本日ァ神保町での落語会でござんす。
生憎の雨降りでござんして、細い霧雨だけにしっとり衣服に纏わり付きまさァね。
開演前に時間があるてんで、会場の近くにあります泰國な料理とキチゲェ水を程好く戴きましてからの千鳥千鳥した運びと相成ります。
『らくごカフェに火曜会』
@神田神保町二丁目・神田古書センター五階
会場にて墨西哥産の麦酒壜を栓抜きましたところで、出囃子が聞こえ始めます。
金原亭馬吉◆近日息子
「いっぱいのお運びありがとうございます」
「一之輔さんが出るとこうなりますね、普段は寂しい会なんですけど」
本編:
これは上方噺ですなァ。
桂春團治師匠のれこーど音源で聴いた記憶があります。
らいぶで拝聴したのは初めてでした。
春風亭一之輔◆蒟蒻問答
「この会は当日都合のいい藝人と都合のいい藝人が混ぜられて行なわれます」
「馬吉あにさんとは・・・そうですね、一月以来ですかね」
「楽屋が愉しいですよ、あの食べ物の名の付く方(三遊亭天どん)とは違いますね」
「女性のお客さんが多いですね」
「やはり馬吉あにさん目当てでしょうか」
「部屋の片隅にでもひとり置いておきたいですよ」
「『あーあ、今日も疲れたわぁ』って帰ったら、箪笥の上から馬吉あにさんが『お帰りなさいやしっ』」
「って癒されるんですねぇ」
本編:
上州安中に住まう親分肌の蒟蒻屋六兵衛と落語登場人物大看板である八五郎の名が混ざったものか、江戸からの流れ者「八兵衛」なる人物が弁正和尚となって禅寺に住み込みますが、この八公、噺の途中から「八五郎」に改名しておりました。
お仲入りで御座ィます。
春風亭一之輔◆眼鏡屋盗人
「まァ楽屋で私語が煩いんですよ」
「楽屋すぐそこですからね、まる聞こえでしょ」
「・・・何か楽屋で笑ってますけど」
「まァ碌な事は喋ってませんね」
「今日は馬吉あにさんの女性客を減らそうという気持ちで遣って参りました」
本編:
これも上方噺ですな。
桂米朝師匠の音源で聴いた覚えがあります。
米朝師匠は「拡大鏡(虫眼鏡)⇒七面鏡(将門眼鏡)⇒逆さ望遠鏡」の順でしたが、一之輔あにさん、将門から虫の流れでした。
金原亭馬吉◆千両蜜柑
本編:
「番頭さん、三ッ房(みっぷさ)持っていなくなっちゃった」
追い出しが鳴りまして、お開きで御座ィます。
雨は上がったようでございまして、ゆるゆると歩を進めてゆきます。
日暮れ時にがっつりとノセました泰國謹製の品々が未だ後を引いておりますてんで、僅かなキチゲェ水だけを求めまして白山通りを水道橋方面へと歩きますな。
道中で立ち寄った店の暖簾を潜って着座しまして幾つか品を頼んだりもしますが、それァ又別の噺で御座ィます。
(了)
8時、黄色地に赤文字、波は車輌に限ル、結果的に過度な分量。
「ご注文はお決まりでしょうか」
(指差しながら)これのドリンクセットを厚切りトースト、スクランブルエッグ、ホットコーヒーで。
「パンの種類からお伺いします」
(指が白くなるほどメニューに押し付けながら)・・・これのドリンクセットを厚切りトースト、スクランブルエッグ、ホットコーヒーで。
「玉子の焼き方はいかがなさいますか」
(振り上げた拳のやり場を探しながら)・・・これのドリンクセットを厚切りトースト、スクランブルエッグ、ホットコーヒーで。
「ホットコーヒーはアメリカンとブレンドがございますが」
・・・ブレンドで。
「アメリカンではなくブレンドのご注文ですと、お替りが不可能となりますが、よろしいでしょうか」
(黙って頷く)・・・。
「ご注文を繰り返します、モーニーグのドリンクセットを厚切りトースト、スクランブルエッグ、ホットコーヒーブレンドでございますね?」
・・・。
・・・「不可能」なんて接客用語は無ぇてんだ!
