぞ唄ってらっしゃいましたな。
落語■三遊亭 歌武蔵 「(相撲漫談)」
「北ノ湖すごいですよ、中卒で理事長ですよ。小学校の時オール1だったらしいんですよ。相撲取りが体育も1っておかしいんですがね、でんぐり返しができなくて1だったらしいですね」
「花火のシーズンですから、若者も浴衣着ますね。駅で後ろから見てると、うわー高いの着てんなー、帯もいいの巻いてんなー、って下みたらビーサンなの。それは止めろって。ですからね、皆さん、彼らに注意喚起促すか、ビーサンの踵を踏んでやってください、それが彼らの為だから」
落語■橘家 文左衛門 「千早振る」
質問する側、百人一首すら云えなくて、
「えーと、あれ何だっけ、百姓一揆?」
「打ち首獄門になっちゃうよ、それじゃ」
「えーと、えーと、百人組手?」
「それじゃ、極真だよ」
と続きまして、サゲの「とは」の謎に触れるってぇと、
「喬太郎に任す」
なんてぇ楽屋に帰っちゃうんですな。
曲独楽■三増 紋之助
夏だからと、向日葵の付いた風車が涼しげに回転しますな。
夜主任■柳家 喬太郎 「すみだ警察一日署長」
文左衛門師匠の謎を提起された喬太郎師匠、隅田川に浮かぶ屋形船を文左衛門にシージャックさせ、「千早振る」を絵解きするんですな。
「血はヤプール、神谷も効かず立つ田川、花緑レナウン水潜るとは」
「とは」の謎は解けないままのサゲとなりましてねぇ、これで打ち合わせ無く即興でしたら大層驚きますな。
追い出しが鳴り、外へと出ましてねぇ、デテケデテケと出てゆきますな。
さて次はってんで、『第七回 落語特撰会』の前売券を握り締め、大江戸線で清澄白河に移動しますな。
深川江戸資料館小劇場に到着しますってぇと、
『第百回 さん喬を聴く会』?
手にした『第七回 落語特撰会』の前売チケットを眺めるってぇと、日付は明日なんですな、これが。
ついでだからと当日の整理券を受け取るってぇと、十四番。
「立ち見かもしれません」なんてぇ告げられ、がっくりとしますがねぇ、意外とすんなり入場の上、前列に着席と相成ります。
柳家 さん喬■道觀
五代目小さん師匠より稽古付けて頂いた唯一の噺なんてぇ云いますな。
柳家 さん喬■権助芝居
柳家 小せん師匠から習ったなんてぇ聞こえましたが、記憶は曖昧なんですな。
柳家 さん喬■替わり目
先代雷門 助六師匠から習ったなんてぇ聞こえましたが、記憶は曖昧なんですな。
柳家 さん喬■締め込み
林家 彦六師匠から習ったなんてぇ聞こえましたが、記憶は曖昧なんですな。
柳家 さん喬■おしゃべり往生
メモには「鯛の煮凝り」、「弔いは静かに」となるんですがねぇ、やはり記憶は曖昧なんですな。
柳家 さん喬■幾代餅
ここまで二時間、さん喬師匠、時間を忘れての高座ですな。
中入
柳家 さん喬■鼠
「絵本落語版」ってぇはなしなんですがねぇ、尺が短いからでしょうかねぇ。
柳家 さん喬■長短
いわゆる袖に入る際における三服目の火種の外しが見事でしたな。
柳家 さん喬■妾馬
まさかの九席で御座いました。
二軒を梯子しての七時間、座り疲れを払おうってんで、般若湯なんてぇ目指して移動しますな。
(了)
渋谷から銀座線に乗り、表参道で千代田線に乗り換えるってぇと、たどり着いたは北千住。
かの地に割烹くずしなんてぇ魅リキ的な名で魅了して止まねぇ立ち飲み店がありますな。
外から中を窺うってぇと既に満席、満卓の様子ってんで、やきもきと店頭の黒板で本日の品書きを眺めてますと、入れ替わりに出てゆく初老の殿方らを見送り、中へと案内されますな。
生麦酒から始まり、本菊水を冷やで頂きますってぇと、後は以下の通りで御座います。
■帆立しんじょう
■しらす山椒
■めいち鯛刺し
■たこ桜煮
■ゆずあんかけ
■とり貝刺し
■かますなめろう
くーっと猪口を空けるってぇと、次の酌なんてぇもどかしく、「親父ィ、丼鉢に入れて持ってきゃがれッ」なんてぇ悪態を吐き吐き、千住の宵は愈々深まってゆくので御座います。
(了)
きのうのまよなかのことです。
ていうか、ひづけでいうと、きょうになったばかりのじこくです。
ちょうどそのとき、ぼくはしんじゅくくにいました。
きんぱつのおにいさんのまえにすわって、のみものをのんでいると、
からだがぐらぐらっとゆれて、めのまえにならぶちゃいろいえきたいがなみなみとはいったぼとるがゆらゆらとゆれているようにみえます。
なんだろう、つかれているのかな、てつぶんがたりないのかな。
すると、となりにすわるしらないおねえさんがぼくにこういいました。
「じしん?」
たぶん。
それがきのうにおける、さいしょでさいごのかいわでした。
ひととひとはたがいにささえあっていきているのです。
(おわり)
良い意味で舞台俳優に見えなくもない、自分よりも少し年上の同僚、個性派なんて但し書きが付くと、途端に生涯主役を張れない立ち位置に転落もしかねない。
「最近は真っ直ぐに帰ってるよ」
へー、誘惑に強くなったねぇ。
「家に待ってるからさ」
嫁と別れたばっかりのくせに、もうそんなのがいる!
