<半裸ノ王>
相も変わらずではあるが、闇に紛れて忍び寄る影として生きる日々を過ごしている。
それでも女子ですもの、おされのひとつもしてみたいしと目覚め、ひとんちの箪笥を開けては程好い衣類装飾品を物色する今日この頃である。
先日発見した指輪を嵌めてみたところで、遠目のヴィジュアル面では指周りに金色の線が付いただけに過ぎない。
豪奢な首飾りでさえも肝心の貴金属部は衣類に隠れてしまっていて革紐の部分しか露出しないし、どうにも地味である。
被り物はというと、マタギが討ち取った熊の頭部を直に繰り抜いた色合いの品ばかりで泥臭さこの上ない。
実用的且つ機能的されおつを目指すのだが、所詮相容れない要素同士は水と油である。
致し方なしとして一旦おされは諦め、仕様書一読だけで判断した実地で使える機能を備えた衣装を試着してみる。
・・・ピーチ・ジョン?
ってこれ、ビキニじゃん。
服の仕様書をよく読んでみると、粗雑に扱っても破れない上に殴られても痛くない、とある。
成る程、現場主義としては大変に重宝する。
肌露出は水着級の高さなのだが、粉雪舞い散る高山都市を訪れた折でさえも、町の人々からは特に奇異な目で見られていないのが幸いしてか、調子付いてそのまま部屋着感覚で町歩きも辞さないのである。
(續く)
<砂中ノ金>
満を持して湖底に没した指輪を拾いにゆこうと思い立つ。
当物品は何某が落としたという代物ではないので、必然的に拾得者の所有となる。
問題となるのは、取得までの手段が偏執的に難易度が高いというただ一点にある。
この指輪、出現時は不安定な状態で斜面のある浅瀬に沈んでおり、いかなる天候にも左右されずに固定されているという。
がしかし、たった一瞬でもその設置されているエリアに近付いてしまうと、指輪は何かから逃げるかの如く定位置より深く暗い湖底に向けて転がり出すのである。
薬指の径程しかない極小の輪っかを、岩石だらけの広大な水底で捜し当てるという、何に対する罰ゲームかと。
先人の知恵に頼るのを容赦願いたいのだが、先ずは仕入れた情報により湖面へ向けての飛び込み位置を決定。
指輪は接近と同時に転がり出す為、迅速且つ正確な行動が要求される。
目標との予想ランデヴーポイントは、十六方位で云うと南南西の方角である。
最短距離としての直線を自らの定めた動線と見立てて走り出し、そしてダイヴ。
湖底に到着後程なくして進行方向の右側、つまり西の方角より硝子製の瓶らしき落下音が聞こえた。
湖底に対して水平に泳ぐ目の前を瓶詰めのエールが東へ向けて横切ってゆく。
先人から授かった情報によると、この転がるエール酒は動くランドマークである、こいつは幸先が好い。
そして、その先をループ状の陰影が物凄い勢いで転がってゆくのが見えた。
僅かな凹凸で跳ねたりもしているのが、心憎い演出でもある。
湖底を凝視しながらなるだけ方向を変えずに、時にはうかうかと岩肌の丸い模様を撫でたりしながらも、ようやっと指輪を発見。
・・・そんな思いまでして手に入れるべき物なのかと問われれば、首を捻らざるを得ない一品ではあるのだが、それもまた王道から外れて道なき道をゆく人生設計の一環と割り切ってそっと左手の薬指をその輪に通してみたりもするのだ。
(續く)
送別会、余興のネタを仕込んでいる同僚の登場を待つ間、暫しの歓談。
「じゃァ繋ぎで僕の父親の話をします」
いえーい!
「先日、実家に居る父から久し振りに電話がありまして」
いえーい。
「『俺さ、今度結婚するんだ』」
いえ・・・。
「・・・以上です」
(拍手)
・・・直球で「おめでとう」って云えばいいのかしら。
(了)
<覚ヱ書キ>
先付:黒胡麻豆腐
造里:本鮪
揚物:蟹と穴子天麩羅
焼物:串焼
冷菜:旬菜と豚肉の冷しゃぶ
焼魚:銀鱈照り焼き
飯物:鰻櫃塗し
香物:茄子、蕪、大根、胡瓜
水菓子:苺
もりもとれおのまねをする、とせんげんしたせんぱいはいいました。
「いらだちは、つのる」
ばんぐみかなにかのなれーしょんからのいんようなのでしょうが、なにもつたわってはきません。
それでもいいはなったほんにんだけはまんぞくげです。
すこしずつずうずうしくなってゆくのが、おとなってもんです。
さて、むみかんそうなまえおきからはじまりましたが、つゆどきのびみょうなてんこうときおんのなか、みなさんはいかがおすごしでしょうか。
ひかげやおくないでぼんやりしているとき、きせきてきにすずしいかぜがふきぬけると、あさにぬりたくったしーぶりーずがまだこのおとめのやわはだにのこっていてほしかったと、ぎりぎりはがみしないわけでもありません。
すぎさったことやおわってしまったことにたいして、いつまでもあれこれいうのもおとなってやつです。
「かとりせんこう」をかおうとおもいました。
どらっぐすとあとよばれるどのみせにいっても「ひ」をつけない「でんき」でどうにかするたいぷのものばかりです。
「かやり」とか「かいぶし」とかくとふぜいがありますが、「のーまっと」ではじょうちょさえありません。
それでもめあてのしなをみつけました。
あるみかんのとくようさいずはうりきれだったので、つめかえようをかいもとめます。
きょうからさっそくあろまてらぴーだぞ。(「か」はしぬけどな)
ゆかたにうちわ、とうきでできた「かやりぶた」でにほんのなつをえんしゅつするというのうないへんかんがしゅんかんてきになされ、いめーじとれんどうしてのんだくれたくなります。
もうそうちゅうがくをそつぎょうしたおとなのなれのはてです。
2びょうもなやまず、のんだくれることにしました。
きんじょにあるこりょうりてんにむかい、かぜにたなびくのれんをくぐります。
みせのおかみからは「ごまさばをしめたのよ」とぶっそうなものいいです。
もちろんさばをしめるのですから、「しめさば」なのでしょうが、きょうはふつうのさばではなく「ごまさば」というなつにしゅんをむかえるのさばをしめてみたといいます。
じゃあそれをください。
すりおろしたわさびとしょうゆでいただきます。
ぐずぐずとのんだくれ、こくげんがせまってきました。
ころあいでひきあげようとおもいます、おとなですから。
みょうれいのじょしが12さいも「さば」をよむというこういは、「じつねんれい」こそいつわっているけれども、どうじにつたえた「えと」はほんとうよという、きょぎとしんじつのきんこうによって「じが」をたもつためのとうひこうどうにすぎません。
それをだれがとがめられましょうか。
しょうじきにせいじつでありたいとねがいながらも、みえとぷらいどできかざりながらいきてゆくのもおとななのです。
きょうで25さいになりました。
こんごともよろしくおねがいします。
(おわり)
<翳リ滅ビ逝ク陽>
世界は救わないと決めた以上、他人の厄介事すらも避けて通る今日この頃である。
とは云え、殺伐とした裏稼業に従事していると、時には嫌気が差すのも人情だろう。