(了)
緩く生きている積もりだ。
八十歳老婆(他人)とのさし飲みすら辞さない構えである。
(そういう知り合いは皆無であるが)
目を覚ますと九時を少し過ぎている。
家人の都合により午前中は慌しく立ち回る事となる。
母親は午後より近所で執り行われる葬儀に列席するから構ってやれないという。
自分には参列の責務はないのだが、話の流れからか数珠を一連手渡される。
奇跡的に葬儀に出席した経験もなく、法要における自派での様式には全くの無学である。
後学の為にと思い、幾つか伺っておく。
とは云え、弔いの為の心構えが事前に出来過ぎていると、何か待っている様で複雑な心持ちであるのは否めない。
実家からの旅立ちの瞬間、うっかりと存命中の祖母(齢九十超)に向けて片手念珠にて合唱礼拝してしまうのも茶目ッ気満載な孫的愛嬌として受け取って戴きたい。
(了)
帰省中、二日目である。
本日は神主、氏子中が寄り集まっての例祭が執り行われるという。
町内の有志らは神事を取り仕切る宮委員という名の下に、酒精が提供される会に参加している様子である。(自分はこの土地に住まっていないので除外)
宮前より青空を見上げれば、火の見櫓に寄り添うように、明治初年に拵えたという大旗が棚引いている。
廿米(20m)は悠に超えるそれは重機無しでは立てられも寝かせられもしないと云う。
風に舞う旗が絡まるだけでも、クレーン車の出動無しでは解けもしないのだ。
以上の流れを踏まえると早朝より工事現場の如く響き渡る騒音の正体は祭の準備作業と考えるのが妥当のなのだが、祭とは一切関連付けられない団体の存在がそこにあった。
自衛隊である。
祭の現場である神社の北側では、陸自独特の色調が施されたの数種の重機らが轟々と唸りを上げ、炎天の下で整地にする為の作業を行っている様子。
・・・不発弾?
不穏且つ少しだけ偏った思考回路で導き出される必然的な疑問である。
近隣住民に確認してみると、答えは揃いも揃って「新人研修」という。
? 空地を? 更地にするのが? 新人の? 研修?
挙句、彼らは何処の部隊なのかと尋ねても「知らない」「マニアじゃないし」と頼りない事この上ないのだ。(自分の故郷には彼らの駐屯地など存在しないのに)
騙されるもんかとひとり頑張ってみても、彼らがどういう特命を帯びて何の作業に従事しているのか皆目分からず、一夜明ければ自分は再び帰京してしまうかと思うと、長年同町内に暮らす危機感を持たない善良な人々の明日を憂うしかないのだ。
(續く)
何してるの、と問われれば「きせいちゅう」とだけ答え、仮令愚問な質問者から不可解な回答と思われようがそれもまた人生だと考える。
・・・虫なの? という返しすらも軽く肯定しながら、含み笑いは止まらないのだ。
さて、陽も高い時刻に緑色の窓口に向かう。
最寄り駅のそれではなく、品川駅のそれである。
前に並ぶは欧米人夫婦のみである。
明らかに長丁場と化すのは目に見える人員配置ではあるが、既に終盤だったようでそれも杞憂に終わる。
「お次の方どうぞ」との声に窓口へと吸い寄せられる際、衆人の気配に背後を振り返ってみると、瞬間的に形成された長蛇の列である。
下民どもよ、一足遅かったようだな、呵々。
「はい、どちらまででしょうか」
乗車券をxxxxまで、新幹線は越後湯沢まで、特急券はxxxxまで、全て自由席で。
「はい、かし、こ、まりました、と」
ついでに時刻も調べて。
「はい、少々お、待ち、ください」
はは。
「お待たせ致しました、こちらが東京からの乗車券で、新幹線、特急券になります。東京からの新幹線の時刻を切符に書かせていただきました、15時52分になります」
はいどうも。えーと、湯沢到着は17時半前ね。
「左様でございます。・・・で、越後湯沢からの特急への接続なんですが・・・」
はは。
「・・・節電の影響で本数が減らされてるのだと思うんですが、19時台の便しかないんですよ」
・・・2時間以上も空くの?