「別れた別れた言うなって、これでも意外とハートブレイクなんだから」
そんなうわっついた軽ーい横文字に同情は無い。
「犬を」
何をー?
「ミニチュアダックスなんだ」
またそんなかわいらしいのを。
「ごはんをあげにさっさと帰るってのよ」
ははん。
「鼻で笑ってやがる」
それは嫁と別れる前から居たの? それとも後?
「あ、後だよ」
へー。で、名前は?
「・・・愛」
えー?
世の中に替わりなんて無いんですよー。
どんだけ飢えてるってんだ。
(了)
駅にある掲示板がその存在意義と利用価値を失って久しい昨今、確信犯的にチョークを握った誰かが不特定多数に対して何かを書いていると信じている。
改札を抜けると、それはある。
視界に入ったのは、文章の九割九分がひらがなの白墨文字。
「わたなべくん
お兄ちゃん
ちゃんとして
ちゃんとしてー
まゆ」
もうね、分かち書きって概念がどれほどありがたいかって分かる瞬間ね。
「まゆ」が「わたなべくん」と「お兄ちゃん」に対して「ちゃんとして」欲しいってのは伝わるが、そんなもん内輪でやれと、掲示板に書く内容かと。
この「お兄ちゃん」が血縁ではなく呼び方としての「お兄ちゃん」とした場合、途端に話は下世話になるのだが。
(了)
「おぅ、にいちゃん、ご苦労さん。つけとどけの件やろ?」 「やろー?」
は、ええ、まあ、ここに置き、置きます。
「悪いなぁ、ほんま。にいちゃんには感謝してるんやでー」 「やでー」
は、恐縮でし。
「でし、て。そないに緊張せんでもええがな。にいちゃんがちゃあんとびしっと、つけとどけ忘れずにおったら何んも心配あらへんて」 「あらへーん」
は、心得ておりますです。
「で、今日は何持ってきてくれたんかな」 「たんかなー」
こ、これ、これです。
「何や、これ。あ、こらあかん、あかん、あかんて」 「あかーん」
あ、お、お気に召しませんか?
「猫にイカはあかんて」 「あかーん」
腰を抜かすからかい?
「あ、こいつ、急に態度変えやがったな」 「がったな」
もう、こんなことは今日限りだ! えい!
「わっ、しかもぎょうさん置いてきやがった。どうなっても知らんぞ!」 「らんぞ!」
イカを捨てる ・・・ 3点
(了)
三連休の二日目、さっぱり予定が無いところに無理ぐりねじ込んでの外出。
先週購入した下駄、既に桐製の台にひび割れが見られ、暇に明かした闇雲な歩行における酷使の結果だろうと諦めざるを得ない。
からころからころと目的地を目指す。
到着。
入れ違いに出てきた女子ふたり組、「暑いねー」なんて日傘を拡げ去ってゆく。
中に入ると、その女子らが座っていただろう席しか空いていない様子。
着席。
店内には二匹のフレンチブルが昼寝している。
扇風機前に陣取り、涼しげなことこの上ない。
銘柄は失念したが、ドラフトビールを。
何かのひとつ覚えの如くアヴォカドバーガーも。
手前よりフレンチフライ、アヴォカドバーガー
ハイタワァ
「いやん」
フレンチフライのソルト&ペッパー具合はややきつ目としても、厚みのあるバンズ、肉厚なパティ、刻まれたピクルス、スライスされたトマト、しゃっきりレタスをはさんで盛って積まれた高さヴィジュアルは、完食後の征服感という別効果を産む。
最来店も考慮し、割れた桐下駄を履き直して、からころからころと店を後にするのだった。
(了)
下谷山崎町から麻布絶口(ぜっこう)釜無村木蓮寺までの道中付けで御座います。
「下谷の山崎町を出ましてあれから、
上野の山下ィ出まして三枚橋から広小路、
御成街道から五軒町へ出まして、
其の頃堀様と鳥居様という御屋敷の前(まい)を真っ直ぐに、
筋違(すじかい)御門から大通りィ出まして、
神田の須田町から新石町、鍛冶町から今川橋、
本白銀町、石町から本町ィ出まして、
室町から日本橋を渡りまして通四丁目、中橋から南伝馬町ィ出まして、
京橋を渡って、新橋の通りを真っ直ぐに、愛宕下ィ出まして、
天徳寺を抜けて神谷町から飯倉六丁目へ出た。
坂を上がって飯倉片町、其の頃お亀団子という団子屋の前を真っ直ぐに、
麻布の永坂を下りまして十番へ出て、
大黒坂を上がって、一本松から麻布絶口釜無村の木蓮寺ィ来た時には、
随分皆草臥(くたび)れた」
あたしもくたびれた。
(了)
山号寺号で云うところの金峰山本妙寺、奥に見えるは聖心女子学院