それでもついうかうかとして、特製のじゃが芋を盗まれたという製パン業者に出会う前に窃盗犯を嬲り殺しにしてりたり、麻薬密売組織を壊滅して欲しいという依頼を受ける前に売人どもを殲滅させた上に薬物もついでに横領していたりと、枚挙に暇が無い。
自ら望んで血で血を洗う穢れ仕事を選んだとは云え、どうしたって人命を奪う結果になる出来事ばかりでは、ただただ荒んでゆくばかりである。
やさぐれ気分で日日を過ごす中、中心都市に程近い宿屋の女将より年代物の葡萄酒を纏まった本数で集めて欲しいと頼まれる。
これだ、ひさしくひきうけていなかったが、こういうこどものつかいてきなものをもとめていたのだ。
六本も揃えば相応の謝礼を支払いたいというのだが、何処に眠っているかは不明という。
銘柄の来歴を調べると、かつて砦勤務の兵士達が愛飲していたと判明。
成る程、砦中心に攻めれば巡り会えるのだろうと信じ、今日もまた廃墟となった砦を根城にする悪人どもを全滅させてから、ソムリエ気取りがワインを口に含むが如く振る舞いで悠悠と探索を始めるのだった。(それじゃ同んなじじゃんか)
(續く)
<出ウランバートル>
多湿高温な南方都市の城下町にて元蒙古系力士似の女子と知り合う。
絵的にはあれな彼女だがその志は高く、「騎士」を自称しており、不遜且つ尊大ではあるが質実剛健な人柄である。
女騎士は風の盗賊を名乗る男の居る場所へ案内しろという。
まァ断る理由も無いので情報を集め、彼女を風野郎の居を構える野営地へと案内してやる。
「まずは私が奴らと話すのが先だ、生爪剥がしたり首を切り落としたりするのはその後だからな!」
・・・いや、知らな人だし、初対面でそんなヴァイオレンスな事はしませんよ。
「いいから早く連れてゆけ」
あ、そうですか、ではこちらでございます、あ、そちらぬかるんでますからあしもとおきをつけて。
川沿いで焚き火というには大仰な火柱を轟轟と黒煙を濛濛と上げている祭り開催地かと見紛う場所を目指して歩いてゆくと、風野郎と他三名が詰めている様子。
女騎士は初手から喧嘩腰である。
彼女は風野郎に殺された親友を仇を討ちに来たと告げ、即抜刀。
いや、ていうかねえさん、そういうヴァイオレンスな展開だったら先に云ってよ。
こういう状況に追い込んで断る間を与えない上に助太刀しろという。
成る程、あたしが堀部安兵衛役ですかぃと思いつつ、続いて抜刀・・・せずに彼女が死なない様にと救護活動に回る。
そんな配慮は他所に鬼神の如き剣技にて四名を薙ぎ倒してゆく女騎士。
果し合いの後に身体の状態を診ても未だ余力を残して居るようだ。
「お前の助力、感謝するぞ」
いやいやいや、自分何もしてないっす、にしてもねえさん強いっすねー。
この女騎士と共に寝起きする一軒家を与えられ、すれ違いだらけの共同生活が始まるのだが、それはまた別の話。
(續く)
本日ァ大学での講義でござんす。
『第二回 桜美林大学寄席 講談・落語の会』
@四谷一丁目・桜美林大学四谷キャンパスホール
何故か入場時に大学名ろごの入った麻地の「えこばっぐ」を戴きました。
此れが木戸銭に含まれてるかと思いますと、下世話でもありましょうが講師として来てらっしゃる演者のぎゃらんてぃーの額面を憂えざるを得ませんなァ。
三遊亭好の助◆不動坊火焔
「好色の好に助兵衛の助と書いて、好の助と申します」
「大変に厭らしい名前となっております」
本人は「好楽の三番弟子です」としか仰ってませんでしたがねぇ、実はナポレオンズの「手品を演る背の高い方」、ボナ植木氏のご実息だそうで。
お仲入りで御座ィます。
一龍斎貞寿◆四谷怪談〜お岩誕生
演目が演目だけに、貞寿先生、左門町にある田宮神社(於岩稲荷)にて御守を求めて来たなんてぇ説明しております。
毎年講談師の皆様方は春を迎えますてぇと神社詣でと同時に墓参も欠かさないそうで。
巷間で知られる四谷怪談の前日談となる発端の抜き読みで御座ィます。
御家人田宮又左衛門が娘つなは疱瘡持ちで器量良しとは云えないのですが、縁ありまして奉公人で飯炊きの伝助と夫婦(めおと)となります。
伝助の次の奉公先、殿様と家来衆は参勤交代の為に国許へ帰りました松平安芸守様の江戸屋敷には足軽高田大八郎だけが居残っておりまして、つなの産気付いた様子が気になる伝助は刻限に遅れながらも大八郎の下へ出仕する場面から始まります。
湯に行った大八郎の留守の間に伝助は、天井裏にて金貸し伊勢屋十助の斬り刻まれた亡骸をうっかり見つけてしまい、果てには湯から戻って来た大八郎より遺骸を棄てて来いと託されまして一度つなの居る家へと戻りますが、十助の女房みねに気兼ねした伝助は遺骸とつなを家に置いて、みねに亭主が死んだ事を伝えようと十助の家を訪ねますが誰も居りません。
其れも其の筈、十助の身を案じたみねは大八郎の下を訪ねており、其の際に斬られ既に亡き者となっているからでした。
其の忙しい最中に産まれたのが、つなの娘岩なのです。
此れから追い追いと怪談噺になりますが、岩は祖父又左衛門に引き取られまして田宮家の娘として育つので御座ィます。
追い出しこそ鳴りませんが、此れでお開きと相成ります。
帰りに五明樓玉の輔師匠でざいんの手拭なんざ買い求めまして講義室から退出です。
仕舞いまで四軒に渡って梯子するんですがねぇ、其れは又ァ別の話でござんす。
(了)
<覚ヱ書キ>
壱:ガイパッメッマムアン、チャーン
弐:大根、玉子、つみれ、日高見(宮城・石巻)
参:茹で、焼き、一ノ蔵白峰(宮城・大崎)
肆:Macallan, Dewars
<碧肌ノ業>
内陸にある地方都市を初訪問する。
此れ迄は諸事情にて立ち寄る事すら避けていたのだが、今回は条件が揃った為に堂堂と乗り込んでみる。
何故に街に近付くのを回避していたか。
実は此の地に住まう不動産物件の世話役は、役所と街を繋ぐ高架の石橋から崖下に落下する癖がある為、迂闊に彼に接近してしまうと事故死する可能性があり、物件購入を目指す者としては彼の生命を大事にしたかったのである。
・・・が、直ぐに出会える筈の世話役の姿が見えない。
彼の姿を探して街を彷徨い歩く事数時間、似た人の後ろ姿を見付けては駆け寄りつつ追い抜いて振り返り別人と知っては溜息を吐く。
何これ、恋? (違うと思う)
漸く見付けたのは、正に事故の現場となる高架橋の上だった。
幸いにも橋の上に両の足で立つ彼、未だ生きている。
無事に不動産購入の手続きを済ませ、使用人も雇って地上三階地下二階の豪邸へと転居する準備は整った。
・・・もう此れで世話役に用は無い。
雲ひとつ無い空は何処までも青く、風にざわめく枝葉さえも爽やかである。
橋から眺める景色は一枚の絵の如き彩りで眼を愉しませてくれる。
・・・そうだ、彼を永遠にしてやろう。(にやり)
橋に手摺りは無く、一歩でも踏み出せば、兎角世知辛い浮世と離別可能である。
商談を終えて一度彼とは別れたものの、振り返って追い抜き、擦れ違い様故意に肩をぶつけると、当方の面積が狭い所為か文字通り肩透かしとなってしまい、彼の進路を妨げられない。
