本日ァ久方振りの町歩きでござんす。
別当寺無量山傳通院塔頭浄土宗慈眼院
澤蔵司稲荷(たくぞうすいなり)
@小石川三丁目
春日通りを小石川傳通院前交差点より傳通院門前に向かって突き当たりまして右折、坂の途に在ります大きな椋の木が目に入ります。
其処から境内を見上げますてぇと少ぅし高台となっておりまして、燻し銀のもだーんなあーちを潜りますてぇと此の地の鎮守、澤蔵司稲荷様がおわします。
当時、栴檀林と呼ばれておりました傳通院の学寮に、澤蔵司という名の修行僧が居りまして、此の澤蔵司坊、僅か三年にして法然上人なる名僧智識の全てを網羅しまして元和六年皐月の或る夜、学寮長に枕元に立って自らは稲荷大明神であると告白し、学寮内外で世話ンなった礼としまして傳通院の守護を約した後に暁の雲にお隠れンなったてぇ云いますな。
此の「暁の雲」って表現が良いですなァ、まァ人の受け売りなんですがね。
とまァ其れを機としまして傳通院住職、境内に澤蔵司稲荷を祀りまして、慈眼院を別当寺と致しました。
境内を進みますてぇと、石碑の体を為した案内板にて「おあな」と朱で彫り付けられております。
此れは石段を降りた奥に在ります霊窟を指しておりまして、洞穴まで辿り着く為に幾つもの朱塗りの鳥居を抜けねばなりません。
少し強めの風が木木を葉葉を揺らし境内を吹き抜けますてぇと、或る種独特の雰囲気を醸し出して参ります。
穴の中にはこぢんまりとした祠とみにまむな朱の鳥居が箱庭の如く犇めき合っております。
澤蔵司さん、当時から在りました近所のお蕎麦屋さんに通ってらっしゃったと聞きます。
当の蕎麦屋ァ、其の日拵えましたの蕎麦の初物を毎朝此処に奉納されてた様でして、蕎麦屋の大将が夕刻に器を回収に行きますてぇと、中身は素ッ空かんだったそうで。
澤蔵司天麩羅蕎麦がお気に入り
~古川柳
オヤ澤蔵司さん、油揚げ(あぶらげ)じゃァねぇのかぃ。
小石川の御狐様、澤蔵司稲荷の一席で御座ィました。
(了)
<小作ニ不向キナ無産階級>
自分の弟が自由の無い状況下に囚われており不憫だと嘆く兄より相談を受ける。
聞けば、彼の八名の弟は近所の地主に奴隷として使役されており、重労働の後に檻に入れられ、虐待されているという。
兄より弟を解放して欲しいと懇願され、正義の名の下に物欲を最優先とした任務を遂行する運びに。
檻の錠前を開錠し弟らを野に放った結果、内三名は見張り役の兵士より脱走の懲罰として殺害されたが、兵士側は二名を失っており、他の弟五名は脱出に成功したのでまァ好しとしよう。
以上の内容を兄に報告すると、可愛い弟に犠牲者を出したのを咎められるかと思いきや、意外にも彼の第一声は威勢も良い"Good job!"であった。
兄の取り巻きである緑肌の男達からは「我々と変わらないくらい醜く汚らわしい存在」等と賞賛され、其の微妙な言葉選びに苦笑せざるを得ないのだった。
(續く)
<ちゃっぐちゃぐにしてあげる>
世の中が段階的に殺伐とし、其処彼処にて物騒な雰囲気を醸し出し始めて戒厳令が布かれる中、危険地域の最前線とも思しき荒野にて呑気にも野営を構える女と話す。
聞けば、女は何らかの特殊技能を持っているという。
「教えて欲しけりゃァ熊の皮を二十枚集めて持っておいで」と云われる。
分相応に自分の立ち位置を考えると、熊とガチでやり合うのは生命に危険があると感じるので、此処は少し躊躇しておく。
荒原より街に戻り、夜盗山賊から剥ぎ取った装備品を売り捌いていると、日頃利用している商店の陳列棚に熊の皮が並んでいると気付く。
何でぇ、カネで解決じゃんか。
現時点にて多くの特殊能力を身に付けており、装備品のメンテナンスは業者を頼らず、身体能力を含めてかなり人間離れしている故に成功報酬付きの無理難題も即時解決の為、収入は多額にあっても支出がほぼゼロに等しい。
煩わしい問題を過剰な財力に物を云わせて解決してゆくのが、果たして正義の味方のやり方なのだろうか甚だ疑問ではあるのだが。
(續く)
<黒耀デイサイト>
自宅と別宅を行き来している。
目的は捜し物である。
詳細は割愛するが何を求めているかと云うと、何つーか石かな?
色は闇夜の如きの漆黒、姿形は大人の二ノ腕の如き長細く、そっと耳を近付けてみると中から悲鳴が聞こえる、そんな感じの石。
っかしーな確か此処に仕舞った筈なのに、という動作を各地にて幾度も繰り返すが見つからない。
片手間で捜すのではなく、本腰入れての捜索活動も虚しく全ては空振りである。
幾つもの不動産物件を購入した結果、所持品が分散してしまったのが敗因と覚る。
・・・本妻の居る本宅と複数の愛人の居る妾宅をふらふらとしてる間に全員が居なくなったきぶんだ!(涙)
(續く)
<業ノ骸ト號外壱枚>
通りの名は失念したが、河川沿いの主幹道路を北上していると一点透視法的彼方の路上に大きく黒い物体が見える。
空は飽くまでも青く、小鳥の囀りさえ冴え渡る白昼の出来事である。
歩く速度も緩めずに近寄ると、飛散した血痕も夥しい黒毛の馬であった。
哀れ也や、黒馬は既に息絶えている様子。
其の背には鞍が乗せられており、明らかに乗馬用である。
此の業界では「黒毛は速い」とされており、すれ違い様での騎乗の人との会話が不可能なのが定説となっている。
騎乗と云えば、此の馬の所有者は誰だったろうかと黒馬の周辺を散策すると、程無くして少し離れた路肩に横たわる女を発見した。
残念ながら彼女も馬同様に事切れている。
何処かで見た顔だと記憶を辿ると、街と街とを高速で移動する新聞配達員の一人と気付いた。
兎角物騒な時世、郊外への配達も命懸けである。
見た所、衣類金品は奪われていない様子で、馬の出血も含めて死因は不明である。
所持品を検めると、彼女が勤務する新聞社が発行する新聞の創刊号から今日までの分を見つけた。
そうそう、此の号は貰い損ねたんだよなー、と馬と女の死体が横たわる地べたに座り込み、日が暮れる迄記事を読み漁るのだった。
(續く)
<陛下ノ御為ニ>
メイン州が生んだ稀代の作家、スティーヴン・キング原作である『スタンド・バイ・ミー』は、主人公が仲間と連れ立って列車に撥ねられた少年の死体を捜しに行くという素敵メルヒェンな話だったと思う。
以上を踏まえ(何をだ)、今回は依頼主不在の死体捜しである。
首都より遥か北東に位置する山脈の何処かにに其の捜し物は在るという。
雪降る中、何の手懸りも無い儘、山頂を目指すと、今は風雪に晒されて文字通り野晒しとなっている男が生前に寝泊りしていたとされる野営地に辿り着いた。
其処には重装備で武装した中年男性が居て、何をする訳でもなく茫洋(ぼんやり)と山並みを眺めている様子。
・・・おっさんはこんな山奥で何をしてるの。
「別に」
会話は此れで終りである。
少なくとも敵意は無い様なので放って置いて、死体捜索を続けるとしよう。
・・・数時間が経過。
件の男より情報を聞き出せない以上、此処に居ても何の発展も無いと覚り、麓での情報収集の後に再訪しようと諦めて下山し始める。
下山中、突如現れる森林警備兵、全力で野生の鹿を追っている様子である。
其処までは日常風景なのだが、不意に不穏な空気が漂い始め、目前の森林警備兵は鹿ではない何かを弓で射始めた。
相手の姿を探すと、森林警備兵と同じ制服を纏っている様に見える。
・・・其れも其の筈、彼の同僚である。
え? 鹿の奪い合い? 同じ職場で? ・・・あ、片割れが倒れた。
そして、初めに見掛けた方の森林警備兵は鹿追いを再開した。
下山してから前述の内容を先人に話すと、「知らないの? あいつらいつもあんなだから。お前の矢が当たっただの、お前の矢が刺さっただのって直ぐに殺し合うのさ」と一笑される。
・・・常日頃から同僚とは仲良くしたいものである。
(續く)
<覚ヱ書キ>
"True Grit (2010/Paramount/110)"
director;
Joel Coen / Ethan Coen