先日訪れた白金を振り返ってみるんですな、なんせ暇でげすから。
住持を訪ねるってぇと、当代で三十三世なんてぇ仰いましてねぇ、旧本寺名が身延山久遠寺ってんですから、身延も遠くなりにけりなんてぇもんですな。
自分で云ってて意味分かりませんがねぇ。
不勉強で甚だ恐縮なんですがねぇ、旧寺格は紫、通師法縁なんてぇ申しましてねぇ、本尊勧請様式なんてぇのは、曼茶羅と仰いますな。
祖像は説法像、仏像なんてぇのは、祖師像、鬼子母神像があるんでげす。
元和三年なんてぇいうと、西暦で1617年の創立ってんですから時代が入ってるってなもんですがねぇ、本妙院日瑞が開山した当時なんてぇのは碑文谷中丸にありましてねぇ、寛文四年に現在の白金に移転し、弘化二年には焼失なんてぇ憂き目に遭うんですな。
更に昭和二十年、東京大空襲なんてぇ戦災で焼失し、昭和二十四年に再建したのが現在の御姿ってなもんです。
門前の通りを真っ直ぐ歩くってぇと、恵比寿に着くってんで、下駄履きの頼り無い足取りで向かってみますかねぇ。
(了)
黄色い電車、総武線に揺られるってぇと、浅草橋なんてぇ駅で下車しまして、ホームにある看板を声に出して読むてぇと、
「ここは浅草駅ではありません
浅草橋駅」
なんてぇ、洒落にも落ちにもならねぇ注意書きがあるんですな。
西口から出ますってぇと、地図通りの道順で歩きますな。
『第四十四回 鳥越落語会』
会場は四階ってんで、エレベーターに乗るってぇと、降りた階には黄色いポロシャツ、ベージュの半パンにサンダル履きで顔色がやたら悪い何処かで見た顔がうろうろーうろうろーしてましてねぇ、受付の若ぇ姉さんらとわーきゃーなんて拍手して盛り上がってるんですな。
・・・あれは紛れもなく、喜多八師匠でした。
師匠、開演時間十五分前ってぇのに、まだポロシャツ着たままでしてねぇ、コンビニ帰りかってぇくだけっぷりでしたな。
大入りってんで、御膝送りと相成りましてねぇ、ちょいと前に椅子を詰めるってぇと、補助席を一列増設するんですな。
前座■春風亭 昇吉 「薬罐」
春風亭 昇太師匠の弟子一年目ってぇ云いますな。
マクラの声質にやや不安を感じましたがねぇ、噺に入るってぇと俄然テンションが上がりますな。
落語の中で講談に入るってぇと、扇子で腿を激しく叩くってぇ運びと相成りましてねぇ、常々思うんですが、稽古本番含めて痣だらけなんでしょうな。
川中島合戦の最中に那須与一が現れ、敵将が兜の代わりに被る水沸かしを矢で射るってぇと、「かーん」と鳴りますな。
「だから、ヤカンってんだ」
真打■柳家 喜多八 「付き馬」
マクラ、「新宿末廣亭の楽屋入り口に『半ズボン、サンダルでの楽屋入りはお客様の手前、止めて頂きたく』ってぇ貼り紙がありましてねぇ、まさか私じゃないだろうと思ったら、(橘家)文左衛門宛てだったんですけどね。あいつ、一度封書で忠告されてんですけど、二度目だからってことでって貼り紙されてましたね」
足りない勘定を取り立てる若い衆を「馬」なんて申しまして、家まで付いて来るってんで、「付き馬」なんてぇ云いますな。
吉原の女郎屋で一晩明かす男、手持ちは無いからってんで、掛取りのお足を勘定に当てるってぇと、若い衆を連れて大門から出ますってぇと、湯屋で湯に浸かり果ては雷門まで歩くんですがねぇ、苛立つ若い衆に早桶屋の叔父から借りようと店先まで連れましてねぇ、主人には「あの男の兄が腫れの病で急死したってんで、図抜け大一番小判型の早桶を」なんてぇ注文をするってぇと、若い衆を呼び、「拵えてくれるって」なんてぇ告げて去ってゆきますしてねぇ、まんまと男に逃げられた若い衆、お前が間抜けだったんだ、と早桶屋の主人より無理ぐりに図抜け大一番小判型の早桶を背負わされるんですな。
「奴! こいつの馬やって来い!」
膝替わり■五街道 雲助 「死神」
楽屋にて席亭と喜多八師匠から「怪談噺を五十分たっぷりと」なんてぇオファーされてたんですけどねぇ、「さらってない噺は急には無理」ってんで断るんですな。
で、「『死神』なんてぇどうですか」と返すってぇと、「いいですねぇ」と良い返事を貰うんですがねぇ、
「あの二人は知らないんですよ、私の演る『死神』」が短いってのを。折角のクライアントからの要望なんで、『死神』を演らせて頂きます」
なんてぇ始まるんですがねぇ、やっぱり有言実行ってなもんで、枝葉末節を切り落とすが如く短い『死神』なんですな。