「大変申し訳ございません、・・・如何なさいますか」
・・・いかがって、まァそれでいいや。
「大変申し訳ございません、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
と、申し訳無さげな窓口の女子職員より見送られたが、何をどう途惑いをしたものか「19時台の便しかない」という情報は真実ではなく、車内アナウンスの案内通り苦も無く17時38分発の特急へと乗り換えられる。
19時というのは目的地への到着時間であって、途上である乗換駅での待ち時間ではないのだ。
ドジっ娘萌えとかほざく輩の心境なんぞ理解する気は毛頭無いが、実害の及びかねないうっかり対応では当方萌えられやしないので極力止していただきたい。
(續く)
一軒目、20時より飲んだくれ始める。
当店、ハイボールの価格は50円である。
気が付けば24時、蚊の鳴く声の従業員より閉店ですと告げられて追い出される。
二軒目、24時過ぎより飲んだくれ続きである。
朝まで営業の中華料理店にて、店頭の大通りを休みなく中継するモノクロヴィジョンに映る人通りを眺めながら啤酒を注いだり海老炒飯他を食したりする。
29時、東雲(しののめ)色の空を眺めながら、石工に由来する友愛団体の謂れ因縁故事来歴を振り返ってみたところで、世界平和の実現に寄与する憂いは何処にも無いのだ。
(了)
小雨そぼ降る中、左手に壊れた黒い雨傘と輝かしいまでに光沢を放つ取っ手の付いたゴージャスな傘を2本握り締めたまま、赤信号の横断歩道を5分の2まではみ出している中年男性の着ているポロシャツを染めるボーダーの本数と使用されている色味を数える。(3点)
(了)
本日ァ三十年以上続く老舗な地域寄席でござんす。
『第104回 中目黒落語会』
@上目黒二丁目・中目黒GTプラザホール
期せずして師匠と直弟子の親子会となっております。
入船亭遊一◆箍屋
「お手元にございますプログラムにあります私の紹介欄に『真打』とありますが、実は・・・二ツ目なんでございます」
「ですから、『しんうち』とは読まずに、『まだ』とお読み下さい」
入船亭扇遊◆不動坊
「わたくしも世に倣いまして、落語の登場人物を15%削減しております」
「・・・まァなかなか上手くいきませんね」
お仲入りで御座ィます。
入船亭遊一◆幇間腹(たいこばら)
「落語に登場します若旦那には条件が三つございまして」
「一つ、お金に不自由していない」
「もう一つ、職には就いてるんでしょうけど、実際に何をやっているのか分からない」
「最後に、道楽者、趣味の人である、という事です」
「・・・まァ実在の人物では、あの、千代田区の真ん中にありますお濠に囲まれました中に住んでらっしゃる方がそうですね」
「一つ、お金に不自由していない。まァしてませんね」
「もう一つ、何かしら職には就いてるんでしょうけど、やはり実際に何をやっているのか分からない」
「最後に、道楽と申しますか、趣味の人である、という事です」
入船亭扇遊◆青菜
サゲ:
「旦那様、鞍馬の山から牛若丸が出でまして其の名も九郎判官義経」
「義経ぇ!? ・・・んー、弁慶にしておけ」
追い出しと鳴りまして、お開きで御座ィます。
蒸し蒸した暑気は辛味と酒気で払おうなんてんで、泰國の甘辛塩酸ッぺぇ品でもいただきましょうかねぇ。
(了)
<未練>
先に決別した娘に会う。
数箇月振りとはいえ、懐かしいきぶんである。
今の娘に比べると、外出の際に所持している品々が洗練されている。
自己の能力を充分にわきまえ、合理性に特化しており、無駄がないのだ。
それでも所有する資産が過剰な為、やはり物理的な身動きに支障がある。
・・・こっそり会っていた事実は、今の娘には伏せておこうと思う。
(續く)
<陸拾年ノ不作>
今日も今日とて詰まらぬ物や者を斬っている。
成長の記録を振り返っても、書き込まれ過ぎた上に重ね書かれた母子手帳の欄には空白の余地も無い。
そろそろ潮時かもしれないとも思う。
・・・畳と女房は新しいのがええな。
(續く)
ややもすると周囲を巻き込んだ自傷行為も辞さないという深刻極まりない独白の中、場の空気に馴染めないまま見えない何かを追う所作にて、ころころころころすっとんとんと行方を暗ます。(3点)
(了)
追い出しの音、静かにアパレル、ルーパスさやえんどう、最後の蒸留酒。
「実は食べられないものが多くてですね」
そうかい。
「まず、魚が駄目なんですよ」
当たるから?