starring;
Jeff Bridges as Reuben J. "Rooster" Cogburn
Hailee Steinfeld as Mattie Ross
Matt Damon as LaBoeuf
Josh Brolin as Tom Chaney
Barry Pepper as "Lucky" Ned Pepper
"Le Transporteur (2002/EUROPA/93)" ... BMW 735i(E38)
"The taking of Pelham123" (2009/Columbia/105) ... Wall Street "high roller"'s case
"Cloverfield (2008/Paramount/85)" ... means BAD ROBOT PRODUCTION's address
"Le Transporteur 2 (2005/EUROPA/88)" ... Audi A8
"Le Transporteur 3 (2008/EUROPA/104)" ... Audi A8
"Côtes du Rhône" Syrah (FRANCE / Rhône)
"ERRAZURIZ" Cabernet Sauvignon (CHILE / Aconcagua)
"SUI-RO Omachi Nakadori" OMACHI-MAI (NAGANO / Suwa)
(End)
えェ、足許お悪ぅござんす。
本日ァ蒲田での落語会で御座ィます。
品川より京浜東北線に揺られまして歩廊(ぷらっとほーむ)に降り立ちますてぇと、聞こえて参りますのは、虹の都光の港キネマの天地で始まります『蒲田行進曲』のめろでぃーでして、亡き銀ちゃんの面影を偲びますな。(適当)
『春の特選落語名人会』
@蒲田五丁目・大田区民ホールアプリコ(大ホール)
木目も真新しい小奇麗でただッ広い会場なんですがねぇ、二階前脇の席ががら空きでして、二階後ろに座るあたしには何処か釈然としない席決めでござんす。
林家まめ平◆転失気
「(林家)正蔵の四番弟子です」
本編:
「てんしき」が何か分からない和尚、小僧珍念より「御御御付け(おみおつけ)の具にして食べちゃった」と聞きまして、「あれは今旬だからなァ」と独り言(ご)ちます。
春風亭一之輔◆天狗裁き
「近所のスーパーで米とトイレットペーパーを買い溜めする宮本の小母(おば)さんに向かって佐々木の爺さんが、今まで聞いた中でいちばん穢(きたな)い啖呵を切ります」
「『婆ァ、どんだけ雲古すりゃァ気が済むんだ!』」
「病院の待合室というのは眠気を誘うもんですね」
「私が待合室に知らない方を二人きりだったんです」
「隣に居る知らない方は待ち草臥れたのか、もう寝ちゃってるんですね」
「で、看護婦さんが『田中さーん』と何度も田中さんを呼ぶんです」
「待合室には二人しかいませんで、僕は本名川上ってんですけど、田中さんは隣で寝てる此の人なんですよ」
「『もしもし、呼ばれてますよ、田中さんでしょ?』」
「『・・・あ、うんん、あどうもありがとうございまふ』」
「『ずいぶん辛そうですね、何処がお悪いんですか』」
「『・・・不眠症なんです』」
本編:
八五郎と長屋の大家、お白砂の上で大岡越前守様のお調べと相成ります。
「大岡越前守様、加藤剛です」
林家正蔵◆四段目
「此の時期、行っちゃァいけない寄席があります」
「新宿末廣亭は築八十年の老舗ですが、大工さんがしっかりしてたんでしょうね」
「かなり揺れたんですが、無事だったようです」
「で、席亭が夜の部を開くかどうか決めるのに、従業員に柱の皹や亀裂の有無を確認させたところ」
「数が多過ぎてよく分からないという事だったそうです」
本編:
店の主人、小僧貞吉の芝居好きに呆れつつも、貞吉以外の店の連中と総見をしようと芝居の話を振ります。
「今度の『(仮名手本)忠臣蔵』、五段目の山崎街道の猪(しし)は評判だそうだ」
「何ででございますか」
「前脚が團十郎、後ろ脚が海老蔵という成田屋親子競演だそうだ」
「旦那、何を馬鹿な事を」
「馬鹿とは何だ、儂は今お向かいの佐平さんから聞いたばかりだ」
「猪なんてのは大部屋の役者が演るもんですよ、成田屋が親子でそんな馬鹿な話はありません、第一、海老蔵は今芝居に出られないんですから」
お仲入りで御座ィます。
柳家三三◆締め込み
「近頃では犯罪も多様化してますね」
「今流行りのハイテク犯罪、よぉく調べてみるてぇと明治時代からあったんだそうで」
「汚ねぇ下駄ァ履いて湯屋に行って、帰りに綺麗な下駄ァ履いて帰るんだそうですよ」
「・・・履いてく犯罪・・・」
三遊亭圓楽◆濱野矩隨(はまののりゆき)
「去年、(桂)歌丸師匠と二人会てんで仙台に行きました」
「お互いに弟子も居ますし、何人も引き連れて歩いております」
「歌丸さんをいちばん前を歩かせます」
「何故って、後ろに置いとくと見えないところで引っ繰り返っても分からないですから」
「下手すりゃ気付かないで我々だけが先に行っちゃいますし」
「だから、前を歩かせますと倒れてもすぐに分かりますね」
「・・・倒れたところを踏ん付けて行きますがね」
追い出しとなりまして、お開きで御座ィます。
会場を後にしますてぇと雨脚こそ弱まりましたが、びる風が強く吹いておりまして、びにーる傘の上ッ面だけが風に煽られて宙を舞っております。
骨ばかりの柄だけを持って陸(おか)に揚がった海月(くらげ)みてぇな其れを追い駆ける知らない女子の絵面が大層可笑しいんですがねぇ、其の海月はてぇと街頭募金の学生らの足許に転がってゆきまして、黄色ィ悲鳴と共に邪険にされておりましたのが大変に世知辛いですなァ。
・・・親の心子知らず、名工濱野の一席で御座ィます。
(了)
<烏賊ノ御鮓>
町内の防犯委員を務めている立場上、僅かな悪の芽さえも見過ごさないと地域の警邏巡廻を欠かさない日日である。
経験上知り得る限り治安の宜しくない箇所としては、街から遠く離れた郊外の為に往来の無い街道筋、物件の所有者が何百年も前に滅んでおり放置され放しの廃屋廃坑が候補に挙がり、周辺には物騒な連中が昼夜問わず徘徊している。
馬上の衛兵も終日警備の体ではあるのだが、彼等は主として街周辺の街道専門であり、街道より逸れて建つ打ち棄てられた建造物までには手が廻らない様子である。
此処は一つ穴埋め要員として建造物専門となり、正義の名の下、神の名の下、悪人どもに鉄鎚を下してゆこうと思い立つ。
同居する緑肌の脳筋女子は(私怨から発した)盗賊討伐専門なので同行するのは難しいと覚り、単身廃墟に乗り込むとしよう。
一軒目、小動物や四ツ足ばかりで些(いささ)か物足りぬ。
二軒目、水辺が近い所為か水棲多足動物ばかりである。煮たり焼いたりする。
三軒目、漸(ようや)く二本足と闘う。奴等は夜な夜な人の生き血を啜るので、何か病を伝染されないかと憂う。
四軒目、廃墟での貧乏暮らしの癖して高価な装飾品や衣類を纏っている二本足どもと一戦交える。彼等の多くは固有名を持たない。人別帳から外れた無宿人扱いにて心置きなく殲滅させられる。
・・・良かれと思い、当初は町内の戸締り用心火の用心から始まった防犯意識が、気付けば全体主義における異端排除の論理に陥っている。
誰かに命令された上の行動でもないので、いずれ此の私的治安維持活動に関して言及される日もそう遠くはないだろう。
自ら裏稼業を生業と選んだとは云え、女手一つで後ろ盾無く生きてゆくのは大変と改めて思うのだった。
(續く)
まっつぐに帰宅せねばならぬ用事があるというのに、だ。
「九時までどうですか」
いいよ。
「いいよって、どっちですか」
不承不承承知したって事だよ。
「ふしょーぶしょーは要らないですね」
そうだね、要らないね、余計だったね、じゃァ合点承知之助だ。
「寒いですね」
冷房消す?