・・・何度か試しているうちに自分自身が落下。
超痛ぇ。
即死こそ免れたが、世話してくれた人に仇しちゃァいけないと思った。(当たり前だ)
(續く)
<岩モ粉ケヨ、再ビ>
夫が悪の組織に入団したという相談を妻から受ける。
聞けば、夫は妻の実家に代代伝わる家宝を持ち出してしており、妻は夫の生死を問わないが宝だけは奪還して欲しいという。
ぅわっかりました、駄目夫をぶち殺してお宝ゲットすればいいんですね、そういうの得意ですから。
夫の隠れ住む廃墟を奇襲して夫の所属する組織を壊滅させ、夫も専守防衛という名の返り討ちにして亡き者とする。
妻へ以上の経緯を報告すると、鼻でふふんと笑いながら奪い返した宝と引換に謝礼を現金にて手渡してくれて案件終了。
・・・というのが、正式な話の流れなのだが、実は自分は本編に登場する妻と会話さえしていない。
つまり、自分は夫が家宝を持ち出して悪の組織に入団という事実を知らずして、無頼の輩として夫を殺害し宝を手にしているのである。
更に間の悪い事には、妻は専業農婦であり、自宅前に畑を所有しているのだが、自分と農婦は野菜泥棒と生産者という間柄でしかない為、気まずい事この上ない。
取り返した宝には「愛する妻へ、夫より」という今となっては薄ら寒い歯の浮いた刻印が施されており、その妻とやらを捜すところから話は始まるのだが、それはまた別の話。
(續く)
<闇ニ紛レテ生キル>
西方都市を南に見下ろす山間(やまあい)を目指している。
険しい山間部の急斜面に対して疾駆と跳躍を繰り返しながら非現実感溢るる超人的動作で登坂してゆく。
轟轟と唸る程の水量が落ちる響きが伝わり、程なくして滝の存在を目にした。
落下し続ける一筋の水流の裏、石壁には木枠が収まっており、扉らしき人工物が見える。
・・・中に居るのは悪人に違いない(たぶん)。
不確かな自信に背中を押され、忍び足にて侵入を試みる。
内部は廃坑そのものだが、入口からの通路は存在せず、ただ広くもない一室が漠然とあるのみで、簡易的に据え付けられた敷布団、薄汚れた枕と毛布は張り番の寝床となっている様子である。
枕元の椅子に腰掛けていたのは辮髪姿の中年男性、肌の色は眼にも鮮やかな緑色である。
姿こそ見付かってはいないが、緑肌の男は人の気配を察した模様。
立ち上がって辺りを見回している。
「誰だッ!」
(無言)
「・・・忌忌しい鼠め、ちょろちょろしやがって」
・・・っておっさん、小咄じゃないんだから。
鼠は元より小咄通りに「杭」の振りして、くいくい啼いてみても見逃して貰えそうにないので、先制攻撃を仕掛けてみる。
最近では過剰防衛の反撃手段として手製の毒を多用するのだが、毒の回った敵の顔色が毒毒しく変わる様が気の毒と云えば気の毒である。
毒死した敵の亡骸を剥ぎ取ってみると、身元は当初からの予定通りに職業欄「山賊」の悪人である。
ならば遠慮も要るまい。
室内を散策すると落とし戸を発見したので奥へと進む。
遠目で敵の姿を確認すると、二人以上で何組かが世間話をしている様子。
ガチでは負ける気は毛頭しないのだが、複数男女とのプレイは経験が少ないので、此処はひとつ同士討ちをして戴こうとその様に仕込んでみる。(手順は割愛)
計略図に当たり、乱戦混戦の運びとなり、生き残ったバトルロワイヤルの勝者一名を離れた暗闇から毒攻撃。
気付けば、坑内に於いて生命反応があるのは自分だけという結果に。
此の手で葬った輩の私物を大業物から小銭一枚に至るまで回収し、業者に横流すのが最近の主な仕事なのである。(どっちが山賊だ)
(續く)
本日ァ年四回興行の地域寄席でござんす。
『第103回 中目黒落語会』
@上目黒二丁目・中目黒GTプラザホール
めづらしく恒例の席亭からのご挨拶が御座いませんで、代役を世話人の方が務めてらっしゃいました。
出演の桂平治師匠、来年秋に十一代目桂文治を襲名するてんで大変にお目出度い話なんですがねぇ、襲名を記事にした夕刊フジからの抜粋文には「文治から平治を襲名」となっておりまして、如何にもりあくしょんに困る訳ですなァ。
瀧川鯉橋◆唐茄子屋
「平治師匠が文治という大名跡を襲名するそうで、お目出度う御座います」
「私も、とは云え未だ内内の話なんですが」
「来年真打に昇進するという話が・・・」
(客席より拍手と喝采)
「いや、飽くまで内内なんで、内内定という事でして」
「・・・いつ取り消されるか分からないんです」
桂平治◆禁酒番屋
「うちの師匠は(十代目桂文治)と学校寄席に行った事があるんですよ」
「楽屋ていうか控え室ですね、其処に兄弟子と別で呼び出されまして師匠が聞くんですね」
「『お前ぇ、何のネタ演る積もりだ』」
「へぇ、あたしは分かり易く『牛褒め』でも演ろうかと」
「『馬鹿野郎ッ、あんな与太郎噺はな、そういう人が居るかも分からんから他のにしな』」
「では、『転失気』は如何でしょうか」
「『あー、転失気はいいな。屁とか子供は好きだしな。よし、お前は其れを演れ』」
「って云われまして、あたしは『転失気』を演る事に」
「兄弟子は兄弟子で師匠の下へ行きますと」
「『お前ぇは何のネタ演る積もりだ』」
「へぇ、私は軽く『牛褒め』でも演ろうかと」
「『馬鹿野郎ッ、お前も与太郎噺か、他のにしな』」
「『では、初天神は如何でしょうか」
「『あー、初天神はいいな。子供が出て来て賑やかだしな。よし、お前は其れを演れ』」
「で、あたしと兄弟子は師匠の教え通りに一席ずつ演りまして、最後は師匠の高座でした」
「何を演るのかなーと聞いてましたら、此れが『牛褒め』でしたね」
「じゃァさ、先に『俺ァ牛褒め演るから、お前ぇらは違うのを演れ』って云やァいいじゃないすか」
「そういう事が云えないんですね、うちの師匠は」
お仲入りで御座ィます。
瀧川鯉橋◆元犬
本編:
「(元犬シロの)当代は二十六代目で御座いまして、現在では携帯電話のCMに出ているそうです」
桂平治◆幽霊の辻
(小佐田定雄:作)
「うちの師匠は子供の頃、雑司ヶ谷で人魂を捕ったてんです」
「墓場の近くで友達と遊んでたんだそうですが」
「皆先に帰っちゃって、だんだん辺りは薄暗くなるんですよ」
「で、目の前をほわーって青白い火の玉が横切りましてね」
「さっきまで蜻蛉捕ってた虫取り網があったてんで、わって捕まえたってんです」
「・・・此れ(口から出任せ)だと思うんですがねぇ」
「まァ本人が云うんじゃァしょうがないですね」
「(古今亭)志ん生師匠は、不忍池から百年生きた鯉が龍に成って天上するのを見たてんですよ」
「で、池ん中には五十年とか九十九年の半端な鯉や鮒が居る訳です」
「そいつらが『俺も連れてってくれー、俺も俺も』って今正に天上しようとする龍の鱗に潜り込むんですね」
「で、龍が一度ぶるぶるって身体を振るうと、鯉も鮒も皆んな下に落ちたてんですよ」
「だからその時期に上野に行くと、地面に鯉や鮒がばんばん跳ねてたってんですって」