「お前の二本の足では逃げ切れまい、わしは空を飛ぶからな」なんてぇ伸び上がる雲助師匠が秀逸でしたな。
ここでお仲入りで御座います。
トリ■柳家 喜多八 「黄金(きん)の大黒」
「ほんとはねぇ、『三方一両損』にしようかと思ったんですがねぇ、二十人くらいなら演ろうかなと思ったんですが、今日はいっぱいなんで止めときます」
大家の倅、砂場で黄金の大黒像を拾うってぇと、祝いだってんで、長屋の住人を招き宴を開こうとするんですがねぇ、誰かの余計な入れ知恵で「羽織を着て口上しないと膳にありつけない」なんてぇ運びで、一枚の羽織を全員で着回すんですねぇ。
金ちゃんと呼ばれる、与太郎ライクなポジションの男のテンションが素晴らしいんですな。
四席にてお開きで御座います。
(了)
「にいちゃん、何か用か」 「用かー」
あ、いえ、お休み中のところお邪魔しました。し、失礼します。
「お、待て待て。にいちゃんな、そらないわ、愛想ないわ」 「ないわー」
あ、いや、すいませんでした。白いのが少し見えたんで何かなあと思って。
「あ? 何や、『白いの』って、わしか?」 「わしかー?」
いや、三毛の方ではないと思います。
「当たり前やないかい。『白いの』って言い方あるかい、あ?」 「あるかーい」
は、お気に障ったのなら謝ります。すいませんでした。
「にいちゃんな、口の利き方気ぃ付けなあかんで、ほんまに」 「あかんでー」
はい、気を付けます。すいませんでした。
「そやな、こいつにしよか?」 「こいつこいつ」
な、何がですか?
「わしらよう働かへんねん。明日っからつけとどけ頼むわ」 「頼むわー」
えー?
「逆ろうたら大変やでー」 「たいへーん」
どうなりますですか?
「そんなん怖ろしゅうて言えへんわ」 「言えへーん」
猫に骨までしゃぶられる ・・・ 1点
(了)
真夏日のこの日、部活きぶんで港区に来ている。
炎天の下、よくない類の汗を流しつつ、目的地に到着。
フードメニューよりも、とバドワイザー・ドラフトを頼む。
で、選ぶ。
■アボカドチーズバーガー
バンズ中心
ほどよいサイズ
フレンチフライの揚がり具合、これまで食べたことの無い絶妙な食感なのだが、文章で説明が出来ないのが口惜しい。
厚めのバンズにはさまれ、ほどよくとろけたチーズとアボカドがパティと絡み合い、間を置かずに完食。
どの駅からも近くないが、再来店も一考しようと、慣れないバスに乗って渋谷区に向かいます。
(了)
前日の痛飲から一睡もしないままに家事なんてぇこなしますってぇと、睡魔なんてぇ何処吹く風ってなもんで、用も無くがら空きの週末に気付くんですな。
で、新宿末廣亭、昼の部で御座います。
落語■柳家 権太楼 「代書屋」
「・・・露店にて饅頭商を営む、と」
「いやそれが、ショバ代高くてそれはやってねぇんだ」
落語■入船亭 扇橋 「道具屋」
「そのタコ(ステテコ)見せてくれ」
「タコ? あー、弾が当たって名誉の戦死~♪」
お仲入りで御座います。
「本日は浅草演芸ホールへお越し頂きありが・・・大変失礼致しました。只今のご案内は、前座のやいばでございます」
津軽三味線■太田家 元九郎
津軽アイヤ節、十三の砂山、津軽じょんがら節~春夏秋冬(リスト作、ラ・カンパネラ含む)。
落語■古今亭 菊丸 「子褒め」
「初七日かい?」
「この野郎、お七夜ってんだ!」
夕立な雰囲気になって参りました。
物まね■江戸家 子猫
子猫、「リクエストをどうぞ」なんてぇ客席に問い掛けるんですがねぇ、
「蝸牛(かたつむり)」、「蚯蚓(みみず)」、「土竜(もぐら)」なんてぇ、意地が悪いんですな。
「鶯(うぐいす)」との声に、「まずはうぐいすから始めさせて頂いて、時間があったらかたつむり、みみずと続けましょう」と逃げますな。
「鶯」・・・云わずと知れた「ホーホケキョ」。
「不如帰」・・・「ホトトギス」と聞こえますな。
「ホオジロ」・・・昔から「一筆啓上仕り候」なんてぇ啼くらしいんですがねぇ、どちらかと言うと「サッポロ一番味噌ラーメン」と聞こえますな。
「鵤(いかる)」・・・意味は無いですが「お菊二十四」と啼きます。
鈴虫、松虫の違いを啼き分けた辺りで、夕立と雷が。
「雨が降って来たんで、最後にかたつむりをやります」
ちっ
「有難う御座いました」
えー?