「話が噛み合いませんね」
まァ初めから合わせる気なんて無いからね。
「今何時ですか」
八時前だな。
「あと二時間弱ですよ、巻いていきましょう」
何巻きだ。
「何巻きがいいですか」
聞いてやがる。いいよ何巻きでも、云ってみなよ。
「・・・物凄くくだらない事ばかりが脳内を駆け巡ります」
そうかい。口に出してもいいんだよ。
「セクハラです」
えー? そう来たか。何ハラだったら良いのかね。
「ハラは基本駄目でしょう」
彼も苦労が耐えない訳だよ。
「何の話ですか」
想像通りの話だよ。
「・・・もっと身のある話をしませんか」
何ミがいいのかな。
「・・・か、蟹ぐらいは欲しいですね」
蟹ねぇ、じゃァエチゼンガニの雄雌の見分け方とか教えようか。
「興味無いです」
無いの? 無人島に流されたらどうすんの? 蟹しか居ないんだよ。
「流されません、あと蟹以外も居ます」
流されませんって云ってる奴ほどあっさり流されるもんさ。
「じゃァ雄雌を区別せずに食べます、あと蟹以外にも食べられる物もありますし」
産卵期の雌は危ないよ。
「卵の有無でジャッジします、蟹以外も居ますから」
産んだ後だったらどうすんのさ。雄と思いきや、産後の肥立ちまっしぐらかもしれんよ。
「手足を引き千切って食べます、蟹以外も引き千切ります」
ワイルドに? 味噌要らず?
「味噌は好きじゃありません」
好きとか嫌いとかじゃないんだッ! サヴァイヴァルなんだッ! あと蟹以外は何も居ないんだッ!
「何ですか」
お前ねー、そんなんじゃ生きていけないよ、江戸は生き馬の目を抜くって・・・。
「東京です」
かぶせてきたね。生き馬の目だってば。
「それは知ってます」
目、抜いた事あるの? 馬だよ?
「・・・八歳の時」
・・・ませてんねー。
「・・・恥ずかしい」
何だこれは。
(了)
<罪無キ花泥棒>
素材を収集して特殊技能を駆使した結果、凡そ小銭とは呼べない金銭を手にしていた。
ざっくりと収集とは云ったものの、其れは野に咲く花を愛でる序でに摘む行為に非ず、明らかに人んちの畑より勝手に伐採採取した作物を、自前の乳鉢と乳棒で擂り潰し、更に高度な技術で精製して使用に堪え得る形状に仕立て上げ、町の小売店に叩き売っては粗利を得るという元手ゼロの経済活動を星の数程繰り返した果ての背徳行為に過ぎない。
若干の後ろめたさも無い事も無いのだが、此の業界に於いては自宅以外の屋内でうっかりスプーン一本を手に取るだけで窃盗犯として牢獄にぶち込まれるも、屋外での拾得物横領は(一部例外を除いて)断罪されないのが唯一の心の拠り所となっている。
という特殊性を踏まえ、不動産物件の購入である。
百数十日も此の地に滞在しているというのに、睡眠時間が僅か十一時間という驚異的な不眠症(病ではない)の中、地道に不動産投機を重ね、持ち家は既に六軒を数える。
今回の物件は首都より南下した湿地帯が拡がる地方都市の中心部にあるという。
業者からは「前の住人が家具を全部持ってっちゃったから近所で買ってね」と云われ、室内を見回すと、成る程蛻(もぬけ)の空である。
登記を済ませ、家具搬入と内装業者を同時に発注すると、気付けば一文無しになっていた。
・・・初心に戻ってまた作荒しから始めねばなるまい。
(續く)
<辺境ノ地ニ嫁グ娘ニ同情>
春からの大学生活にも慣れ始め、教授からの受ける命懸けの用事さえも片手間に為りつつある今日此の頃。
怠惰な日常に喝を入れるべく、教授に断って地方に遠征するとしよう。
首都より北西にある都市では、先年亡くなった領主に代わって其の妻が亡き夫の職を務めている。
代行領主である夫人は最近夫の肖像画が盗難の憂き目に遭い難儀しているという。
夫人も如何いう了見か、通行人に過ぎない自分を「捜査官殿」と呼ばわって事件の解明を要求している様子。
ぬっるい仕事ではあるが、一国の長に恩を売って損は無かろうと安請合う。
立入禁止区域すら入れる権限さえ与えられ、城内を我が物顔で徘徊。
夫人より教えられた容疑者は僅か二人許りである。
一人は領主の邸宅に出入りする酒乱癖の肉体労働者、もう一人は城内で寝起きする頭上に頂くアフロも輝かしいソウルトレイン姐さんである。
調査の結果、アフロ姐さんが元領主の肖像画の作者と判明。
道ならぬ戀路の果ての遺品略奪という下世話な展開に。
此処で選択を迫られる捜査官、取り返した絵と共にアフロを領主夫人の前に突き出すか、はたまたアフロに同情し訴追を止めにして絵も其の儘作者である彼女の元にするか。
むー。
・・・夫を失って傷心の夫人には申し訳無いが、此処は一つアフロの助命を選択しよう。
偽証にも等しい捜査結果を夫人に報告するが、がっかりした様子は一瞬だけで、其の後は至って普通である。
一方、放免された上に絵を返さなくても良いと知ったアフロからは「あなたの肖像画を描いてあげるから三週間後に来て」と告げられる。
其れは確かに世界にたった一枚の寶である。
大変に慶ばしい話なのだが、よくよく考えてみると、先程までは与えられた捜査権にて城内を徘徊しても咎められなかったのだが、既に其の権限は喪失しているので、三週間後に此のアフロの居る部屋へ赴く為には如何したって不法侵入せざるを得ない。
屈強な衛兵が二十四時間三百六十五日巡回してる此の場所に?
・・・お前が絵を届けに来い、という選択肢が無かったばかりに次回よりアフロと会うのも命懸けなのだ。
(續く)
<絵空ノ事>
櫻の花も散る頃ではあるが、今春大学に入学する運びと為った。
筆記試験も面接も無く、推薦のみに特化した大学受験である。
自らが所属する組織の各支部の支部長より用事を言い付かり、成し遂げた結果を報告をして、都合六枚の推薦状を書いて貰う。
内容は、子供の使いから過剰防衛的大量虐殺までと多岐に渡り、此の業界の特色としては、組織の上位に就けば就く程に性格破綻者が鰻登りに増加傾向にあって道は困難を極めたが、今思えば其れも遠い昔話である。
入学後に早速「見習い」という屈辱的且つ不名誉な役職で呼ばれ、諸先輩方であるあにさんねえさん方からは虫けら同様の扱いを受ける。
話し掛けても口さえまともに利いちゃァ貰えねぇ。
幸い教授の一人からは慈悲深く見守られており、幾つか任務を授かる事が出来た。
任務ですと?