「・・・此れだと思うんですがねぇ」
「まァ本人が云うんじゃァしょうがないですねぇ」
「(三味線漫談の)玉川スミ師匠は巡業先で轆轤ッ首を見たてんですよ」
「あの時代の女性は丸髷ですから、寝る時は箱枕なんですね」
「伸びるったって急に伸びる訳じゃァないんです」
「一度箱枕から、どすっと床に落ちましてね」
「そっからこう天井に向かって伸びるそうです」
「・・・此れだと思うんですがねぇ」
「まァ本人が云うんじゃァしょうがないですねぇ」
本編:
堀越村に向う男が茶店を営む老婆に道を訊ねますが、道中目印となる全ての場所に因縁噺が語られ、然も結果何も起きないという如何にも大風呂敷な上方発の新作で御座ィます。
水子池 ⇒ 獄門地蔵 ⇒ 首括りの松 ⇒ 父(てて)追い橋 ⇒ ぽっくり寺
父追い橋では瀧川鯉昇師匠と鯉橋あにさんの名が不名誉な形で登場します。
此の噺、江戸の噺家では落語協会、柳家権太楼師匠も演ってらっしゃいます。
・・・しかし、平治師匠の権太楼化は最早誰にも止められないのでしょうか。
発声から顔付き仕草まで激似てぇのが、来秋の文治襲名を若干憂ぇねぇでもねぇでげすなァ。
三層肉を求め、山手通りを渡りまして、斜めンなった鉄板で焼いた肉ゥ青菜で巻きながら、刻限まで程好く飲んだくれましょうかねぇ。
(了)
"Salt (2010/Columbia Pictures/100)"
director;
Phillip Noyce
starring;
Angelina Jolie as Evelyn Salt
Liev Schreiber as Ted Winter
Daniel Olbrychski as Vasilly Orlov
August Diehl as Michael Krause
Chiwetel Ejiofor as Peabody
Olek Krupa as Boris Matveyev
(End)
本日ァ二人会の通し公演でござんす。
曇天の下、銀座線も半蔵門線も止まるなんてぇ青山一丁目を目指します。
『rakugoオルタナティブvol.2 談笑ダブルス「東京物語」』
@赤坂七丁目・草月ホール
長丁場でござんすがねぇ、昼夜公演の前半部からお付き合い願いますな。
<昼の部>
立川志らべ◆持参金
「何故談笑師匠と市馬師匠の会に志らくの弟子の私が呼ばれたか考えてみましたら」
「三人とも身長が百八十糎(センチ)超えなんですね」
立川談笑◆堀の内
「私は江東区北砂の出身でして」
「子供の頃は近所に紙芝居の小父さんが来るような土地でした」
「今は随分と数は減りましたが、駄菓子屋が町内に何軒もありまして」
「店の奥でもんじゃを食べてました」
「今の人達は『月島のもんじゃ焼き』と呼んでますが、私に云わせればもんじゃですね」
「今では焼く時にまァ土手を作ったり、和牛なんて入ってたりしますが」
「私の云うもんじゃは土手も拵えませんし、ベビースターみたいなラーメンを砕いた様な菓子を入れるだけです」
「そもそも、もんじゃと呼べる条件は唯一つ」
「・・・不味いって事です」
「今は杉並区の堀の内に住んでまして」
「杉並区の人は善い人ばかりですね」
「江東区の人は良くないです」
「先日、三十年振りの同窓会に行きましたら」
「まァ私の父もそうですけど、地元では職人や商店主の倅ばかりなんですね」
「うちの父親なんて公の場で壇上に立ってスピーチを求められましたところ」
「涙ぐみながら『・・・サラリーマンが憧れでしたッ』って云うんですよ」
「・・・スタートラインはそんなに後ろかと」
「で、同窓会は矢張り職人や商店主だらけですから、スーツにネクタイ姿が居ないんですね」
「一人だけ遅れて来た同級生が居まして、彼がスーツにネクタイで登場するんですよ」
「・・・アパレルとか云ってましたけど、嘘じゃないかと思うんですけどね」
「先に来てた同級生が『遅いじゃん、お前』って云いましたら」
「『ッせぇなッ、お前らが早過ぎるんだよ、べっ』」
「って此れ最後の『べっ』ってガム飛ばす音ですよ」
柳亭市馬◆首提灯
「まァ『弁天様を拝んでる』なんてぇサゲを云う人は落語協会には居ませんね」
「前座で『持参金』演るのも落語協会には居りません」
お仲入りで御座ィます。
立川談笑◆子別れ
本編:
江戸は昭和に、登場する大工の棟梁(とうりゅう)は建設会社社長に置き換えられて話は進みます。
終盤に差し掛かって全ては社長の倅、金坊が企んで実行した作戦だったと知れます。
東京タワーやサンシャイン60、果ては「帰ってきたウルトラマン」という名ののすたるじぃに集約されます。
柳亭市馬・立川談笑◆特別対談「柳家小さんの東京」
談笑「小さん師匠、鰻はどちらで」
市馬「会合がある時とかお客とは池之端の『伊豆榮』だったね。今じゃァビルの上にラウンジなんか作っちゃってるけど」
談笑「えーと、個人では別という事ですかね」
市馬「そう、天神下にある『小福』という店だったね」
談笑「それはやっぱりあれですか、伊豆榮が・・・」
市馬「いや、そういう訳でもないんだろうけど、小福の鰻が好きだったみたいで」
談笑「成る程」
市馬「兎に角、大食漢だからね、店に丼を置いてたよ」
談笑「マイ丼!」
市馬「鰻重はあるんだけど、鰻丼が無くてね」
談笑「お重はやっぱあれですか」
市馬「『重箱は面倒臭ぇ』って云ってた」
談笑「丼はその後どうされたんですか」
市馬「今でも店にあるよ」
談笑「小さんの丼のある店」
市馬「しかしよく貸してくれたねぇ、草月流だよ此処は」
談笑「恐らく(立川)談春さんと私を間違えてるんじゃないかと思うんですよ」
市馬「その内、化けの皮も剥がれてねぇ」
談笑「それまでは何とか」
追い出しが鳴りまして、昼の部終演で御座ィます。
小一時間ばかりの間を繋ごうと、霧雨ン中、外へと繰り出しますが、開いてる店なんてぇ喫茶店ぐれぇのもんです。
愚図愚図と遣り過ごしまして、元の場所の元の席へと戻ります。
<夜の部>
立川らく次◆鮫講釈
本編:
らく次あにさんの趣味でしょうか、何故か「宝塚歌劇団歴代スター」言い立てがあります。
立川談笑◆イラサリマケー
「以前、私が前座だった頃、談志師匠と師匠の息子(松岡慎太郎)さんと銀座を歩いておりまして」
「帝国ホテルの前を通りましたら、入口に『桂南光襲名披露』とありまして」
「南光さんは上方の噺家さんですね」
「その後に『出演:柳家小さん』とあるんですね」
「で、師匠が息子さんに『お前、面白いもん見てぇか?』って聴くんですよ」
「厭ァな予感がしたんですが、前座ですから師匠に付いて行くしかないんですよ」
「あの立川談志がですよ、今正に帝国ホテルの楽屋口に向かっているという」
「その頃、中の人間はその核ミサイルの接近に気付いてすらいない状態で」
「で、楽屋のドアをばーんて開けましたら」
「小さん師匠、(桂)米朝師匠、南光師匠が座ってまして」
「うちの師匠が徐(おもむろ)に手を付きまして」