「いえ、魚臭(さかなしゅう)が。生も焼きも無理ですね」
甲殻類も貝もかい。
「まァ厳しいですね。肉もかなり難しいです」
何で出来てるのかね、君は。
「基本、サラダとヨーグルトですね」
女子か。炭水化物も喰わんのか。
「んー、まァ太りたくないですし」
えーと、身長は175ぐらいあるね。キロでいうとどれぐらいかな。
「今は63です」
全然普通じゃん。ていうか、痩せてる方だし。
「いや、でも50キロ台に憧れます。こう見えても昔は120キロあったんですよ」
・・・えー?
「十年前とはもう別人ですよ」
・・・そう、だろうねー。同級生と街で遇ってもスルーだ。
「ええ、ほんとにそんな事もありました。前は『横から見ると鼻が無い』って云われてました」
何故かな。
「頬肉が付きまくって前に出過ぎちゃって、鼻が陥没してる状態なんですよ」
・・・あー、ねぇ。何でそうなっちゃたのかな。
「120キロの時ですか? 何でですかね、食べる事にしか興味が無かったんでしょうね」
一日中、食べ続けてたのかな。
「そうですね、おやつにカツ丼とラーメンを食べてました」
三食とは別で?
「三食どころじゃないですね。何食かな? 数えた事ありませんけど」
一回の量も半端じゃないんだ。
「ええ、よくお蕎麦屋さんでセットメニューとかあるじゃないですか」
ざる蕎麦にミニ天丼みたいな?
「そうです、それをミニじゃなくて大盛してもらった上に、別のオーダーを追加するんです」
卓上が賑やかだな。
「並べると愉しいですよね。見た目が嬉しいじゃないですか」
四人席をひとり使いだ。
「まァ当時はカラダもあれですから、仕方ないです」
蕎麦屋での食事がそれだったら、間食も派手だろうね。
「そうですね、ケンタッキーはバレル喰いでしたし、ケーキはホール喰いです、ひとり分として」
・・・聞いてるだけで目方が増えそうだ。
「・・・甘いものだけは今でもやめられなくて大食ですね」
ホール喰いは一気にやっつけるの?
「そうです、だからクリスマスシーズンは二日で10キロは確実に太りますね」
・・・えー? ホールひとつじゃァそんなんにならないよね。
「そんなんじゃ足りませんよ、一日最低3ホールです」
・・・何かもうおなかいっぱいなんですけど。(涙)
「すいません、こんな話ばっかりで」
まァ面白いからいいんだけど。基本的にはサラダとヨーグルトとスイーツで出来ている、と。
「そうです、あと一日3リットルは飲む珈琲と」
・・・君ね、血液が赤くなる要素が何処にも無いよ。
「これは医者にも友達からも止められてますけど、これもやめられません」
せめて量を減らすとか、水にするとか。
「んー、味がしない液体が受け付けないんですよ」
酒は味するからいいのか。
「・・・でも、食べものの話してたら何か食べたくなってきました」
普段は抑えてるんだねぇ。
「激痩せした後はメンテが大変なんですよ。誘惑に流されるとすぐ戻っちゃいますし」
なるほど。
「そうだ、今度皆さんで持ち寄って会を開きましょうよ」
何を?
「10人呼んで2,000円ずつ集めて、ケンタッキーのパーティーバレル6つとマックのポテトLL10個と日高屋の餃子5人前とピザーラとかピザハットとか何枚かとタカノのケーキをホールで二万円分買うんです。うわ、超愉しそう」
・・・割り勘負けするのは目に見えている。
ていうかリバウンドまっしぐらだし。
(量)
<獺ノ背>
神々と人類が共存する世界観ながら、自然の摂理に不具合があるらしく、時折生命に関わる現象に悩まされる事もしばしば。
中央部にある都市の郊外を歩いている。
水際から対岸を眺めると、中州と呼ぶには大き過ぎる小島に円柱形の建造物が見える。
元来用の無い場所ではあるが、白地図を埋める意味を込めて上陸してみる。
周囲を散策すると鉄格子で仕切られた出入口を発見するも、開閉の取っ手は錆び付いており回らない様子。
諦めも悪く地団駄びょんびょんと跳ね回り、壁を跳び越せないか試してみる。
ついぞ格子は開かないながらも、かつての要塞だった外壁の隙間にうかうかと入り込んでしまい、内部への侵入が可能となった。