落語■古今亭 志ん橋 「不精床」
「瘤に当たったらそのまま落としちゃえ」
落語■柳亭 市馬 「山号寺号」
山形高校に招かれた市馬師匠、与太郎噺を始めると、「おぅ、与太郎じゃねぇか」なんてぇ第一声だけで場内割れんばかりの爆笑。
「後で訊いたら、校長先生の名が高橋与太郎ってぇいうんですよ」
市馬師匠、「考え落ち」の例を挙げますな。
侍の帯が緩むってぇと、挟んだ印籠が落ちて、茶店の主人、「食事はいかがで御座いますか」と、帯が緩んだのは空腹だろうってぇことらしいんですがねぇ、説明が要るってぇのは面倒なんですな。
続いて「トントン落ち」。
金毘羅の祭の日付を尋ねる男、小僧より「五日六日」と教えられ、得心して店を後にするってぇと、間違いを正された小僧、男を追い駆けますな。
「もし、もし、五日六日の方、五日六日!」
「なんかようか」
「九日十日」
太神楽曲芸■翁家 和楽社中
毬の曲芸に始まり、ナイフ投げに。
「ナイフ投げの間に和助を立たせます」
「僕ですか?」
わざと大きめサイズのナイフなんてぇ落としてみたりして、ドギー&マギーてなもんです。
昼主任■柳家 小満ん(古今亭 志ん輔:代演) 「塩原多助~四つ目小町」
昌平橋より身投げ未遂の多助、炭屋へ奉公と相成り、或る日盲いた女乞食が訪ねてくるてぇと、実は多助を殺めようとまでした継母の亀。
多助は水に流して亀を引き取り、近所でも評判となるんですな。
大家の娘、花に見初められ嫁入りと相成ります。
「本所に過ぎたるものあり、津軽大名、炭屋塩原」
二階席から階下の桟敷席へ移動しますな。
入れ替え無しでの夜の部で御座います。
前座■三遊亭 たん丈 「出来心」
「下駄を忘れた」
落語■三遊亭 亜郎 「動物園」
出囃子が鳴るってぇと、これが『ボレロ』なんですな。
ブラックライオンvsホワイトタイガー、どちらも雇われたバイトくんなんですな。
民謡■柳月 三郎
「すぐ終わりますから」なんてぇ、じょんがら節を爪弾き爪弾き連呼し、弾き終えるってぇと、「はい、終わりました」と去ってゆくんですな。
代演■橘家 文佐衛門(林家 彦いち:代演) 「道潅」
「あたしの名前、番組表にはありませんよ。彦いちが悪いんですよ」
人を喰った態度の八五郎、腕掻きの仕草がリアルで怖いんですな。
落語■三遊亭 丈二 「レンタル・ヒデオ」
目に優しくない青い羽織で登場ですな。
マクラでは、川崎出身なのに「小田原丈」なんてぇ前座名を付けられて難儀したってぇはなしですな。
実はレンタルされていたというヒデオ、返却期限はとうに過ぎていると母親から告白されるんですな。
「レンタルヒデオ、消えないように爪は折ってあります」
漫談■ひびき わたる
煙管漫談なんてぇカテゴリーがあるのか不明ですがねぇ、相撲審議を演ってみたりと忙しい芸風なんですな。
落語■三遊亭 歌之介 「勘定板」
いわゆる、はばかり噺なんですな。
全国区ではブースん中にに便座がでんとあるってんですがねぇ、遠方の島では海に「勘定板」なんてぇ板っきれを浮かべるってぇと、そこで用を足すんですな。
島の者が品川まで観光に来るってぇと、勘定板がねぇってんで、宿の若い衆に頼むってぇと、「勘定」と勘違いし、算盤を持参致します。
「それはどうやって持ってゆくんだ?」
「ええ、まあ、懐に入れて」
落語■夢月亭 清麿 「東急駅長会議」
西武は死んだなんてぇ危険な発言も飛び出す、新しい「鉄道落語」。
各駅しか止まらねぇってんで、多数決で急行駅と入れ替えが決まりますな。
で、東急の日、つまり十月九日、一日っきりの入れ替えの日、地方在住の方をどスルーした東急東横線のマイナーなはなしが続くんですな。
菩提寺にゆくってんで、老夫婦が急行で祐天寺を目指しますんですがねぇ、目的地に到着するってぇと、夫は既に他界してるんですな。
「祐天寺でお爺さんも止まる」
太神楽曲芸■鏡味 仙三郎社中
毬と傘の曲芸から笊に続くんですがねぇ、一枚落としちまいますな。
後でみっちり小言なんですかねぇ。
落語■柳家 小ゑん 「フィッ」