「『此の度は御目出度う御座います』って口上を述べるんですよ」
「で、その後は米朝師匠に向かって、『最近の上方落語はどうですか』なんて喋ってるんですね」
「その横で小さん師匠がずーっと談志師匠を睨んでる状態ですよ」
「米朝師匠も何だかな空気に気付いてまして、何処か上の空で『せやなァせやなァ』って合槌を打つばっかりなんです」
「その内、小さん師匠がキレまして、『てぇげぇにしやがれッ!』って怒鳴ったんですね」
「『お前は昔ッから理屈っぽいてんだよッ』って」
「そしたら、談志師匠が『いや、理屈かどうかてぇのは個人の主観であって』とか云うんです」
「『そういうところが駄目なんだッ』って云われてました」
「で、大阪から来て此の場に居なかった方が一人居まして」
「談志師匠がトイレに立った時に丁度鉢合わせしたのが、その方(桂)枝雀師匠だったんです」
「枝雀師匠とうちの師匠はお互いにリスペクトはあったかもしれませんが、落語の理論で云うと全然合わない人達でしたから、此処は此処で微妙な関係なんですよ」
「談志師匠、枝雀師匠の方にどっかと手を乗せて『やってる?』って聞くんですね」
「そしたら、枝雀師匠は完全に呑まれちゃってて、『はァ、えェ、まァ、うん』って」
「これ実は前にとあるパーティーで談志師匠が誰かにやられてた、そのまんまの手口なんですよ」
「その誰かというのが、勝新(太郎)ですよ」
「うちの師匠も勝新にそれをやられて、『はァ、えェ、まァ、うん』とやってましたから」
立川談笑◆黄金餅(こがねもち)
談笑師匠、一度袖に引っ込みますが、間髪入れずに再び高座に上がります。
「あのネタ(『イラサリマケー』)の後は上がり難いとよく云われましたが」
「まさか自分で体感するとは思いませんでした」
本編:
談笑における金山寺屋の金兵衛は願人坊主の西念から貯め込んだ小金を盗る気で行動します。
焼き場では呑み込んだ金が心配になり、生焼けにする為、「遠火の強火」を希望しますと、元料理屋の板前だった焼き場の男は「そういう客を待ってた」と請合いますが、遺骸に「かぼす」を入れたりしまして、金兵衛より「かぼすは要らねぇんだッ」と投げ付けられます。
お仲入りで御座ィます。
立川志らく◆唐茄子屋政談
「本日は長野での独演会がありましたので、談笑の会なのに私の上がりが最後になっております」
本編:
後で伺ったんですがね、「江戸の名物、唐茄子屋政談の一席でございます」というのは『黄金餅』のサゲと間違えたと告白しておりました。
立川志らく・立川談笑◆特別対談「立川談志の東京」
志らく「(立川)志の八の逮捕騒ぎどう思う?」
談笑「いきなりそこですか」
志らく「シャブ中だったら隔離して薬抜けば治るっていうのはあるけど、性癖は絶ッ対無理だね」
談笑「あれはどうなんですかね」
志らく「覗いた相手が男っていうじゃない」
談笑「そうなんですよ。男と分かってて覗いたのか、それとも女だと思ったら結果的に男だったのか分かりませんね」
志らく「そこんちの旦那さんに捕まったんだよね」
談笑「ええ、聞いてみたらですね、その家の奥さんが屋上から外を見てて、風呂場を覗いてる志の八の姿を見つけて、入浴中の旦那さんに『誰かうちを除いてる人がいる』と報告して、その旦那さんに追い掛けられて捕まったんですよね」
志らく「そう、てことはその旦那は全裸だった可能性はあるよね」
談笑「もし志の八がそっち側に人間なら、全裸の男に追い掛けられて抱きしめられるのは無上の喜びで、リスク冒しても価値はあるんじゃないかと」
志らく「本人を呼び出して聞こうよ、こういうところで」
談笑「そうですね、(プロデューサーに向かって)そういう企画やりませんか?」
談笑「『宮』の帰りに(古今亭)志ん朝師匠と談志師匠が銀座のガード下で抱き合って泣いてたのは本当なんですか?」 ※『宮』・・・ 著名人の通う銀座のバー
志らく「本当らしいよ。『お前は名人になれ、お前は名人になれ』って」
談笑「ははあ」
志らく「前に大阪で米朝師匠とうちの師匠が飲んだ事があって、二人ともべろべろになるまで飲んでて、談志師匠が矢ッ張りそこでも『上方にはあんたしかいない、あんたしかいない』って別れ際に抱き締めてた」
談笑「米朝師匠を」
志らく「談志師匠締め過ぎてて、米朝師匠がもうこんな鯖折り状態で、『やめなはれ、やめなはれ』って泣いてた」
談笑「ははあ、最後は大阪の話で〆るという、東京の話は何処に行ったのかと」
追い出しが鳴りまして真のお開きでござんす。
ビルマ人の云うところの「カナシクシンダドウブツノオナカカッサバイテズルズルトナイゾウヲヒキズリダシテブッタギッテアミノウエニノセテジウジウトヤイタモノ」でも戴こうかと俥屋ァ呼びまして移動しまさァね。
(了)
<屍人返リ>
誰かの真似をする際に其の名其の物を名乗る輩は藝が青いと云えよう。
実例は割愛するが、各各の胸中に具体的な像が在る筈である。
さて、千年以上前に建造されたという遺跡を巡り歩いている。
今日も今日とて、北方にある廃墟とも呼ぶべき旧跡を訪れる。
暗く冷たく厚く重い石扉を押し開くと、朽ち果てた外観とは裏腹に、悠久の時を経て尚内部は矢鱈と賑やかな様子である。
室内への採光は古代の超自然的な技術により、管理者要らずにて半永久に輝き続けているものの、墓所でもある此の建造物には、守護者としての魂無き存在が徘徊しているという物騒な空間である。
タヒチにおけるヴードゥー魔術が労働力として生ける死人を生み出した経緯と同様に、此の遺跡での彼等も例に漏れず働き者である。
しかも表皮臓腑共に腐れ爛(ただ)れている構造でありながら、如何いう訳か駆け足が速いという事実が追われる者に対して余計な恐怖を演出している。
そして彼等の侵入者発見時の唸り声は前述の下手な藝人のベタな演出なのである。
「ゾ~ンビ~」
分かったから分かったから誰も君らの身の上なんて疑ってないから、と後ろ走りで逃げる今日此の頃なのである。
(續く)
・与温泉鸡蛋的Caesar色拉
・金枪鱼和扇贝的薄肉片拼盘
・虾散发香味蔬菜的纯粹春卷
・纯粹火腿和鳄梨的crostini
・星下的马铃薯
・仔鸡的烤 蜂蜜芥末酱
・金枪鱼和蘑菇的peperoncino
・杏仁豆腐芒果调味汁架
(结)
"Eu que olham para só um livro de ensino e o fora da pichação e 15 noite quando eu sentia como isto havendo podido ser livremente"
Vinho da Madeira (Dez anos)
"Sercial"
"Verdelho"
"Boal"
"Malvasia"
O Sercial que terá de ser seco,
o Verdelho meio seco,
o Boal meio doce e o Malvasia doce.