学校って何かを学ぶ舎ではなかったかしら。
入学早早、教授の助手という立ち位置、扱き使われるのは目に見えているのだ。
<蛾蜻蛉ノ季>
教授より「貸した本を取り返して来い」と仰せつかる。
聞けば、西隣にある領土を治める一国の領主から例の物を返して貰えという。
虫けら同然の自分に一国の代表が会う理由も無かろうとは思ったが、教授より「組織の名代だから」と諭され重い腰を上げる。
のろのろと西へと向かい、領主の秘書官との面会を許されるが、「うちの大将は人嫌いだからなー、明日来たらもしかしたら会うかも」と何だか煮え切らない返答である。
翌日、出入りの業者に紛れて出頭すると、何故か小声の秘書官より「深夜二時なんだけど、うちの大将、呪われた洞窟の前で会うって」との言。
何だ、その殺す氣満載な場所と時間指定は。
罠と知りながらも待ち合わせの場所に赴くと、秘書官と知らない人がぽつねんと立っている様子。
領主とやらは何処かしら。
「うちの大将は来ないよー、お前は此処で死ぬんだよー」
想像通りだからまァいいけど、隣に居る人は誰なのさ。
「教えなーい」と秘書官と知らない人は全力で襲い掛かって来るが、過剰防衛にて撃破。
戦闘後、亡骸を漁っていると、背後から呼び止める声が。
すわ仲間が他にも居たのかと身構えるも、高価そうな衣装を纏った領主その人だった。
「お前は阿呆か、如何いう了見でこんな所まで来るんだ、お前の組織も阿呆だ、阿呆揃いだ、まァでも其の阿呆どもお蔭で秘書官が俺に隠れてこそこそとしてるのが分かったし、一党を皆殺しにしてくれたから良しとしよう、お前のボスにもそう伝えろ、此の馬鹿」
おっさん口が悪いにも程があるのだが、領主の発言から自分は組織より捨て駒にされていたと知る。
組織の目的は、領主の機嫌伺いに非ず、動向の監視だった。
詳細を此処で語るとなると長くなるのだが、ざっくり解説すると、自分の所属する組織の長が派閥闘争の果てに追い出した一派があって、彼らは水面下で暗躍しているという。
此の秘書官は其の一派に属しており、彼の上司である領主がどちら側に就いているのか知りたかったようだ。
大学に帰って教授に報告を済ませると、彼は薄ら笑いで「ごめんねー、危ない目に遭わす積もりなんてなかったんだけどね、結果こうなっちゃってさ、でも位あげちゃうから機嫌直してよ」と「見習い」から次の位に昇格。
・・・如何にも世知辛いとは云え、人は何かを犠牲にして生きてゆくしかないのだ。
(續く)
cinque o sei...
//aperitivo//
//spumante ... sparkling wine
//uno//
//Librandi CIRO Bianco (Calabria)
//fresh shrimp (BOTAN-EBI), strawbelly and balsamic vinegar (MONACO limited)
//due//
//Leonildo Pieropan 'La Rocca (Verona)
//pork backfat, neck, salsiccia (salame)
//tre//
//Librandi CIRO Rosato (Calabria)
//pasta alla gamberetto e fave ... shrimp and broad beans
//quattro//
//Fattoria del Cerro (Toskana)
//penne alla formaggio e manzo ... cheese and beef
//cinque//
//Lacrima di Morro d'Alba Superiore (Marche Ancona)
//anatra e patata ... duck and potato
//digestivo//
//grappa
//dolce//
//espresso
//panna cotta
sorpresa!!
(fine)
えェ、ご陽気さんで御座ィます。
なんて口上を述べておりましたら、一転俄かに掻き曇りまして狐の嫁入りと相成りました。
『前進座劇場プロデュース 寄席噺を楽しむ その47「立川志の輔独演会」夜の部』
@吉祥寺南町三丁目・前進座劇場
井の頭公園に着いた頃にゃァ雨は止んでまして、傘ァ手に持って歩くのが厭んなりますな。
夕刻からの公演なんてんで、短い時間で二軒梯子しまして会場に向かいます。
・・・余裕を持って行動してる筈なんですがねぇ、昼間ッから飲んだくれてるてんで、時間に追われてながらの会場入りでござんす。
立川志のぽん◆元犬
「志の輔の五番弟子です」
「僕は犬とメロンが苦手なんです」
「実家で犬を飼う事になりまして、僕は猛反対しました」
「もう厭ですから、両親に向かって『犬と僕とどっちを取るの!?』って聞きましたら」
「翌日、うちに犬がやって来ました」
「飼い始めたら、もうね、可愛いんですよ、これが」
「今では実家で犬と遊びながらメロンを食べています」
立川志の輔◆茶の湯
志の輔師匠、本日の昼公演を終えて既に声ががらがらです。
「先日、青森の独演会に行って参りました」
「公演中客席から一斉に緊急地震速報の音が鳴りましたね」
(緊急地震速報の音の口真似)
「・・・あの音はDoCoMoだけでしたかね」
「地方に行きますと公演中に携帯の着信音がよーく鳴っております」
「前半と後半では、何故か後半の方がよく鳴るんです」
「何でだろうって考えてやっと分かったんですよ」
「前半ではアナウンスもありますし、皆さんちゃんと電源を切ってるんですね」
「で、中入りの休憩になりまして一旦外へ出ますね」
「地方はあの、車文化車社会ですから、帰り迎えに来て貰う為に携帯で連絡入れてるんですよ」
「『あ、母ちゃんか、俺俺、うん、そだなァ、終わんの九時ぐれぇかなァ、その頃に迎え来てくれや、頼まァ』」
「って一旦入れた携帯の電源はそのまんまなんですよ」
「で、後半が始まりまして、九時頃に迎えの車が来ますよね」
「迎えの人が会場のホールを覗いてみると、其処には誰も居りません」
「何故居ないかというと、あたしが未だ此処でお喋りしてるからです」
「迎えの人は九時も近いのにホールに人が居ないのを見て、もうとっくに公演は終わっていて皆移動しちゃってると思い込むんですね」
「『あ、誰も居ねぇや、悪ィ事したなァ、そだそだ、父ちゃんに電話してみよ』」
「ってこういう迎えの車からの連絡で一斉に会場が鳴る訳ですよ」
「今、被災地の映像がテレビで流れてますね」
「あれを見ていて思うのが、人間って強いんだなって事です」
「映像では自宅が津波で流されてしまって、瓦礫の中を掻き分けて歩くお爺さんが映ってます」
「居間だったんでしょうか、テレビ台の上に津波で流されて来たマンタ、マンタって頴娃(エイ)ですね、そのマンタが台に乗っかってるんですよ」
「どうするんだろうって見てましたら、お爺さんは其のマンタをこう両手で抱えて移動しようとしてるんですね」
「『・・・お前ェも災難だったなァ』って話し掛けてるんですよ、マンタに」
「・・・人間って凄いなァと思いました」
本編:
噺の中に登場します「椋の皮」について解説します。
「椋の皮の成分は戦前の石鹸に含まれていたそうです」
「・・・以上、暮らしのワンポイントアドバイスでした」
噺の中に登場します「藤村羊羹」について解説します。
「此の藤村というのは、キャンディーズのミキちゃんの実家なんです」
「・・・別に云わなくてもいいけど、知ってるのに黙ってるのもどうかと思って」
お仲入りで御座ィます。
松永鉄六◆長唄三味線
三味線の音で江戸の情景を促そうと、めどれー仕立てになっております。
大川(隅田川)から始まり虫の声、按摩笛、犬の遠吠えと続きまして、新内流しから幽的、最後は悲鳴と共にでばったりと高座に倒れます。
「・・・此れで終わってしまうと、『悲鳴のねえさん』と呼ばれてしまいますので最後にもう一曲」
◇二人椀久(椀屋久兵衛)
立川志の輔◆メルシーひな祭り
「シンガポールにあるマーライオンは世界三大がっかりと呼ばれておるそうです」
「最近新しくなったそうで」
「今までは湾からの外敵から守る為に外に居たんですね」
「ところがですね、矢張り其処は観光地ですから、観光客が移動し易い様にと湾の端と端を橋で繋いじゃったんですよ、日本の西松建設さんの提案で」
「そうすると、橋の内側にマーライオンが居るのは如何な物かと事になりまして」
「マーライオンの新たな位置を風水師に決めて貰いました」
「あの国は何でも風水で決定しますから」
「それで、移動した先で落雷がありまして、・・・半分に割れてしまったんですね」
「全然良くないじゃん」
「そしたら風水師、負けちゃァいませんね」
「『元の場所に在ったら観光客に怪我人が出てたけど、今の位置に在るから誰も怪我せずにマーライオンが全ての災厄を引き受けてくれたんだ』って」
高座と客席での一本締めにてお開きで御座ィます。
中央線、総武線と乗り継ぎまして、沖醤蝦の塩辛を付けた蒸し豚を辛味大根、白髪葱と共に白菜漬物に包む一品を給する店を目指しまさァね。
電池が切れるまで飲んだくれるのが週末の醍醐味でござんす。
(了)
<快刀乱麻>
首都にある港町を徘徊している。
深夜に泊まりもしない宿屋の酒場で管を巻いていると、小悪魔的な様子の女から話し掛けられる。
「あんたさ、暇してるんだったらあたしらと一緒に仕事しない?」
・・・えーと、ちなみにお仕事は何をしてらっしゃるんですか。
「不二子ちゃん」
何ですと?