実はこの廃墟では、多額の借金を背負った債務者を集めての人間狩りの会が定期的に行われており、事前に被害者の関係者からの救出を求める声を耳にさえしていれば、手順を踏んで往来可能な場所なのである。
事件の関係者が不在のまま、人間狩りの参加者が集うという情報さえ知らない状態で狩場に向かってみると、中は鼠の巣窟である。
隅々まで探索すると、最深部にて物騒な武装を纏った屈強な男が徘徊している様子。
彼は本来であれば、マーンハンティーングの参加者の一人であるという。
自らの姿を曝すと猛然と襲って来やがったので、俄然返り討ちとする。
亡骸の所持品を漁って鍵を入手し、施錠された宝物庫内を物色してから悠々と脱出を図ろうとするのだが、扉を開けた刹那、身動きが取れなくなった。
正当な手段で扉を開くと、今正に当事件の最後の犠牲者が殺害される瞬間を目撃する筈なのだが、その場に居る筈の加害者も被害者も不在な為、万物の法則が働かないのである。
小川のせせらぎ、虫の啼く声や小鳥の囀(さえず)りさえ皆無な静寂の中、妙齢女子の放つ男らしい嗽(うがい)音を黙って聞くしかないのだ。(何だそれは)
(續く)
<修羅ノ道>
殺伐とした世界観が故に、都市部を離れた郊外の街道沿いは昼夜問わずに物騒である。
登山からの帰路、下山道から北西部にある地方都市に向かう道中、山賊の襲撃を受けている新聞配達人(♀)の姿を認める。
こういう修羅場に際しては、慌てず騒がず傍観と決めているので、ある意味見殺しである。
か細い上に丸腰の配達人は、陽に灼けた屈強な男の振るう先端が鈍く碧色に輝く鈍器により殴打されている様子。
やがて配達人は絶命し、移動手段である黒馬が一頭事件の現場に残されているのみである。
そんな惨劇の最中、何の因果か一頭の鹿が紛れ込んで来た。
栗色の毛並みで角も短い小柄な牝鹿である。
この世界における鹿は生物学的に臆病な為、人の歩く気配だけで全力で逃げてゆくのが常なのだが、この時ばかりは何故か猛然と攻撃を仕掛けている。
四つ足だけに、後脚で立ち上がりつつ前脚に自重を乗せての振り下ろしである。
しかも、対象は悪の山賊ではなく、罪無き馬へ。
・・・って、バンビーノ!
長い物に巻かれるのがお前の処世術だとしても、その選択はきっと間違っているぞ。
鹿は山賊と共闘して馬を斃すと、山賊より次の標的にされるのさえ理解しないまま、山賊の持つ例の鈍器にて瞬殺されていた。
山賊が去った後の街道脇の繁みには、配達人と馬と鹿の亡骸が悲しく横たわっている。
・・・馬鹿な子、馬肉は取れないけど鹿肉は貰っちゃうから。
こそぎ取った新鮮な鹿肉を懐に仕舞うと、立ち去った山賊の後を颯爽と追い駆け背後から襲って斬殺。(当然、義憤ではなく金品目当て)
下着だけを残して身包みを全て剥ぐと、息絶えながらも握り締めた血濡れの鈍器(高価)を手から奪い取り、戦利品の数々を売却すべく街道を下って鼻唄混じりで街へと帰るのだ。(外道)
(續く)
なんだかぬるぬるとしますね。
きょうはひるまっからのんだくれるよていだったのですが、しょじじょうからきゅうきょちゅうしになりました。
げんいんをさぐると、ぜんじつに「くまがや」でおこなわれたはなびたいかいでのかさいがすべてのはじまりだったのです。
かさいといっても、かていさいばんしょではありませんよ。(あるいみおそろしいところではありますけれども)
きいてみますと、なんらかのげんいんにより(とうぜん、はなびでしょうが)かせんじきのかれくさにいんかしてぼうぼうともえていたそうです。
はなびたいかいはいちじちゅうだんされ、そのごじかんをおいてさいかいされたそうですが、しゅうりょうじかんがあとにのびてしまったために、いろんなことがぐずぐずになったみたいです。
みんなもえちゃえばよかったのにね。
なーんてぶっそうなことはいいませんよ、おとなですから。
みなさんもひあそびにはくれぐれもきをつけてくださいね。(いろんないみで)
(おわり)
...En cuanto a mí, la memoria del día es vaga.