第五の感情なんてぇ、短編SFみてぇな設定なんですな。
落語■川柳 川柳 「ガーコン」
「こんばんは、福田総理です」なんてぇ、川柳師匠確かに似てますがねぇ、眼鏡だけじゃんってぇ意見もありますが。
血管が切れそうな軍歌歌唱と口ジャズ、最後はエアー脱穀機を操ります。
本日二度目のお仲入りで御座います。
くいつき■三遊亭 白鳥 「アジアそば」
インド人が経営する日本蕎麦屋、従業員がイスラム教徒だったりするってぇと、同業者から、「お前そんなネタ演ってたらいつか殺されるぞ」と諭されるんですな。
「さすがは蕎麦屋、手打ちがうめぇや」
漫才■昭和のいる・こいる
「一本で締めましょう」なんてぇので、一本締め。
ひとりで盛り上がってるのを醒めた目で見ている相方に、「向こう行けよ」なんてぇ邪険にされるってぇと、「嫌だよ、金払わなきゃいけないし」
落語■林家 しん平
『桃のふくらみ』なんてぇ番組を録画しているのを公表してますな。
グラビアアイドルがどうとかってぇ説明してましたがねぇ。
時代劇漫談ってぇ内容で、桃太郎侍、月光仮面、暴れん坊将軍のエピソード、突っ込みどころ、殺陣をリズムよく流してゆきますな。
落語■春風亭 一朝 「看板の一(ピン)」
賽の目博打で看板の一に賭けさせるってぇと、笊ん中は五(ぐ)なんてぇ技を使おうとするんですがねぇ、所詮は付け焼刃、上手くゆくはずもないんですな。
「あっ、中もピン」
紙切り■林家 正楽
「相合傘」に始まり、「夏祭り」、「朝顔」なんてぇ時節柄を切り抜きますな。
夜主任■三遊亭 圓丈 「薮椿の陰」
コモンロールの巨大犬が一家の前に現れるってぇと、離れ離れだった親子がひとつになるってぇ、人情噺なんですな。
「圓丈、愛犬シリーズ、『薮椿の陰』での一席で御座います」
般若湯、般若湯とうわ言のように呟きながら、七時間座りっぱなしのカラダを持ち上げるってぇと、呆れるくらいの人いきれに紛れてゆきまして、いつもの土曜日で御座います。
(了)
(工期満了)
もはや定例と化しつつある、新宿三丁目界隈での痛飲、二軒目からようやく夕食という運び。
紅で彩られた軒を潜り、北京語で迎えられる、二十二時。
※画像が無いのは、隣席に座る従業員全員が賄い食を突付き始めたせいです。
■水餃子
山東省の味という。
十は多いとし、半皿を頼む。
手で練られた皮が肉汁がっつりな具を包んで、山椒粉を加えた湯(タン)で餃子を茹で上げられて、卓上に並ぶ。
厚めの皮にじゅうしぃな肉、歯応えに酔う。
■合菜戴帽
和名を野菜の五目炒め卵焼きかけという。
喰うための手順をば。
①クレープ状の薄皮を掌に載せ、黒い甘味噌を皮の内側に塗布。
(思いのほか甘いんで少しでよろし)
②好みに合わせて刻み葱を加え、薄焼き玉子で包まれた五目野菜炒めをがっつり載せ薄皮で包む。
③薄皮を通して喰う野菜炒めは予想以上に熱いので、口内火傷した素人はここでこの一品が嫌いになる。
④慣れない関西弁を駆使して店長を呼び、くどくどとクレーム。
⑤示談金を渡されて次の店へ。
⑥以下、③から⑤を繰り返して、少しは名の知れたクレーマーとなってください。
台湾紹興酒が程よく廻ってきたところで、三軒目を目指し、ごちゃごちゃーごちゃごちゃーした通りを千鳥足でさまよいます。
(了)
毎度毎度古いはなしになりますがねぇ、紫檀楼 古喜 (したんろう・ふるき)なんてぇ狂歌師がおりましてな、出掛けようとしてるってぇ時に夕立なんてぇのが、ざああっと降り出しますってぇと、自然と浮かぶ狂歌があるんですな。
振り出しの 日本橋から雨に遭い
抜ける程降る 鞘町の角
鞘町が何処かなんてぇのも知りもしませんがねぇ、音のモダンさが耳に馴染み易いんですかねぇ。
今宵はこの辺でお暇で御座います。
(了)
追記:
古喜六十六歳、時世の句
六道の辻駕籠に身はのりの道
ねぶつ申して極楽へ行く
金庫の如き重厚な扉が備わった鉄製のキャビネット。
職場の上長、自らの指を挟みそうになり、「あっぶねぇっ」と小さく叫んでいる。
だ、大丈夫ですか?