「もう何度も云わせないでよ、明日の夜十時に此処に来て」
と地図に書き込んでくれた印を見ると待ち合わせ場所は人里離れた農場である。
どうせ世間に顔向けし難い事に違いないと決め付け、周辺に伺ってみると果たして其の通りである。
女らの仕事は、町で男どもを誘い、「続きは農場でね」と呼び出して、さあこれからだと服を脱いだところで有り金を巻き上げるという画期的な手口である。
しかも、男どもも身の覚えある後ろ暗さの所為か、然るべき場所へ訴え出れないという完璧さ加減で、成る程正に、不二子ちゃん。
で、翌日約束の時刻に農場を訪れると、例の手口で不二子ちゃんズに入れと勧誘される。
そんな安い仕事が出来るけぇと言下に断ると、女らは狭い室内でぎらぎらと光る物騒なのを抜いて襲い掛かって来やがる。
腕に覚えはあるのだが、狭い個室で複数の女に飛び掛られた経験は皆無なので、大変に苦労して何とか返り討ちに。
小銭稼ぎの小悪党を皆殺しにしてしまうのも如何なものかと思うが、殺意を持って刃物を向けて来たのだから、過剰防衛とは云え、降りかかる火の粉は払わねばなるまい。
さて戦利品でもを捜そうと室内を物色。
寝室の箪笥から三名の男性名が付いた衣類を発見。
此の三点は町ですれ違えば挨拶を交わす男どもの名だと気が付き、持ち帰って彼らと面会を果たすのだが、三名とも自分の衣類に何の反応を示さない。
何だい、折角人が親切心で届けてやったのにさ。
まァ彼らにとって忘れたい過去を無理に引っ張り出す事も無かろうと思い直し、古着屋に売り払って当方でも忘れる事にしよう。
(續く)
特定人物の名を論(あげつら)ってあれするのもあれなんで、市井の人人に紛れて心覚えを記しておく。
「妙齢の女性である」
「元外資系証券会社員である」
「ワインソムリヱ、利き酒師の資格を持つ」
「鮨を握る修行をする為に新富町へと引っ越す」
「当然、板前の資格を有す」
「七ヶ国語が話せる」
「英語に始まり、仏語、伊語、独語、西語、露語までに到る」
「当然コミュニケヱションの幅はワアルドワイドである」
「むにゃむにゃは延べ六百人である(2004年当時)」
「かつて京都在住の俥引き(22歳)に百万円を持ち逃げされたという過去がある」
「姉は紐育(NY)在住」
「姉の夫は富豪である」
「が、帰国時には毎回母親に百万円要求するという」
「『xxちゃんにまた百万円持ってかれたわー』とは母親の談」
「本人は現在、巴里(パリ)在住」
「巴里大学にて経営学を学んでいる」
「現在の彼氏は白耳義(ベルギー)人である」
此の経歴でアーティスティックな要素が何一つ無いというのが不思議と云えば不思議である。
(了)
OLちゃんの昼時の如く小さいランチトートを提げて外に出る十三時。
道幅の狭い路地では、工事現場に出入りする重機を積載した車輛に道路を占有させる為、出入り口を封鎖している誘導員が、路地奥に用のある運送業者と口論を繰り広げている。
「こっちだって仕事なんだから」
「こっちだって仕事なんだよ」
当然、両者の主張は何処までも平行線である。
交差点の角、信号が青に変わるのを待ちながら、対岸の火事を眺めるような不遜な心持ちで前述の遣り取りを伺っていると、誘導員の被るヘルメットの後部に「菊池武夫(仮名)O型」と記されたシールが貼付されているに気付いた。
成る程、事故は現場で起きるのだろう、血液型を即時に把握するのは大事なのだ。
方や運送業者の乗る車輛の背面部には、「ドライバーは君島一郎(仮名)安全運転」と書かれている。
初対面なのに、出会った瞬間から互いの名をフルネームで知ってるなんて、合コンでもそうそう無いぞ。
何かに似ていると思い、青信号を渡り損ねるまで待機して分かった。
・・・お見合いパブだ。
(了)
"beer mtg"@Udagwa-cho
start; pm 8:00
//craft beer//
//PIZZA PORT "Nickel Bag Double IPA" (San Diego, California)
//Sankt Gallen "Cask Ale" (Atsugi, Kanagawa)
//Baird & Aldgate "Jack the Ripper IPA" (Numazu, Shizuoka)
//Joyful Honda "Preston IPA" (Tsuchiura, Ibaraki)
//Bäeren "Mai Bock" (Morioka, Iwate)
//Iwate-Kura "Pale Ale" (Ichinoseki, Iwate)
//no eat//
//cornish pasty ... buttered pie, baked beans, minced meat, diced potato, rutabaga(Swedish turnip), onion
"We kindly request that you DO NOT bother or talk to neighbors"
...sorry?
(End)
<儚キ夢ト黒魔法ノ國>
不正に罰金を徴収し、私腹を肥やしている衛兵が居るという。
しかも衛兵長という高地位である。
泥酔した果てに道端へ生き様やら何やらを吐き散らかした結果、件の衛兵長より罰金が科せられた挙句に支払いが滞り、家屋を差し押さえられて二進も三進も行かない状態になっている男がぼんやりと突っ立って居る。
彼に向かって「あの衛兵長ってさー、何か感じ悪いよねー」等とうかうか切り出すと、彼の中でもう溜まりに溜まっていた私憤も義憤も一挙に発憤してしまい、「あん畜生め、とっちめてやる!」とかそういう昭和な単語を並べながら自宅前で警備に就く衛兵の前にてぶち切れた挙句、事もあろうか刃物を抜いてしまい、凶器準備集合と公務執行妨害の廉でざっくりと斬り伏せられてあっさり絶命。
事件の顛末を聞いたと話す(衛兵長よりも低地位な)平衛兵は「何とかせにゃならんな」と云いながらも「仮にも上司を告発するんだから確固たる証拠がないとな」と保身的に及び腰である。
「私が動く訳にはいかない、時に、君は、その、あれだ、面が割れてないからな」と甚だ遠まわしな物言いで、「誰か捨て駒居ないかなー」と聞こえないでもない。
まァ放って置いても話は進まないので、自ら名乗り出て調査を開始。
まずはと衛兵長の私室に忍び込み、彼の従兄弟らに宛てた手紙を発見する。
中身を確認すると小悪党な悪事がつらつらと記されているという迂闊さに加減は無く、その使途明瞭な金銭の行方は遠方に暮らす彼の親類への孝行だった。
親戚にとっての衛兵長とは思い遣りと贈り物を欠かさない好人物なのだろうが、過剰に罰金を徴収されて自宅を差し押さえられた上に斬殺されてしまったあの男が不憫と思い、証拠品として手紙を平衛兵に提出。
直後に衛兵長は逮捕、拘禁。
自分の不法侵入が罪に問われやしまいかとドキがムネムネしたが、其処はスルーで相応の成功報酬を受け取る。
全体的には地味な事件だったが、選択次第では異なる展開もあったようで、その内容とは例の殺害された男に密かに恋慕していたという隣家の女が仇討ちを果たすというのだ。
どういう手口で歴戦錬磨である衛兵長を討ち倒すのだろうかと気になって眺めていると、女は自宅まで呼び出した衛兵長を独自の方法で麻痺らせて、部屋の隅に潜ませていた数匹の大型鼠に襲わせて喰い殺させるという陰惨な復讐劇だった。
未だ鼠が徘徊する部屋の中で女は「さあもう如何にでもして頂戴(涙)」と項垂れている様子。
此れだったら地味な方がいいやと先の落ちを着地点とするしかないのだ。
<焔庭ノ貴腐人>
湖の中洲にある小島から向かった先にあるの門の前に来ている。
門前には身の丈は雲を突く如き大男が門番を勤めているという。
見学きぶんで門へ向かうと、成る程、雲突く大男である。
数名の屈強な男どもが門番に戦いを挑んでは儚く散ってゆく。
死屍累累としている現場にて骨好きな男と知り合う。
ホネスキーは「門番を亡き者にしたいから協力しろ」と云う。
無理っすよ先輩、あいつ体力あり過ぎっすよー。
じゃあ此れを使えと手渡されたのが、門番の兄の骨から作られた矢が数本である。
ホネスキー、趣味悪過ぎーとは思ったが、此の業界でまごまごしてるとずんずん置いてゆかれるのは分かっているので、ホネスキー先輩には逆らわず黙って受け取って置く。
兄骨の矢だけではパンチが無いと覚り、更なる弱点を攻めようと聞き込み調査を開始。
うろうろした先にて門番の母と名乗る女に会う。
よもや母親から息子さんの弱点は教えてくれないだろうと思いつつも話していると、当然弱みなんぞ伝えてはくれないのだが、自分の弟子であるひとりの女が喋り好きで困るという発言を聞き逃さなかった。
早速その弟子に会って話すと、あっさり「門番の弱点は母の涙」と教えてくれる。