"Poison Drop"
"Cleopatra in New York"
Shakira Isabel Mebarak Ripoll
Shivaree "Goodnight Moon"
Eric Patrick Clapton "Cocaine"
Pinky & Killers "Koi no Kisetsu"
(fin)
終電にて降りるべき駅を幾つか通過してしまい、見知らぬ駅で途方に暮れる妻、深夜に同じ方向へ帰る大学生(♂)に拾われ、所有する自転車の荷台に乗せられた見返りが「ちゅー」だった事実を知らないまま一生を終える夫の友人になりたい。(3点)
猛暑、コンドロイチン、国営蒸留所、「冷やし中華はじめたい」。
「『ムカデ人間』って知ってる?」
あー、観た事はないけど、何となく想像はつくかな。
「えーと、食事はこれから? それとも済ませた?」
・・・何を伝えようとしている。
「まァどうせ結果的に話すんだけどさ」
気遣いの意図が見えない。
「どういうのを想像してるの」
どうって、足がたくさんになればいいんでしょ、大勢の人からばっつんばっつん切り離して。
「それがさ、3人」
じゃァ足6本しかないじゃん。
「まァそこはいろいろ都合もあるから」
94本足りない。
「構成はね、まず男、女、そして男」
嬲るって字だね。
「そう、マッドサイエンティストの博士が森とか林で若い男女3人を生け捕ったわけだ」
まァ志願はしないでしょ。
「まず先頭の男のx門と真ん中の女の口を縫い合わせます」
・・・男女でそれか!
「で、真ん中の女のx門と最後尾の男の口を縫い合わせます」
嬲!
「字面だけだと何云ってるか分からない。まァそれで、先頭の男に食事を与え続けるわけだ」
・・・う、わー。
「もう、先頭の男は申し訳なさていうか罪悪感と羞恥心でいっぱいだね」
おなかもいっぱいだけど。
「真ん中の女は恨みと憎しみではち切れそうだよね」
・・・まァ人を思い遣る余裕はないね。リアルにはち切れそうだし。
「最後尾の男にはもう絶望しかないね」
・・・一方通行だからねぇ。で、結果的にどうなるの。
「いちおう3人とも助かって切り離されるんだけど」
助かってもなー。
「先頭の男は自殺して、真ん中の女はあんな状況だから病気になって死んじゃうの」
むー。最後尾は?
「最後尾の男はどうだったかなー。博士と一緒に警官隊に撃たれちゃったかなー」
誰も救われないね。
「先頭の男もさ、自殺なんか止して本とか出せばよかったのにな、『わたしにつながるいのちのために』とか」
・・・。
それは、笑えない。
(了)
※一部内容に誤りがありますが、個人の曖昧な記憶の為、ご容赦願います。
本日ァ大圓朝こと三遊亭圓朝師匠の命日に因んだ年に一度のお祭りでござんす。
幾らか早起きしまして九時に千駄木駅に着きますてぇと、既にさんさき坂は長蛇の列となっておりまして、炎天の下、何のこねくしょんもありませんので最後尾に並ばざるを得ません。
駅前では古今亭志ん橋師匠が、人待ちをしておりました。
(後で知るのですが、待ち合わせた方は外国人の撮影くるーでして、本堂での様子をびでおかめらに収めておりました)
揃いの浴衣を着た柳家権太楼、喬太郎両師匠が「お待たせ致しました、間もなく開場です」と伸び続ける最後尾までご挨拶に参ります。
『落語協会 圓朝まつり2011』
@谷中五丁目・普門山全生庵
九時半、開場。
目指すは本堂での法要と落語協会副会長、柳亭市馬師匠の奉納落語で御座ィます。
並んだ甲斐もありましてか、無事に本堂へ潜摺り込めまして、緋毛氈の上に正座での着座と相成ります。
司会進行役は三遊亭歌る多師匠、眼鏡着用で緊張感も漂いまして、目前には上手から敬称略で柳亭市馬、桂歌丸、存じ上げない方、三遊亭金馬、存じ上げない方、入船亭扇遊、林家正蔵というお歴歴のご列席で御座ィます。
住職らによる法要の際、古今亭志ん五師匠の名が聞こえまして当初は頸を傾げるだけだったんですがねぇ、後で知るてぇと師匠は前年の九月に亡くなったそうでして、師匠の演るいささか過剰な与太郎噺が聴けねぇかと思うと残念でなりません。