「あ、うん。ギリで」
気を付けてくださいよ、指の骨こなごなになりますよ。
「前にさ、これと同じ型のキャビネの引き出し閉めててさ、上司の手を挟んだことがある」
えー? 大惨事じゃないですか。
「人間、ほんとに痛いときって声なんて出ないんだね」
で、その上司は平気だったんですか?
「まあ、骨は折れてなかったみたいだし、打撲程度だったんじゃないかな」
いやー、でも折れてたりしたら、その後の立場が微妙になってましたね。
「微妙も何も、全然別件でその上司にムカついてぶん殴っちゃったけどね。あの時点で俺の人生は終わったんだ」
終わったんだ、って目が悲哀に満ち満ちていて笑うに笑えない。
(了)
盥を引っ繰り返したが如き水量が降り注ぐ。
傘がさほど役に立たない。
電車が止まってると厄介だなと早く出る。
遅れてすらないので早く着く。
雨、止む。
祭提灯に釣られて街を徘徊する。
目黒銀座観音(目黒馬頭観音)@上目黒二丁目
さ、てと、帰るか。
いや、それは自由過ぎ。
(了)
梅雨とはさっぱり関わり御座んせがねぇ、都々逸なんてぇのをひとつ。
あたしゃお前に火事場の纏
振られながらも熱くなる
「あつく」ってぇところの「あ」を吐息クライマックス気味に唄うってぇのが粋なんですな。
今宵はこの辺でお暇致します。
(了)
「後で行くから」なんて乙女ちっくな嘘で自室に篭もって睡眠を勝ち得た翌日、意外と本気で過酷な激流下りでへろへろになったところで突き出される缶ビールを数本飲み干した頃にたどり着く一軒の旧家。
かつては養蚕業で栄えたという
築三百五十年と説明を受け、ナーバスになってみたり。
ここで素人衆が手ずから蕎麦を打つという。
「指が千切れるまで混ぜろ!」
「指がへし折れるまで捏ねろ!」
「『蕎麦打ち体験』なんてぬるい気持ちで参加してる奴は前に出ろ!」
これが犯行に使用された蕎麦切り包丁です
現場監督を装って、まぜたりこねたりうすくのばしたりほそくきったりという手が汚れる作業を一切放棄し、旧家を散策。
横になりたい
畳は気持ちよいね
寝かせてくれ
掻き揚げ、南瓜天
じゃが芋、蒟蒻
二八蕎麦
酒だけ持って来といて猪口が来てねぇってのはどういうことなんだ、と老婆に向かって本気で詰め寄ったことをここでお詫び致します。
おさけってこわいね。
(了)
前日の痛飲をがっつりと引き摺りながら向かう、上州は水上(みなかみ)。
一睡もしてない上に厭なテンションのまま、宴会の間へと移動。
瑞光楼 大鳳
鍋物 牛鍋柚子風味 (水菜、豆腐、舞茸、人参)
酢の物 (ずわい蟹、蟹酢、檸檬)
青梅、海老、穴子
(品書き失念)
炊き合わせ (鯛翁煮、海老芋、川海老、絹さや)
造り (生蛸、花烏賊、ぼたん海老)
上州切り込み饂飩
あ、次もですか。
えーと、寝かせてもらえ・・・ないですよねー、あははは。
あ、はい、え? 麺を食う? これから? 葱味噌とんこつ? あ、いや、塩にしときます。
え? あ、はい、あのー、何か、もうね、閉店みたいですよ。
あー、もう一本ですか、焼酎をね、もう一本ね、はい、おにいさんね、これもう一本と氷ね。
あ、ちょっと、ねぇ、コンパニオンいますよ! パニオンですよ!