「あ、これは師匠に内緒ね、また痛みの本質を教え込まれるから、あれはあまり好きじゃないの」
お前は何の弟子なんだ、何を教わっているんだとは問い詰めず、深夜に息子の勤務する姿を眺めては涙するという母親の佇む現場に居合わせて、母の涙を無事に回収。
ホネスキーから貰った骨の矢に母の涙を仕込み、門番に目掛けて中距離から射る射る射ると母の涙効果で見る見る弱り始め、やがてその巨体はドジャャァァッと門前にて鬱伏せに倒れるのだった。
満面の笑みを絶やさないホネスキーが薄気味悪いので軽く無視して斃れた門番より門の鍵を回収し、本件終了。
何だか申し訳無いので息子さんの件で母親に報告しにゆくと、挨拶こそ「久し振りね、あなたから与えられる痛みだけが私の悦びなのよ」等と隠微な台詞だったが、会話になると「この人でなし! よくも私の前に出られたものね!」と激しく面罵されてしまい、事故で遺族となった家庭に謝罪に訪れている加害者の如き悲痛な気持ちにもなるのだ。
(續く)
特定の方を名指しであれするのもあれなんで、俗人の聞き覚え書きとして以下を記す。
「西へ逃げて」と言い残し、翌日に博多へ。
「マンション借りちゃった、安いし」
「よく考えた上で今アムステルダムに居ます」
・・・オランダかー。
あすこは海抜ゼロメートル地帯だから別の憂いもあるぞえ。
(了)
本日ァ北区での二人会でござんす。
昨夜からの雨脚は幾分か弱まったようですがねぇ、足駄も揃えてねぇてんで今日の草履履きは遠慮しときやしょう。
『花緑・三三 二人会』
@赤羽南一丁目・北区赤羽会館講堂
入口にゃァ「満員御礼」と出ておりまして、札止めンなっております。
成る程、七束(700)入るなんてぇ会場を前売券だけで埋める勢いのお二方でらっしゃる。
柳家まめ緑◆二人旅
「花緑の六番弟子です」
本編:
此の噺ゃァ通しで演りますと大変長いンですがねぇ、前座のねえさんは「一昨年の八幡様の焼き豆腐が世慣れて角が取れる」件(くだり)まででした。
柳家三三◆大工調べ
三三師匠、自らを「説明下手な噺家」を称します。
「出入口に私と花緑あにさんが募金箱を持って立ち、皆様にプレッシャーを与えるよりも、プログラムにサインを書くという手段で商品売買という経済効果を発生させ、其の売上金を全額寄付という形を取りたい」という旨を訥訥と五分以上も語っておりました。
其のプログラムなんですが、三三師匠の意図が主催者側に伝わらず、実物を見れば、亭号が既に印字されておりまして、署名時には名前だけを横書きという残念な仕上がりだったと云います。
「噺家の名前は横書きに向かないので、プログラムには縦に書かせて戴きますよ」
「私の名は特に書き辛くて、此の名を付けた師匠小三治を今でも恨んでますが」
「一度、(柳家)喜多八あにさんに相談したんですね、あの方は学習院書道部ですから」
「『どうやったら、三三って上手く書けますかねぇ』ってたら」
「『お気の毒』って云われました」
「えェ、そんな日本語が不自由な噺家のお喋りにお付き合い戴きます」
本編:
「流石は棟梁」
「調べをご覧じろ」
お仲入りで御座ィます。
柳家花緑◆二階ぞめき
「明日は都知事選ですよ」
「僕思ったんですけど、投票用紙に『そのまんま』って書くとどうなるんでしょうね」
「『東』と続けば東国原氏ですし、『今の知事』と続けば石原氏ですよ」
「此の時期になりますと、お花見の噺がありますね」
「僕ね、あれ演れないンですよ」
「祖父(五代目小さん)は『長屋の花見』が得意でした」
「本人から聞いたのですが、矢張り実体験が元になってるって云うんですね」
「僕はね、貧乏を知らないからあの噺が演れない」
「でも、僕だけに演れて、祖父には絶ッ対演れない噺があるんです」
「それが、若旦那ですよ」
「親の金で苦労せずに暮らしつつも、偉大なる祖父の重圧に負けて狂ってゆく様が似合う若旦那です」
「笑う事は好い事ですよ」
「ある筋から伺ったのですが、一日八千も生まれる癌細胞は、一回の馬鹿笑いで二千死ぬらしいですね」
「僕、三月十一日は名古屋での独演会に出る為に東京駅の新幹線のホームに居ました」
「僕には『緑』に『君』と書いて、『ろっくん』という弟子が居まして」
「緑君は名古屋出身なんで、名古屋での仕事の時には彼に同行して貰ってます」
「・・・揺れ始めた瞬間、ホームに居る誰も揺れに気付いてないんです」
「新幹線ホームは電車が通過すると揺れてますから、矢張り緑君も気付いてませんでした」
「で、其の内に駅構内の看板がぐらんぐらん揺れ始めて、あ、凄く揺れてるなって思った次の瞬間」
「僕の片腕には全ッ然知らない小母ちゃんが掴まってましたね」
「で、緑君の姿を捜したら、彼は知らない小母ちゃんを二人を両の腕にぶら下げてました」
追い出しが鳴りまして、お開きでござんす。
吉林省出身というあにさんと韓国出身のねえさんが営むなんてぇ家庭料理の店で、境界線が曖昧な大陸半島折衷な品品で杯を重ねまして、赤羽の夜ァ更けゆくので御座ィます。
(了)
//uno//
//cerveza ... beer
//"ANGOSTO" vino rojo, Valencia
//"ALBRET" vino rojo, Navarra
//jamon 3 mixta ... jamón serrano, saucisson(f) and the other
//patata ... potato
//almeja ... HAMAGURI, vegitable paste
//brocheta ... barbecued prawn and vegetables on sticks
//pulpo a la gallega ... octopus, olive oil
//champi(ñón) ... mashroom
//pan ... bread
//dos//
//"Domaine du TARIQUET" blanc(f)
//"Château des EYSSARDS" blanc(f)
(fin)
<蚊ノ啼ク夜歩キ>
首都として認識されている中心部の街中をのそのそと歩いていると、緑黄色な肌艶の女より声を掛けられる。
聞けば、女の亭主が所属する組織では、「神の名の下に昼に表を歩けない主食が血液の人」を専門に討伐しているという。
同団体の代表者より「この街を守る為に君も参加しないか」と勧誘され、自ら正義の味方と名乗る奴にろくな奴は居ないと思いながらも、まァとりあえず俗世間と絡んどくかと思い直し、疑わしいとされる男の身辺調査を引き受ける。
調査の結果、容疑者とされた男は潔白どころか最愛の相方を奪われた被害者であり、依頼者である団体の代表が黒幕と判明。
東大モトクロスとは正に此の事で、確かに彼は陽も高い内は完全武装の用心棒に守られながら自宅に籠って爆睡を決め込み、夜な夜な起き出しては「ん、まだ其処に居るのか、あいつが疑わしいから調べて来いってば」と高圧的な物言いを繰り返し、稀に外出して不在なのは深夜ばかりである。
代表が真夜中に戦没者への祈りを捧げているという情報を得て、慰霊碑的な祭壇のある洞窟に向かうと、中はもう酷い有様で、吊るされた死体や棺桶の中に転がった骨があるばかりで、今晩はーと扉を開けた時には丁度彼は食事の真っ最中だった(と思われる)。
逆上して襲い掛かる代表を返り討ちにして、無事に帰還。
一時は容疑者とされた男より大仰に感謝され、「自分はあの団体の代表を引き継ぐ」とこれまた危険を掻い潜ったにも関わらず自らをも顧みない殊勝な発言。
えー? だってあいつらみんな血吸い仲間じゃないの、と思いきや団体の事務所を訪ねてみると、「ほんとごめん、あいつがあんな奴とは全然知らなかった、今は新しい代表と共に活動を続けてくから許してくれ」とぼんくらにも程がある返答。
新代表より挨拶があり、「もうあいつら汚らわしいから皆殺しにしちゃおうよ、皆でさ、それであいつらをぶち殺した証明になるんで遺灰を事務所まで持って来てよ、引換券になるから」と手持ちの遺灰は幾つか回収され、多額の報酬を受け取る。
遺灰を手渡す度に、「また殺して来てくれたのかい、君だけが頼りだよ!」と満面の笑顔で返され、惜し気もなく法外な金額の支払いを済ます新代表。
彼と自分の共通項、互いに裏の世界でしか生きられない存在と再認識するのだった。
<無銘居士>
中心部より南西にある都市にて再び不動産物件を購入。
所有物件数、都合三軒目である。
全財産の半分以上を投資してまで手に入れる必要があったか疑問は残るが、石造りにて近代的な建築方式の三階建ての高級住宅。
購入後に仲介者より「何某さんがまだ家に居座ってるみたいだけど気にしないでね、ていうか本人同士で何とかしてね」と云われたが、実際に内見しても何某とやらは不在である(今のところ)。
ていうか、詐欺じゃね?