柳亭市馬◆蝦蟇の油
この後、本堂前にて扇子のお焚き上げに続いて、市馬師匠による開会宣言となります。
開会早早は長蛇でした「福扇」の販売の列は短くなっており、早速買い求めさせて戴きます。
(福引の商品は四等、寄席招待券一軒止まりでしたが)
十一時半より坐禅堂にて行われる「奉納落語第一部」は抽選より洩れてしまいましたてんで、暫しの中抜けとしまして、さんさき坂を下りまして蕎麦屋ァ目指しますな。
涼しい店内にて縄ァ手繰りながらキチゲェ水を程好く戴きまして時間を繋ぎまさァね。
十三時五分、本堂前にて藝人によるぱふぉーまんすが行われます。
「柳亭こみち・柳亭市馬歌謡ショー」
柳亭こみち◆帰ってこいよ(松村和子)
こみちねえさん、ぴんくの浴衣に赤い花を髪に付けての開き直った演出で御座ィます。
柳亭市馬◆チャンチキおけさ(三波春夫)
柳亭市馬◆無法松の一生(村田英雄)
市馬師匠、ぺーるぐりーんの着物に鶴らしき目出度ぇ刺繍ががっつり入っております。
「誂えました」
十五時十五分から坐禅堂にて「奉納落語第二部」の開演なんですがねぇ、これも惜しくも抽選より外れまして、やさぐれきぶんで中抜けと相成ります。
二度目の蕎麦屋は谷中銀座で御座ィます。
程好くキチゲェ水を戴きまして、二度目の出戻りでさァね。
二、三合を飲ってますてぇと、一転俄かに掻き曇りまして烈しい雷雨となります。
遣らずの雨以上のげりら豪雨を暫し止み待ちしましてから移動しますな。
道中、いかつい色眼鏡(さんぐらす)を着用した金原亭馬生師匠とすれ違いました。
お供は両名女性でして、まァ何ざんしょう、絵的には愉しげな感じでしたなァ。
十六時二十分、「黒門亭落語クイズ王チャンピオン大会」の決勝戦で御座ィます。
あたしゃァ参加してませんが、聴いておりますてぇと難易度が高ぇというか、個人的過ぎて知らねぇよって感じの参加者にとっちゃァ運頼みな問題ばかりでした。
雨粒が落ちて来まして、いべんと進行も心配になりますところで、司会の方が商品であります温泉宿泊券の一位二位の争奪をじゃんけんにしまして、「群馬か長野か、選んでください、もう時間がないんです」なんてぇざっくりな決勝戦でした。
続きまして古今亭菊之丞師匠による歌唱で御座ィます。
古今亭菊之丞◆加賀の女(北島三郎)
「金沢の」という歌詞で脇に控えた藝人らが中央に寄る仕草が愉しい演目でござんす。
十六時三十五分、「グランドフィナーレ住吉踊り」が本堂前の石段で行われます。
「活惚(かっぽれ)」、「奴さん」等の寄席でも定番な踊りが始まり、せんたーは矢張り身の丈豊かな三遊亭小円歌ねえさんでござんす。
男藝人の誰よりも手足が長くて動きに無駄がござんせん。
最後のご挨拶では権太楼師匠がそう仰いました。
「十年目を区切りとしまして十回目の今回で圓朝まつりはひとまず終了します」
聴けば、身内と関係者による「圓朝忌」として粛々と続けてゆく予定ではありますが、圓朝まつりの様なふぁん感謝的いべんとは一旦白紙にするとの事でした。
まァ何とも寂しい限りではありますが、致し方も御座ィますまい。
十七時、打ち出しとなりまして、本いべんと終了で御座ィます。
大圓朝師匠、来年は祭りじゃァなくて墓参致しますんでひとつよろしくお願い致します。
さァ三度目のキチゲェ水を求めまして、赤坂辺りに向かいましょうかねぇ。
(了)
<小姐>
最近気付いたのだが、他者に比べると我が娘の身長は低いのではないかと感じ始めている。
ていうか、他の誰よりも背が低い。
人と会話している様は必ず見下ろされている様だ。
屈強過ぎる脳筋男や手足が何本もある異形の物にさえも負ける気がしない歴戦錬磨の娘ではあるが、その華奢さと線の細さとミニマムさは威圧感ゼロである。
娘誕生の記録を振り返ってみると、年齢設定がもう犯罪的に若いという事実に気付いた。
ただの小顔美人では説明が付かない、幼さゆえの小ぢんまりさ加減に加えた無駄にスタイルがよろしい低学年女児なのである。
・・・それでも千人斬り(リアルに人斬り)を達成してるのだよ、うちの娘は・・・。