(fim)
本日ァ神保町での二ツ目勉強会でござんす。
あたしゃァ健康診断とやらを明日に控える身でしてねぇ、前日二十一時以降は飲み喰いしちゃァいけねぇてんですから、此処はひとつ時間が来る前にやっつけてやろうと、翌日の事も考えずに選(よ)りにも選(よ)って東南亜細亜的な辛ぇ物を選(よ)り選(すぐ)りまして、十九時半開演を前に詰め込むだけ詰め込んでおりまさァね。
『らくごカフェに火曜会』
@神田神保町二丁目・神田古書センター五階
春風亭一之輔◆唐茄子屋
「楽屋が狭いんです、二畳しかなくてね」
「人妻(こみち)と同じ二畳間で着替えをするんですよ」
柳亭こみち◆死神
「二ツ目勉強会の企画で一之輔あにさんに作文を書いた事がありまして」
「今から申し上げる事は作文には書かなかった、書けなかった内容ですが」
「(林家)ぼたんちゃんに『触らせろ』と云ったとか・・・」
楽屋より「そんな覚えはない」と突っ込みが入ります。
「ねー、こういうところが可愛いでしょう」
「あと、一之輔あにさんは(柳家)わさび君と学校が一緒らしいんですけど」
「わさび君から聞いた話で、或る時一之輔あにさんが酔っ払ってたらしいんですね」
「で、わさび君の耳に向かって両手でこうチョップしたんですよ」
「そしたら、わさび君の耳からこう、だーって血が流れて来て」
「其れを見た一之輔あにさんが笑いながら云ったそうです」
「『ウォークマンみてぇ』」
お仲入りで御座ィます。
柳亭こみち◆壷算
本編:
他の演者では登場しない「瀬戸物屋の女房」が登場し、亭主の騙され加減を是正するかと思いきや、詐欺的な客の肩を持つという展開でした。
春風亭一之輔◆鰻の幇間(たいこ)
「(前方『壷算』における女房登場を受けて)まァ、教わった通りに演らないんですねぇ」
追い出しが鳴りましてお開きでござんす。
明日ァ飲まされる「ばりうむ」の入る余地を考慮しまして早早に引き上げまさァね。
(了)
<無蓋ノ貨車>
此の業界に長く居る先人の発言を聞き、はたと膝を打つ事もある。
「ひさしぶりに人に会うとほっとします、だって楽ですから(殺すのが)」
むう、思わず漏れる唸りを禁じ得ない。
()内は筆者注であるが、至言とも云えよう。
確かに野生動物の強さったら果てしない。
絵的には動物園内をのそのそと這い回るだけの名の知れた畜生どもではあるのだが、機敏な動作、驚異的な強靭さと致命傷を負わせる破壊力を兼ね備えた畏怖すべき存在なのである。
故に、遠くに奴等の姿を認めると、脇道に逸れての遠回りも辞さない。
複数の個体に囲まれると命が危ういのを知っているからだ。
その点、へっ(鼻笑い)、人間は楽ちんである。
日常的に集団行動をしている癖に結束が緩いが為に仲間割れ度合いも激しく、乱戦時に自分だけがそっと戦線を離脱しても、日頃の鬱憤かただ単に熱くなっているのか、友達同士で殴り合っている始末。
特等の観覧席を捜し、茫洋(ぼんやり)と立つ一人の後頭部目掛けてぽかりとやってからすっと着座。
後は勝手にがちゃがちゃやって全滅してくれるので、前述の至言に結び付くのである。
それに、これ(掌を上にして親指と人差し指の先を合わせる)も持ってるしね。
(續く)
というわけで、すいみんぶそくです。
ぜんぜんねむれてないわけでもないのですけれども、どうにもすっきりしゃっきりしないあさのひかりです。
それでもひとはうごくのです、おなかがすくとうごけませんから。
やまぶきいろいろの「ぎんざんせん」にのりました。
しはつなのでとうぜんのようにすわれます。
でんしゃのゆれがこれからむかうもくてきちとはべつのばしょへといざないます。
・・・ごとんごとん
めをさますとさいしょのおりるべきえきでしたので、「ぎんざ」でおりました。
まちはあまりゆうふくそうでないひとたちがむれています。
おうちにいられないじじょうでもあるのかな?
「ひがしぎんざ」までとほでいどうします。
いぜんはみあげるほどのそんざいかんをかもしだしていたはずの「かぶきざ」があとかたもありません。
かよいなれたたてものがめのまえからこつぜんときえるというのはさびしいかぎりです。
(かぞえるほどしかあしをはこんでいませんが)
あさごはんはがっつりといただきましたが、ひるをたべてないことにきづき、そのあしで「つきじ」へむかいます。
あまりなじみがないので、とりあえず「つきじしじょう」えきほうめんにむかいます。
・・・ひととさかなのけはいがしませんね。
あとできづいたのですが、じつは「つきじしじょう」と「つきじ」はろせんすらことなるえきとしりました。
おなじ「みょうじ」だけどじつは「あかのたにん」みたいなさめたかんけいです。
きごころのしれた「たいしょう」のいるなじみのみせをめざし、こぶしでのれんをこじあけます。(うそ800)
まずはいっこんと「がりょうばい」をひやでいただきます。
きゅうにはいってきたあるこをるとやらが、すきっぱらにしみわたります。
りんせきのきゃくがくらう「おけ」みたいなうつわにいっぱいのぎょかいるいがごうせいなかんじがしたので、じゅうぎょういんをよびつけ、ゆびさしで「あれを」とおーだーします。
ほどなくして「せんめんき」だいのたらいにもられた、かいせんものがあらわれました。
にほんごのつたないじゅうぎょういんから、たべるためのこころがまえがたどたどしくつたえられます。
「ひとつ、ぜんたいの3ぶんの1を1ぜんめとし、うえにのった『うに』はわきによけてもらて、わさびじょうゆをおこのみでかけまわして、まずはふつうの『かいせんどん』としてあじわてください」
「ふたつ、2ぜんめは『うに』をまぜこんでたべください、まぜるはこちらでやるますから、たらいください」
「みっつ、さいごはあつい『だし』をちゃわんにいれてわたしますから、『ちゃづけ』としてめしあがりください」
なんてすばらしいこうせい、3しゅるいのあじわいがたのしめます。
いきとどいたせつめいをありがとう、とおいにほんまではるばるでかせぎのひと。
まぐろのあかみ、しろみのさかな、たこ、いくら、あわびなど10しゅるいのぎょかいが、くちのなかでまいおどります。(まずしいひょうげんですね)
かんぴょうやしいたけのあまにをつまみながらかんしょくします。
さて、はらぺこもみたされたことですし、じんじゃぶっかくでもさんけいさんぱいしましょう、とふたたび「ぎんざせん」にのります。
ゆられゆられてしゅうてん「あさくさ」にとうちゃくです。
「かみなりもん」から「せんそうじ」へむかうみぎてに「すかいつりー」がみえます。
「すごいね、3,000めーとるだってよ」といいながらよこをとおりすぎていったおろかなかんこうきゃくのはつげんををききのがしませんでした。
にほんいちとよばれる「ふじさん」でさえ3,776めーとるだというのに、けんぞうぶつでそれはないだろうに。
「ばべるのとう」かよ。
まぁたしかに、にんげんの「おごり」のしょうちょうにはちがいありませんが。
あまりかしこくないつーりすとを「せんこうのけむり」にしてやろうかともかんがえましたが、おもいとどまりました。
さいせんをなげいれ、つつがなくおまいりしまして、「なかみせどおり」をとおってもどります。
やがて「あさくさ」もはなれ、かえるじこくとなりました。
さようなら、ぎんざあさくさあざぶじゅばーん。
じっさいには「みなとく」にあるさいごのとちにはいってませんが、かくめでぃあにおどらされないように、しんちょうなあるきかたをしたいとねがうばかりです。
さいごになりましたが、せちがらいよのなか、しっかりしなくちゃいけないとおもいました。
・・・しっかりよりもたいがいうっかりなんですけどね。
(おわり)
「とうきょうどーむ」ではもりあがっていたそうですね。
ぶっぱんでは「うちわ」がこうひょうだったそうですよ。
うらとおもてになまえのいちぶがかかれていまして、さけびながらくるくるとまわすそうです。
たのしそうですね。