あと気になるのは、先日町内でキチガイが刃物を持って暴れ出した事件があり、出張った衛兵の法的に処理した死体が未だに隣家の軒先に転がってる事かな。
<朧ナ生体反応>
前述の都市よりやや北方にある祭壇らしき像の前に立つ。
(敢えて何からとは云わないが)託宣に依ると、「ふたり組の海賊に目を盗まれた」という。
経験上多くを尋ねずに、わっかりやした親方ァそいつを取り返して参りやしょう、と盲目的に動くのが常となっており、即日海賊の暮らす自宅を訪ねる。
(ていうか、海賊が陸に住んでてどうするか)
海賊は賢明な兄と愚鈍な弟という構成で、弟の「ねぇねぇあんちゃん、あの場所で大丈夫かなァ」と、兄の「黙れ、その話は後だ」的なうっかり発言から隠し場所が判明。
のそのそと回収に出張り、即日持ち主に返却。
「お前には感謝しよう、海賊どもには天罰を与えよう」
どういう内容の罰かは訊かなかったが、折を見てあの海賊兄弟の安否でも確認してやろうとも思う。
(續く)
<霧笛ガ聞コヱナイ>
港町の波止場地区に不動産物件を購入。
六畳一間、木造の棟割長屋である。
調度品は火の絶える事の無い暖炉、薄汚れた夜具蒲団一式と卓袱台が一脚。
夜も更けゆくと近隣住人らの不穏な行動(深夜徘徊、物騒な言動)が目に余り、うかうかと自宅での就褥も儘ならない。
先行きが不安なので、訳知り顔の先人に立地と住宅事情を尋ねると、「あー、あの家ね、盗ッ人がうろうろしてるから気を付けたがいいよ、あとねー、お化けとかは特に出ないけど、蒲団に横になるとすーぐ患うよー」との物言いである。
何が「すーぐ」だと思いつつも、よもや疾病付きの訳あり物件とは露とも考えず、只只何の病に罹るのかも知れず、自宅で朝を迎える行為さえも戦戦恐恐とする日日なのである。
<世襲ノ功罪>
南方にある辺境の都市に来ている。
周囲には河川、沼地や湿地帯が目立ち、水棲植物も豊富に生えているという環境。
所属する組織の支部長に媚び諂(へつら)いに行くと、「頭の中で声がするの」という認知症を超えてヱキセントリックな老婆(支部長)より亡くなった父親の所持品である装飾品を捜して欲しいと依頼される。
宇宙意思からの電波指令を傍受したが如き発言ばかりの老婆は、近隣にある廃墟となった砦に手懸りがあるという。
曖昧な情報を元にして早速向かってみると、内部は住所不定な夜盗と山賊の合宿所と化しており、物騒な得物を振り回す輩で溢れ返っているという趣きである。
物捜しに託けて亡き者にされるかと疑心暗鬼にもなったが、それでも遺骨の納まった棺より無事に支部長の父の形見とやらを発見し、さあ帰ろう出口を目指すと、突然現れるひとりの男。
何処かで見た気がして思い出してみると、前述の支部に居た愛想の悪い眉毛が激しく繋がった常時仏頂面な同僚だった。
「ちょいと待ちねぇな、兄弟、それェ持ってっちゃっちゃァわっちが困るンでさァ」
いやいや、だってさ、これは支部長のお父っつぁんの物でしょ、返すのが筋だし。
「あの老いぼれさえ居なけりゃァわっちが支部長になれるてぇのに・・・、それを返しちゃっちゃァ老いぼれが正気になっちまわァな、人の出世の邪魔する奴ァ、あ、こうしてくれよう」
なんて大見得を切りながら、いきなり骸骨一体を呼び出してから短刀を抜いて斬り掛かって来た。
そういう腐れた了見なら遠慮なく返り討ちだし、一対一なら負けないぜと軽く殲滅。
で、この野郎の落としたレア物らしき短刀を戦利品として持って帰ろうと、床に這い蹲(つくば)ってまでも捜しまくるが、終ぞ見つからない。
ったく、しけてやがんなァと舌打ちしながら元同僚の亡骸を跨いで砦から脱出。
街に戻ってヱキセントリック婆に品物を渡すと、何かの作用で脳内が活性化されたのか、日常会話が可能になるまで恢復。
成る程、媚び諂うべき上司のリハビリの為には、ひとりの同僚の人命さえも惜しくは無いのだ。
<滂沱落涙>
前述の街と同所にて、言語障害にも近い話し振りの獣じみた男より宝石捜しの依頼を受ける。
宝石の由来をざっくりと解説すると、以下の通り。
ある地方で起きた旱魃に悩まされた領主は水不足を解消しようと、ファンタジィ作品や郷土民話によく見られる「水が無限に湧き出る壷」的な品を求めて自ら旅に出た。
善政で親しまれた領主は、自らの犠牲も厭わない民衆の為の騎士であったという。
しかし惜しいかな、旅の果てに辿り着いた地にて目的の宝を手にしながらも、それを守護する番人との戦いに敗れてしまい、命尽き果ててしまった。
その領主の悔し涙が結晶化して宝石になったというのだ。
・・・ていうか全ッ然見つかりませんが、何処に在りますかねぇ、さっき足元でからからからからって何か小さいのが落ちたような音が聞こえましたけど、あれですかね、あ、やっと一個見つけた、ていうかほんとに涙サイズでしかも地べたと同色ってどうよ、え? 五つ? 五つもあんの? ・・・手前ェが捜せよ!