(續く)
※
(改題) 『忘月』 (第48回~第54回) #048-054
(改題) 『偽善と呼ばれる為に求められるfの条件』 (第34回~第47回) #034-047
(改題) 『幻想ト猊下』 (第弐拾弐回~第参拾参回) #022-033
(改題) 『終ノ棲家』 (第玖回~第弐拾壱回) #009-021
(改題) 『継ぎ目無きヘリウムの都』 (第壱回~第捌回) #001-008
やさぐれ度合いにも気合いが入る週末である。
時折聞こえる脳内噺家のまくらに耳を傾けながら、飲んだくれの果ての杯を重ね続ける事もしばしば。
「えェ昔から『外面如菩薩内心如夜叉』なんてぇ云いまして、まァこのげめんにょぼさつないしんにょやしゃなんてぇのは、嗚呼げめんにょは矢張りぼさつであっても、まァないしんてぇのはもうにょやしゃでしかないなァてぇ意味ですな」
成る程、鬼か蛇かで分類すると元締めに近しい存在である。(って鈴木くんが云ってました)
タタール人には甚だ不名誉なネーミングの品をいただきつつ、夜はしみじみと更けゆくのだ。
(了)
高湿、無風、紫色、頂点ぐるぐる。
「さっき自販機で飲み物を買ったんですよ」
「はい」
「カルピスソーダが飲みたかったんです」
「うん」
「そしたら、(バッグから取り出して)これが出てきました」
「・・・それは、AKBがCMに出てる缶コーヒーだね」
「そうなんですよ、赤いんですよー」
「全然白くて青くない感じだ」
「で、確かめようと思ってもう一度カルピスソーダをって押したんですよ」
「同じのを」
「そしたら、(バッグから取り出して)もう一本これが出てきました」
「それは災難だね、ていうかコーヒーは嫌いなの?」
「そういうわけじゃないですけど、クレームつける時の物的証拠です」
「でも、業者に電話とかするのは面倒じゃない?」
「まァでも、云うことは云います。前みたいにぶちキレてその缶コーヒーを自販機の窓に思いきり投げつけないだけましですよー」
・・・。
(了)
宵闇、蝉の聲、黒尽くめ、睫毛ばっさー。
「何処に住んでるって云ったっけ」
「あたしですか、八王子です」
「八王子って、中央線だ」
「そうですね」
「八高線って路線あるよね?」
「何ですか」
「八王子から高崎に往く線でさ、八と高で八高線」
「・・・さぁ、分かりません」
・・・ほんとに住んでるのか。(京王八王子かもしれんな、いや、それにしても・・・)
(了)
(010811)
昼時分、前を歩く女子高生の手元より風に流れる白煙が見えたので、おやおや荒んでますなァ文京区の子はと思いきや、追い抜きがてらちら見するとデオドラント系のスプレーを肌に噴き付けているだけだった。(3点)
(了)
(150711)
ファミレス、午前四時、背中合わせの隣席、男女の顔は見えない。
「今度さ旅行に行くんだ」
「えー、いいなー、ミカ(仮名)もいきたーい」
「・・・家族旅行なんだよ」
「ずるーい、パパは家族の人と旅行にいけてもミカとはいけないんだー」
「・・・まァ、それでさ、もう何かまずいんだよね」
「何がー?」
「何ていうかさ、もうカミさんに危ない感じでさ」
「えー、どういうことー?」
「お、終わりにしたい感じなんだ、みたいな」
「ねぇパパさー、それでいいのー? そんなんで満足なのー?」
「ね、今まで愉しかったし、ミカちゃん若いんだから」
「パパはね、ミカと別れてしまったらー、もうこんな若くてかわいい子と二度といちゃいちゃできないよー?」
「そ、そうなんだけどさ、弱ったなァ」
「今日も泊まってくでしょー?」
「明日、会議で朝早いんだよ」
「会議は何時?」
「8時かな」
「じゃァパパにプレゼントあげるー」
「何かな?」
「腕時計です。腕出してー」
「左手?」
「そうそう、何時がいい?」
「何時って・・・」
「じゃァ会議の時間にしたげるー、(取り出した油性マジックで)はい、8時ー」
「ねぇ、ねぇこれ、消えないよ!」
「ふふふふ、パパその時計超似合うー」
「弱ったなァ、これ、どうすんの、ほんとに」
「で、パパはミカに何をくれるの?」
怖ぇ。
(了)