それはさておき、のんだくれのおぼえがきですよ。
あさ:こーひー(あめりか・わしんとん・しあとる)
ひる:びーる(よこはま・やまて)
ゆう:びーる(よこはま・やまて)
よる:あいりっしゅ・うぃすきー(あいるらんど・だんだるく)
よなか:しょうちゅう(さんちふめい)
あ、たべものもしっかりたべてますから、いためものからかわきものまで、もそもそと。
たしかにかたよったないようだったのはいなめませんね。
わかかりしころのおもいでにとうひしながら、のどがうるおわないえきたいをのみつづけるのです。
(つづく)
<貴賎ノ対価>
何やら下下(しもじも)が混沌としておるな。
下民どもよ済まぬ、余は狩猟で多忙なのだ。
・・・とは云ってはみたが、妄想貴族の実際の暮らしは酷い有様で、作荒らしと人間狩りの半農半猟の毎日である。
無謀にも新たな不動産の購入を画策しているのだが、審査に通るか否かも分からない状態で、職業欄に何と書き込んで良いのか悩ましいところである。
夢か恋か宝か生物かを曖昧にしておいて、其れらしく「狩人」とでもしておこうか。
更に難易度を上げている購入条件として、高い名声が必要という。
確かに善行に従事する者は一日一善的に名声は上昇するのだが、悪行とは云わない迄も上記の業種は子供達の手本に為る要素は微塵も無いのが現状である。
いや、其れでも構うまい。
正義の味方を使い走りと定めた以上、自らが欲した退治討伐殲滅系という血で血を洗う汚れ仕事に手を染めて黒き名声を上げてゆきたい今日此の頃である。
(續く)
<霧深キ湖面ニ映ユル焔>
理由無き投獄の果ての釈放後、野に放たれてから数日が経過し、西方にある港町にて豪邸を購入。
所有物件二軒目である。
其の値僅か伍千金は例によって追い剥ぎ紛いの行為にて資金を捻出し、一括で支払う。
当館、地上二階地下二階の構造にて豪奢極まりないのだが、相場に対して格安なのは薔薇に棘の例え同様に、当然の如く「わけあり」物件なのである。
家具一式は各部屋に一通り揃っており新調の必要も無いのだが、只厄介なのは夜な夜な寝床に現れて冷たい吐息を浴びせかけて来る半透明な人人と、地下二階の最も奥に妙な紋様が描かれた開かずの間が在るという現実だろうか。
其れさえ我慢すれば済む話ではなかろうと、売り付けた業者を呼び出して問い詰める。
「君には悪いと思ったんだが、僕にも都合があってね」
いやいやいや、ていうか開き直り過ぎ。
「此の屋敷は祖父の持ち物だったんだ」
あんた、業者じゃないのね。
「祖父は少し変わり者でね」
少しって。
「深夜に墓地で死体を掘り起こしたりしてたんだ」
・・・さらっと云うなよ、身内の恥を。
「それを理由に倫理観とやらを掲げた住民らの手によって祖父は自宅で殺されてしまったんだけど、その死体は・・・消えていたんだ」
・・・まァ気の毒な話なんだろうけど、事件の現場は此処じゃんか!
「例の閉ざされた地下の部屋は僕にしか開けられないみたいなんだ」
・・・その奥にはきっとあんたの爺様の遺体と、縁も縁(ゆかり)も無い人の遺骨があるんだろうな。
「僕が扉を開けたら、後の始末は頼んだよ!」
館所有者の孫は開かずの間だった扉を開けると脱兎の如く駆け出して外へと出てゆく。
入れ替わりに中に足を踏み入れると、夥しい人骨と蝋燭の存在が禍禍しい程に荒んだ感を演出している。
爺の墓荒らし癖の結果なのだろうが、近隣住民が怯えるのも無理はなかろう。
中央に据えられた祭壇らしき台に近寄ると、ホネホネした方が寝てらっしゃる様子。
孫が云う殺害された祖父の成れの果ての姿に相違あるまい。
あの、お孫さんに連れられて来たんですけど。
「・・・儂の手首は何処にあるかのう」
手首? 手の骨だったら一階の床に落ちてました、一応お持ちしましたけど。
「・・・それをくっ付けてくれれば、儂ゃァ浮かばれるんぢゃ」
じゃァ付けますよ、いいですか、お爺さん、痛くないですかぁ。
老人介護の心持ちで労わりながら手首の骨を繋いでやると、死骸だった老人は我が意を得たりとばかりに襲い掛かって来た。
何さ、恩知らず!
多少少少梃子摺(てこず)ったものの、裏切り爺を返り討ちにしてやる。
一度死んで甦った死骸を再び葬っただけとは云え、血縁者である孫野郎に報告しておこうと彼の滞在する宿へと向かう。
「やあ、君なら何とかしてくれると思ってたよ、サンキューだ」
誠意も根拠も見えない形で軽く賞賛感謝され、除霊済みの家を手に入れたのだった。
(續く)
"maschio e la riunione fatale di donna e la 8 considerazione riguardo a conversazione con pantheon"
"The Adjustment Bureau" (2010/Universal Pictures/106)
l'originale;
Philip K. Dick
direttore;
George Nolfi
getto;
Matt Damon as David Norris
Emily Blunt as Elise Sellas
Anthony Mackie as Harry Mitchell
John Slattery as Richardson
Anthony Ruivivar as McCrady
Michael Kelly as Charlie Traynor
Terence Stamp as Thompson
(fine)
//promemoria//
//Kumazawa-Shuzo "Shonan IPA" (Shonan, Kanagawa)
//Sekinoichi-Shuzo "Iwatekura Golden Ale" (Ichinoseki, Iwate)
//Baeren Bier "Colonia (8th Anniversary)" (Morioka, Iwate)
//Kisoji Beer "Premium Lager" (Kiso, Nagano)
//Minoh Beer "Bitter" (Minoh, Osaka)
//Nagisa Beer "Goleden Ale" (Nanki-shirahama, Wakayama)
//Yokohama Beer "Amber ale" (Yokohama, Kanagawa)
//Sanktgallen brewery "Belgian IPA" (Atsugi, Kanagawa)
本日ァ湯島での落語会でござんす。
落つる青梅を眺めながら、湯島天神は女坂より緩そで緩くない石段を上りますてぇと本殿脇にあります参集殿を目指しまさァね。
『ぎやまん寄席番外編 菊之丞・白酒ふたり会』
@湯島三丁目・湯島天神参集殿一階
整理券番号百十番台が呼ばれましての会場入りで御座ィます。
主催者であります江戸賀あい子改メ野乃川あいこねえさんのご挨拶からの幕開きでござんす。
柳亭市也◆一目上がり
サゲ:
「芭蕉の句だ」
古今亭菊之丞◆町内の若い衆
「先日、立川談志師匠の弟さんと食事をご一緒させていただく機会がありまして」
「此の方は立川企画の社長さんでございますね」
「・・・立川流といえば、志の輔師匠のところのお弟子さんが大変な事になってますね」
「・・・覗き目的で建物侵入という」
「噺家なんだからしょうがないという事もありますが」
「まァそれでも女性の藝人の方は寛容ですね」
「此の間、新幹線で此方側に三味線の(柳家)小菊ねえさん、此方に(柳亭)燕路師匠のお弟子さんのこみちが座ってまして」
「小菊ねえさんに伺いましたら、『まァ男だからしょうがないんじゃない?』」
「こみちに聞きましたら、『あたしのよければ幾らでも見せてやるんですけどねぇ』」
「とまァ大変に寛容で御座いました」
桃月庵白酒◆幾代餅
「今、上野(鈴本演芸場)の昼席に出ておりまして」
「一緒に(橘家)圓太郎あにさんと外を歩いてたんですよ」