半ば切れ気味にイチジク型のあれみたいな形の涙を五つ回収。
街に戻って獣じみた男に手渡すと謝礼として幾らか呉れた。
捜索に裂いた時間と労力に比べて報酬が見合わないと感じた時点で自分は民の為の騎士ではないと覚るのだ。
(續く)
※(改題)『継ぎ目無きヘリウムの都』 (第壱回~第捌回) #001-008
諸般の事情から街灯が消え、街が暗い。
闇夜に手探りで辿り着くは港区である。
坂下にある当店、薄明かりの中で鋭意営業中という。
暖簾を潜った中は盛況の様子で小上がりは全て塞がっており、カウンタアに通されて着座。
以後の客奴等は入れず、宜(むべ)なる哉、門前払いである。
まずは天上人の心持ちにて一盞。
此処では女将に全てを委ねているので、初めに「一杯目を」と言い渡しておく。
◇飛露喜(福島・会津)
盃と同時に出される突き出し、右より葱饅(ぬた)、酒盗クリームチーズ、蒲鉾と並ぶ。
旬の菜が書かれる黒板がさっぱり読めないので、再び女将に頼るとしよう。
聴けば、本日の造りは「鰹、牡丹海老、平目、xxxx」があるという。(最後の品は失念)
じゃァ前から二ッつとざっくりな注文を告げ、続けて米茄子と海老真蒸(えびしんじょう)を。
一合徳利が勝手に空になりたがるので、女将に「次を」と幾度も繋ぐ。
◇寫楽(福島・会津)
◇浅間山(群馬・草津町)
◇雨後の月(広島・呉)
◇呉の土井鉄(広島・呉)
焼いた筍の香が鼻腔に入って来やがるので、女将にそう云って運ばせる。
酢味噌、山葵醤油、岩塩、檸檬で萬遍無く食す。
程好い加減で坂下の店を引き上げ、俥で移動。
気が付けば二軒目にて計十四杯もやっつけてたという或る火曜の夜の出来事。
(了)
本日ァ中目黒での女子会でござんす。
『中目黒寄席 第百二回公演~春爛漫女寄席』
@上目黒二丁目・中目黒GTプラザホール
元来十八時開場ですがねぇ、早目に開けておりましたてんで、最前列に座して待ちます。
席亭からのご挨拶では、本日の演者であります柳亭こみちねえさんと桂右團治師匠はお二方とも早大卒だそうで。
後で知りましたが、方や文学部、方や法学部なんですな。
春雨や風子◆真田小僧
長躯で手足も長く年齢不詳な前座のねえさんで御座ィます。
師匠は四代目春雨や雷蔵だそうで。
前座名は浅草寺の雷神風神から取られたなんてぇ云います。
本編:
講釈『真田三代記』の件(くだり)は時間の都合で演りません、前座ですから。
桂右團治◆権助魚
短髪で小柄、そして年齢不詳な師匠で御座ィます。
本編:
「この魚ァ足だらけだけんど、こん中に手ぇはありますけぇ」
「蛸の手だァ? あるよ」
「どれですけぇ」
「こいつを参らせる時にな、ポカッと頭ァ殴るだろ?」
「へぇ」
「そん時、頭にこう『痛ッ』って上げた二本が手だよ」
「あ、そうでございますけぇ」
柳亭こみち◆天狗裁き
「先程、楽屋に枝太郎師匠が来ておりまして」
「えーと、何、枝太郎でしたっけ?」
「あたし、ほんとに噺家なんでしょうか」(笑)
「あ、桂です、そうそう、その桂枝太郎師匠から箱を差し向けられまして」
「『俺さ今、義捐金集めてるから、ここに千円入れてよ』なんて云っておりましたが」
「・・・あのお金はちゃんと然るべき所に届けられるかどうかが心配です」
「あ、そうそう、枝太郎師匠は前名は花丸あにさんでした」
「(桂)歌丸師匠のお弟子さんでねぇ」
(客席に向かって)「どうもありがとうございますー」
お仲入りで御座ィます。
柳亭こみち◆本膳
「あたしの師匠は柳亭燕路(りゅうていえんじ)と申しまして」
「漢字でツバメのミチと書きます」
「それであたしは『こみち』なんですが」
「前座名を決める際に、もう提案されたのがありまして」
「うちの師匠の前名は(柳家)九治と云います」
「で、九治の一番弟子という事で『くのいち』という、ねぇ・・・」
「高座に上がる時は反復横跳びで、懐には手裏剣、サゲの後はドロンと消えたりしますね」
「『こみち』はよく間違えられたりします」
「多いのは『みちこ』ですかね」
「あと、『こちみ』」
「『ちみこ』なんてのもありました」
「分からないのになると、『みこち』ってそれは名前ではないだろうと」
「一度山形でのお仕事を戴きまして、ポスターを作るのに名前を電話で名乗ったんですよ」
「『柳亭こみちと云います』」
「『あ、そうですかぁ、ぃりゆぅていぃこみっつぁんですか』」
「で、出来上がったのを見ますと、『ビューティこみち』になってまして、ねぇ」
(拍手)
「あ、ありがとうございます」
「この着物は師匠の・・・マンションを掃除している小母ちゃんから戴きました」
「帯は祖母からです」
「ステテコは母親ですね」
「・・・自分で買ったのは足袋しかありませんね」
桂右團治◆柳田格之進
本編:
柳田は自分に盗みの汚名を着せた萬屋の番頭(徳兵衛)と主(金兵衛)の首を斬らずに碁盤を叩ッ切って助命しまして、武家に生まれながら金子工面の為に吉原女郎に身を落とした娘は、父の意を汲んで全てを許しますが、現代ではこうはいかないと云います。
「ちょっと何なのー、あたし親父の為にやってんのにさー、もう超頭来る!」
追い出しが鳴りましてお開きで御座ィます。
寒風吹き荒ぶ中をちょいと足ィ伸ばしまして恵比寿へと向かいます。
「姉妹」なんてぇ隠微な名の店に入りまして、蒸されたもの、炒めたものや煮込んだものを戴きまして、お時間許す限りまでとろとろと飲んだくれまさァね。
(了)
此の日、夕刻より甲州街道を北側に越えての来店にて一軒目。
総勢六名を皮切りに夜も更けゆきて三三五五と雲散霧消し、此処では三名に。
二軒目、吹き抜け部分の壁側に天井まで酒瓶が並ぶという大変冒険心溢るる内装。
開始早早より次の河岸に向かう方向で飲んだくれている。
三軒目、L字カウンタアにて三名に一名が加わり四名となる。
葡萄酒的な銘柄をグラスに注(つ)いだり口に注(そそ)いだり濯(ゆす)いだりしていたが、銘柄も色も失念。
先の三名からの一名、また一名と脱落、逃亡してゆく。
四軒目、スピヰカアの一ツ一ツより各各の楽器音が聞こえる(気がする)。
Jazzyな音源ながらも造詣は皆無なので語るべき薀蓄も無し。
南阿弗利加産の何とかを要求すると、店主は凡そ五分間程ワインセラアと格闘していたようだが、壜と瓶の擦れ合う音ばかりで目前には現れない。
代打で登場した白い銘柄は以下の通り。
"Stone Cellars Chardonnay" by Beringer
朝靄の中を全盛の睡魔をVIP待遇で迎え、猫科動物の如き伸びをしながらつらつらと帰るのだ。
(了)
ごめんなさい、みなさん、じつはxxxxしてるのに、だれにもいわずにだまってました。
じっかにいるちちおやもははおやもなにもしりません。
ついでにいいますが、ほんとうはxxxxじゃなくてxxxxだったんです。
いままでだましててごめんなさい、ほんとうにごめんなさいです。
いろんなかくごはできています。
ゆるしてもらおうともおもいません。
・・・きょうがどういうひなのかももちろんしっています。
それでもいわなければいけなかったのです。
それとみなさん、わたしていたあいかぎはゆうそうでもいいのでかえしてくださいね。
あと、ゆうびんうけにまよねーずをながしこむのはやめてください。
ほかに、のらねこをまどからほうりこむのもげんそくきんしとします。
ほうてきてつづきにふみきらないでください。
ひをつけてもやしたり、ひをつけてやいたりしないでください、あついし、つらいおもいをしますから。
また、いいぶんもいろいろあるでしょうが、いろいろとあきらめてください。
おたがいゆういぎなじかんをすごしたのですから、さいごぐらいは、ねぇ、てをふってかいさんしましょうよ。(なんだこれ)
(おわり)