チャイナドレスですよ! かなりチャイナですよ!
スリットがこんなですよ! こんな上まで! ねぇ、こんな!
え? チャイナはもういい?
そうですか、そうですよね、いっぱいいますもんねー。(ためいき)
(了)
宵闇が迫るってぇと、般若湯でもってんで、性懲りも無く向かう内藤新宿、寄席なんてぇ寄っちゃあいませんがねぇ、何となく足が向かうってなもんですな。
デテケデテケと鼓が鳴らぁな
二階席あります
いちげんなんてぇ微妙な立場で寄せて頂く貝専門店、階上の座敷にあないされますな。
麦酒は既に頂いておりますってぇと、米の酒をと銘柄は失念しちまいやしたがねぇ、四合ばかし頼みますな。
左から本ミル貝、トリ貝、青柳
蛤の昆布焼き
暖簾を仕舞う間際になるってぇと、階段をとんとんとんとんと駆け上がってきた女将が唐突にも至近距離に座り込むってぇと、「殿」なんて呼び掛けられましてねぇ、はい?なんて返事するってぇと、「貝御飯が一膳だけ残ってますよ」と返すじゃあありませんか。
するってぇと、続く言葉が「百円引きでどお?」なんてぇ、残務処理的営業なんですな。
貝入り一膳飯かッ喰らうってぇと、次なる暖簾へ向かいますな。
(了)
メガネ同士、且つ上下関係の男ら、すれ違いざまに呼び掛けている様子。
「お前さ、ミドルネームなんだっけ?」
「いや、自分、ミドルネームは無いです」
「あれ? 無いの? じゃあ、いいや」
「そのままでいいです」
別にそういう文化圏の人々ではなく、出向先が大企業な為、社員数の多さから発生する、同姓同名の方々が持つメールアドレスの重複回避に起因して、ミドルネームを必要とするのだ。
事情を知らない頃に件の会話を耳にし、何か特別な団体に属さなければいけないのかなんて戦々恐々としたものだ。
かつて、地元にいた頃、隣接する市内の高校に知人がいて、聞けば、ミドルネームを持つ同級生がいるという。
「ほんとだってば」
何ていうの?
「ジッター」
何語?
「・・・さあ」
えー?
「お姉ちゃんもあるらしいよ」
何て?
「ミキッター」
?
何かがおかしいと気付いたのは、ずいぶん後になってからだ。
その同級生の名字、「花岡」という。
くだらねえ。
何かに気を取られている間に、時はずんずん過ぎてゆくのだなと思った。
(了)
天井まで続く窓から見える中庭を埋める緑は目に優しいに違いないが、陽射しが直接差し込む上に、空調の存在すら疑いたくなる社食にて、混雑の為、当然人気の無い窓際に座す。
「レンゲでしたよ」
何が?
「カルビクッパに入れる赤い辛いのの」
赤い辛いののだぁ? そんな日本語はねぇってんだ。
「いつも小さいスプーンじゃないですか、何度も往復するのが鬱陶しい感じの」
君さ、話す順番がいつもおかしいんだってば。
「赤い辛いののあれがレンゲでした」
分かったから。君さ、いつもスプーンで10往復だったから、一回で済むだろ?
「2杯いきました」
ばか? はげるよ。
「はげませんよー。あれ? そっちのは色が薄いですねぇ」
君の血みたいな色じゃんか。あ、しかも、山菜よけてやがるし。こどもだ。
「もう手続きが多くて。これ、時間掛かるんですよねー」
だから喰えって。
「嫌ですよ。さあ、いただきまーす・・・」
入れ過ぎなんだってば。ばかの上に超かっこ悪い。
「あ、う、む、んー、・・・これ、取り替えてもらえますかね?」
自由だなー。
(了)
きょうはこうえんにゆきました。
こうえんにはおんなんこやおんなのひとやおねえさんがたくさんいました。
みんなみずぎみたいなかっこをしています。
やっぱりなつだなあ。
とうもろこしをたべました。
ふるーつこーんはゆでなくても、なまのままでたべられます。
あまいあまいふるーつこーん、しゃくしゃくしゃくとたべてしまいます。
やまなしのひとがはなしているのをきいていると、
さいごが「つこーん」ってきこえるけど、かんけいあるのかなあ。
あるきすぎてつかれちゃったので、
うしみたいなおおきさのいぬにまたがってかえろうとしましたが、
やんわりとことわられました。
せれぶなひとたちがくらすまちには、むだにおおきないぬがたくさんいます。
いつかせかいがおわるまえに、あのこたちをのにときはなつのがぼくのねがいです。
(おわり)