「で、圓太郎あにさんが店頭のシャチハタの印鑑を見ながら『おッ、珍しい、俺のあったよ』って云うんです」
「圓太郎あにさんの本名(鵜野)も珍しいんですが、あたしもなかなか無い名字なんですね」
「あたしの本名は『愛甲』と云いまして、愛するの『愛』に、甲乙丙の『甲』なんです」
「圓太郎あにさんから『お前ぇは何てんだっけ』と聞かれまして『愛甲です』って答えましたら」
「後ろに居た前座の(春風亭)ぽっぽと(林家)扇が笑ったのが見えたんですね」
「何だろうと思いまして『何、可笑しいの?』って聞いても、『いえ』って顔を背けるだけなんですよ」
「そしたら、圓太郎あにさんが云ってくれましたね」
「『其の顔で愛甲かよ』」
本編:
清造の恋煩いを受けて笑いが止まらない搗米屋六衛門夫婦は其の話題自体を「爆弾」と称します。
お仲入りで御座ィます。
桃月庵白酒◆新版三十石
本編:
浪曲師・小沼猫造先生の『清水次郎長伝「森の石松~三十石船」』が唸ります。
古今亭菊之丞◆駱駝
トリの菊之丞師匠、まさかの「らくだ」で御座ィました。
僭越ながら申し上げますが、師匠の「にん」に合ってないという先入観も御座ィまして、前半部は微妙な雰囲気で拝聴しておりましたが、後半部における屑屋久六の豹変に心底怯えるらくだの兄貴分の動揺がよっく伝わりまして、大変興味深い一席で御座ィました。
まァ今時の演出には珍しい「湯灌の際に剃刀を用いず毛髪を毟り取る」なんてぇ凄惨な場面では客席より短い悲鳴も聞こえて参りまして、願人坊主は程好い加減の火ン中に放り込まれる運びとなりまさァね。
追い出しが鳴りましてお開きでござんす。
「包む」なんてぇ名の付いた朝鮮半島郷土料理を戴きまして、湯島の夜は更けゆくので御座ィます。
(了)
<滑落ヲ看取ル>
と云う訳で丸裸の無一文となる。
然も開始時点で縄付きの凶状持ちである。
捕囚生活は一度通った道だけに、着せられた囚人服に抵抗が無いから不思議だ。
足枷こそ付けられてはいないが、手枷も程好い装飾品である。
前例に従って「世界を救え」と亡き帝から託されるも、其の意には従わない心積りである。
先代は正義の味方を大義としながらも雲行く儘に水流るる儘に生き、晩年は資産家として過ごしたが、兎角世知辛い世を儚んで隠遁してしまった。
そして、当代には「琥珀」を意味する名を与えた。
また古くは泉の意を汲む母から生まれて神の妻となり、虹、突風、疾風と名付いた掠める女、暗黒を生み出したという女傑に由来する。
此の娘を正義の味方という名の使いッ走りだけにはさせたくないという父の願いを込め、友人知人を持つなと躾けておいた。
西に困窮する人在れば素通りせよ、東に瀕死の人在れば向こう側に逝ける手伝いをしろと。
結果、会話は武器商人との闇取引に限定され、娯楽は狩猟(人間含む)のみ。
父の教え通りに娘は行商以外にはいっかな街には寄り付かず、荒くれどもが闊歩する荒野を四ツ足同然に徘徊しており、果ては西海の海底にて人喰い魚や人骨と戯れるという毎日である。
・・・ていうか、やってる事自体は先代と変わらんな。
(續く)
「疲れた主婦」と形容されるには及ばない。
ていうか其の前に、三十代後半の男は確かに疲れてはいるが、断じて主婦ではない。
成る程、生活苦から来る困窮感は束ねた髪の解(ほつ)れに表れ、台所にある食卓の前に座って肘を突き突き虚ろな瞳でワイングラスを電燈に透かして溜息といった諸症状に起因するのは想像に難くない。
自宅で寛ぐ目的の為に窮屈な格好をする行為は奇人にすら稀である。
況(いわん)や凡人に於いておや、である。
諸事情の伴う拘束具の装着とかそういう類のあれは別にしても、一般的に市井の人人は部屋着と呼称される衣類を纏っており、其れは図らずとも屋内での行動にのみ特化された機能美を備えるだけの代物であって、喉の渇きを癒そうと最寄りの自販機までの外出でさえ途惑いを覚えるのも止む無しと心得ている。
故に不意の呼び鈴には常に怯えているのだ。
(了)
//memo//
//himono (aji, kamasu, kawahagi)
//basashi (Kumamoto-san)
//beef steak
//bbq (onion, piment, leek, eggplant)
//mashroom and bacon fettuccine
ゆるいくうきがただよっています。
のんだくれるにはほどよいかげんです。
なにかによばれたきがしたので、のそのそとでかけることにします。
みせのそとでのんでいるひとたちがいます。
それらはしらないひとたちです。
なかにはいります。
「なま」をたのみます。
さっそくはこばれてきたので、いそいでくちにします。
「あじのひもの」をいただきます。
そえられた「だいこんおろし」がしんしょうです。
つづけて「ほやのしおから」、「なまたらこ」、「にしんのきりかき」をたくじょうにならべます。
みわたすかぎり「ぷりんたい」のかたまりです。
みているだけで「あしのおやゆび」がいたくなります。
それでものみつづけます。
つぎのみせにもゆきます。
ふたつのさきのえきでおります。
2けんめののれんをくぐります。
さけのみの「ごう」はふかいのです。
(おわり)
<決別>
・・・もう厭んなってきた。
兎角、世間とは思う程に儘為らないというのが世の習いではある。
とは云え、繰り返される負のループに堪えられそうにもない。
現実世界に於ける無限の硬直状態と呼べるのは「死」のみである。
馴染みの死神がちょいちょい顔を出す店には行きたくないのが人情だろう。
後学を理由に長生きはしたいものだ。
延命を図ろうとあれこれするのも煩わしいので、不死鳥が紅蓮の焔へと飛び込むが如く死と再生を望む。
さらば、黄色い花の女よ。
テキサスにゆく日が訪れたなら、再会を誓おうではないか。
Adiós, senorita!!!
(續く)
<黒龍ノ溜息>
気付けば資産家という立場にある。
各地に在る所有物件の倉庫に眠る血に塗(まみ)れた戦利品の在庫数が嵩み過ぎてしまい、資産管理さえも儘為らない状態にあるにも関わらず、種種の制約に拠って管理すべき人材を雇えない為、自ら出向いての孤独な棚卸し作業である。
数日を費やして膨大な量の個人資産を業者に放出し、身軽なブルジョアとして各地を気儘に放浪する予定が、売却に手間取っており遅遅として進まない。
何故か、理由は分かっている。
・・・使い切れない程の資産を貯えていながら、未だ商人との買取価格交渉を1パーセント刻みで愚図愚図と粘っているるからだッ!
(續く)
※
(改題)『幻想ト猊下』 (第弐拾弐回~第参拾参回) #022-033
(改題)『終ノ棲家』 (第玖回~第弐拾壱回) #009-021
(改題)『継ぎ目無きヘリウムの都』 (第壱回~第捌回) #001-008
約束の地、新橋に来ている。
小粋がって「志ん橋」と書いてみると落研学生の高座名のようでもある。
鮮魚と地酒の店の暖簾を潜る。
・・・昼間ッからガード下で飲っている赤ら顔の親父と脂ぎった四十代中年男性と二十代後半女子と三十代前半女子を喧騒とアルコヲルと磯の香りを加えて捏ねて叩いて延ばして掻き雑ぜた感が否めない店である。
まずは一盞と冷酒を頼む。
突き出しは、岩海苔成分がふんだんに配合された出汁味の豆冨状の物体である。
其のほろほろ加減に対して箸ではなく何故か爪楊枝で立ち向かっている。
・・・小鉢より減りゆく様が惜しいのか・・・。
以下は覚え書きとする。
◇上喜元(山形・酒田)
◇村祐(新潟・舟戸)
◇白瀑(秋田・八峰町)
(画像準備中)
◆刺身六点盛
(左より内に巻く渦巻き時計回りに子持昆布、帆立、生牡蠣、眞鰺姿造り、海松貝、〆鯖、干瓢巻、伊佐木、鰹、勘八、鮪、蛸)
って六点どころか倍の物量である。
完食を果たせずに口惜しい思いもする。
程好く飲んだくれて次の河岸へと移動。
泣く泣く我が子を置き去りにする母親の心持ちで帰るとしよう。
(未完)